吉本ばななのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
かつて 僕は 時間というものに関して貧乏性で 何かをあてどもなく待つことや 他人のために自分の時間を差し出すことができない人間だった。だから傷ついた人の傍らでその人の吐露に耳を傾けながら寄り添うとか、月日の経過によって物事が おだやかに収まっていくのを見守るとか そういう大人なスタンスで自分や他人と向き合うこともなかった。こうした生き方が安っぽく奥行きを欠いた、他人を寄せつけない不毛な人生だ、と気づいたのは ずいぶん年を重ねてからのことだ。
大切な人を失った心の傷、喪失感が ささやかなできごとや ふとした出会いの積み重ねによって癒されていく6編の物語。人それぞれ、他の人とちがうスピードで時間が流れていたってかまわないのだ。自分を取り戻すにも、他者の痛みに寄り添うにも、時間の流れに 身をゆだねる鷹揚さが必要だ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ金沢、台北、ヘルシンキ、ローマ、香港、八丈島。
見知らぬ街角で、悲しみが少しずつ小さな幸せに変わっていく短編集だった。
収録された6編のうち、ほとんどの作品で、登場人物の誰かが大切な人の死を背負っていた。母を亡くした人、恋人を亡くした人、友人を亡くした人。喪失の形はそれぞれ違うのに、読み終えるたびに、どこか同じ場所にたどり着くような感覚があった。
大切な人を亡くした痛みは、簡単には埋まらない。
それでも人は、自分で思っているよりも全然強くて、なんとか前を向いて進んでいくことができてしまう。そのしぶとさというか、生き物としての回復力みたいなものを、この短編集を通してずっと感じていた。
派手な事件は起きない。旅先の風景と、ちょっとした会話の積み重ねだけで、物語は進んでいく。それなのに、読んでいるこちらの心の奥まで、じわじわと入り込んでくる文章だった。何でもない日常の一部に、人間の優しさや温かさが溢れるくらい散りばめられている、そんな作品だと思う。
私は吉本ばななさんの描く「生」に、昔からとても惹かれてしまう。
それは、ばななさん自身が後書きなどで時折見せる「弱さ」や、生に対する執着の薄さ、そこから滲み出る言葉の不安定さがベースにあるからかもしれない。強い言葉で断言するのではなく、迷いながら、揺れながら紡がれる文章だからこそ、届く場所がある気がする。
表題作「ミトンとふびん」では、母親たちに結婚を反対され続けた新婚夫婦が、極寒のヘルシンキでふと触れる他人の優しさに救われる場面が印象的だった。誰かが意志を持ってそっとしておいてくれること、それだけでこんなに安心できるものなのかと、静かに胸に残った。
「SINSIN AND THE MOUSE」では、台北を訪れた主人公が、まだ小さくしか動かない感情の中で、ふと差し出された小さな感謝を、まるでふりかけのように心いっぱいに受け取っていく描写があった。悲しみは急には消えないけれど、そういう小さなものの積み重ねで、少しずつ元に戻っていけるのかもしれないと思わせてくれた。
読み終えたあと、少しだけ世界の見え方が変わった気がした。
何かを積み上げても、いつかは失ってしまう。それでも人は、また積み上げようとする。そのことの意味を、静かに教えてくれる一冊だった。 -
Posted by ブクログ
ものすごく大きな感動があるということではないけれど、読み終えて、心の真ん中がほっこり温まるような、寄り添ってもらっているようなそんな気持ちになりました。 どのお話しにも、何かしらの別れがあって、そのつらさの中なのに、なぜか温かい。 奇跡のように、自分の気持ちを分かってくれる誰かがいて、ちょっとずつ気持ちがほぐれていく感じがとても羨ましくなりました。でも、幽霊は見たくないし、大切な人と別れるのも嫌なので、羨ましくはないのかもしれないです。 それでも日々ある、ちょっとしたしがらみとか、不調に気持ちを持っていかれることなく、 この話に出てくる女性たちのように、強く自由に生きていきたいなぁと思いました。 とても個人的なことですが、よしもとばななさんの「キッチン」が本当に大好きです。 この本を読みはじめてすぐ、ものすごく直感的に、「現代版キッチン!」と思いました。