黒川創のレビュー一覧
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戦中・戦後から60年・70年安保闘争やベトナム反戦の時代、日本には数多くの偉大な学者や知識人が存在した、鶴見俊輔はその中でも圧倒的で特異な存在であったと思う。
その人たち各々の思想や行動などが鶴見俊輔との関係の軌跡を通して時系列に網羅されている。
俊輔の華麗な閨閥・父祐輔との関係、ハーバート大学時代・学問と人脈、戦争体験、プラグマテイズム、ライシャワー・ノーマン・都留重人・丸山真男・桑原武夫・竹内好等々俊輔とのやり取りが克明に記録されている。
「思想の科学」を46年の創刊から途中休刊をはさんで96年に終刊する50年間の取り組みは、彼が哲学や学問を通して、価値ある人生をまっとうするための主軸であ -
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小説家 黒川創さん(1961年京都伏見生まれ・刊行時60歳)が、小学校6年生から中学卒業までに実行した驚くほど多くの一人旅の記録。12歳から15歳の頃にこんな旅をしていたこと自体が驚きであるとともに、無邪気な田舎の少年にすぎなかった自分との成熟の違いにも目を瞠る。
バックグラウンドとしての家庭の状況(京都住まい・進歩的~左翼的両親)の違いはあるとしても、大人になるまで数えるほどしか地元の街を出たことがなかった私にとっては、ほぼ同時代(シラケ世代)である著者の旅をこの本で追体験させてもらうことで、自分が成しえなかった旅を64歳になって回想するようでもあった。読んでいる間はまるで著者になった -
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東日本大震災から想起される「地震」「津波」「原子力」をテーマに、その時そこで生きていた人々に起こったことを、史実を絡めながら著者の想像力で物語にした連作短編集。
まず、とても構成が凝っていて、一瞬エッセイか?と思うような作品もある。また、登場人物の関わりから少しずつ歴史上の事実について触れるという語り方で、非常に抑えた筆致に終始しており、どれもみな、歴史の上では事実はこうだったが、でも実際にそこにいた人々には、暮らしがあって、家族があって、ひとりひとりにいろいろな思いがあって、その時はこんなふうに生きていた、というプロットになっている。
それ自体は、たとえばチェルノブイリの事故であったり、 -
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夏目漱石の、全集にも収録されていないエッセイをネタ元に、ロシアの日本語学科学生に講義するという設定が斬新。
伊藤博文を暗殺された者としてだけでなく、暗殺した側としても捉えているのが面白い。
どこまでが史実でどこまでがフィクションなのかもよく分からず、一番ページが裂かれているのが伊藤でも、伊藤を暗殺した韓国の英雄である安重根でもなく、幸徳秋水と愛人の管野スガ、そしてスガを奪われた荒畑寒村であるところも独特である。
エンディングも収まりがはっきりせず投げ出された感じなのだが、少なくとも、180ページの本を数時間で読んでしまったので、これは面白い小説だと思う。