良きキャリア形成のために重要な9つの習慣・心構えについて述べた本。事例を交えながら、とてもわかりやすく説明されている。キャリアの初期で選択肢を絞らないほうがよい、という作者の考えにはまさに共感。実際に自分も新人時代に同じ事を上司に言われ、今となってはその一言に大変感謝している。30歳前後の今後のキャリアに悩みがちな人だけでなく、社会人初期の人にもオススメの一冊。
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【読書メモ】
●9つの習慣
1.勝負能力-勝ちパターンを持っているか
2.現場体験-仮説や問題意識を持って現場に行く、気づきを自分の言葉で概念化する
3.ネットワーク-社会関係資本の構築
4.仕事に意味付け-まず、自分の顧客を明確にする
5.個人ブランディング-提供価値の約束
6.相手の価値観を理解する-情熱では伝わらない
7.ポジティブに巻き込む-仕事に対しポジティブ
8.経験と気づきで学ぶ-仮説を立て、必ず結果を検証する
9.仕事の言語化、仕事の見える化-誰でもみればわかる状態に
●「キャリアは計画的につくれない」ということも、ぜひ覚えておいてほしい。
●現実には満足度の高いキャリアをつくっている人と、そうでない人がいる。この差はいったいどこから生まれるのだろうか。じつは、それを左右するのは、日ごろどのように仕事に取り組んでいるかなのである。もっというと、日々の習慣の積み重ねによって、その人のキャリアの質は決まるといっていい。
●好ましいキャリアをつくっている人というのは、ここでは以下のようなタイプであると定義する。
1.価値を創造し提供している人
2.仕事を楽しんでいる人
3.貪欲に成長している人
●その人固有の、内側から湧き上がってくるドライブ・・・心理学ではこの動機のことを「心の利き手」と呼ぶこともある。たとえば自分の名前を紙に書くとき、右利きの人が右手にペンをもてば何の苦痛も感じないが、これが左手だとそうはいかない。心もまったく同じで、利き手ではない能力を使おうとすると、なかなかスムーズにいかないし、苦労のわりにたいした成果はあがらないのだ。
●勝負能力となる三つの動機・・・「コミットメント系」「リレーションシップ系」「エンゲージメント系」
・コミットメント系:達成動機、パワー動機、闘争心、称賛欲
・リレーションシップ系:社交(親和)動機、伝達動機、理解動機、感謝動機
・エンゲージメント系:自己管理動機、外的管理動機、抽象概念動機、切迫動機
●リーダーシップには、コミットメント系だけでなく、リレーション系の動機も必要である。コミットメント系だけだと人がついてこないからだ。コミットメント系の動機を基本としながら、リレーション系の動機を補完的に使えるようになれば、効果的なリーダーシップが発揮できるようになる。
●会社全体をみても、修正行動の割合が高い人ばかりが経営陣を占めていると、暴走しない代わりに変革が遅々として進まないということになる。大企業病に陥るのは、たいていこういう会社だ。
●早くから自分で自分を律することを習慣づけることだ。それには、自分の動機の悪い部分が出たら、すかさずもうひとりの自分が、「またそんなことをやっているのか」「いい加減にしろ」とたしなめる癖をつけるといい。私はこれを「幽体離脱の習慣化」と呼んでいる。
また、お互い厳しいことをいいあえる人間関係を、友人知人と築いておくのも効果がある。とくに素直なフィードバックをくれるのは家族だから、日ごろから家族と過ごす時間を意識してとるようにするといいだろう。
●自分が得た知見や確信、自分の考えを抽象性の高い言葉で「こうだ」と表現でき、さらに「たとえば」と迫力のある事例で説明できる、これが人を「ポジティブに巻き込む」伝達能力であり、これが自然にできる人のことを、コミュニケーション能力があるという。
●信頼のおける人たちとネットワークを築き、そこにある人間関係に投資しなさい。そうすればいずれあなたにもメリットがありますよ。社会関係資本とはこういうことをいっているのである。ということは、組織内での差別化やキャリア形成にいい影響を及ぼす社会関係資本を築くには、周囲に信頼されるような行動をとることと、人間関係に継続的に投資しつづけることの二つを習慣化すればいいということがおわかりだろうか。私はこれを「布石」と「投資」の習慣化と呼んでいる。
●出会った人間が信頼に足るかどうかを見抜くということ。社会関係資本をうまく活用している人というのは、例外なくこの「見抜く能力」に長けているといっていい。見抜く能力を身に付けるには、さまざまな人とフェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションを重ねていくのがいちばんだ。
●人脈に恵まれている人をよく観察してみると、布石と投資の習慣が身についていると同時に、非常に健全な世界観や人間観の持ち主であるという共通点があることがわかる。
●自分の仕事の意味を知るには、まず、自分の顧客は誰なのかを明確にし、次に、その顧客にどんな価値を提供しているのかを確認するといい。
●経営コンサルタントを例にあげると、有能といわれる人ほど早い段階で、この顧客が価値を感じやすいのはどの部分か、一方自分たちが勝ち創造できるのはどの分野かを見抜き、まずは、そこに自分の資源を集中するというやり方をとる。そうやって顧客から「このコンサルタントは間違いなく、自分の欲しい価値を提供してくれる」という信頼を最初に得てしまえば、あとは結果が出るまで多少時間がかかっても、じっくり仕事ができることをわかっているからだ。
●顧客自身も気づいていない欲望や欲求を先回りして発見し「あなたの欲しいものはこれですね」と価値を提供できるのが、本当のプロフェッショナルなのである。
●キャリアの早い段階で、どんな小さなことでもいいから、自己有能感や自己効力感を味わっておくことが、健全で前向きなキャリア形成にはとくに重要なのだ。
●「私はこういう価値を提供している」ということを自覚し、それを踏まえた行動をとり続けることで周囲に照明し、認めてもらうというのが、個人ブランディングなのだ
●プロフェッショナルとサラリーマンの違いはなにかといえば、それは仕事を通じて価値を生み出し、それを顧客や社会に提供することを常に意識しているかどうかの差だ。自分の仕事が誰にとってどんな意味を持つのかなどということには思いを馳せたこともなければ、自分がどんな価値を提供できているかにも無頓着。ただ、上司から言われたことを無難にこなしているだけ。そういう人を指してサラリーマンと呼ぶのである。
●プレゼンテーションを成功させるには、いくつかポイントがある。
⒈プレゼンテーションを行う相手の特定
2.その相手の価値観や判断基準の理解
3.相手の考える順で話す
●自分の価値観を押し付けない
●自分の動機を知るには、日常生活を検証してみるのがいいだろう。既婚者なら、夫婦喧嘩の分析が意外に効果がある。
●自分とは異質な人たちを説得して協力を仰ぐような経験を、子育てをしながら何度もして来たことで、強力な横型のリーダーシップを獲得することができたというのが彼女自身の分析だ。横型のリーダーシップを身につけるには、組織の中で内向きのことだけをやっていてはダメなのだ。
●提案者の視点ではなく、客観的なデータを。形容詞よりも、ロジカルな数字を。自分の意見に固執するのではなく、顧客の視点を。
●杉野が常に心がけているのが、自ら現地スタッフの懐に飛び込んでいくこと。自分のデスクの上には書類はあえて置かない。「必要があればスタッフのところへ行って、見せてもらう。何でも話してもらえるように、自分の部屋には閉じこもらず、自分から足を運ぶように努めている」
●「一般化」と「普遍化」は大違い。
●ヨーロッパ系のある大手企業の中国本社で人事部長を任されている中国人にも話を聞いたところ、彼も三年で管理職にしろという中国人の若者は、マネジメントがまるでわかっていないといっていた。だが、彼の会社は三年間の管理職育成プログラムをつくって、そういう学生を喜んで迎え入れていた。
・・・「そのプログラムの本当の狙いは、三年程度では人のマネジメントなどできないということをわかってもらうことなのです」
早く管理職になって部下を持ちたいと希望するのは、意欲あふれる学生だから、それをみすみす逃す手は無い。だから学生の望みどおり三年間の育成プログラムを用意する。しかし、それは三年後に必ず管理職になることを約束するものではなく、マネジメントの何たるかを教えると同時に、管理職としての適性の有無を本人に気づかせるためのものだというのだ。
中国で新卒採用をやれば、すぐに管理職になりたがる学生が多いということは誰でも経験できる。そこで「そんな学生は要らない」と切り捨ててしまうのではなく、その経験を、ポジティブな学びに変えることができる人が、本当の意味で経験から学ぶことができる人であるといえる。
●それまで大企業一筋で働いてきた人が、定年退職を機にNPO活動に参加したところ、「組織のマネジメントが全然ダメだ」と、それまで自分が会社でやってきたマネジメントを持ち込もうとしたら、他のメンバーから総スカンを食らったというような話を、最近よく耳にする。二十人しかいないNPOにいきなり社員一万人の会社の就業規則をあてはめようとしたところでうまくいくはずがない。ところが、人はそれしか知らないと、平気でそういうことをやってしまうのだ。
●それなりに給料をもらい、周りからも一目置かれているような人は、いかにも自分には価値があるというように思いがちだが、じつは、それは錯覚かもしれない。実際はどうなのかということをはっきりさせてくれるという効果が、見える化にはあるのである。そして、もし給料に見合うだけの仕事をしていないと判明したら、給料の額を正当化するような新しいキャリアに、その人はチャレンジすればいいのだ。
●失敗の連続でも、平常心を心がけ、いつも一定のペースを守っていると、何かちょっと違うなという気づきがある。そこにブレークの種があるかもしれません。アイディアの種を広くばら撒き、これはと思う仮説や結果について、とことん検証します。このアイディアの発散と集中を繰り返し、一歩一歩目標値に近づいていくのです。本質的に大事なことは何かをいつも考えていないと、見落としてしまいます。
●ワークライフバランスよりも、むしろワークライフ統合
●新しい能力を求められても、仕事以外の場所でそれを育ててこなかった人は、とっさに応じられない。皮肉なことに現在は、仕事しかしていないと、かえって仕事の能力が身につかない時代なのだ。
●重要なことが二つ以上あるから、ひとつのことで発生したストレスが、別のところで発散できて、うまくバランスがとれるのだ。・・・あくまで、人生には重要なことは二つ以上あるのだ、どちらも重要と考えるべきなのである。これは経営者が株主と社員のどちらを大切にするべきかという議論にも似ている。両方大切なのであり、それをよい循環にするのが経営者の役割なのだ。どちらか一方に決めればもう一つはその手段となり、悪循環が回りだす。
●いっておくが、将来どんな能力が必要になるかなど、今の時点で分かるはずがないのである。ただひとつ確かなことは、早くから選択肢を絞り狭い世界しかみなければ、今後絶対に必要になる、変化に対応する能力が育たなくなるということだけだ。人生というのは想像以上に複雑なメカニズムででき上がっている。そして、デメリットはみえやすいが、未来に生きる本当のメリットはなかなかみえないと思っていた方がいい。
●「遊びにも修行が必要なんだよ」・・・ささいなことにも感動を覚え、遊びをつくり出していけることは、どんな仕事でも楽しめるということでもあるのだ。いつも楽しそうに働いている人は、遊びも達人だと思って間違いない。