古川綾子のレビュー一覧

  • エディ、あるいはアシュリー

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    過去と現在、希望と絶望、生と死など、相反するけれど切っても切れないものを描いている。
    人々のさまざまな苦悩は、容易には想像できないものもあった。自分が経験していないからといって社会に問題が無いことにはできない。自分には無い視点であったり、どういう意味だろう、どういう感覚だろうと探りながら読むのは刺激的な時間だった。
    現実的でありながら幻想的でもあって、何が起きるのか先が読めないところも良かった。共通して魂の話をしているのも興味深く、うわべではない心を浮かび上がらせている。そこにはあたたかくきらめく核となるものが眠っている……そんなイメージを持った。
    特に「海馬と扁桃体」は忘れられない作品になり

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    2025年09月02日
  • 明るい夜

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    ネタバレ

    日本の統治下にあった時代、そして朝鮮戦争を生きて命を繋いできた女四代の物語。
    弱い立場に置かれた女性たちの苦しみが直に伝わってくるようで、私も苦しかった。何度も憤り、悲しみ、時には目を潤ませながらの読書となった。
    被差別民や男尊女卑のさまざまなエピソードを読むと、日本のそれととても似ていると思った。差別や偏見をなくすように努力し続けていくことが大事であり、こうやって小説の中で語られることには大きな意味がある。
    怒りの矛先を間違い、虐げられている人同士でぶつかり合うことはよくあることなのかもしれない。自分のことを諦めたつもりでも、溜め続けた負の感情は死ぬまで重い荷物となって離れないのだろう。いつ

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    2025年08月12日
  • 明るい夜

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    すごい物語を読んだ。とっても良かった。読み終わるのが惜しいくらい。韓国小説でオススメは?と聞かれたら、是非オススメしたい1冊になりました。個人的にミョンスクおばあさんのエピソードが好きでした。

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    2025年07月17日
  • ソヨンドン物語

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    韓国の架空の都市、ソヨン洞(ドン)にあるマンションを巡る住人たちにまつわる連作短篇集。

    その人の住む地域やマンションの階、職業、ママ友関係、子供のお稽古など日本のタワマンや受験を巡るあれこれと似ていて、とても親近感があり、また興味深くておもしろかったです。

    そこに住んでいる人たちは、そこの価値観で競い合い、一喜一憂したりしているけれど、関係ない外から見ると滑稽なくらいどうでもいいことだったりして。
    自分も、もし何か今いる世界で息苦しくなったら、こうして客観的に外から自分をみて、こんなことにとらわれるなんてばかばかしい!って思えたら気持ちが楽になりそう。

    それにしても東京も同じくものすごい

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    2025年04月26日
  • 親密な異邦人

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    ドラマも見たけど、ドラマとは違うものとして読みました。
    もうなんかすごい人生をとしか言いようがない主人公ユミ。
    どうやったらそんなに起用なことができるのか、色々うまくなりきれるのか、ほんとうに不思議だ…。


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    2024年10月27日
  • 明るい夜

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    自分と瓜二つの曽祖母。
    9歳から会っていなかった祖母に
    曽祖母の話を聞くと
    それは、今では考えられない過酷な人生だった。

    女性が虐げられてきた時代に
    曽祖母や祖母たちがどのようにして生きてきたのか。
    そして、その時代を生きてきた上で呪いのように蓋をしてしまった心を私は覗く事ができた。

    こんな扱いがあって良いのか。
    女性というだけで、差別民というだけで、同じ人であるのにも関わらず、物理的にそして精神的に傷つける人たちがいる。

    『この世には心からの謝罪をしてもらえなかった者たちの国があるはずだ』

    私はその国を知っている気がする。
    きっとその国を知っている人たちはたくさんいるはず。

    久しぶ

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    2024年09月10日
  • わたしに無害なひと

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    恋人や親友との関係がもう終わりになるだろうとお互いに気付いている頃の感じとか、自分の無知さや狡さで大切な人を傷付けてしまったこと、傷付けられたことを思い出してギュっとなる。繊細な感情と瑞々しい文章で、映画『はちどり』が好きな人は刺さると思う

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    2023年08月20日
  • 明るい夜

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    冒頭から引き込まれて夢中で読んだ。

    被差別民として生まれた曽祖母、戦争に翻弄された祖母、家父長制から逃れられない母。離婚を経て都会を離れ、祖母が暮らす町に移り住み、自らの傷と向き合う娘。
    女性たちの100年の物語。

    辛い現実のなかでも手を取り合うことができる相手がいることが何よりの救い。

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    2023年06月25日
  • 明るい夜

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    "――ヨンオクは、朝鮮人が日本人よりも卑しいと思う?
    祖母が首を横に振ると、本物の卑しさはそんなふうに人間を卑しいと語る、まさにその口にあるのだとおじさんは言った。"(p.122)


    "誰もいない家で学校に行く準備をしていた九歳の私にも、鉄棒にぶら下がって涙を堪えていた中学生の私にも、自分の体を虐めたい衝動と闘っていた十九歳の私にも、自分を粗末に扱う配偶者を容認していた私と、そんな自分を許せなくて自らを攻撃したがっていた私にも近づいて耳を傾ける。私だよ。ちゃんと聞いてるよ。ずっとしたかった話を聞かせて。"(p.379)

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    2023年04月04日
  • わたしに無害なひと

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    よかった。ヒリヒリした。これからも付き合っていきたい友人とは、お互いに意図せぬとも無害な関係ではいられない時もあるなと思った。一時の人とは深い対話もしないし、お互い無害な関係でいられるけど。
    大事な人とは付き合っていくうちに無害ではいられないときもあると思うけど、そうなってしまった時には(傷つけられたり、傷つけてしまった時には、)真摯に話し合ったり、許したり、忘れたり、したいな。

    砂の家の、理解しなくていいものを理解させられていた心情、言語化してくれてありがとう

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    2022年05月03日
  • わたしに無害なひと

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    ほぼ百合短編集。どの作品も素晴らしい。ほとんどが女と女の話、喪失の話。その後のかすかな希望の話も。どの話も切なく心に迫ってくる。この人の作品は、嫌味や抵抗なしに物語に、登場人物に入っていける。
    彼らの胸に迫る苦しさ、哀しさは私が持っていたものであり、気づくと自分の物語として読んでいる。
    どの作品にも哀しい美しさがある。少し売野雅勇の詞みたいな儚さと尊さも。
    あとがきを読むととても真面目で傷つきやすい女性のようだ。これからも書き続けてほしい。

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    2021年09月14日
  • わたしに無害なひと

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    誰しもが通り過ぎてきた人生のどこかで、ひどく傷つき、一晩中泣き明かし、もがき苦しんだ過去があるだろう。今となってはかさぶたとなっているが、一旦手で触れてしまうと、血がうっすらと滲み、痛かった当時の記憶を呼び起こすような…そんな物語が集まった短編集。登場人物の全てを愛おしく感じた。

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    2021年04月13日
  • わたしに無害なひと

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    各作品がいちいち胸に刺さるし、なんちゅうフレーズやねんていうパンチラインが頻繁する。

    ほとんどの登場人物が寂しさ、孤独をまとい、同じような苦しみを持った人々と交わるのに、それは一瞬はポジティブな関係を築けても、やがて小さく砕けていく。

    はっきり言って自分は恵まれてたのかなって思う。
    これほどまで社会に苦しめられた感覚はなかったなって思う。
    それでも彼らに共感してしまうのは、これまでの人生の中のいくつもの後悔やもう連絡もとらなくなったたくさんの人々の顔が浮かび、懐かしく思うからなんだと思う。

    大きい何かが起こる話ではなくて、心の動きや関係性を正直に言葉にしてしまう今作のような作品は、やっぱ

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    2021年02月21日
  • わたしに無害なひと

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    まず、文章がひたすら良くてびっくり。

    親しいひとを知らずに傷つけたり、失ったりすることがある。そのときはわからないことも多い。この小説はその痛みを直視させてくれるよう。

    いちばん没入したのは、「砂の家」。繊細なバランスの上に成り立った関係の崩れる兆しに、胸が締めつけられる思い。

    読んだきっかけは温又柔さんの書評を見て。全編がとても良く、読んでよかった小説。誰かにおすすめしたい。

    著者、訳者の他の作品も読んでみたい。

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    2021年02月13日
  • わたしに無害なひと

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    ここまで自分の心情や記憶と距離が近い文章には初めて触れた、と衝撃を受けた前作『ショウコの微笑』と同様、どこまでも人の心の動きに寄り添う微視的な細やかさに胸を抉られ、慰められる短編集。この近さには国も言葉も違うのにと驚くべきなのか、それとも隣人ゆえの必然なのか。何にせよチェ・ウニョンさんは凄い作家だ。
    「過ぎゆく夜」に最も心を揺さぶられた。

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    2021年02月09日
  • わたしに無害なひと

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    「人って不思議だよね。互いを撫でさすることのできる手、キスできる唇があるのに、その手で相手を殴り、その唇で心を打ちのめす言葉を交わす。私は人間ならどんなことにも打ち勝てると言うような大人にはならないつもり。」

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    2020年10月23日
  • わたしに無害なひと

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    「あの夏」:イギョンとスイが出会ったのは偶然だった。16歳の夏、グラウンドを横切っていたイギョンの顔に、スイの蹴ったボールが直撃したのだ。サッカー部に所属しているスイがグラウンドを走るのをイギョンは見つめていた。スイを見つけ出すのは難しくなかった…。同性を好きになるイギョンとスイの物語。「601、602」、「過ぎゆく夜」、「砂の家」、「告白」、「差しのべる手」、「アーチディにて」。友達との関係、親子の関係、男性と女性の関係、どの短編にもちくりと胸に痛みを覚える。

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    2020年09月28日
  • わたしに無害なひと

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    人を傷つけるのに悪意はいらないんだということ。ちょっとしたズルさ、保身、諦め、自分に言い訳できると思っていること、でもその言い訳は自分にいちばん通用しない、そういう弱さと繊細さを持ち合わせた登場人物が多くて、静かに泣きながら読んだ。
    『差しのべる手』は血の繋がらない叔母と姪のシスターフッドで、叔母すごくいい!そしてメタファーとしての「明るいほうからは暗いほうが見えない」というのもすごいなと。これって格差や差別のこと。明るい=多数派や権力側。
    翻訳される限りずっと追いかけたい作家になりました。

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    2020年09月19日
  • わたしに無害なひと

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    ネタバレ

    それぞれの短編で語り手の立場は異なるものの、似たようなバックグラウンドが度々描かれている。みな何らかの暗い過去を背負っていて、心の傷に敏感な人たちだ。どちらかといえば傷付けられた痛みよりも、自分が誰かを傷付けた(または救えなかった)という罪の意識や、無力感をよく知っている人物の視点で話が語られる。
    語り手が過去を回想し、自らの間違いを見つめる時、読者も同じように自身の過去を振り返ってしまう。誰にも話せない秘密や後悔を嫌でも思い出すことになる。まるで自分を罰するかのように、語り手が過去を見つめる視線には誤魔化しがない。

    あとがきに書かれた著者の言葉を借りるまでもなく、どの作品にも著者の過去や記

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    2020年08月04日
  • わたしに無害なひと

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    あの時、あの言葉を言わなければ…
    あの時、あの一言を言っていたら…
    あの時、あの一瞬、
    言葉にできない想いをたくさん抱えていた若い時。言葉にする力も勇気もなくて、どれ程後悔しただろう。
    永遠だと思っていた友人や恋人との関係も、生活や環境の変化から変わってしまった。この本は、若い頃のあのヒリヒリとした感覚を思い起こさせる。

    七篇の中短編はどれも過ぎ去った時間を痛みと共に振り返る。繊細に描かれる主人公たちの気持ちの中に自分の姿を見つけては、鋭い痛みが走る。

    子どもの痛みには、胸がかきむしられる。
    「子どもはある年齢まで無条件に親を許すから。許さなければという義務感もなく、ごく自然に。」
    大人の

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    2020年07月25日