古川綾子のレビュー一覧
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ネタバレ過去と現在、希望と絶望、生と死など、相反するけれど切っても切れないものを描いている。
人々のさまざまな苦悩は、容易には想像できないものもあった。自分が経験していないからといって社会に問題が無いことにはできない。自分には無い視点であったり、どういう意味だろう、どういう感覚だろうと探りながら読むのは刺激的な時間だった。
現実的でありながら幻想的でもあって、何が起きるのか先が読めないところも良かった。共通して魂の話をしているのも興味深く、うわべではない心を浮かび上がらせている。そこにはあたたかくきらめく核となるものが眠っている……そんなイメージを持った。
特に「海馬と扁桃体」は忘れられない作品になり -
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ネタバレ日本の統治下にあった時代、そして朝鮮戦争を生きて命を繋いできた女四代の物語。
弱い立場に置かれた女性たちの苦しみが直に伝わってくるようで、私も苦しかった。何度も憤り、悲しみ、時には目を潤ませながらの読書となった。
被差別民や男尊女卑のさまざまなエピソードを読むと、日本のそれととても似ていると思った。差別や偏見をなくすように努力し続けていくことが大事であり、こうやって小説の中で語られることには大きな意味がある。
怒りの矛先を間違い、虐げられている人同士でぶつかり合うことはよくあることなのかもしれない。自分のことを諦めたつもりでも、溜め続けた負の感情は死ぬまで重い荷物となって離れないのだろう。いつ -
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韓国の架空の都市、ソヨン洞(ドン)にあるマンションを巡る住人たちにまつわる連作短篇集。
その人の住む地域やマンションの階、職業、ママ友関係、子供のお稽古など日本のタワマンや受験を巡るあれこれと似ていて、とても親近感があり、また興味深くておもしろかったです。
そこに住んでいる人たちは、そこの価値観で競い合い、一喜一憂したりしているけれど、関係ない外から見ると滑稽なくらいどうでもいいことだったりして。
自分も、もし何か今いる世界で息苦しくなったら、こうして客観的に外から自分をみて、こんなことにとらわれるなんてばかばかしい!って思えたら気持ちが楽になりそう。
それにしても東京も同じくものすごい -
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自分と瓜二つの曽祖母。
9歳から会っていなかった祖母に
曽祖母の話を聞くと
それは、今では考えられない過酷な人生だった。
女性が虐げられてきた時代に
曽祖母や祖母たちがどのようにして生きてきたのか。
そして、その時代を生きてきた上で呪いのように蓋をしてしまった心を私は覗く事ができた。
こんな扱いがあって良いのか。
女性というだけで、差別民というだけで、同じ人であるのにも関わらず、物理的にそして精神的に傷つける人たちがいる。
『この世には心からの謝罪をしてもらえなかった者たちの国があるはずだ』
私はその国を知っている気がする。
きっとその国を知っている人たちはたくさんいるはず。
久しぶ -
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各作品がいちいち胸に刺さるし、なんちゅうフレーズやねんていうパンチラインが頻繁する。
ほとんどの登場人物が寂しさ、孤独をまとい、同じような苦しみを持った人々と交わるのに、それは一瞬はポジティブな関係を築けても、やがて小さく砕けていく。
はっきり言って自分は恵まれてたのかなって思う。
これほどまで社会に苦しめられた感覚はなかったなって思う。
それでも彼らに共感してしまうのは、これまでの人生の中のいくつもの後悔やもう連絡もとらなくなったたくさんの人々の顔が浮かび、懐かしく思うからなんだと思う。
大きい何かが起こる話ではなくて、心の動きや関係性を正直に言葉にしてしまう今作のような作品は、やっぱ -
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ネタバレそれぞれの短編で語り手の立場は異なるものの、似たようなバックグラウンドが度々描かれている。みな何らかの暗い過去を背負っていて、心の傷に敏感な人たちだ。どちらかといえば傷付けられた痛みよりも、自分が誰かを傷付けた(または救えなかった)という罪の意識や、無力感をよく知っている人物の視点で話が語られる。
語り手が過去を回想し、自らの間違いを見つめる時、読者も同じように自身の過去を振り返ってしまう。誰にも話せない秘密や後悔を嫌でも思い出すことになる。まるで自分を罰するかのように、語り手が過去を見つめる視線には誤魔化しがない。
あとがきに書かれた著者の言葉を借りるまでもなく、どの作品にも著者の過去や記 -
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あの時、あの言葉を言わなければ…
あの時、あの一言を言っていたら…
あの時、あの一瞬、
言葉にできない想いをたくさん抱えていた若い時。言葉にする力も勇気もなくて、どれ程後悔しただろう。
永遠だと思っていた友人や恋人との関係も、生活や環境の変化から変わってしまった。この本は、若い頃のあのヒリヒリとした感覚を思い起こさせる。
七篇の中短編はどれも過ぎ去った時間を痛みと共に振り返る。繊細に描かれる主人公たちの気持ちの中に自分の姿を見つけては、鋭い痛みが走る。
子どもの痛みには、胸がかきむしられる。
「子どもはある年齢まで無条件に親を許すから。許さなければという義務感もなく、ごく自然に。」
大人の