井口耕二のレビュー一覧
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イーロン・マスクの人物像や、彼が手がけてきた事業・会社への理解を深めるのに良い本。個人的には、上巻の方が話としては面白かった。
下巻はTwitter経営の話が多いが、その買収後に行われた大規模な解雇の悲惨さや無情さを知ると、暗い気持ちになる。また、広告収入を基盤とするTwitterのビジネスモデルや、SNSに求められる倫理観を考えると、イーロンの経営スタイルや対応は、SNSという事業とは相性が良くないように感じた。(現に、差別や偽情報の拡散をめぐって、欧州当局からも問題視されてることが多い)
モノづくりの世界では、細部まで自ら把握しようとする技術オリエンティッドな経営者として魅力を感じる。一方で、社会への影響や倫理観が強く問われるSNSの経営者としては、いてほしくないと思った。 -
Posted by ブクログ
ベゾスとマスクはある意味似ている。ふたりとも、情熱とイノベーションと意志の力で業界を根底から変えてきた。部下の扱いは手荒だし、なんでもすぐばかやろうと言い出すし、できない理由ばかり探す人がいると腹を立てる。目先の利益を追求せず、未来を見すえて進む。ベゾスは、 利益のつづりは知っているかと尋ねられ、同音異義の「prophet (予言)」と答えたことさえある。
だが、こと技術開発の方向性はまるで異なる。ベゾスは体系的に進める。モットーはラテン語 "Gradatim Ferociter”、「一歩ずつ、果敢に」だ。対してマスクは直感的である。めちゃくちゃな期日を設定し、リスクを取らなければならなくても構わず、そこに向けて周囲の尻をたたきまくってシュラバを生み出す。
マスクは打ち合わせを何時間も続け、技術的な提案をしたり思いつきの命令を下したりするが、 それはどうなんだろうとベゾスはいぶかしげだ。マスクは言うほどモノを知らないし、彼の介入はあまり役に立たないどころか問題を増やすだけのことが多いと、スペースXやテスラにいた人々からも聞いているそうだ。
一方マスクは、ブルーオリジンがスペースXほど成果を挙げられない理由のひとつに、ベゾスが下手の横好きで技術を重視しないこともあると言う。2021年末の取材でも、「工学の才能がそれなりにある」と一応はベゾスを持ち上げたあと、「細かな点にエネルギーを注ぐつもりがないように見受けられる。悪魔はそういうところに潜んでいるのに」とくさしている。
「ポリトピア」処世術
共感は資源ではない。「彼と違って私には共感力の遺伝子があって、だから、ビジネスで心が痛んだりするわけです」とキンバルは言う。「「ポリトピア」をプレイすると、共感を排除するとどう考えるのか、兄がいつもどう考えているのかがわかります。ビデオゲームには共感が入る余地がありませんからね」
ゲームのように人生を送れ。「なんていうか、子どものとき、こういう戦略ゲームで遊んでいたらお母さんに電源を引っこ抜かれ、でもそのまま気づかずにプレイし続けている人生ってそういうものなのかもしれないね」とジリスはマスクに言ったことがあるそうだ。
敗北を恐れるな。「負けるんですよ。つらいですね。最初の50回くらいは。でも負けるのに慣れてしまえば、感情に左右されることが減ります」とマスクは言う。つまり、豪胆にリスクが取れるようになる。
先を見越して動け。「私はカナダ人らしく、ちょっと平和主義的で、状況の変化に対応するタイプなんです。ゲームのプレイスタイルも、どういう戦略が自分にとって一番いいのかを考えるのではなく、ほかの人たちがすることに反応してばかりです」とジリスは言う。女性にありがちなパターンなのだが、仕事でもまったく同じことをしていると気づいたそうだ。そして、みずから戦略を組み立てなければ成功はおぼつかないと、マスクからもマーク・ジュンコーサからもよく言われているという。
ターンごとに最適な手を打て。「ポリトピア」は30ターンで終わる。だから、毎回、最善手を打たなければならない。「「ポリトピア」と同じく人生もターンの数が決まってるんですよ」とマスクは言う。「うかつなターンがあったら、火星に行き着けなくなってしまいます」
倍賭けする。「どこまで可能なのか、その限界を試し続けるのがイーロンのプレイスタイルです」とジリスは言う。「倍賭け、倍賭けをくり返し、得たモノすべてをまたゲームに投じてどこまでもどこまでも成長していくんです。まるで彼の人生そのものですよね」
選んで戦え。「ポリトピア」では六つとか下手すればそれ以上の部族に囲まれ、戦いをしかけられることがある。全部に反撃したらまちがいなく負ける。マスクはこの教訓を我が物にできておらず、ジリスが教えてあげることになったという。「ほら、いま、あっちからもこっちからも攻撃をしかけられているけど、全部に反撃したら資源が尽きちゃう」という具合に。彼女はこれを「戦線最小化」と呼んでいる。ツイッターでのやりとりも同じだと教えているのだが、こちらも、なかなかわかってもらえないらしい。
休むのも大事。「妻との関係がおかしくなりかけて、プレイするのをやめました」とキンバルは言う。ジリスも「ポリトピア」を削除したという。グライムスも。実はマスクも、削除したことがある。「あまりに多くのブレインサイクルを持っていかれてしまい、「ポリトピア」を削除しなければならなくなったんです。夢にまで見るようになりましたからね」とマスクは言う。 この「休むのも大事」も、マスクは身につけるのに苦労しているようだ。数カ月で再インストールし、またプレイするようになったのだ。
ツイッターは人に優しい職場であることを前面に押し立てている。甘やかしは善なのだ。
「ツイッターは、まちがいなく、共感にすぐれ、多様性を尊重してどんな人もウェルカムな会社でした。社員には、安心して仕事をしてほしかったんです」と、マスクにクビを切られるまで最高マーケティング・人事責任者を務めていたレスリー・バーランドは言う。だから、完全在宅勤務も選べるし、心の「休息日」も毎月1日取ることができる。「心の安全」という言葉がよく使われる職場で、不安を取りのぞく努力がなにかと払われてきた。
「心の安全」なる言葉を耳にしたとき、マスクは、ふっと苦い笑いを漏らした。切迫感、進歩、軌道速度など、彼が大事にするものの敵であり、背筋がぞっとする言葉なのだ。そんな彼が好んで使う言葉は「本気」だ。また、彼にとって、不安はいいものだ。充足感という病と戦う武器になるからだ。休暇、花の香り、ワークライフバランス、「心の休息日」など知ったことではない。そのあたりも、洗いざらいわかってもらわなければならない。
しぶしぶながら、1月3日まで延期することをマスクも承知した。人員整理は、その日のうちに署名なしの電子メールで社内に告げられた。
「ツイッターを健全にするため、世界的な人員の整理という困難に立ちむかわなければならない」
世界全体で社員の半分をレイオフする。インフラストラクチャーチームの一部は90%をレイオフする。社有コンピューターへのアクセス権限や電子メールは、レイオフと同時にオフとする。 マスクは、人事部の幹部も大半をレイオフした。
しかも、これは第1ラウンドにすぎない。血の粛清はぜんぶで3ラウンドになるのだ。 -
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マスクはペイパルを再編し、独立のエンジニアリング部門をなくした。エンジニアは製品マネージャーとチームにする。このあと、テスラでもスペースXでもツイッターでも採用することになるマスク一流の哲学だ。設計と製造の分離は機能障害をもたらすというのだ。作りにくい設計にしたら設計者が痛みをじかに感じるようにしなければならない。であれば当然なのだが、チームは製品マネージャーよりエンジニアに率いらせるほうがいいとも考えている。ロケットにはまちがいなく当てはまるが、ツイッターにはそうでもないように思われる考え方だ。
「いやもう腹が立って腹が立って。腹が立つと、私は、問題の枠組みを変えようとするんです」
原因のひとつは、軍やNASAが仕様や要件を山ほど定めていることにある。大手の航空宇宙企業は、この仕様や要件をきっちり守る。マスクは逆で、要件はすべて疑えと指示する。製品開発でマスクが口癖のようにくり返し、「例のアルゴリズム」と社内で呼ばれるようになる5項目のチェックリストができるのだが、その第1項目がこれだ。これは「要件」だからしなければならないと口にした技術者は、マスクにとことんやりこめられる。その要件はだれが作ったのか、と。 「軍」とか「法務部」というレベルではなく、その要件を実際に作った担当者個人の名前まで押さえておけというのだ。
「エンジンを試験するとか燃料タンクの認証を取るという話になると、マスクに「なぜやらなければならないんだ」と尋ねられるんですよ」とティム・ブザは言う。ボーイングからの転職組で、 発射と試験を統括するバイスプレジデントになる人物だ。「「それが要件だと軍の仕様で決まってるんです」って答えると、「それはだれが書いたんだ? どういう理屈でそうなってるんだ?」 って突っ込まれます」
要件は、すべて、勧告として扱え。それがマスクのやり方だ。疑う余地のない要件は、物理学の法則に規定されるものだけだ、と。
マスクは、ロケットエンジンの試験架台を数週間で作れなど、特に必要のないときでさえ非現実的な期日を設定する。
「気が狂いそうな切迫感をもって仕事をしろ」とマスクはよく言う。
切迫感は役に立つ。尻に火が付けば、第一原理思考が働くからだ。だがミューラーも指摘しているように、これには負の側面もある。
「もしかしたらなんとかなるかもと思えるくらいのスケジュールなら、みな、もうひとがんばりとがんばってくれます。でも、なにをどうしても不可能なスケジュールにすると、士気が下がってしまいます。技術者もばかじゃありませんからね。これはイーロン最大の弱点と言えるでしょう」
スティーブ・ジョブズも同じようなことをしていた。仲間に現実歪曲フィールドと呼ばれていたやり方だ。非現実的な期日を設定し、無理だと文句を言われると、まばたきもせずにじっと見つめて「大丈夫だ。きみならできる」と言うのだ。精神的に消耗する人も多いが、他社にできないことを実現したのも事実である。
「イーロンから与えられたスケジュールもコスト目標も大半は達成できなかったのですが、業界では一番になれました。史上最高にすごいロケットを業界の最低コストで開発できましたし、 我々としてはかなりいい気分ですよ。おやじは必ずしも我々のできに満足していないようですが」とミューラーは言う。
「彼が登場したのは、ちょうど、タンクにガスを入れはじめたあたりでした。大丈夫でした」とブザは言う。「イーロンは、なんとかできないことなんてないと思っています。おかげでずいぶんと学ぶことができました。おもしろくもありましたね」
ロケットの試験にこぎつける期間もずいぶんと縮んだ。
もちろん、つねにうまくいくわけではない。2003年末、スラストチャンバー内側の放熱材に亀裂が入り、ふつうならやらない方法で対応してみたときがそうだ。
ショットウェルは、マスクとの付き合い方について一日の長があった。夫が自閉症スペクトラム障害、いわゆるアスペルガー症候群だったのだ。
「イーロンのようにアスペルガーな人は、人間関係を円滑にする手がかりに気づけませんし、自分の言葉がほかの人にどう受け取られるのかが自然にわかったりしません。イーロンは相手の性格や個性をきちんと理解できますが、それは学習の結果であって、感情による自然な理解ではありません」
アスペルガーな人は共感の力がないと感じられたりする。
「イーロンはくそ野郎じゃないんですが、でも、おりおり、そう思われてもしかたがないことを言ったりします。自分の言葉が相手にどう受け取られるのかを考えないからです。ミッションを成功させたい―――それしか頭にないんです」
そんな彼をためる努力はせず、ただ、心がひりついてしまった人を癒やすことだけを考えるのだという。
車の形を考えるデザイナーも手袋をはめ、車の組み立て方を考える技術者と一緒に手を動かせというのがマスクの方針で、この工夫はそれが形になったものと言える。
「ふつう、デザイナーはデザインを考えたら、それを別の建物やそれこそ別の国にいる技術者に投げておしまいなんです」とフォン・ホルツハウゼンは言う。だがマスクは、デザイナーと技術者を一部屋にまとめる。「技術者のように考えるデザイナーとデザイナーのように考える技術者を生み出す。そういうビジョンです」
これは、スティーブ・ジョブズとジョニー・アイブがアップルに植え付けた原理と同じだ。デザインとは見た目だけの問題ではない。本物の工業デザインとは、外観と中身をつなぐものなの
「普通の人にとって「デザイン」というのは、みてくれのことさ」―――ジョブズは、昔、こう語っている。「そんなのデザインじゃない。デザインというのは人工物の基礎となる魂のようなもので、製品やサービスを包む外層という形で自己表現するんだ」
1980年代にグローバリゼーション信仰が興ると、コスト削減至上主義のCEOと物言う投資家に導かれて米国企業は国内の工場を閉じ、海外に生産を移転するようになった。テスラが立ち上がった2000年代の初めは、その動きが一層加速したころだ。2000年から2010年で、米国で生産に従事する人の数は3分の1も減ってしまった。生産を海外に移転すればたしかに労務費は下がるが、製品改善の現場感覚も失われてしまう。
このトレンドにマスクは抵抗した。一番の理由は、生産工程を掌握したかったからだ。車を作る工場を作る――「マシンを作るマシン」を作る――のは、車そのものの開発と同じくらい重要だとマスクは考えている。そして、設計―生産というフィードバックループはテスラの強みとなった。日々、改善のアイデアが得られるからだ。
オラクルの創業者ラリー・エリソンが社外取締役を引きうけたのはわずかに2社、アップルとテスラだけだ。そして彼は、ジョブズともマスクとも親しい友人になった。彼は、ジョブズもマスクも強迫性障害を持つが、それがいいほうに働いたケースだと考えている。
「彼らが成功した一因は強迫性障害にあります。問題に気づくと、なにがなんでも解決してしまう、そうせずにはいられないからです」
マスクがジョブズと違うのは、製品のデザインに加え、それを支える科学や工学、生産にまで強迫的な接し方をする点だという。
ソーラーパネル事業がいいとイーロンに言われたリンドンとピーターは、まず、なぜ普及しないのかを調べた。理由は明快だった。
「顧客体験がよくないんですよ。もうひとつ、最初にお金がかかるのが大きな障害になっていました」
だから、ごく簡単に手続きができるように工夫した。フリーダイヤルの電話で申し込みを受け付けたら、衛星写真で屋根の大きさと太陽の当たり具合を確認し、費用や電気料金の節約額、ローンなどを記した契約案を示す。これを顧客が承諾したら、緑の制服を着た工事班を派遣してパネルを設置し、政府補助金の申請なども代行する。最終目標は、これを全国的な消費者ブランドにすることだ。
開業資金はマスクが1000万ドルを出してくれた。そして、2006年7月4日、テスラがロードスターを発表しようとしていたころ、リンドンとピーターは、ソーラーシティを立ち上げた。マスクは会長である。
アルゴリズム
戒律は五つだ。
第1戒――要件はすべて疑え。要件には、それを定めた担当者の名前を付すこと。「法務部」や「安全管理部」など部門名しか付されていない要件を受理してはならない。必ず、定めた本人の名前を確認しろ。そして、その要件を疑え。担当者がどれほど頭のいい人物であっても、だ。頭のいい人間が決めた要件ほど危ない。疑われにくいからだ。私が定めたものであっても、要件は必ず疑え。そして、おかしなところを少しでも減らせ。
第2戒――部品や工程はできるかぎり減らせ。あとで元に戻さなければならなくなるかもしれないが、それでいい。実際のところ、10%以上を元に戻さなければならなくならないのなら、それは減らし足りないということだ。
第3戒――シンプルに、最適にしろ。これは第2戒のあとにやるべきことだ。そもそもそこにあってはならない部品やプロセスをシンプルにしたり最適化したりしてしまうのは、よくあるまちがいだ。
第4戒――サイクルタイムを短くしろ。工程は必ずスピードアップが可能だ。ただし、第1戒から第3戒までが終わったあとにやること。テスラの工場では、なくすべきだったとのちに気づく工程をスピードアップするのにかなりの時間を使うという愚を犯してしまった。
第5戒――自動化しろ。これは最終段階だ。ネバダでもフリーモントでも、一番のまちがいは、 ステップの自動化から始めてしまったことだ。要件をすべて洗い直し、部品や工程を減らせるだけ減らし、バグをつぶし切るまで自動化は待たなければならない。
このアルゴリズムを前提にするなら、必然的に導き出されることがいくつかある。例を紹介しよう。
・技術系管理職は実戦経験を積まなければならない。たとえばソフトウェアチームの管理職なら
・仕事時間の20%以上は実際にコーディングをしていなければならない。ソーラールーフの管理職なら、自分も屋根に上って設置作業をしなければならない。そうしなければ、馬に乗れない騎兵隊長、剣の使えない将軍になってしまう。
・仲間意識は危ない。相手の仕事に疑問を投げかけにくくなるからだ。仲間を苦しい立場に追いこみたくないという意識が生まれがちだからだ。これは避けなければならない。
・まちがうのはかまわない。ただし、自信を持った状態でまちがうのだけはやめよう。
・自分がやりたくないことを部下にやらせてはならない。
・解決しなければならない課題に直面したら、管理職に伝えて終わりにしないこと。階級を飛ばし、管理職の下の人間と直接会うこと。
・採用では心構えを重視すべし。スキルは教えられる。性根をたたき直すには脳移植が必要だ。 気が狂いそうな切迫感をもって仕事をしろ。
・規則と言えるのは物理法則に規定されるものだけだ。それ以外はすべて勧告である。 -
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パタゴニアに入りたいと思う人は、その理由として、会社と自分の価値観が一致していることを挙げることが多い。このように深い部分で会社とつながっていると社員のモチベーションが高まり、仕事が大変になったときにも冷静沈着な対応が可能になる。毒性染料が使われていない新しい生地を探さなければならないときも、がんばりが利く。換気改善のためにびっくりするような額を投資してくれと工場と交渉するときも、配送センターの建設候補地に農地を提案してくるなと不動産業者を説得するときも、同じだ。正しいことをしようとするからモチベーションが高まり、ふつうならあきらめることもあきらめずにがんばるようになる。有意義な仕事というのは、大好きなことをするだけでなく、世界に報いるものでもある。このふたつが組み合わされば、人がふつうに持ち、また、力を尽くしたいと考える優れた点が発揮されるのだ。
責任のある企業としてすばやく対応できるようにしたければ、人がふつうに持つこの優れた点が発揮される環境を整えなければならない。それまで無理だと思われていたことを始めるたび、会社の文化は大きく前進し、実はさまざまなことが可能なのだと感じられるようになる。いま、ふり返ってみると、パタゴニアの歴史においても、なにが可能なのかという感覚が変わった節目がいくつもあった。責任ある企業として前進し、モチベーションが高まった瞬間だ――そういうことなのだと、 そのときには気づかなかったりもしたが(我々としては、ただ、衣料品を売って生計を立てようとしていただけだった)。
2018年、イヴォンは、パタゴニア創業時に定めたミッションステートメントをシンプルなものに書き換えた。問題を大きくするためである。オリジナルのミッションステートメントは「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というもので、パタゴニア社員みなが信奉してきた。それを「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と心髄だけに絞り込んだのである。
我々ができるかぎり使わないようにしている単語がある――「持続可能性」だ。この単語は、戻せる以上に自然を消費しないという意味である。だが我々は、みな、戻す以上に消費している。持続可能な経済活動などありえない。自然の再生する力や豊かな生命をはぐくむ力を阻害せず事業ができるようにならないかぎり、この言葉は使えないと思う。資源搾取型経済から資源再生型経済への転換を急ぐ我々にとっては、「責任ある」という言い方のほうが適切だろう。 -
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政府の視点も変わりつつある。国際連合では、各国政府の決算として「トリプルボトムライン」を原則にすべきだとしている。これは、利益(profit)、人(people)、地球(planet)という三つの面において最終損益を考えるもので、三Pとも呼ばれる。
科学系ジャーナリスト、ダニエル・ゴールマンが書いた『エコを選ぶ力―――賢い消費者と透明な社会』(早川書房)では、環境破壊を減らせるシンプルながらとても包括的なルールが三つ、提案されている――「自分の環境負荷を知る、改善を心がける、得た知識を共有する」だ。これは、大企業から零細企業まで、これから活動を始めるところも続けていくところも、すべてが利用できるルールである。
我々としては、自分たちがなにをしているのか、あるいは、なにをしていないのか、 それがはっきりとわかるものにしたいと考えた。CSRの美辞麗句に感覚が狂った人々だけでなく、顧客にも訴えかけるものにしたいと考えた。その結果生まれたのがフットプリント・クロニクルだ。若干の双方向性があるウェブサイトで、リリースした最初のシーズンには、五種類のパタゴニア製品について、そのデザインから繊維(原産地まで)、 製織・製編、染色、縫製、リノ倉庫への輸送にいたるまで、地理的に追跡。同時に、この五種類について、二酸化炭素排出量、エネルギー消費量、廃棄物量、原産地から倉庫までの輸送距離なども算出した。この情報は、フットプリント・クロニクルのウェブサイトだけでなく、製品の販売ページにも掲載した。
同時に我々は、仕事をしているあいだ、「生産者」という側面も持つ。これは、対外的に最も積極的な役割だと言える。私生活や投票に比べ、仕事は自分の好きにできない部分が多いが、一番大きな違いを生みだせるのは生産者という立場だからだ。製品が環境に与える負荷の九○%はデザイン段階で決まる。家庭のゴミがよく問題になるが、廃棄物の三分の二は産業活動が生みだす。だから、休日の朝、燃費の悪いハマーを下取りにプリウスを買いに行くより、仕事でなにをするかのほうが大きな違いとなる。毎日、 仕事でなにをするのかが問題なのだ。
全社の環境問題意識を高める三ステップ
環境意識の改革は、以下のように段階を追って進める。
最初はなるべく幅広い人材を集めてチームとし、自社の行いで最悪なのはどれなのか、 なにが評判や利益の面で最も足を引っぱっているのか、また、最も簡単に修正できるのはどれなのかを調べあげる。会社によって価値観も違えば特性も違うし、会社の文化がイノベーション重視か安全重視かも異なるので、ある会社にとって簡単な修正が他社にとっては複雑で難しいといったこともありうる。
まず、わかっているつもりのことに着目し、丹念に調べる。なにを聞いたとき、あるいはどういう結末を目にしたとき、つい気になってしまうのか。自社がなにかできると感じるのはどういうことか 自社ならうまくできるのはどういうことか。このような問いについて、チームメンバーにも考えてもらう。
第二段階では、関係者を集めて改善の優先順位を検討し、リストからやるべきことを選び出す。最初にすべきことを選び、そこにどれだけの時間とお金をかけるのかを決める。投入する人数も決めなければならない。どういう成果があがったら成功と考えるのかも決めておく。ここまでを一ページにまとめ、チーム全員で共有する。改善すべき点を見つけ、どういう部分なら自社の強みが活かせるのか、リスクが低いのか、コストが大きく削減できるのか、あるいはまた大きなチャンスを生みだせるのかが確認できたら、 あとは実行するだけだ。
いろいろと新しいことを学ぶはずだが、そうして学んだことは、組織内でなるべく多くの人と共有する。忙しくて、お互いそのようなことをしている時間などないと思うかもしれないが、必ずやるべきだ。そのうえで、学んだ内容を利害関係者と共有する。サプライヤーや所属する業界団体、主な顧客などだ。他社と協力してなにごとかをなしとげたいと思ったとき、声をかける主な競合他社とも情報を共有すべきである。培ってきた信頼関係を活用して輪を広げる。その際、信頼できると思ってもらえれば、自分の失敗についても正直に語っていれば、信頼関係をさらに広く、深くすることができるだろう。こうして、雪だるま式に支援の輪を広げていく。
信頼関係が十分に深まり、多くの知識を得て、組織内や利害関係者との間に十分な自信と誇りが行きわたったら、最後に、こう自問する――いま、自社にわかっているこを使えば、以前には無理だと思われていたことに挑戦できるのではないか、と。
あとは、プロセスの最初に戻って同じことをくり返す。そうしていると、驚くような変化が生まれるはずだ。
会社全体がいろいろと考えて動くようになるし、事業の質を高め、社会や環境に対してよい影響を与える事業にしようと心がける人が増える。そうしたいと思えば、社員一人ひとりが事業の基本にしっかりと注意を払う必要があるし、こうして社員全員がよく考えるようになれば、柔軟で無駄の少ない組織になることができる。それまで見えなかった無駄遣いに気づけるようにもなるし、企業社会には昔から臭いものにフタという傾向があるが、そういう会社では対応できないチャンスを見つけ、追求できる自信も得られる。成功すれば、人はやる気になる。方向性が違う人々も含めて。 -
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原題は「Computer Geek to Cult Icon」で、その名の通りガチのコンピューターギークだった。ミサイル開発をしているエンジニアの父親により、幼少期の頃からエンジニアリングに触れて育った著者。この父親がとんでもなく凄い。何を聞いても答えてくれて、一緒に取り組んで体験させ、難しいことを簡単に説明し、理解が難しくまだ必要でない範囲の知識は割愛するという、これ以上ないほど完璧な師匠っぷり。そのおかげもあり、著者は小学生の頃からエンジニア系の賞を総なめ。まさに、此の親にして此の子あり。アップルのスティーブ・ジョブス氏との仕事ぶりや、2度にわたる赤字垂れ流しのフェスの開催、その後の彼の興味の移り変わりや考え方から見るに、まるで純粋な子ども(そしてかなりのコンピューターギーク)がそのまま大人になったような人、という印象を受ける。金儲けに興味がない、大きな体に負けない広い心を持つ超一流エンジニアの面白い自伝だった。
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基本的には人、地球、収益の3つをバランス良く持続可能な企業を目標にすることではあるのだが、そのくらいは今現在SDGsとか言って、たくさんの企業が考えていることではある。
ではパタゴニアブランドはなぜ、いまだに世界から尊敬される企業なのか。何か違うのか。
ザックリ言うと、何十年も失敗を繰り返して軌道修正しながら、方向性もフレキシブルにしていくことだと思いました。
イヴォンシュイナードさんは、70,80年代のころ自然のことなどあまり考えず、クライミング道具を作っていた過去。ハンパないCO2だったようです。
2000年代では低コスト、低賃金で労働者に働かせせていたことなど、今では考えられないこともあったようです。
パタゴニアはそんな過去をオープンにし、その反省や謝罪を含めた意味が重要だと。責任ある企業を目指すと言う。
今は正しいことと思い込んでも、一年後は正しくないことに変わることも想定する。
今の世の中、政治も企業も責任の押し付け合い。日本企業はなかなか真似できないですね。
パタゴニアブランドのような素晴らしい企業とは、自分の非を認めることだと痛感しました。
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イーロンマスクによるツイッター買収と、そこから起こったツイッターのゴタゴタをツイッター社員目線で書いた本作。
文体に癖があるため、やや読みにくさはあったものの、社員一人一人にスポットライトを当て、社員目線で何が起こっていたのかを理解するのには最適な本。
相当な混乱があだだことが伺える上に、イーロンマスクは蹂躙者であり、パラノイアであるという印象は、メディアで報じられていた通りである。ただ、その中でも懸命にイーロンを正しい方向に導こうとした社員もおり、そうした懸命な努力でいまのXがあると分かった。結果的に、イーロンマスクと人間なんだな、と思える部分も多かった。
なお、彼が信じているシミュレーション仮説(この世はすべてシミュレーションされた現実であるという仮説)は非常に興味深いし、彼の行動原理の一つはここにある。 -
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序章 火の女神
第1章 冒険者の系譜
第2章 マスク自身の心
第3章 父との暮らし
第4章 探究者
第5章 脱出速度
第6章 カナダ(1989年)
第7章 クイーンズ大学 オンタリオ州キングストン
第8章 ペンシルバニア大学
第9章 西へ
第10章 Zip2
第11章 ジャスティン
第12章 Xドットコム
第13章 クーデター
第14章 火星 スペースX
第15章 ロケット開発に乗り出す
第16章 父と息子
第17章 回転を上げる
第18章 ロケット建造のマスク流ルール
第19章 マスク、ワシントンへ行く
第20章 創業者そろい踏み
第21章 ロードスター
第22章 クワジュ
第23章 ツーストライク
第24章 SWATチーム
第25章 ハンドルを握る
第26章 離婚
第27章 タルラ
第28章 スリーストライク
第29章 崖っぷち
第30章 4回目の打ち上げ
第31章 テスラを救う
第32章 モデルS
第33章 民間による宇宙開発
第34章 ファルコン9,リフトオフ
第35章 タルラと結婚
第36章 生産
第37章 マスクとベゾス
第38章 ファルコン、鷹匠に従う
第39章 タルラのジェットコースター
第40章 人工知能
第41章 オートパイロットの導入
第42章 ソーラー
第43章 ザ・ボーリング・カンパニー
第44章 苦難の人間関係
第45章 闇に沈む
第46章 フリーモントの工場
第47章 オープンループ警報
第48章 落下
第49章 グライムス
第50章 上海
第51章 サイバートラック
原注
写真クレジット