中島京子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
なんとも近代的な名前をつけてもらったものだ。
美穂。
美しい、実り。
原作では名前さえ与えられなかった女性が本作では主人公の座を射止め、物語を語りはじめた。
田山花袋の『蒲団』を題材にとって瑞々しい女たちの姿が動き始める。
自分の夫が奔放な女弟子に翻弄される姿を悔しい思いで見つめつつ
生活が荒れないようにあたりに目を配る主婦の目。
華やかな女弟子の姿に母としての日常に追われ「女」を捨てている、と目が覚める瞬間。
その気づきが豊かな実りをもたらすのだろう。
「女」なだけでは身につけられない母の豊かさ。
永遠の男の子である夫の目には気づかれないかもしれないが、女は何食わぬ顔でと変化を遂げるのだ -
Posted by ブクログ
「おすすめ文庫王国2008」にちょこちょこ書名が挙がっていたので手にしてみる。
明治時代、日本の奥地を旅して『日本奥地紀行』を著したイギリス人女性研究者イザベラ・バードとその通訳を務めた伊藤亀吉。
その『日本奥地紀行』にインスパイアされ、作者は、道行の中でイトウがI・Bに惹かれていった、との物語を企てる。
時代の息吹の中で力む日本の若者と母親ほども歳の離れた外国人女性の心の交情。
「文明」が「開化」するかしないかというような頃、「近代化の波」が列島を覆いつくす以前といった、危ないバランスの時代の息使いやそこに生きた若者の心の様子が、イトウの手記として丹念に綴られる。
物語はイトウの手記のパート -
Posted by ブクログ
イトウとI.Bの旅も、シゲルと先生の出会いも、最初、すごくわくわくして、手記の謎とあいまって、どうなるんだろうと楽しく読んでいったのだけれど。読んでいって、え、これで終わり?と思ってしまった。だんだんイトウとI.Bの関係が苦しくなっていくにつれ、読むのも苦しくなっていったような。イトウ手記がだんだん長く感じられてしまって。手記のパートも、現代のパートも、謎解きも、もっとぱーっと広がっていくことを勝手に期待していて、わたしとしては不完全燃焼のうちに終わってしまったような。もっとシゲルと先生の話が読みたかったような。イザベラ・バードにそもそも関心があればもっとおもしろく読めたのかもしれないけど。