黒川創のレビュー一覧

  • 鶴見俊輔伝

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    戦中・戦後から60年・70年安保闘争やベトナム反戦の時代、日本には数多くの偉大な学者や知識人が存在した、鶴見俊輔はその中でも圧倒的で特異な存在であったと思う。
    その人たち各々の思想や行動などが鶴見俊輔との関係の軌跡を通して時系列に網羅されている。
    俊輔の華麗な閨閥・父祐輔との関係、ハーバート大学時代・学問と人脈、戦争体験、プラグマテイズム、ライシャワー・ノーマン・都留重人・丸山真男・桑原武夫・竹内好等々俊輔とのやり取りが克明に記録されている。
    「思想の科学」を46年の創刊から途中休刊をはさんで96年に終刊する50年間の取り組みは、彼が哲学や学問を通して、価値ある人生をまっとうするための主軸であ

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    2022年10月16日
  • 旅する少年

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     小説家 黒川創さん(1961年京都伏見生まれ・刊行時60歳)が、小学校6年生から中学卒業までに実行した驚くほど多くの一人旅の記録。12歳から15歳の頃にこんな旅をしていたこと自体が驚きであるとともに、無邪気な田舎の少年にすぎなかった自分との成熟の違いにも目を瞠る。

     バックグラウンドとしての家庭の状況(京都住まい・進歩的~左翼的両親)の違いはあるとしても、大人になるまで数えるほどしか地元の街を出たことがなかった私にとっては、ほぼ同時代(シラケ世代)である著者の旅をこの本で追体験させてもらうことで、自分が成しえなかった旅を64歳になって回想するようでもあった。読んでいる間はまるで著者になった

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    2022年02月27日
  • 旅する少年

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    著者がローティーンだった頃の旅の記録。感傷を排した淡々とした記述と、曖昧な記憶は曖昧なままに、恥ずかしい出来事も敢えて記す姿勢が、彼の凛々しい膨大な回数の旅にふさわしい。世代が同じせいか、行ったことのない場所すら自分の懐かしい記憶のように感じられる。真面目で、それでいて鷹揚な良い時代だった。それぞれの土地の歴史や人々の生活に向ける筆者の思慮深い目のおかげで、民俗史の1ページのような面白さもある。旅に出たくならずにはいられない。

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    2021年11月06日
  • 岩場の上から

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    面白かった。現(安部)政権をモデルにしていると思われる、政府の ろくな説明をしないままに(むしろ国民に知られたくないがために)秘密裏にいろいろ決めてしまうところとか、傍受用の建物だって、建ってしまえば景色の一部と認識して 考えることを止めてしまう国民性とか、各方面に向けての批判が存分に込められている。

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    2021年01月18日
  • 暗い林を抜けて

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    ひとりの男の生。重いが読んでよかった。
    自分の一生をこんなにも深く詳しく記すことなどできる人はそうないだろう。実在の人物、あった事件、作者が本当に主人公とともに歩んでいるような、主人公自身であるような、そう感じさせる筆力だ。

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    2020年07月08日
  • 鶴見俊輔伝

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     今、自分の本棚に鶴見俊輔の本は一冊も無い。これまで折に触れ求めたものの、いつの間にか、姿を消している。
     それだけに、この本の鶴見俊輔の挫けなさには、あらためて読み返したい思いを強くさせられた。
     言葉になりにくいものを、深く考えていく。そんな哲学の姿勢を。

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    2020年01月28日
  • 鶴見俊輔伝

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    鶴見さん自身が語らなかったことがいくつも著者黒川さんの元で明らかになったように思う。黒川さんじゃなければ書けない作品だと思う。

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    2019年01月25日
  • 身ぶりとしての抵抗 鶴見俊輔コレクション2

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    鶴見俊輔氏のような行動する知識人は日本ではほとんど稀有な存在ではないだろうか。本書では戦時下の抵抗、ハンセン病の人びととの交流、べ兵連、朝鮮人・韓国人との共生と、ほとんどの人が避けてとおりたい、見て見ぬふりを決め込みたい問題にごく自然体にコミットしていく姿が印象的で、ほんとうに志の大きな素晴らしい人だと思います。また、Ⅴ章「先を行くひとと歩む」にある『田中正造』の小伝を通じて、荒畑寒村著『谷中村滅亡史』を読んでみる気になりました。こうして知りたいことの連鎖が繋がっていきます。

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    2013年09月14日
  • 暗殺者たち

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    独特の構成。
    これだけでもこの本を読んだかいがある位、なかなか珍しいと思うし、かつ、成功している。
    現実を苦々しく見るだけで受け入れるしか手が無い大多数の人間の象徴として漱石という日本を代表する知識人の動向を基底におきつつ、現実を能動的に変えようとする暗殺者達の協奏、特に伊藤と安の同質性が上手く描かれている。
    またこういう結末、村上春樹的に言えば読者に委ねられた開放的な構成は当方好み。
    つまるところ読み応え十分の作品かと。

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    2013年07月23日
  • きれいな風貌―西村伊作伝―

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     戦後日本の復興の地ならしは、明治初期から中頃に生まれて大正時代に日本人離れした突飛な行動で鳴らした人によって行われたものも多い。本書の主人公もその一人であろう。
     それにしても大逆事件の残滓からこのような華が開くとは、歴史というものはじつに皮肉なものというべきであろう。

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    2013年09月29日
  • いつか、この世界で起こっていたこと

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    ストレートに震災を描いているわけではなく、静かな筆致でじんわりと心に残る短編集です。
    どの話もどこかで震災、津波、原子力に繋がっていて、被災された人、直接に被災はしなかった人、3.11を迎えたひとりひとりにそれぞれの暮らし、人生があったことをあらためて感じさせられました。

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    2012年11月27日
  • いつか、この世界で起こっていたこと

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    東日本大震災から想起される「地震」「津波」「原子力」をテーマに、その時そこで生きていた人々に起こったことを、史実を絡めながら著者の想像力で物語にした連作短編集。

    まず、とても構成が凝っていて、一瞬エッセイか?と思うような作品もある。また、登場人物の関わりから少しずつ歴史上の事実について触れるという語り方で、非常に抑えた筆致に終始しており、どれもみな、歴史の上では事実はこうだったが、でも実際にそこにいた人々には、暮らしがあって、家族があって、ひとりひとりにいろいろな思いがあって、その時はこんなふうに生きていた、というプロットになっている。

    それ自体は、たとえばチェルノブイリの事故であったり、

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    2012年08月31日
  • 京都

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    1970年代から1990年代頃の京都を舞台に、地付の、しかし社会的に恵まれているとは言い難い人々の生をノスタルジックに描く。舞台となっている場所に多少なりとも行ったことがあれば、この物語への浸り方も変わってくるだろう。

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    2025年04月13日
  • この星のソウル

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    中村直人の思い出として、韓国・朝鮮に関わった事柄を述べられていく。ソウルについての文学ムックを書くための取材で二泊三日で韓国に行った。その時現地の案内役として在日二世の女性に案内してもらったこと。そして、韓国の開国から韓国併合までの三十四年間と、そして韓国併合から解放までの三十五年間、解放から戦乱、分断、軍事独裁などの三十五年間の出来事を歴史小説風に描く。特に高宗、閔妃、純宗、などの話と当時の出来事が書かれる。

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    2024年12月28日
  • 彼女のことを知っている

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    過去の人々の飽くなき追求にわたしたちの人生は乗っかっているし、その上でわたしたちは間違っていることに声をあげつつ、また次代へバトンを繋がなければならないし。普遍的なものが変遷していく様が深く、面白かった。
    70年代に始まり、現代に至るまでの「性」の扱われ方の視点を通して、それぞれの時代の「生」について考えさせられた一冊でした。

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    2023年05月22日
  • 彼女のことを知っている

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     書かれた順番も読んだ順番も『旅する少年』の後なので、ああ著者はあの実体験をこういうふうに小説へと昇華しているのだなあ、と感じながら読みました。著者と精神的にも肉体的にも交わり、通り過ぎていった<彼女>たち、昔の・今の妻、そして娘。SNSで見ず知らずの他人と同調し合いディスりあうのが普通の現代から、面と向かっての人間関係を振り返るとき、そこにはバッサリと割り切れないものが残る。#MeTooに対するドヌーヴのあらがいのように。

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    2023年05月16日
  • 旅する少年

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     著者が小学校高学年から中学を卒業するまでの、1970年代なかばの鉄道一人旅を、令和の時代から振り返って書かれた本。私よりも一回り年上の著者が記す少年時代の記憶は、子供の頃の自分が大人と認識していた人々の姿を記憶の底から掘り起こしてくれる。写真に残された、もしご存命なら現在70代から100歳以上の人々の、若々しい表情が眩しい。現在の著者からみれば恥いるばかりだと語られる、当時の著者の少年らしい生意気な行動を、時には叱りつつ、おおらかに許容する年長の人々が、皆それぞれに魅力的。

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    2023年05月14日
  • 暗殺者たち

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    夏目漱石の、全集にも収録されていないエッセイをネタ元に、ロシアの日本語学科学生に講義するという設定が斬新。

    伊藤博文を暗殺された者としてだけでなく、暗殺した側としても捉えているのが面白い。

    どこまでが史実でどこまでがフィクションなのかもよく分からず、一番ページが裂かれているのが伊藤でも、伊藤を暗殺した韓国の英雄である安重根でもなく、幸徳秋水と愛人の管野スガ、そしてスガを奪われた荒畑寒村であるところも独特である。

    エンディングも収まりがはっきりせず投げ出された感じなのだが、少なくとも、180ページの本を数時間で読んでしまったので、これは面白い小説だと思う。

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    2021年11月26日
  • ウィーン近郊

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    日本へのフライトを予定していた西山優介が突然ウィーンの自宅で自死し、妹の奈緒がその収拾にあたる物語だが、領事の久保寺光、カトリック教会の面々、近所の友人たちが巧みなサポートをしてくれる姿に感動した.奈緒は幼い洋を連れていたが、久保寺らが支えてくれる.兄の思い出を回想する奈緒だが、会葬者の前での挨拶は素晴らしい構成だった.杉原千畝のことも出てきたのが意外だったが、ウィーンとカウナスが地理的に近いこともあるのだろう.表紙にあるエゴン・シーレの「死と乙女」を久保寺が鑑賞し、その背景を述べている件も良かった.

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    2021年10月10日
  • ウィーン近郊

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    黒川さんの作品を初めて読みました。

    この作品の中には作者の語りたい事がぎっしり詰まっていて
    それぞれが大きな声で前へ出てきそうでありながら
    それらは控え目に静かな語り口で私の中に入ってきました。

    表紙のエゴン・シーレの絵と共に
    心に残る1冊です。

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    2021年09月17日