あらすじ
安重根による伊藤博文暗殺。大逆事件で処刑された幸徳秋水、管野須賀子、大石誠之助。生きのびた荒畑寒村……。日本近代史のなかの人々が、いまそこに生きている人として語りなおされ、歴史の記述にはおさまらないいきいきとしたポルトレとして浮かびあがってくる。小説ならではの達成として動乱の時代を語る画期的な長篇。
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Posted by ブクログ
独特の構成。
これだけでもこの本を読んだかいがある位、なかなか珍しいと思うし、かつ、成功している。
現実を苦々しく見るだけで受け入れるしか手が無い大多数の人間の象徴として漱石という日本を代表する知識人の動向を基底におきつつ、現実を能動的に変えようとする暗殺者達の協奏、特に伊藤と安の同質性が上手く描かれている。
またこういう結末、村上春樹的に言えば読者に委ねられた開放的な構成は当方好み。
つまるところ読み応え十分の作品かと。
Posted by ブクログ
夏目漱石の、全集にも収録されていないエッセイをネタ元に、ロシアの日本語学科学生に講義するという設定が斬新。
伊藤博文を暗殺された者としてだけでなく、暗殺した側としても捉えているのが面白い。
どこまでが史実でどこまでがフィクションなのかもよく分からず、一番ページが裂かれているのが伊藤でも、伊藤を暗殺した韓国の英雄である安重根でもなく、幸徳秋水と愛人の管野スガ、そしてスガを奪われた荒畑寒村であるところも独特である。
エンディングも収まりがはっきりせず投げ出された感じなのだが、少なくとも、180ページの本を数時間で読んでしまったので、これは面白い小説だと思う。
Posted by ブクログ
ロシアのサンクトペテルブルクに招かれた一人の日本人作家が、徳川時代のロシアと日本との「縁」を語る中で、漱石の小説『門』に描かれた伊藤博文暗殺事件と安重根、そして漱石が所属した東京朝日新聞記者の杉村楚人冠と幸徳秋水との関わりが紐解かれていく。小説の体裁をとった歴史エッセイ、というところか。連想が連想を呼び、後半は荒畑寒村、管野スガ、大石誠之助にまで話題が及ぶ。リサーチ力はさすがで、いろいろ教えてもらった。
ただし、学生を前にした講演という設定にもかかわらず、まったく対話性が感じられないことに驚かされる。ずっと口語体が維持されているから、「講演」という設定は一貫しているものの、こんな話を延々と聞かされる側はたまったものではないだろう。