戦中・戦後から60年・70年安保闘争やベトナム反戦の時代、日本には数多くの偉大な学者や知識人が存在した、鶴見俊輔はその中でも圧倒的で特異な存在であったと思う。
その人たち各々の思想や行動などが鶴見俊輔との関係の軌跡を通して時系列に網羅されている。
俊輔の華麗な閨閥・父祐輔との関係、ハーバート大学時代
...続きを読む・学問と人脈、戦争体験、プラグマテイズム、ライシャワー・ノーマン・都留重人・丸山真男・桑原武夫・竹内好等々俊輔とのやり取りが克明に記録されている。
「思想の科学」を46年の創刊から途中休刊をはさんで96年に終刊する50年間の取り組みは、彼が哲学や学問を通して、価値ある人生をまっとうするための主軸であった。彼の思考・研究を踏まえた仲間たちとの議論や運動、そして自身の執筆や多くの人達からの投稿文の選別・編集等出版活動への取り組みの濃密さは出色である。いろいろな課題に感応し受容する包摂力も目を見張る。
恵まれた出自への反発・そこからの自立という意識が「転向」問題へ関心を導く必然性についてはもっと分析されてもよかったか。安保闘争や「ベ平連」運動、特に米兵脱走援助の直接行動など反政府反米の活動は当局との軋轢を考える読み手をハラハラさせる。少年時代の不良生活やハーバート大学時代の勉学への熱中と優秀性からは想像もできない帰国後のダイナミックな活動の行動人生であった。
ノーマンが自殺することになった都留との接点について、海軍勤務時の捕虜虐殺や慰安婦との遭遇体験、「思想の科学」事務員の清水三枝子との関係、安保闘争やベ平連活動での他の識者との異同等々日頃思っていた疑問がクリアーになった。彼がテーマとした転向問題や京大でのルソー研究についてはその著作を一度読んでみたい。
作者の鶴見への思いの深さと誠実さが文体に滲み出て浩瀚で秀逸な評伝であり存分にあの時代に浸らせてくれた。