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資産価値にこだわる者の果てしない欲望と苦悩。持たざる者の苦労と、未来への希望。韓国中間層の現実をリアルに描いたハイパーリアリズム連作小説。舞台はソウルにある架空の町〈ソヨン洞(ドン)〉。近年の不動産バブルやマンション購入、過剰な教育熱、所得格差といった社会問題が、住民の悲喜こもごもとともに描き出される――。
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Posted by ブクログ
韓国の架空の都市、ソヨン洞(ドン)にあるマンションを巡る住人たちにまつわる連作短篇集。 その人の住む地域やマンションの階、職業、ママ友関係、子供のお稽古など日本のタワマンや受験を巡るあれこれと似ていて、とても親近感があり、また興味深くておもしろかったです。 そこに住んでいる人たちは、そこの価値観...続きを読むで競い合い、一喜一憂したりしているけれど、関係ない外から見ると滑稽なくらいどうでもいいことだったりして。 自分も、もし何か今いる世界で息苦しくなったら、こうして客観的に外から自分をみて、こんなことにとらわれるなんてばかばかしい!って思えたら気持ちが楽になりそう。 それにしても東京も同じくものすごい不動産価格の高騰。 まったく他人事ではない物語です。
金を前にすると人は変わる、ということを実感した。 ソウルにある架空の街ソヨンドンが舞台の作品。 それぞれのストーリーによって同じ人でも描かれ方が随分と異なっていた。 様々な視点から見ないと人は理解できないんだな、と学習。 「街」という舞台を利用した面白い作品。
ソヨン洞のマンションを舞台にした連作短編集。 書評家の三宅香帆さんがこの作品を韓国版タワマン文学だ!と言っていて、興味が出て読みました。 もっと下世話な話なのかと勝手に想像していたのですが、実際読んでみるとソヨン洞という架空の都市を舞台にして人の感情の機微を繊細に描いた作品でした。とても面白かった...続きを読むです。 作者のチョ・ナムジュさんは日本の読者への後書きの中で「私が伝えたかったのは、個人ではどうすることもできない時代と社会の不幸を前に、我々はどんな選択をできるのか、どんな態度をとるべきかという悩み、さらには人間らしさを失わずに生きる方法に対する問いかけでした」と述べています。 作中でテーマになっている韓国の不動産バブル、所得格差、教育問題等は、日本も同じような問題を抱えているので、とても馴染み深く共感しやすい話でした。 中でも『警告マン』『百雲学院連合会の会長、ギョンファ』『不思議の国のエリー』が特に良かったです。
韓国ソウルの架空の街を舞台にした不動産連作短編集。所得格差、価値観、マウンティング、教育、介護…暮らしを構成する光と影が炙り出されていて、不動産業をかじった身として苦しくなる部分もあった。再開発のひずみは東京でも同じこと。
捉えている問題の鋭さも、関係性によって見え方の変わる登場人物たちの書き分けも見事なのだが、読むのが苦しい物語たちだった。
気が滅入るような重いテーマだが、登場人物が交錯するストーリーの展開がテンポよく最後まで読ませ、読後に課題を読者に置いていってくれる手法。さすがチョ・ナムジュ。 不動産投資巡る話だが、その中の人間関係の描き方に奥深さを感じる。 誰もがこの問題に対しての主人公であり、登場人物が変わるごとにこの問題の様々...続きを読むな課題をバトンを渡すように展開している。 私は特に塾の経営者の生き方、そして生き方の変化がこの問題のシンプルな部分を表しているように感じた。
ソヨン洞のマンションが舞台の連作短編集。 不動産階級社会と言われる韓国。そんな韓国の不動産事情について知りたい時にタイムリーに出版された本なので読んでみた。 マンションの価格高騰に乗じて不動産投資で資産増やす人、教育に力を入れるママ、貧困に喘ぐ若者などの欲望と苦しみと悲しみと不幸は誰にでも当ては...続きを読むまるリアルさで身近すぎてしんどい。それでも生きていかなきゃいけない人々の人間臭い魅力を感じてぐいぐい読んだ。 連作短編なので登場人物は何度か登場するが、話によって人物像が違って見えるのも面白い。
読んでいて何やら胸がチクチクするものの、言語化できない感じがあり、しかし最後まで読んでも結局言語化できないのでは、と思いつつ読み進めた。 本書の感想になるのかならないのかよくわからないが、私自身は自分があまりメンタルが強くないと感じており、しかし長年の人生経験から(?)自分のメンタルを平穏に保つため...続きを読むの、適度な人間との距離感を維持できているように感じる。 感じてはいるのだが。しかし一方で他人を(自分勝手な)枠組みの中に閉じ込めていないか。他人を閉じ込めることで自分の平穏を保っているという面が、絶対に無いとは言い切れない気がする。本書には様々な関係性の枠組みが出てくるが、その中であっち側とかこっち側とか、上とか下とか、そういう枠組みが出てきて、物語としてみると確かに「それって少しおかしいんじゃないか」とか感じたりするんだけど、私自身が今まで生きてきた中でそうしたこと(あっち/こっち、上/下)を思ったことが無かったとは言えず、むしろある程度そうした枠組みを(心の中で)保つことで自分の精神を保たせてるのではないか、という疑念が湧いてしまって「チクチク」したのだと思う。 救いだったのは、チャニのママ/ギョンファ/院長先生の言葉 「でも完全な他人事なんて、この世にはないのよ。歳をとると、そういうのが増えていく。それが正しいことでもあるし」(p.202) きっとギョンファが抱えている問題は何も解決していないのだろうけど、最後にこの言葉が聞けたのは救いだった。そういうふうに歳を重ねていければいいなあと思う。
チョ・ナムジュさんといえば、著書「82年生まれ、キム・ジヨン」がベストセラーとなり、多くの国で翻訳、映画化にもなったのでご存じの方も多いと思います。 私も韓国ドラマから韓国の文化に興味を持ち始め、音楽とともに文学作品として読んだのも彼女のこの作品が初でした。 今回は不動産ブーム、過熱化した教育熱...続きを読む、所得格差を、連作短編集という形で書かれています。 登場人物もソヨン洞のマンションを介してつながっており、意外な場面で意外な人物が再登場する。 「訳者あとがき」抜粋 このつながりと登場場面により、登場人物の人物像が変化するあたりも秀逸です。 そしてこの作品以降、彼女の作品の翻訳本が出るたび、読んできましたが、 この小説を書いている間はずっとしんどく、つらく、恥ずかしかったです。 「作者の言葉」より抜粋 と書かれていて、韓国の中間層の苦悩を著者自身が深く感じていることが窺えます。 「私が伝えたかったのは、個人ではどうすることもできない時代と社会の不幸を前に、我々はどんな選択をできるのか、どんな態度をとるべきかという悩み、さらには人間らしさを失わずに生きる方法に対する問いかけでした」 「日本の読者のみなさんへ」より抜粋 バブルがはじけて以降、地方では感じませんが、日本でも都市部では想像を超える金額のマンションが売り出され、子どもの教育も保護者の所得と比例していると聞きます。こういう問題提起が得意な著者ならではの作品は今後も楽しみです。 本書は2022年1月に韓国で刊行された作品です。 今年ハン・ガンという韓国の作家がノーベル文学賞を受賞しました。今文学の世界でもアジアの中で一歩先を行っている気がしますね。
“答えられなかった。言ったところで、あなたに理解できるだろうか。大学を卒業もしないうちから、ソウルの超高層複合型マンションの一室を所有することになったあなたに、叔父さんのレストランから伯父さんの会社に転職したあなたに、家族のグループトークに親が載せる海外旅行の写真に、何も考えずスタンプを押せるあなた...続きを読むに、そのすべてがごく当たり前で自然なことだと思っているあなたに理解できるだろうか。”(p.64) 「理解できるだろうか」は絶対に理解されないことを深く思い知っている人の反語表現だ。だから親近感をおぼえた。あなたの孤独や諦念に似たものをわたしも知ってるよ、と。読んでいて悲しくなったがこの部分がいちばん好きだった。
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