あらすじ
9・11を経て、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは? ゼロ年代最高のフィクションが電子書籍版で登場。
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2009年に満34歳でこの世を去った伊藤計劃先生。普段SFを読まないため、縁遠かったのですが、シンプルかつ恐ろしい表紙とタイトルに惹かれ…。
何をするにも本人認証が必要となり、いつ、どこで、何をしたかが全て記録・管理されるようになった近未来。それにより全世界が平和になるのでは決してなく、「ジェノサイドが頻発する後進諸国」と、「テロを一掃した先進諸国」に二分されている。
いずれ、そんな世界になっても不思議でないと思ってしまう自分がいます。 ひょっとすると、いま私たちがお茶を飲みながらぼんやりと享受している「平和」も、「誰かに仕向けられた何か」によって作られた錯覚なのかもしれません。それが良いのか悪いのか、読み終わってからも考えてしまいます。
『ハーモニー』『屍者の帝国』に続き、劇場アニメ化も決定しました。(書店員・ラーダニーバ)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ストーリーは奇想天外でありながら、会話や深層心理は哲学的で理路整然としていてなかなか興味深く面白かったです。
ストーリー自体も面白いが、対話のやりとりも面白い。
未来の創造上のアイテムも描写が細かく目に浮かんできます。
Posted by ブクログ
1.なにのために戦うか。
諸悪の根源のように描かれていたジョン・ポールにも、明確な行動原理があった。彼は「破壊するために戦った」のではなく、「守るために破壊した」。単純な善悪の対立ではなく、葛藤のなかで揺れ動く主人公クラヴィスを通して、それぞれの「正義」の輪郭を見ていく物語だった。誰もが誰かを守ろうとしているのに、結果として誰かを殺してしまう。そこに人間の矛盾が凝縮されていた。
2.SF的な要素
IDタグ、環境追従迷彩、人工筋肉……。「ありそうな未来」を想像させるテクノロジーの描写がリアルで良かった。倫理と科学がどこで交わり、どこで断絶するのか。虐殺器官という発想も、単なる空想のようには思えなかった。
3.戦争
9.11のとき、世界が終わるのかと思った。終わりに向かうのかと思った。でもそんなことはなくて、あのときの感覚はなんだったんだろうか。いまとなっては日本海にミサイルが落ちても他人事のように感じる。結局、自分にとっても国外で起きている虐殺については無関心かもしれない。
4.救い
国家から赦されることではなく、ルツィアから「赦す」と言われたいという願望は、彼がまだ人間であることの証左のように思う。
俺自身も「仕事とは宗教なのだよ」というセリフに共感する部分がある。仕事を信仰のようにすがっているが、本当はそんな抽象的な結果ではなく、ただ誰かに認めてもらいたいだけなのかもしれない。
Posted by ブクログ
読みながら、ノベライズ版の『PSYCHO-PASS』との共通点を感じた。『虐殺器官』風に書くと、語る内容は違うが文法は同じ様な印象。テクノロジーによる人間の制御を主題にしたSF的な世界観、静かでどこかグロテスクな文体、人文学的な引用を織り交ぜながら展開する物語。どちらにも、文学的マッドサイエンティストのような犯人が登場し、事件の裏でフィクサーとして暗躍する。
また、犯人と主人公の関係性にも通じるものがある。『虐殺器官』では「言語」を、『PSYCHO-PASS』では「犯罪係数」を軸に、正義と悪の曖昧な世界を描いている。物語の最終舞台が社会を支えるインフラ(人工筋肉製造工場/食料供給プラント)である点も印象的で、単なるサスペンスではなく、社会批評的なテーマが感じられた。
一方で、両作品の違いは黒幕の目的にある。『虐殺器官』のジョン・ポールは世界(愛する人々)を「守る」ために行動し、『PSYCHO-PASS』の槙島聖護は世界(社会システム)を「壊す」ことで人間を解放しようとする。槙島のカリスマ感も惹かれるが、ジョン・ポールのどこか人間味のある感じもいいなと思った。
結論、どちらも面白い。
Posted by ブクログ
★4.5ですけどおまけで。
日本のレベルに収まっていないストーリー展開と設定、返す返すも惜しい作家を失ったなと。
ただ小松左京が感じたようですけど、全体として軸に据えた虐殺の文法が物語として大きく昇華し切れていない感が否めない。
才人なれどデビュー作であるという粗さであり、だからこそもっと読みたかったなぁ、この作家の作品を。
Posted by ブクログ
虐殺器官
久々の★5つを付けました。もっと前にちゃんと読んでおけばよかった・・・
既読の「ハーモニー」に至る前の世界。
暗殺を主務とする米国の特殊部隊の隊員が主人公。薬物とカウンセリングにより良心を封印し、紛争地域の紛争の首謀者を暗殺するミッションを淡々とこなしていく主人公。暗殺リストに常に存在するがいつも取り逃がしてしまうアメリカ人。そのアメリカ人が入る国では必ずジェノサイド(大量殺戮)が起こる。
人は何故殺し合うのか?殺し合うことは進化の上でどういった意味があるのか?そんな哲学的な問いを内包しながら追跡の物語は進んでいきます。そして、どうやって一人の人間が殺戮を誘発することができるのか?という謎も・・・
ポスト9.11の息が詰まるような管理社会を、最新の科学的知見に基づいたガジェットを駆使しながら、最新の脳科学やネットワーク理論の知見をちりばめて描いています。改めて本当に惜しい才能を亡くしたことを感じます。
SF好きの方には特にお奨めします。
竹蔵
Posted by ブクログ
数年前にトライしたときは難しくてリタイアしたんですけど、リベンジしてよかった…。
ラストは大抵の現実はどうでも良くなるくらいの衝撃を受けました。膝から崩れ落ちたSF。
Posted by ブクログ
☆僕が最初にタイトルを見た時、10年前になると思うが、タイトル・作者名・装丁の無骨なカッコ良さに大変惹かれたことをよく覚えている。当時はコテコテの、メカがたくさん登場するSF、おそらくロボットかサイボーグかが「虐殺」を起こす物語なのだろうなと想像していた。多分「器官」を「機関」と無意識的に読み違えてたのだと思う。10年経ちそのイメージは誤りであったことが分かる。本書の核である、「虐殺」と「器官」の意味するところがつながった時である。そしてその時初めてこの小説にのめり込むことができた。
☆「ことば」が人間の思考や行動に影響を与えるというアイデアから、オーウェルの1984年が想起される。ただ「虐殺文法」に関しては、フワッとした概念の記述があるのみで、もう少しそこに言語学的なリアリティと、深い創作を見たかった。1984年のニュースピークは、そう言う点で巻末に辞書やらがあったので感心したのを覚えている(学問的なリアルさがあるかは知らないけど)。
☆なお、この作品は実際かなりのSFモノである。ただ僕がよく思い描いていたスターウォーズ的な無骨なメカメカしさはなく、「人工筋肉」やその他有機的な先進テクノロジーで造られた世界観があり、ちょっとグロくて、肉肉しい感触がある。
☆話の納め方はすごい好み!久々に読後感に満足する小説に会えた。
Posted by ブクログ
このご時世に読んで欲しい本。虐殺器官・言葉。残虐性というのは誰しも持っていて、それが表に出てきたもの。ことばというのはプラスにもマイナスにもなるというのを思い知らされた
Posted by ブクログ
(備忘)個人的初の伊藤計劃作品。妻が好きな作者ということで読みましたがとにかく脱帽。どんな生き方したら"虐殺器官"なんてタイトルが思いつくんだ。。SFとしても勿論面白いんだけど、虐殺ではないとしても何かしらの悪意が秘められた文法が現代でも流布されているかも。。と考えるだけで身震いする。とある方のブログにも書いてあったが、非正規雇用を派遣社員、売春をパパ活とオブラートに包むのも人の判断鈍らせる言葉として開発されたのだろう。言葉のニュアンスだけでなく、本質をしっかり掴むことが重要と改めて認識した一冊でした。何にせよもっと彼の作品を読みたかった。。
Posted by ブクログ
SF作品の頂点にして最高傑作。
この本に出会えて本当によかった。
壮大なストーリーに壮絶なアクション、衝撃なラストで全てが完璧。
伊藤計劃さんの作品にまた浸かることができたなら。
SFで社会派小説
作品内の何も知らないで平穏な生活を送るアメリカ人は、まさに今の日本人そのもの。
皮肉が効いていて読み進めるたびに複雑な感情を抱く。
ジョン・ポール(犯人)の大量虐殺を行う動機が予想外だった。
そうきたか!って鳥肌もので私的には今までにないタイプの犯人像が魅力的。
私はアニメ映画→小説という順番で観た。
近未来的な世界観なので先に映像を見ておくとわかりやすいかもしれない。
小説はクラヴィス(主人公)の過去の掘り下げや心理描写があるところがいい。
終わり方は映画の方が好み。
現実とリンクする恐ろしいSF
導入部は、一見すると泥臭い戦闘モノ。けれど読み進めるにつれて、現代社会への疑問が散りばめられてくる。なんでも情報化し監視する社会、遠い国で日常的に起こる戦争、それに知らんぷりを決め込む先進国。たくさんの死体の上に成り立つ偽物のユートピア。この作品はただのSFではなく、現代社会の闇を書いたモノだ。間違いなく、何度も読みたい作品の一つ。
善悪の大転換
善悪の大転換が起こる作品です。
主人公に共感出来た人は、読了後心地よい納得感を得られるのではないかと思います。
テロ、虐殺、暗殺、事故死、尊厳死、等々「まだ生きられる命を絶つこと」について、さまざまな視点から主人公が思索していきます。
ですのでものすごく暗い内容ですが、上に挙げた様な命に関わる問題について普段からもやもやしたものを感じている人には、この著者が提案する答えを知るという意味で読む価値があると思います。
あと、私がこの本を買った理由になった本の紹介がありまして、それは
『「人間には虐殺をつかさどる器官がある。呼吸をつかさどる肺や、消化をつかさどる胃という器官があるように。」 というのが著者の主張のようだ』という感じでした。(思い出し書きです。)
この主張に同意出来ると思い、ストーリーとしてどのようにそれを主張するのか期待して買った結果、満足出来ました。
同様に上記の主張に同意出来る方は読む価値有りだと思います。
この著者の他の本も読んでみようと思います。
Posted by ブクログ
『虐殺器官』の“genocidal organ”は、人間の内側にある「虐殺を引き起こす臓器」──すなわち認知や集団心理そのものを指しているように感じた。
ジョン・ポールは「虐殺の文法」を操り、後進国での内戦や武装蜂起を恣意的に発生させていく。だが、プロパガンダや情報統制、戦意高揚のための国民精神統一など、現実世界にも同じ構造は存在していて、それらによって民意が扇動され、国家的犯罪へと進んでいった例は枚挙に暇がない。
民族浄化や歴史修正主義も、他者への憎悪と、同胞への強すぎる一体感の裏返しとして起こる。そして現代では、憎悪や対立でさえ「マーケット」になり、平和そのものはビジネスになりにくいという逆説がある。
その結果、平和と紛争のあいだに、どこか見えない「バランサー」がいるかのような感覚を抱いてしまう。
ジョン・ポールは、その世界のバランスを取る存在のメタファーであり、世界を俯瞰する知性そのものの象徴として描かれているように思う。
一方クラヴィス・シェパードは、感情調整を施された兵士として、麻痺していく神経と感情のままに戦場を見続けてきた。家族や恋人を失う経験を経て、彼自身もまた世界をメタに捉えるようになっていく。
ジョン・ポールとの邂逅を通じて、クラヴィスは次第に彼に共感し、その知性や世界との対峙の仕方を、どこかで自らの理想像として見るようになる。
だからこそ最後に、クラヴィスは「次のジョン・ポールになる」道を選ぶ。世界を破壊するのでも試すのでもなく、平和と紛争のあいだを振り子のように揺れ続ける社会を見守り、そのバランスを監視する役割を、自分自身の使命として引き受けたのだ。
Posted by ブクログ
「〇〇のジャンルが好きなんですよね~」という会話をしていると「じゃあ、これは読んだことある?」という流れで出てくるタイトルってあるじゃないですか。例えばSFなら「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」、「三体」、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」とか。色々。
これって、共通の話題を求めてるだけじゃなくて「もし、まだ読んでないなら読んだ方が良いよ!」っていう気持ちも結構あるんじゃないかな、と思っています。私、読書歴が浅いので、いつも読む本は人に教えてもらったものばかり。
「虐殺器官」もそういう「SF好きなんですよね〜」という会話の中で出てきそうなタイトルの一つだと思います。どっぷりハマり込んでいる読者が多数いる作品である事は、何となくネットを通じて知っていたのですが私は最近まで全然読んだことが無くて。
読んだことのある人たちの感想を見ていると「ゴア表現が強く、文体も独特なので人を選ぶ作品だけれど私は好きです」みたいなものが多い印象でした。文体が好きかどうかは自分で読んでみるしかないので読んで見たいという気持ちになりました。
読んだ後で気が付きましたけど、これネタバレ厳禁な作品でもあるんですね。それで「ゴア表現大丈夫ですか?」みたいな言い方になったんだなぁ、と思ったりもしました。「ゴア平気ならお試しになって!おすすめ」って私もパクって……もとい、そう言っていこうと思います。
サラエボで発生した核爆弾テロによって世界中で戦争・テロが激化し、いたるところで虐殺が横行しています。主人公はアメリカ情報軍に所属するクラヴィス・シェパード大尉。バリバリ現場任務をこなす軍人ですが、彼は言語学オタクかつ映画好きでとても「文系」なんですよね。この彼の一人称小説の文体が、まぁ良く喋る。脳内で、過去や現在のことを豊富な語彙でひたすら語り続ける。物語には実にSFらしい色々なガジェットが出てくるのですが、この独り言の間にそれらガジェットの緻密な説明も組み込まれていますから……このあたりの文体がとても人を選びそう。文体が重厚だけど、ライトノベルみたいなエッジもあって、超カッコいいんですよね。
でもそれって「親しみやすさ」と親しくないから……
また、彼は映画好きなので映画を絡めた比喩が本当に多いです。これも人によっては困惑の素になるかも。私、とりあえず「プライベート・ライアン」を観てみようと思います。(困惑していたのはお前かい)
それはともかく、SFらしいガジェットが出てきてかっこいい小説なんで、ゴア平気ならお試しになって!おすすめです!(伏線回収)
ふざけすぎましたが、SFらしい色々な兵器が出てくる本作、なぜこの文系の主人公を作者が据えたのか。この物語は争う人間の意思そのものを問うてくる内容にもなっています。「人の意思」って言葉の連なり、みたいなところがあるじゃないですか。
SNSやAIの言葉で翻弄されがちの現代にこの小説を読んで、色々と考えさせられることになる人はきっと私だけじゃないはず。
SF好きの共通言語的作品というだけではなく、優れたエンタメの面もあり、社会全体への問いかけにもなっている作品でもあると思いました。
Posted by ブクログ
SF小説は普段全く読まないけど、印象的なタイトルと評判の良さから、なんとなく気になっていた本。
いやー、面白かった。
SFと聞くと、自分のような文化に疎い人間には 『STAR WARS』や『ターミネーター』ような、無骨な機械と宇宙と大戦争みたいなストーリーをイメージしてしまうけれど、本作ではSF要素はあくまでスパイスとして盛り込まれているような印象。取り上げられている題材は、今の世界にも存在する諸問題や哲学に関連したもので、はるか未来の空想というよりは、隣り合った世界の話のようで、不思議なリアリティさも感じる。
タイトルの"虐殺器官"が何なのかについては、ネタバレにもなるので、ここでは詳しい言及は控えるが、この設定も現実の学問とマッチするようにテクニカルに組み立てられていて、よく練られていると思った。なるほど、これがSFの楽しみ方かー。
あまりの良さに次作の『ハーモニー』もすぐに読もうと決心。楽しみ。
Posted by ブクログ
SFもので、そう遠くない未来のようで、描写もイメージしやすかった。
死の描写はちょっとだけグロい。
語り部である主人公の語り口がちょっとキザで鼻についた。
Posted by ブクログ
読み慣れないSFだけど一気に読めた。おもしろ。
映画みたいだなと思った。主人公がアメリカ人だから?
なんで主人公がチェコガールにそんなご執心なのかはいまいちわからず、アレックスが気の毒だった。
Posted by ブクログ
現実に起きかねない物語だなと思った
もし誰かが何かの影響で道を踏み外しただけで世界の歴史が変わるのかもしれない
歴史だけじゃなくその人の未来や過去までも価値が変化するのかもしれない
小説、SFというよりある意味哲学書みたいな本だったな〜
Posted by ブクログ
面白いけど疲れました。個人的な読後感ですが、押井守監督の攻殻機動隊の楽しさと疲労感に似てます。SFはほとんど読まないから、というのもあります。読むスピードも普段の倍くらいかかりました。でも面白い。
Posted by ブクログ
久々に定価で購入。
生きているとは、私とは、言葉とは。
非常に難しい問題である。
利他的であり他愛的であることが全てではない。
後半から非常に良い。
Posted by ブクログ
難解な文章と哲学的な内容が相まって読むのに苦労したが、クラヴィス、ルツィア、ジョン・ポールの知的な会話は、読んでいて楽しかった。
これだけ他分野の専門的な内容を織り交ぜながらこのストーリーに落とし込むというのは難しいものだと思う
Posted by ブクログ
「自由とは、選ぶことができるということだ。できることの可能性を捨てて、それを『わたし』の名のもとに選択するということだ。」
良心と残虐性、利他と利己、世界に対してどう振る舞うか、世界がどう反応するか。
自由があること、選択すること、それによって負うべき、負うことが出来る責任の話。
海外、というか翻訳されたものに寄せた文体、漢字にセルフで振られるカナのルビ。テクノロジー、カルチャー、哲学、政治、社会、世界のさまざまなところから出来るだけ捨てずに『わたし』の名のもとに選択したディティールをサンプリング、というよりはそれらを可能な限りストレートに、「わたし」の思弁や思索、物語、芯の通った土台の上に全部乗せたような小説。作中に登場するピザに例えられる気もしたけど、それはやりすぎかもしれない。
ナイーブで淡々とした語りとは裏腹に、全部書く、という猛烈な熱量を感じた。「ぼくの物語」の最後の選択、そこで負えると思う責任には納得出来ないというか、今読むと特に少し甘いと感じるけれど、そこも含めてあつい小説だと思った。そのあつさというのはユースカルチャーに感じるそれと同じだった。「わたし」の「正しい」と思うことを、躊躇せずに全部やる、というのは「若さ」がもたらすもののひとつだ。そこには特有のあつさがある。
ユースカルチャーというのは、若者が参加し形成する、という意味でもあるけれど、それに触れている間は、年齢に関わらず「若く」いられる、あつさをもっていられるものでもある、そう思っている。だから、というとちょっと繋がらない気もするし、作者のことを考えると意味があり過ぎる気もするけれど、この小説もずっと「若い」しいつまでもあついのだと思う。
何回も序盤で閉じて積んでを繰り返していたけれど、「クラシック」と言われるような小説を続けて読んでいた流れでもう一度開いてみたら、想像していなかった読み心地で最後まで読めた。ユースカルチャーとしてのSF文学。あつかった。
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「文明、良心は、殺したり犯したり盗んだり裏切ったりする本能と争いながらも、それでもより他愛的に、より利他的になるように進んでいるのだろう。」
SFは理想を提示することが出来るものだとも思っているから、それを提示したうえで、陳腐にもならない物語の終わりも読んでみたかった。
Posted by ブクログ
・伊藤計劃のハーモニー、屍者の帝国、そして虐殺器官について考えていた。世界に残された三つの計画は、それぞれ個別でありながら深く絡まり合い、人間の心と脳そして魂の幸福についてある一つの答えを導き出す。その答えは作者の手を離れ、読者である我々の心と脳、そして魂に深く結びつき、そこに一つの種を植える。
彼は何度も問うた『言葉で人を殺せるか?』と。そして彼はこう答えた。『言葉でしか人を殺すことはできない』
言葉がなければ人を殺すことは出来ない。この言葉の意味をあなたはわかるだろうか。言葉、つまり意思の記号化がされてない人間は、人を殺すことも、自分を殺すこともできない。言葉とは思考そのものなのだと彼は言った。言葉のないものを凶器にすることはできる。だけど、それは人間の言葉を上書きして動かしているだけにすぎない。思考のないものに、人を、自分や他人を認識することはできないのだ。
・もしも仮に、意識のない人間が居たとして、そのものが世界を壊すことができるか。言葉とは自分そのものだ。言葉とは自分の内側にあるものだ。意識は言葉そのものだ。つまり、人を殺すのは言葉なんだ。
・私はずっと人を殺せる言葉を探してきた。それは、呪いの言葉という意味じゃない。脳の脆弱性から意識に入り込んで、人をオセロみたいにひっくり返して見たいと思っていた。だって、どうして世界はいつまでたっても平和にならないのだろう。人はなぜ調和を望みながら、同調することを拒むのだろう。
人はいつも退屈に殺されるのだ。と誰かがいった。多くの人間は平和であることを受け入れることができない。平和であることを望みながら組織に管理されることを拒み、他者と同一であることを拒み、そして結局戦争を始めてしまう。つまり同じ時間を並行した世界に生きることができないんだ。
このままでは人は争うことから逃げることができない。意識が言葉が人を殺すんだ。意識の統一が出来れば、争いを避けることができる。人は人のままでは幸せになることはできないのだから。
とまぁ、全てはフィクションだけれど。伊藤計劃が描きたかった未来はなんだったのかと私は考える。なにを彼は望んで居たのだろう。死者を生き返らせ、意識を統一させ、言葉で人を殺す。そんな世界になにを見たのか。
簡単なハッピーエンドはない。この世界に完璧なハッピーエンドがないのと同じように。100パーセントの正しい答えを人類が得た時、その答えがどんなものなのか私は知りたいと思う。
Posted by ブクログ
罪の意識が極端に低い主人公クラヴィスが虐殺を引き起こすポールと言葉を交わし、はじめて自由意志で選んだ行動。それは決して世界を守るためなどという単純な利他精神ではなく、結局は戦場を利用した母への贖罪という究極の利己主義的選択であると思う。
人類にとって言語は生まれながらに備わっている正得的能力なのか、環境で習得する後天的な能力なのか。種の存続のために人間が得た虐殺能力は時を超えて今も眠っているのか
結末も含めて、なかなかに危うい作品を読んでしまった。こんな物凄い作家が既に亡くなっているとは…
Posted by ブクログ
わたしにはキツかった。
ちょこちょこ読みするような小説じゃなかったな。
もー常にクラヴィスの心の声読んでて疲れたw
また読める時がきたら読もうかなw
Posted by ブクログ
内容は戦争ものなのに、なぜか哲学的な思いを感じた。
個人を殺して望まなくてはならない暗殺機関に属する主人公は人としての思いが強いために、相手に一部共感したのだろう。
これがわたし。
これがわたしというフィクション。
わたしはあなたの身体に宿りたい。
あなたの口によって更に他者に語り継がれたい。
━━伊藤計劃「人という物語」より
9・11を経て、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。
米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは? ゼロ年代最高のフィクションが電子書籍版で登場。
Posted by ブクログ
少し難しかったけど、面白く読めた。
虐殺器官、人々を虐殺に向かわせる言語というのは一体なんなのかはよく分からなかった。
核で地域が一掃されたあとの、世界が あ、使ってもいいんだ みたいになる感じが実際にそうかもしれない…という嫌な説得感がありぞくっとした。
Posted by ブクログ
残虐な描写が多すぎて、内容が入って来ない。
脳科学とか、心理学とか、いろいろ勉強してるんだなーっていうのはわかる。でも、主人公の後悔の気持ちはわからない。
母との関係性の描写をもっと丁寧に書いても良かったのでは?
考えられて書かれてはいるけど、個人的に好きじゃない作品だった。
Posted by ブクログ
余韻の残る物語だった。
普段あまりSFは読まなくて、堅く難しい世界観の説明がなかなか入ってこなかったが、軍人である主人公の抱える罪への葛藤が丁寧に描かれていて良かった。
☆3.0
Posted by ブクログ
どこかで見た映画のようなシーンが多く楽しく読み始めたが、中盤ぐらいからハリウッド臭さが増してきて少し飽きてきた。それでも第五部のクライマックスの展開は読みごたえがあった。でもエピローグがダメだった。わずかに取り留めていたリアリティの糸がプツンと切れた。これじゃ魔法じゃないか。もう少し穏便で未来に不安を残すような終わり方のほうが良かったのではないか。
ラノベ?ラノベでした。
絶賛されていたようなので読んでみましたが、非常に回りくどい自分語りで物語は進行、まるでラノベのようじゃないかと思ったら、扱っている題材がゲームノベライズなど、どうやらラノベ作家さんのようでした。
ひさびさ騙された1冊。