黒川創のレビュー一覧
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夏目漱石の、全集にも収録されていないエッセイをネタ元に、ロシアの日本語学科学生に講義するという設定が斬新。
伊藤博文を暗殺された者としてだけでなく、暗殺した側としても捉えているのが面白い。
どこまでが史実でどこまでがフィクションなのかもよく分からず、一番ページが裂かれているのが伊藤でも、伊藤を暗殺した韓国の英雄である安重根でもなく、幸徳秋水と愛人の管野スガ、そしてスガを奪われた荒畑寒村であるところも独特である。
エンディングも収まりがはっきりせず投げ出された感じなのだが、少なくとも、180ページの本を数時間で読んでしまったので、これは面白い小説だと思う。 -
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ネタバレ●本の概要
様々な人物の思想を鶴見俊輔が語ったものを編集者が纏めている。そのため、テーマとして何かしら一貫したものはない。それぞれの枚数もバラバラである。何名かを書きだそう.
イシ(先住アメリカ人ヤヒ族最後のひとり)、ジョージ・オーウェル(英国人作家)、金子ふみ子(アナキスト)、ハヴェロック・エリス(性心理学者)、ガンジー(インドの弁護士、思想家、政治指導者)、由比忠之進(エスペランティスト、反戦運動家)、新島襄(同支社創立者) etc
●好きな場面
いくつかを抜粋、※で補足や所感を記述する
尚、長文が多いため、一部を省略し、辻褄を合わせるために、文章を一部編集している
イシは文明人を知識はあるが、知恵のない人達だと考えていた。彼の最後の言葉は「あなたは居なさい。私は行く」である。死に対して平然とした態度を崩さない。文明人には稀なことだ (イシが伝えてくれたこと)
※イシが持つ文化を人類研究者であるアルフレッド・L・クローバーは研究、のちに妻が、イシの伝記を書く。その娘は「ゲド戦記」の著者である。鶴見俊輔は、ゲド戦記とイシが伝える知恵との関連を説明する
「たとえ私達が社会に理想を抱けなくても、私達自身には私達自身の真の仕事がある。それが成就しようがしまいが関係ない。私達は、その真の仕事をすればよいのだ」 (金子ふみ子 無籍者として生きる)
※この言葉は鮮烈だ。鶴見俊輔は、金子ふみ子の人生をシンプルに語り、彼女を知らない読者に彼女を知ってもらおうとしている。金子ふみ子は大逆罪で捕まり、獄中で手記を纏め、獄死した
私は人生を全体としてみる。そして人生が終わったことを嬉しく思い、もう一度、この人生を繰り返したいとは思わないまでも、人生を全体として眺めると、喜びをもって、うっとりとして眺めるのだ
(ハヴェロック・エリス 人生の舞踏)
※美しい人である。間違いなく変態、変人ではあるが、美しい人だったのだと思う。
私はある種の老人のように青年たちから理解されようとも思わない。人生教訓を授けようとも思わない。ただ人生を漠然たる一場の夢と感じて死にたいのだ。死は夢の続きであり、望みうる唯一の生かもしれないと、一度でも思ったことがあるだろうか?若者よ、諸君は私に関係なく、私は諸君に関係がない。私と諸君の間に言葉も不要である (親子相撲)
※森於菟が73歳に書いた文章。彼は森鴎外の息子である。確かに、この文章は毅然としていて良い
戦後、日本全体は明るくなって、灯りをともしているところを見分けにくくなった。私が、そう言うと、武谷三男は、こう返した。「闇の定義を変えれば、見える」 (武谷三男 完全無欠の国体観にひとり対する)
※今回の抜粋は「死」を意識したものにしたが、これはそのテーマに属していない。しかし、闇を知ることで、光を知るという観点ではなく、「何が闇なのか」から自分で考えるんだ、という、この返しは、まさに今の時代にも通じる -
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外祖父・後藤新平の大きな屋敷で育った生い立ち。父・祐輔の野望から伊藤博文の若かりし日の俊輔を名付けた!俊輔と和子が大家族の中でも母とともに重要な位置を占めていたという。俊輔の正常中学時代の悪ガキぶりはすごい。上位8割が上へ進めるのに、彼は下から6番目の成績だった。そして中学中退のまま米国・ハーヴァード大学に入学したというから恐ろしい天才である。日本語さえ十分でなかった俊輔が米国で勉強した日々は壮絶だっただろう。天才少女の模範生・姉・和子が俊輔の前ではくすんでしまったように感じる。10代での悪行の限り、そして鬱、自殺未遂、精神病(統合失調症の疑い)の日々は全くの驚きである。海軍としての参戦、安保闘争、ベ平連と、俊輔の存在の大きさを改めて感じる。「思想の科学」50年は俊輔が中心だったのだ。都留重人、武田清子、神谷美恵子、桑原武夫、飯沼二郎…その他、実に多彩な人たちとの交流が楽しい。61歳のヘレンケラーとも直接話したことがあったのは、時代を考えると驚き。ヘレンに「春の海」を聴かせたいとして、振動音で感じてもらった!俊輔と妻・横山貞子がお互いに「汝」と呼い合うことにしていたというのも楽しい話。
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重苦しい小説です。
途中で息苦しくなって何度も閉じてしまいたくなりました。
それでも、やはり気になってまたページを開いてしまう。
使用済み核燃料の処理の問題、
それに関する市民運動への弾圧、
「積極的平和維持活動」という名の軍隊、そして参戦、
軍の施設から脱走する兵士、それを手助けする人たち
ー戦場に行くのはいやだ、家に帰らせてもらいたいー
というただ一つの要求を掲げて原発に籠城する兵士、
その生々しさに辟易しながらも、
まさにそれらが起きてしまう可能性を重ねながら読み進めてしまう
「この先、人類はもう滅びるしかないないでしょう」、と籠城する兵士の言葉が哀しい。 -
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短編集。
1、うらん亭‥震災のニュースを聞きながら、叔父さんを思い出す
2、波‥東北大震災のある家族、アザラシの上に乗って
3、泣く男‥プレスリーと原爆を研究するミチオさん
4、チェーホフの学校‥キノコ狩りに出かけるチェーホフ
5、神風‥サラエヴォの女性シンガーが福島の地震で故郷へ
6、橋‥関東大震災の津波で亡くなった厨川白村
現在と過去とそしてたぶん未来もが、とりとめもなく浮かび上がってくるままに綴られたような感がある。それが地震とか原発とかに触発されつつも、そこには営まれる日常がある。そして、切り取られた日常、あるいは思い出や記憶が、恐い物として差し出されている。 -
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声高に昨年3月のあの震災や津波、あるいは原発事故による放射線被害という一連の出来事を語るわけではなく、それらとは遠くはなれた時代や場所での出来事を通して、ゆるやかに「あの日々」を思い起こさせる物語が6つ並んでいる。
物語の語り口の穏やかさの陰で、悲惨なことを忘れ去ってしまうことの怖さ、この日常があの日から続いているのだと言う事実を突きつけられる思いにかられる。
ここに収録された作品の多くには本筋とはあまり関係のない作中話が挿入され、その時代と場所を越えた重層構造が物語を一見とらえ難いものにする。まるで関係のない時間軸で紡がれるいくつかの物語が、読み手の心のどこかで焦点を結ぶとき、実に印象深いものになるのだ。
それらはロシアの森できのこ狩りをするチェーホフの人生だったり、エルヴィス・プレスリーの生い立ちだったり、関東大震災時に鎌倉で起きたある作家の津波被害による死であったりする、、、 -
Posted by ブクログ
本著は世界を旅した体験と経験と知見と思索の過程を伝える良書である。
私たちは狭い視野の世界で生きている。文化や価値観というのは場所に根ざしており、それは風土による影響だったりもする。世界を見ても寒い国と暑い国とでは思想も宗教も価値観も異なることは歴史が証明している。
さて、本著は旅に出て、その先で出会った名も無き人々や文化、価値観に触れ視点が広くなった体験を述べる。国外へ旅をするのもいいだろう。国内を旅をするのもいいだろう。大切なことは多くの人たちと出会い、価値観を知り、深め、自分の中で思索し、落とし込むことで視野が広くなることだろう。これは、お金では買えない。体験するだけでは足りない。目的を持って旅をし、経験と体験を経て自分の中で思索し続けることが重要である。漠然と旅をしても何も視野や価値観は変わらない。もったいないのだ。
本著では、スキマと呼ぶ。私は自分の価値観と未知の価値観を知るときに生ずる感覚の出会いに気付くことがスキマであると解釈している。隣町や、県外に行くことでもそのスキマは充分に得られるだろう。新たな思索と視点を提案する良書である。