伊藤計劃のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ2012年4月に読んだらしいが例の如く1ミリも覚えてないので再読(おれの人生はこんなことばっかりや)。
おもしろいし、よくできた話だ。
文体は淡々としているが主人公は飄々として軽口もちょっとは叩く。また、周囲のキャラクターによって、海外の諜報アクション映画のようなテイストになっている。
以下、がっつりぜんぶ丸ごとネタバレする。
少し未来の話。
主人公のクラヴィス・シェパードはアメリカ軍の特殊検索軍1分遣隊に所属している。仕事は主に暗殺である。
この日も4人組のチームで戦場へ向かう。ヨーロッパとロシアの間にある砂漠と森の町で、虐殺を繰り返すお偉いさんを殺す任務だ。最新装備を身につけ、標的Aの国防大臣のもとへ難なく辿り着く。背後から喉元にナイフを押し当て、尋問する。
「お前はなぜ殺した?」
「なぜだ。わからない」
50過ぎの国防大臣は、自分のやってきたことと、国土が壊滅していってることに、本当にたった今気がついたかのように困惑し始める。クラヴィスは、こわなに狂った言葉が返ってくるとは予想していなかった。なぜおれは殺したんだ教えてくれ、と詰め寄る大臣の首を切り裂き、心臓にナイフを突き立て、殺した。もう1人来るはずだった標的Bのアメリカ人は、急遽予定を変えたらしく現れなかった。
その二年後、4人の作戦メンバーのうちのひとりのアレックスが、自分の車の中でガス自殺した。葬儀の次の日、クラヴィスは思い返す。あれから計5回作戦に加わったが、そのうち4回のターゲットに入っていた男、ジョン・ポール。世界中あらゆるところに現れるとされながらがも、いつも捕まらない男だ。軍からは少しずつ情報が開示される。現代において、ピザを買うだけでも親指での認証が必要だ。網膜、指紋、顔紋などあらゆる生体認証がなければ生活は成り立たない。だがジョン・ポールはそのような痕跡を何一つ残していない。どうやって航空機のチケットを買っているのか、どうやって生活しているのか。
クラヴィスと同僚のウィリアムズはチェコに赴いた。ジョン・ポールのかつての浮気相手のルツィアがいるからだ。クラヴィスは彼女に近づき、チェコ語の講師を依頼する。
ジョン・ポールはサラエボで妻子を失った。核爆弾により、サラエボの街は一瞬でクレーターを作った。IDトレースによれば、そのとき彼はルツィアのアパートにいた。その後の半年を自宅で引きこもって過ごし、突然有名PR会社に入り、国家をクライアントとする案件を複数担当したらしい。かれが担当したすべての国が内戦状態へと転がり落ち、虐殺が発生した。その後ジョン・ポールは強制されて会社をやめる。そして、この男の足跡は交通機関、ウェブコマースなどすべてからぷっつりと途絶えた。最後の認証は、プラハのショッピングモールだ。
ルツィアと親しくなったクラヴィスは、任務でありながら彼女に惹かれていく。あるとき、自分やルツィアを尾行するものに勘付いて調査するが、逆に近まってしまう。背後から現れたのはジョン・ポールだった。
彼はクラヴィスに語る。私は虐殺に共通する深層文法を見つけたと。各国のうちでもっとも情報を統制しやすい立場につき、それらの言葉たちを流布する。それだけで、徐々にみんなが虐殺へと向かうのだと。この文法による言葉を長く聴き続けた人間の脳には、「良心」と呼ばれるものの方向っけを捻じ曲げる。
ルツィアは、クラヴィスが軍人であることも、ジョンが虐殺を扇動していることも、知らなかった。ジョンはまた消えた。手首を拘束され、酒に仕込まれたナノマシンにより、外部デバイスから簡単に神経へと激痛を与えられる状態にされたクラヴィスにできることはなかった。ただ激痛にのたうち回り、ルツィアを裏切っていたことを暴露それ、だからこそもう痛みを与えてくれ、断罪してくれと願うことしかできなくなる。しかし殺される直前、ウィリアムズたちのチームが突入。間一髪クラヴィスは救出された。
次の作戦はインドだった。インドもまた核爆弾を投下された国で、国境沿いには穴ボコだらけである。インドの武装勢力に、ジョン・ポールが同行している可能性があるという。ということは、ルツィアもそこにいるかもしれない。クラヴィスは、もう一度彼女に会いたいの願っている。会って、ひとこと赦すと言ってもらいたい。
今度の任務は、日本政府から武装勢力の幹部の逮捕を依頼されたという名目だが、本当の目的はジョン・ポールの逮捕である。
クラヴィスは、戦闘適応感情調整と呼ばれる脳神経医学的処置を受ける。現地では、多くの少年少女兵と対峙することになる。銃弾を躊躇なく適切な判断で子どもたちの脳に叩き込むために必要な処置だ。本作の時代において、テクノロジーはとてつもなく進歩しつつも、人工知能よ研究は頭打ちになっていた。戦地において生身の人間にしかできないことが、いまだに多くあるのだ。かくして国家は、正規軍の兵士たちを丁重にもてなすようになる。このカウンセリングもその一環である。クラヴィスは、自分が戦場で犯す罪を背負う資格がない、その罪が虚構であるという恐れを抱いている。彼は戦地で死と隣り合わせになることで、自分の生を実感している。しかしそのとき抱く殺意が、カウンセラーと化学物質によって作られたものだとしたら、生の実感も、罪も、全部嘘っぱちではないのか。カウンセリングによる感情の調整、感覚のマスキング、薬物投与により、兵士たちはは痛みを感じることなく痛みがあるこまだけを知覚できる状態となる。
少年兵、少女兵たちを殺して回りながら、作戦は無事に遂行された。そこには、念願のジョン・ポールがいた。
護送は列車で行う。クラヴィスとジョンは、列車内で会話を交わす。
われわれは似たもの同士だな。
ふざけるな。
いいや同じさ。虐殺の文法が脳に及ぼす影響は、きみらが作戦前に受ける感情調整にとても近いんだよ。
クラヴィスは反論できなかった。が、ジョンの今までの話ぶり、今の落ち着いた態度から、軍に内通者がいると予想する。
そのとき通信が入った。列車後方からヘリが追跡してきているという。チームに警戒を促したその瞬間、列車はレールを外れて横転する。
気絶から目覚めると、生き残りのチームメンバーたちが交戦中である。銃弾が飛び交っている。クラヴィスも手榴弾やグレネードで応戦しつつ進む。環境追従迷彩をまとって幽霊のようにおぼろげな人影たちが舞っている。何人かは、腕や足を失いながらも、標準射撃姿勢で撃ちまくっている。まるでゾンビだ。
そのとき思い立つ。奴らは痛覚マスキングを受けている。
いまこの戦闘は、だれも想像しなかった、同レベルのテクノロジーの恩恵を受けた集団同士の殺し合いであった。クラヴィスがこれまで参加した作戦はそんなものではなかった。すべて、金持ちが貧乏軍隊をタコ殴りにするものばかりだった。
殺しても死なない痛覚的ゾンビ集団が潰し合う状況。
クラヴィスは怖気付き、また安堵した。自分はまだ戦闘の中心から離れている。
しかしやはり進まねばならない。通信がつながっていたリーランドのところに辿りつくが、彼は腕も、腰から下も、吹き飛んでなくなっていた。クラヴィスたちのチームは、初めての完敗を喫した。
リーランドを含む仲間たちの葬儀。
肉片を寄せ集め断片をつなぎ合わせてできた遺体たちが、棺には収められている。
ウィリアムズは、怒りに包まれている。だが自分はどうか。怒りも憎しみも、どこを探しても見つからない。ウィリアムズを真似て怒っている風を装う。クラヴィスは、誰を憎めばいいかわからない。カウンセリングは必要ない。自分を罰してくれる人を、クラヴィスは求めていた。
最後の作戦はアフリカだった。ヴィクトリア湖で、イルカや鯨が養殖されており、その肉が人工筋肉として輸出されている。だが多くの人はそれを知らない。知ろうと思えば、調べれば、タグを辿ってわかることなのに。
ヴィクトリア湖は、ケニア、ウガンダ、タンザニアに囲まれた広大な湖だが、ここの沿岸部はいまヴィクトリア湖沿岸産業者連盟という独立国家となり、先進国に承認されている。ジョン・ポールは、今度はここで呪いの言葉を撒き散らし始めている。ジョンはプラハで行方をくらましたが、逆にいえば、プラハの搭乗口で足跡の消えたものが彼である。軍上層部はそこからしらみつぶしに彼の現在地を探し当てたらしい。
またしてもチームはシーウィードによる湖への降下作戦を取ったが、降下直前に下からロックオンされる。クラヴィスはひとり、管理官の静止を無視して手動でシーウィードを切り離し降下した。仲間たちがどうなったかはわからない。単独で進むしかない。ジョン・ポールを殺すことが本作戦の目的だ。しかしクラヴィスはペンタゴンの意思でも命令によるものでもなく、自分自身の意思でジョン・ポールを殺すために来たのだ。
湖を抜けた後は、迷彩をまとってじりじりと這い進む。ここのゲストハウスにジョン・ポールがいて、国内メディアを統括する立場についているらしい。
しかしゲストハウスに到着し、発見したのはジョンでなくルツィアだった。兵士との会話を聞く限り、彼女はジョンの妻ということになっているらしい。あるいは本当にあの後結婚したのか。
静かに尾行し、彼女の入った部屋に侵入する。部屋には誰もいず、ジョン・ポールの手書き原稿やスピーチ草案などが置き離してある。そこには英語とは思えない様々な記号と単語が並んでいた。理解はできそうにない。そのとき背後で銃の安全装置を外す音が聞こえ、振り返る。ジョンがこちらにら拳銃を向け、悲しそうな顔でこちらを見ていた。ID認証のない時代もののブローニング。
2人は会話を交わす。ジョン・ポールが、なぜ各地で虐殺を振り撒いているのか、その真相が語られる。まず「虐殺の文法は、食糧不足に対する適応である」ということ。
そしてそれをばら撒く目的は、「自分の愛する人と世界を守ること」だという。
現代は個人認証セキュリティによってテロを防いでいると言われているが、それはデータを見れば嘘である。絶望から発したテロは、自爆や特攻まいった、追跡可能性のリスクを度外視したものだからだ。セキュリティでは止められない。
だからジョン・ポールは、自分の愛する人と世界を守るため、「それ以外の世界で殺し合いをさせる」ことを選んだ。自国の紛争が起きてしまえば、他国への侵略もテロもやっている余裕は消え去る。現に、ジョンが他国で紛争を起こさせたことで、アメリカに対するテロ件数はついにゼロになった。
「わたしのしていることが正義だとはわ絶対に言わない。わたしはただ、自分が守りたいものを守るために、やれることをしているだけだ」
隠れていたルツィアが現れる。
「クラヴィス、この人を逮捕して。アメリカで、虐殺の文法の話を裁判にかけるの。みんな、知る必要がある。選んだ結果としての責任と自由を背負う必要がある」
そのとき、ルツィアは背後から撃たれ、頭の半分を失った。そこにはウィリアムズが立っていた。クラヴィスは彼に対し発報する。廊下の先からウィリアムズが言う。
「クラヴィス落ち着け。命令は暗殺だ」
「彼女は殺さなくてよかった」
「いいか、暗殺命令は出ていたんだ。ルツィアとジョンは両方とも殺すよう俺は言われていた。俺は俺の世界を守る。家族に、この世界がどんなにくそったれかなんて知らせなくていい」
国防高等研究計画局としては、虐殺につながる研究に資金を出していたなんてスキャンダルになりかねない。上層部はこの一件を完全に葬るつもりである。
クラヴィスは、ジョンを引っ張って窓から飛び降りる。ふたりでジャングルを逃げる。クラヴィスは彼に聞く。ルツィアを失い、自分がやってきたことを悔いているか。
「わたしは悔いていない。わたしは命を天秤にかけた。わたしたちの世界の人間の命と、貧しく敵意の影がさす国の人間の命。わたしは目を見開いたもま、完全に正気で、その選択をした。そうして選択がなされたあとで、どれだけの命がわたしの背中に張り付くことになるか、それもはっきりと自覚したまま選択したのだ」
ジャングルを抜けると、味方のジープが待っていた。そして、乾いた破裂音が響き渡り、ジョンが額に穴を開けて倒れた。
発泡したのは自分の部隊の軍曹で、彼は作戦終了を告げた。また、ウィリアムズが死んだことも報告してきた。
ここまでの話を、クラヴィスは軍の会議や裁判やメディアで何度も語った。彼がやったことは国家機密法違反だったから、告発された。しかし司法の手は彼の元へやってこなかった。なぜなら、アメリカ全土で暴動が発生し、それどころではなくなってしまったからだ。
クラヴィスはアメリカ全土に向けて自分のやったことを話した。しかしここからの話は誰にも語っていない。
ジャングルを逃げているとき、クラヴィスはジョンからあるメモを渡されていた。そこにはウェブサイトのURLが書かれており、それは虐殺の文法を生成するエディターであった。
クラヴィスは、ジョン・ポールと同じ手法で、まったく逆の人々を守ることにした。つまりアメリカ国内で虐殺を行わせることである。
スターバックスの永遠も、ドミノピザの普遍性も、なくなった。そうなることが唯一分かっていた彼は、家に食糧をたっぷり溜め込んでいた。
これでしばらくは、アメリカにテロを仕掛けようと思う人はいなくなるだろう。
クラヴィスは、世界にとって危険なアメリカという火種を、虐殺の坩堝に放り込んだ。アメリカ以外のすべての国を救うために。彼は、ジョン・ポールと同じように、その決断を背負うことを決めた。
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Posted by ブクログ
ネタバレ2008年4月4日の自分のレビューでは星3つ
18年振りに読み返すと、遠くの戦争が当たり前になった今の時代にビンゴで、星5つ。
以下ネタバレ
脳の一部に進化の結果つくられた虐殺器官がある。ここを言語等何等かの方法で刺激すると、人の価値判断が平和から暴力に動き・・・・
これって今の民主主義を標榜しているくせに戦争始めた国のこと?
自分の生活外の場所で戦争があるのは当たり前・・
テロよりも内戦させた方が自分は平和
戦争は遠くのものである限り、平和の優先順位は下がり、生活を脅かす他国民は悪で、 2008年頃は世界平和だ地球環境だと言っていた風潮が 今ではインフレだ、MAGAだ、日本人ファーストだと
誰かが18年かけて先進国民の虐殺器官を刺激したのだろうか?
2008年4月4のレビュー
2007年SFが読みたい第一位なので期待を持って読みました。最後だけブラボー!あとは普通かな?シェパード大尉の心の動きにジョンポールがからまって、米国万歳の結末へ・・・・
次回作に期待。 -
Posted by ブクログ
4.5 -
ディストピア小説と聞いていたので勝手に1984のような世界観を想定していたが、全然違った。
平和・幸福を追求しようとした先の世界として生命至上主義(一人一人が社会や共同体の共有リソースとして重要であるという価値観のもと、人の健康・安全・生が社会にとっての至上命題とする考え方。そのためにそれぞれの人々の健康をモニターする分子を体内に入れ、健康に良いものだけを取捨選択するように勧め、また人々が可能な限り互いに情報を可視化して信頼関係を作るという社会)が勃興→その中で人々はより幸福・健康的な生活を送っているはずなのに、その社会での閉塞感を感じ始め、それに違和感を持つ主人公達が社会に反旗を翻すというものだった。
面白かったのは最後は死生観に繋がり、科学が発展し、自然をコントロールしてきた人類は、感情や意識という人の自然までコントロールすべきか、人の尊厳として意識・感情を残しておくべきかという問いまで昇華した点。そして最後は…
最初からプログラミング言語のような特徴的な文体が目についたが、まさかそれすら伏線になっているとは思わず、読後に気づき、はっとさせられた。
対となる虐殺器官という小説も読んでみようと思った。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ世界で起きている大量虐殺の裏にはジョン・ポールという謎の男が関わっていることが判明し、アメリカの暗殺部隊にいる主人公が謎の男ジョン•ポールを追っていくというストーリだ。
監視社会が進み、全てのことにIDが必要な社会という現実でも将来起きそうな世界観で話が進んでいく。そんな監視社会の中で起きるテロ。自由について考えさせられた。
「人間はみたいものだけしかみないように出来ている。」
確かに世界で起きている虐殺といった非人道的な行為を日本にいてあまり見ることはないし、考えることもない。私たちは世界で起きている虐殺や非人道的行為によって積み上げられた屍の上で豊かな生活をしていることを実感する。
そして最後に主人公が選択した行為が、主人公が選択した行為であり、自分自身が罪を背負うという点が物語として最高の終わり方だと思った。
最後に印象に残った言葉を書いておく。
「目は瞼があり閉じることができるが耳は閉じることができない。」
「地獄はここにある。頭の中に。苦痛すら必要ない。」
「言葉には臭いがない。」
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Posted by ブクログ
ネタバレものすごく、「幸福とは?」ということについて考えさせられる話だった。
私は常に主人公に感情移入して読む癖があるので、当然のごとく、トァンの感情とリンクさせながら話を追っていた。
トァンの立場からいくと、ミァハがあのころカリスマ的にまぶしくみえる存在であったことも、でも完全に同じ“人間”にはなれなかったからこそ、今も生きて「ミァハだったらこうするんじゃないか」という人生を生きているのもなんだか分かる。
そして、もう1人の友達・キアンが自死してからの彼女の焦り・不安・恐さ、そしてそれでも自分の意志で、自分が確かめたい、という強さ。
この本ではまさに「意志」「意識」つまり、「わたし自身」について考えていくのだが、私だったら、トァンのように「自分」を貫けるだろうか。自分が大切に思い続けていた人に、引き金を引けるだろうか。
友情であり、一種の宗教でもあり、それを振り払ってでも受け止めた愛情の物語であったと思う。 -
Posted by ブクログ
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」そんなことを考える必要はあるのだろうか。読み終わってよぎったのはゴーギャンの絵の題目だった。
欲しいものランキングのトップにくる「健康」。その健康が保証されている世界のなかで私たちは果たして正常に生きていけるのか。そもそも生きるとは何をもって生きるというのか。
私の体が私の支配下にあることか、将来を自由に選ぶことができることか、私という自己意識が存在していることか。
自然、死、生、精神、これらの意味を根本から問うている作品だと思う。
設定は難解だが読み進めて行く分にはそこまで苦ではない。決して分かりやすくはないが、重要な部分はかなり丁寧に説明されているように思う。
最後の怒涛の作者からの問いを味わうために私はきっとまたこの本を読むだろう。 -
Posted by ブクログ
思想強めの濃厚な小説で、ハマるかどうかは人を選びそうな作品ではあるが、自分にはとてもハマった。
主人公はアメリカの特殊部隊の一員で、潜伏する各地で内戦と虐殺を引き起こす謎の人物を追うという形でストーリーは進んでいく。
タイトルからグロテスクな戦闘描写が想起されるが、そのような描写はあまりなく、語り口は淡々としていて、哲学的な問いが全編にわたって続く。
ジョージオーウェルの「1984年」にも通じる監視社会への皮肉、安全と自由のトレードオフ、言葉がもたらす暴力、そして「人間性とは何か」という根源的な問いがストーリーを通じて問いかけられ、それらについて考えさせられる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ面白かった。
世界観を飲み込むのに時間がかかるが、100ページ辺りから急速に物語が進むので、そこからはサクサクいける。
誰もが健康で"あるべき"世界なんて、理想郷だと思っていたけれど、そうでもないのかもしれないと気付かされる。
自分の身体を外側からコントロールされることに違和感をもつ少女たち。学生時代はやっぱりルールというものを疎ましく思う人はどこでもそれなりにいて、そんなルールから脱しようとする子を世間では不良とよんでいる。ミァハたちもこの世界ではその立ち位置なのだろう。
自由という言葉を前にすると途端に固まってしまう私からしたら、ルールはそれこそよく言うレールのようなものであり守ってこそなんだけれど、自分の身体を縛る鎖のように感じる人にとっては、作中のWatch meを埋め込まれた身体は苦痛でしかないのだろう。
意識のない世界とはなんだろう。
何も選択する必要がない、と著者は言っているが、生活を続ける上で選択をしない場面なんてない。
朝起きる時間も、朝食も、服装も、乗る電車も、常に人間は選択をしている。それがなくなるとは、生活の動線全てにパターンが用意されていなければならず、そのパターンの詳細を選択する人間がいなければならず……。
意識のない人間の具体的な想像は難しくて、なかなか私には掴めないところではあった。
でも、意識というものがあらゆる争いなどの火種であることは共感できる。互いの正義がぶつかるときに争いは起こる。大元を無くそうと考えることは誰でもあると思う。「そうなった世界って、人間の存在する意味はあるのか?」と一瞬思ったけれど、そもそも動物に存在する意味はない。ただ産み落とされただけ。それなのに、意識を失うと考えたら、その生は意味あるのか、と考えてしまう。