あらすじ
9・11を経て、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは? ゼロ年代最高のフィクションが電子書籍版で登場。
2009年に満34歳でこの世を去った伊藤計劃先生。普段SFを読まないため、縁遠かったのですが、シンプルかつ恐ろしい表紙とタイトルに惹かれ…。
何をするにも本人認証が必要となり、いつ、どこで、何をしたかが全て記録・管理されるようになった近未来。それにより全世界が平和になるのでは決してなく、「ジェノサイドが頻発する後進諸国」と、「テロを一掃した先進諸国」に二分されている。
いずれ、そんな世界になっても不思議でないと思ってしまう自分がいます。 ひょっとすると、いま私たちがお茶を飲みながらぼんやりと享受している「平和」も、「誰かに仕向けられた何か」によって作られた錯覚なのかもしれません。それが良いのか悪いのか、読み終わってからも考えてしまいます。
『ハーモニー』『屍者の帝国』に続き、劇場アニメ化も決定しました。(書店員・ラーダニーバ)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
戦争やテロ、監視社会、国家と個人の関係など、現代にもつながる問題が物語の中に凝縮されている。
特に印象に残ったのは、「人はなぜ殺し合うのか」という問いと、そこに「言葉」が深く関わっているという発想。人を動かすのは、必ずしも武器や暴力だけではない。言葉が人の意識や感情を変え、ときには世界そのものを動かしてしまう。その怖さが強烈だった。
正義とは何なのか、戦争とは何なのか、そして自分たちは本当に自由な意思で生きているのかと考えさせられる。
Posted by ブクログ
2012年4月に読んだらしいが例の如く1ミリも覚えてないので再読(おれの人生はこんなことばっかりや)。
おもしろいし、よくできた話だ。
文体は淡々としているが主人公は飄々として軽口もちょっとは叩く。また、周囲のキャラクターによって、海外の諜報アクション映画のようなテイストになっている。
以下、がっつりぜんぶ丸ごとネタバレする。
少し未来の話。
主人公のクラヴィス・シェパードはアメリカ軍の特殊検索軍1分遣隊に所属している。仕事は主に暗殺である。
この日も4人組のチームで戦場へ向かう。ヨーロッパとロシアの間にある砂漠と森の町で、虐殺を繰り返すお偉いさんを殺す任務だ。最新装備を身につけ、標的Aの国防大臣のもとへ難なく辿り着く。背後から喉元にナイフを押し当て、尋問する。
「お前はなぜ殺した?」
「なぜだ。わからない」
50過ぎの国防大臣は、自分のやってきたことと、国土が壊滅していってることに、本当にたった今気がついたかのように困惑し始める。クラヴィスは、こわなに狂った言葉が返ってくるとは予想していなかった。なぜおれは殺したんだ教えてくれ、と詰め寄る大臣の首を切り裂き、心臓にナイフを突き立て、殺した。もう1人来るはずだった標的Bのアメリカ人は、急遽予定を変えたらしく現れなかった。
その二年後、4人の作戦メンバーのうちのひとりのアレックスが、自分の車の中でガス自殺した。葬儀の次の日、クラヴィスは思い返す。あれから計5回作戦に加わったが、そのうち4回のターゲットに入っていた男、ジョン・ポール。世界中あらゆるところに現れるとされながらがも、いつも捕まらない男だ。軍からは少しずつ情報が開示される。現代において、ピザを買うだけでも親指での認証が必要だ。網膜、指紋、顔紋などあらゆる生体認証がなければ生活は成り立たない。だがジョン・ポールはそのような痕跡を何一つ残していない。どうやって航空機のチケットを買っているのか、どうやって生活しているのか。
クラヴィスと同僚のウィリアムズはチェコに赴いた。ジョン・ポールのかつての浮気相手のルツィアがいるからだ。クラヴィスは彼女に近づき、チェコ語の講師を依頼する。
ジョン・ポールはサラエボで妻子を失った。核爆弾により、サラエボの街は一瞬でクレーターを作った。IDトレースによれば、そのとき彼はルツィアのアパートにいた。その後の半年を自宅で引きこもって過ごし、突然有名PR会社に入り、国家をクライアントとする案件を複数担当したらしい。かれが担当したすべての国が内戦状態へと転がり落ち、虐殺が発生した。その後ジョン・ポールは強制されて会社をやめる。そして、この男の足跡は交通機関、ウェブコマースなどすべてからぷっつりと途絶えた。最後の認証は、プラハのショッピングモールだ。
ルツィアと親しくなったクラヴィスは、任務でありながら彼女に惹かれていく。あるとき、自分やルツィアを尾行するものに勘付いて調査するが、逆に近まってしまう。背後から現れたのはジョン・ポールだった。
彼はクラヴィスに語る。私は虐殺に共通する深層文法を見つけたと。各国のうちでもっとも情報を統制しやすい立場につき、それらの言葉たちを流布する。それだけで、徐々にみんなが虐殺へと向かうのだと。この文法による言葉を長く聴き続けた人間の脳には、「良心」と呼ばれるものの方向っけを捻じ曲げる。
ルツィアは、クラヴィスが軍人であることも、ジョンが虐殺を扇動していることも、知らなかった。ジョンはまた消えた。手首を拘束され、酒に仕込まれたナノマシンにより、外部デバイスから簡単に神経へと激痛を与えられる状態にされたクラヴィスにできることはなかった。ただ激痛にのたうち回り、ルツィアを裏切っていたことを暴露それ、だからこそもう痛みを与えてくれ、断罪してくれと願うことしかできなくなる。しかし殺される直前、ウィリアムズたちのチームが突入。間一髪クラヴィスは救出された。
次の作戦はインドだった。インドもまた核爆弾を投下された国で、国境沿いには穴ボコだらけである。インドの武装勢力に、ジョン・ポールが同行している可能性があるという。ということは、ルツィアもそこにいるかもしれない。クラヴィスは、もう一度彼女に会いたいの願っている。会って、ひとこと赦すと言ってもらいたい。
今度の任務は、日本政府から武装勢力の幹部の逮捕を依頼されたという名目だが、本当の目的はジョン・ポールの逮捕である。
クラヴィスは、戦闘適応感情調整と呼ばれる脳神経医学的処置を受ける。現地では、多くの少年少女兵と対峙することになる。銃弾を躊躇なく適切な判断で子どもたちの脳に叩き込むために必要な処置だ。本作の時代において、テクノロジーはとてつもなく進歩しつつも、人工知能よ研究は頭打ちになっていた。戦地において生身の人間にしかできないことが、いまだに多くあるのだ。かくして国家は、正規軍の兵士たちを丁重にもてなすようになる。このカウンセリングもその一環である。クラヴィスは、自分が戦場で犯す罪を背負う資格がない、その罪が虚構であるという恐れを抱いている。彼は戦地で死と隣り合わせになることで、自分の生を実感している。しかしそのとき抱く殺意が、カウンセラーと化学物質によって作られたものだとしたら、生の実感も、罪も、全部嘘っぱちではないのか。カウンセリングによる感情の調整、感覚のマスキング、薬物投与により、兵士たちはは痛みを感じることなく痛みがあるこまだけを知覚できる状態となる。
少年兵、少女兵たちを殺して回りながら、作戦は無事に遂行された。そこには、念願のジョン・ポールがいた。
護送は列車で行う。クラヴィスとジョンは、列車内で会話を交わす。
われわれは似たもの同士だな。
ふざけるな。
いいや同じさ。虐殺の文法が脳に及ぼす影響は、きみらが作戦前に受ける感情調整にとても近いんだよ。
クラヴィスは反論できなかった。が、ジョンの今までの話ぶり、今の落ち着いた態度から、軍に内通者がいると予想する。
そのとき通信が入った。列車後方からヘリが追跡してきているという。チームに警戒を促したその瞬間、列車はレールを外れて横転する。
気絶から目覚めると、生き残りのチームメンバーたちが交戦中である。銃弾が飛び交っている。クラヴィスも手榴弾やグレネードで応戦しつつ進む。環境追従迷彩をまとって幽霊のようにおぼろげな人影たちが舞っている。何人かは、腕や足を失いながらも、標準射撃姿勢で撃ちまくっている。まるでゾンビだ。
そのとき思い立つ。奴らは痛覚マスキングを受けている。
いまこの戦闘は、だれも想像しなかった、同レベルのテクノロジーの恩恵を受けた集団同士の殺し合いであった。クラヴィスがこれまで参加した作戦はそんなものではなかった。すべて、金持ちが貧乏軍隊をタコ殴りにするものばかりだった。
殺しても死なない痛覚的ゾンビ集団が潰し合う状況。
クラヴィスは怖気付き、また安堵した。自分はまだ戦闘の中心から離れている。
しかしやはり進まねばならない。通信がつながっていたリーランドのところに辿りつくが、彼は腕も、腰から下も、吹き飛んでなくなっていた。クラヴィスたちのチームは、初めての完敗を喫した。
リーランドを含む仲間たちの葬儀。
肉片を寄せ集め断片をつなぎ合わせてできた遺体たちが、棺には収められている。
ウィリアムズは、怒りに包まれている。だが自分はどうか。怒りも憎しみも、どこを探しても見つからない。ウィリアムズを真似て怒っている風を装う。クラヴィスは、誰を憎めばいいかわからない。カウンセリングは必要ない。自分を罰してくれる人を、クラヴィスは求めていた。
最後の作戦はアフリカだった。ヴィクトリア湖で、イルカや鯨が養殖されており、その肉が人工筋肉として輸出されている。だが多くの人はそれを知らない。知ろうと思えば、調べれば、タグを辿ってわかることなのに。
ヴィクトリア湖は、ケニア、ウガンダ、タンザニアに囲まれた広大な湖だが、ここの沿岸部はいまヴィクトリア湖沿岸産業者連盟という独立国家となり、先進国に承認されている。ジョン・ポールは、今度はここで呪いの言葉を撒き散らし始めている。ジョンはプラハで行方をくらましたが、逆にいえば、プラハの搭乗口で足跡の消えたものが彼である。軍上層部はそこからしらみつぶしに彼の現在地を探し当てたらしい。
またしてもチームはシーウィードによる湖への降下作戦を取ったが、降下直前に下からロックオンされる。クラヴィスはひとり、管理官の静止を無視して手動でシーウィードを切り離し降下した。仲間たちがどうなったかはわからない。単独で進むしかない。ジョン・ポールを殺すことが本作戦の目的だ。しかしクラヴィスはペンタゴンの意思でも命令によるものでもなく、自分自身の意思でジョン・ポールを殺すために来たのだ。
湖を抜けた後は、迷彩をまとってじりじりと這い進む。ここのゲストハウスにジョン・ポールがいて、国内メディアを統括する立場についているらしい。
しかしゲストハウスに到着し、発見したのはジョンでなくルツィアだった。兵士との会話を聞く限り、彼女はジョンの妻ということになっているらしい。あるいは本当にあの後結婚したのか。
静かに尾行し、彼女の入った部屋に侵入する。部屋には誰もいず、ジョン・ポールの手書き原稿やスピーチ草案などが置き離してある。そこには英語とは思えない様々な記号と単語が並んでいた。理解はできそうにない。そのとき背後で銃の安全装置を外す音が聞こえ、振り返る。ジョンがこちらにら拳銃を向け、悲しそうな顔でこちらを見ていた。ID認証のない時代もののブローニング。
2人は会話を交わす。ジョン・ポールが、なぜ各地で虐殺を振り撒いているのか、その真相が語られる。まず「虐殺の文法は、食糧不足に対する適応である」ということ。
そしてそれをばら撒く目的は、「自分の愛する人と世界を守ること」だという。
現代は個人認証セキュリティによってテロを防いでいると言われているが、それはデータを見れば嘘である。絶望から発したテロは、自爆や特攻まいった、追跡可能性のリスクを度外視したものだからだ。セキュリティでは止められない。
だからジョン・ポールは、自分の愛する人と世界を守るため、「それ以外の世界で殺し合いをさせる」ことを選んだ。自国の紛争が起きてしまえば、他国への侵略もテロもやっている余裕は消え去る。現に、ジョンが他国で紛争を起こさせたことで、アメリカに対するテロ件数はついにゼロになった。
「わたしのしていることが正義だとはわ絶対に言わない。わたしはただ、自分が守りたいものを守るために、やれることをしているだけだ」
隠れていたルツィアが現れる。
「クラヴィス、この人を逮捕して。アメリカで、虐殺の文法の話を裁判にかけるの。みんな、知る必要がある。選んだ結果としての責任と自由を背負う必要がある」
そのとき、ルツィアは背後から撃たれ、頭の半分を失った。そこにはウィリアムズが立っていた。クラヴィスは彼に対し発報する。廊下の先からウィリアムズが言う。
「クラヴィス落ち着け。命令は暗殺だ」
「彼女は殺さなくてよかった」
「いいか、暗殺命令は出ていたんだ。ルツィアとジョンは両方とも殺すよう俺は言われていた。俺は俺の世界を守る。家族に、この世界がどんなにくそったれかなんて知らせなくていい」
国防高等研究計画局としては、虐殺につながる研究に資金を出していたなんてスキャンダルになりかねない。上層部はこの一件を完全に葬るつもりである。
クラヴィスは、ジョンを引っ張って窓から飛び降りる。ふたりでジャングルを逃げる。クラヴィスは彼に聞く。ルツィアを失い、自分がやってきたことを悔いているか。
「わたしは悔いていない。わたしは命を天秤にかけた。わたしたちの世界の人間の命と、貧しく敵意の影がさす国の人間の命。わたしは目を見開いたもま、完全に正気で、その選択をした。そうして選択がなされたあとで、どれだけの命がわたしの背中に張り付くことになるか、それもはっきりと自覚したまま選択したのだ」
ジャングルを抜けると、味方のジープが待っていた。そして、乾いた破裂音が響き渡り、ジョンが額に穴を開けて倒れた。
発泡したのは自分の部隊の軍曹で、彼は作戦終了を告げた。また、ウィリアムズが死んだことも報告してきた。
ここまでの話を、クラヴィスは軍の会議や裁判やメディアで何度も語った。彼がやったことは国家機密法違反だったから、告発された。しかし司法の手は彼の元へやってこなかった。なぜなら、アメリカ全土で暴動が発生し、それどころではなくなってしまったからだ。
クラヴィスはアメリカ全土に向けて自分のやったことを話した。しかしここからの話は誰にも語っていない。
ジャングルを逃げているとき、クラヴィスはジョンからあるメモを渡されていた。そこにはウェブサイトのURLが書かれており、それは虐殺の文法を生成するエディターであった。
クラヴィスは、ジョン・ポールと同じ手法で、まったく逆の人々を守ることにした。つまりアメリカ国内で虐殺を行わせることである。
スターバックスの永遠も、ドミノピザの普遍性も、なくなった。そうなることが唯一分かっていた彼は、家に食糧をたっぷり溜め込んでいた。
これでしばらくは、アメリカにテロを仕掛けようと思う人はいなくなるだろう。
クラヴィスは、世界にとって危険なアメリカという火種を、虐殺の坩堝に放り込んだ。アメリカ以外のすべての国を救うために。彼は、ジョン・ポールと同じように、その決断を背負うことを決めた。
Posted by ブクログ
面白かった!社会派的な内容を扱う丁寧な手つきも非常に良かったし、「虐殺の文法とは?」という作品の根幹に迫るときの冒険小説的な面白さもよかった。エピローグの展開が非常に良かった。社会を見つめる目線がシームレスに個人を見つめる目線に移行したのがよかった。
Posted by ブクログ
少し未来の、3発目の核兵器が使われた世界。
世界は気付いてしまった。
3発目の核兵器で世界が終わるという神話の時代は終わった。
洗脳、感情マスキング、虐殺器官の活性化。
虐殺と愛は表裏一体。愛は身の回りを救うが愛は戦争を生む。
自分の見たい世界しか見ない私たちは、遠くの世界の虐殺や搾取によって(それを見えなくすることで)生きていける。
Posted by ブクログ
2008年4月4日の自分のレビューでは星3つ
18年振りに読み返すと、遠くの戦争が当たり前になった今の時代にビンゴで、星5つ。
以下ネタバレ
脳の一部に進化の結果つくられた虐殺器官がある。ここを言語等何等かの方法で刺激すると、人の価値判断が平和から暴力に動き・・・・
これって今の民主主義を標榜しているくせに戦争始めた国のこと?
自分の生活外の場所で戦争があるのは当たり前・・
テロよりも内戦させた方が自分は平和
戦争は遠くのものである限り、平和の優先順位は下がり、生活を脅かす他国民は悪で、 2008年頃は世界平和だ地球環境だと言っていた風潮が 今ではインフレだ、MAGAだ、日本人ファーストだと
誰かが18年かけて先進国民の虐殺器官を刺激したのだろうか?
2008年4月4のレビュー
2007年SFが読みたい第一位なので期待を持って読みました。最後だけブラボー!あとは普通かな?シェパード大尉の心の動きにジョンポールがからまって、米国万歳の結末へ・・・・
次回作に期待。
Posted by ブクログ
残酷な世界観が観れるだろうと思い本書を買い、期待以上を細かい世界観が描写されて、とても楽しめた。特に好きな子を殺した兵隊に生き残るため入隊を懇願しないといけない男の子たちの描写が良かった。
残酷な世界観だけでなく、キャラクター同士のコミュニケーションシーンも魅力的。
Posted by ブクログ
4.5 ディストピア的小説だけど、今年1番の衝撃的な展開だった。特に最後の展開は圧巻。
最後の驚きもさることながら、序盤から中盤にかけての主人公の心の動きの書き方が秀逸。科学や社会が進展する中で、自由や自己意識というものは相対的なものでしかないという気付きと、そこからの自分とは?自己決定とは?という部分の思索の変遷の表現が本当に凄いなと思った。AでもBでもない、みたいなニュアンスを直接的に書かずにそれと表現する表現力の高さはこれまで読んだ小説家の中でも圧倒的な感じがした。
Posted by ブクログ
世界で起きている大量虐殺の裏にはジョン・ポールという謎の男が関わっていることが判明し、アメリカの暗殺部隊にいる主人公が謎の男ジョン•ポールを追っていくというストーリだ。
監視社会が進み、全てのことにIDが必要な社会という現実でも将来起きそうな世界観で話が進んでいく。そんな監視社会の中で起きるテロ。自由について考えさせられた。
「人間はみたいものだけしかみないように出来ている。」
確かに世界で起きている虐殺といった非人道的な行為を日本にいてあまり見ることはないし、考えることもない。私たちは世界で起きている虐殺や非人道的行為によって積み上げられた屍の上で豊かな生活をしていることを実感する。
そして最後に主人公が選択した行為が、主人公が選択した行為であり、自分自身が罪を背負うという点が物語として最高の終わり方だと思った。
最後に印象に残った言葉を書いておく。
「目は瞼があり閉じることができるが耳は閉じることができない。」
「地獄はここにある。頭の中に。苦痛すら必要ない。」
「言葉には臭いがない。」
Posted by ブクログ
思想強めの濃厚な小説で、ハマるかどうかは人を選びそうな作品ではあるが、自分にはとてもハマった。
主人公はアメリカの特殊部隊の一員で、潜伏する各地で内戦と虐殺を引き起こす謎の人物を追うという形でストーリーは進んでいく。
タイトルからグロテスクな戦闘描写が想起されるが、そのような描写はあまりなく、語り口は淡々としていて、哲学的な問いが全編にわたって続く。
ジョージオーウェルの「1984年」にも通じる監視社会への皮肉、安全と自由のトレードオフ、言葉がもたらす暴力、そして「人間性とは何か」という根源的な問いがストーリーを通じて問いかけられ、それらについて考えさせられる。
Posted by ブクログ
かなり久々の再読。
まずこれがデビュー作ってのが、作家のセンスが計り知れない…。その世界観に圧倒的に引き込まれる。
難しい用語とかも多々出てくるけど、難解ではないから読みやすい。
考えさせられる事が多すぎて、言葉で感想を纏めるのが特に難しい作品。
■言葉は毒にも薬にもなる
■他人の犠牲の上に成り立つ普遍の生活
■罪と罰とは?そして赦しとは…
ラスト、
ルツィアと対話できていたならば、ああはならなかったのだろうと思うと…うーん。
でも自分で決断を下したのだから、彼の物語としてはこれで良かったのかも。
しかし母の中に彼の姿が無かったのには、あまりにも物哀しい………言葉にならない。
Posted by ブクログ
なんとか虐殺器官を読みきった。
最後までSAN値をガリガリ削られ続ける作品だった。
ジョンポールと主人公が会話する辺りから
虐殺の文法を主人公が最後継承するのだろうと
予想したが、その通りだった。
救いがないのが主人公もジョンも正気で 犯行動機が愛する者の喪失ということだ。
SFで社会派小説
作品内の何も知らないで平穏な生活を送るアメリカ人は、まさに今の日本人そのもの。
皮肉が効いていて読み進めるたびに複雑な感情を抱く。
ジョン・ポール(犯人)の大量虐殺を行う動機が予想外だった。
そうきたか!って鳥肌もので私的には今までにないタイプの犯人像が魅力的。
私はアニメ映画→小説という順番で観た。
近未来的な世界観なので先に映像を見ておくとわかりやすいかもしれない。
小説はクラヴィス(主人公)の過去の掘り下げや心理描写があるところがいい。
終わり方は映画の方が好み。
現実とリンクする恐ろしいSF
導入部は、一見すると泥臭い戦闘モノ。けれど読み進めるにつれて、現代社会への疑問が散りばめられてくる。なんでも情報化し監視する社会、遠い国で日常的に起こる戦争、それに知らんぷりを決め込む先進国。たくさんの死体の上に成り立つ偽物のユートピア。この作品はただのSFではなく、現代社会の闇を書いたモノだ。間違いなく、何度も読みたい作品の一つ。
Posted by ブクログ
言語学、文化人類学、哲学、宗教から新自由主義、南北問題などを含む壮大で、かつ現代的なSF。チョムスキーや、ハラリの『サピエンス全史』などを読んでいると、つながることが多い。
「虐殺器官」というタイトルから読むのを敬遠していたが、もっと早くに読めばよかった。
帯に「現代における罪と罰」とあるが、今を生きる我々にとって、伊藤計劃の「虐殺器官」は、ドフトエフスキーの「罪と罰」以上に我々に迫るものがあるのではないだろうか。
善悪の大転換
善悪の大転換が起こる作品です。
主人公に共感出来た人は、読了後心地よい納得感を得られるのではないかと思います。
テロ、虐殺、暗殺、事故死、尊厳死、等々「まだ生きられる命を絶つこと」について、さまざまな視点から主人公が思索していきます。
ですのでものすごく暗い内容ですが、上に挙げた様な命に関わる問題について普段からもやもやしたものを感じている人には、この著者が提案する答えを知るという意味で読む価値があると思います。
あと、私がこの本を買った理由になった本の紹介がありまして、それは
『「人間には虐殺をつかさどる器官がある。呼吸をつかさどる肺や、消化をつかさどる胃という器官があるように。」 というのが著者の主張のようだ』という感じでした。(思い出し書きです。)
この主張に同意出来ると思い、ストーリーとしてどのようにそれを主張するのか期待して買った結果、満足出来ました。
同様に上記の主張に同意出来る方は読む価値有りだと思います。
この著者の他の本も読んでみようと思います。
Posted by ブクログ
登場人物に対する善悪の認識が読み進めるにつれてあやふやになっていく感覚が面白かった。
自分が正しいと信じていることは、本当に正しいのか。
自分の正義のために、誰かを犠牲にしていないか。
言葉がどれだけ人に影響するのか。
言葉は使い方によって人の正義を暴力的にする。
Posted by ブクログ
自由を求めることは何かを切り捨てること、ということが恐ろしく描かれていた。自覚しないことの罪や、自覚した人の決断の残酷さ、どの立場にも正しい逃げ道などない、地獄のような世界。にもかかわらず、状況はほとんど現実世界と同じ。薄らと感じてはいても逃げてきたことを突きつけられるお話でした。
Posted by ブクログ
平和な先進国の裏側で、誰が暴力を受け入れてるのかについて描かれている小説。
テロ、監視社会、言語、自由意志、先進国と途上国の関係などテーマが難しく感じられたけど、ポールとシェパードの対話を通して少しずつ理解できた。
虐殺器官とは、人間を虐殺に向かわせる言語の機能。
9.11以降のアメリカでは、テロを防止するために監視社会化が進んだ。それにより平和は守られたのように見えていたが、暴力は世界から消えたわけではない。そこでポールは、途上国側に暴力や社会的不安を集中させてそこで虐殺を行う事で、その地域を混乱させ、国際テロの発生を抑えるという仕組み。
最後には、シェパードがポールの思想とこの器官を理解し、アメリカ側に持ち込むという結末で衝撃。他国の犠牲の上に成り立つ平和は本当に平和なのかという問いに対するシェパードなりの答えなのだな。
Posted by ブクログ
情報量と見慣れない単語が多いため初めは苦戦したが、読み進めるごとに面白いこと
愛するものを守るための戦争なぁ
戦場で上官の命令に従う様はとてもつらい
自分とは直接関わり合いがない標的のため自分の命を危険に晒す行為は日々行われているんだろうな
なんのために生きているのか、なんのために殺すのか?
Posted by ブクログ
かなり面白かった
SF要素が強く、世界観を理解するまで初めは少し読みにくかった
ストーリーの展開が派手なわけでは無く、主人公の罪の意識を通して生死について考えさせられる話
Posted by ブクログ
4.2
思ってたよりも心理描写が多くて、いい意味で裏切られた。つづきとされるハーモニーも読んでみたい。
もっと虐殺の文法について設定が作り込まれると面白そう
Posted by ブクログ
ちょっと読みにくくて
読み終わるのに時間がかかるお話だったけど
内容自体は面白く…と言っていいかは分からないけど
読んだ
主人公のクラヴィスが追っているジョン・ポールという人物
どれだけか進んだ先の世界の話かと思いきや
後退しているようにも感じたり
でも使っているものは進んだ先のものだったりして
物事は巡る
ということを感じたり…
読み進めていくと
出てくる題名の
虐殺器官
が出てくる
これが変に納得してしまいそうになる説明があって
クラヴィスの心の不安定さが
ゆらゆらと見えて
物語の終わりに向かう
どれだけ世界が進んでも壊れていても
人と人の関係とか繋がり
人の放つ言葉に翻弄されていることが
世界を作っているのかなと思ったりもした
一冊だった…
終わりに載っている
円城塔さんとの対談も楽しく面白く興味深く
読ませていただいた
Posted by ブクログ
世界観の作り込みがすごい。用語が厨二病全開だが、それがまた格好良くて。ストーリー展開もしっかりしていて、続きが気になる構成。著者が夭逝したことが残念でならない。
Posted by ブクログ
読んでみて、本作が「ゼロ年代SFの傑作」と称される理由がよく分かった。
近未来のテクノロジーがリアルに描写された戦闘シーンは、自然と頭の中に映像が浮かび上がってくる。
そして何より、歴史からモンティ・パイソンのジョークまで、様々な知識を必要とするウィットに富んだ会話劇が実に魅力的だ。
映画版も観てみたくなった。
Posted by ブクログ
描写が精緻で、話もなかなか展開しないので読むのに時間がかかった。
挫折しそうになりながらも名作なんだから面白いはずと己を奮い立たせて読み進め、結果、
読んで良かった。
終盤展開してからは読む手が止まらず。
暗澹たる内容、結末でありながら清々しい読後感。
これは面白かった。面白かったです。
ハーモニーも読みます。
[SF小説苦手な人に、頑張って読んでみてくださいとおすすめしたい一冊]
Posted by ブクログ
現代が抱える問題を近未来の世界で見事に描ききっていて、考えさせられることが多かった。
決してスッキリする終わり方でもなかったところがまたこの作品としてはとても良い終わり方なんじゃないかなと思った。
ウィリアムズが終始ウィットに富んだ会話をしているのがずっと気になりながら読んでいた。
Posted by ブクログ
SF小説は普段全く読まないけど、印象的なタイトルと評判の良さから、なんとなく気になっていた本。
いやー、面白かった。
SFと聞くと、自分のような文化に疎い人間には 『STAR WARS』や『ターミネーター』ような、無骨な機械と宇宙と大戦争みたいなストーリーをイメージしてしまうけれど、本作ではSF要素はあくまでスパイスとして盛り込まれているような印象。取り上げられている題材は、今の世界にも存在する諸問題や哲学に関連したもので、はるか未来の空想というよりは、隣り合った世界の話のようで、不思議なリアリティさも感じる。
タイトルの"虐殺器官"が何なのかについては、ネタバレにもなるので、ここでは詳しい言及は控えるが、この設定も現実の学問とマッチするようにテクニカルに組み立てられていて、よく練られていると思った。なるほど、これがSFの楽しみ方かー。
あまりの良さに次作の『ハーモニー』もすぐに読もうと決心。楽しみ。
Posted by ブクログ
虐殺の文法という概念自体が魅力的。
テロやトレーサビリティといった現代的なテーマや,光学迷彩,人口筋肉,ナノマシンといった近未来的なテーマもあるが,やはりこの概念で勝ちなのかなと。
映画版との一番の違いは、ラストかな。
本より先に映画を観たのだけど、失敗だったかも。
Posted by ブクログ
SFの設定自体はそこまで突飛ではなく、
「現代社会の延長線上にこういう技術や政治状況がある」という作りなので世界観は比較的すんなり入ってきた。ただ全体的に物語というより、主人公の認識・感情・思考を徹底的に分析・言語化した報告書を読んでいる感覚に近かった。
作者が主人公の頭の中を全部実況中継して、こちら側に主人公の感情を想像させる余地を与えない。
そんな読書感覚だった。
内容も相まって文体そのものが妙に理系的に感じられるのはそれが理由かなと思いました。
Posted by ブクログ
普段は抑制されている集団外への攻撃性・排除衝動を、言語フレーミングで解放することで虐殺を引き起こすジョン・ポール。利己的な遺伝子やサピア=ウォーフ仮説など、複数の理論を絡めた展開が読み応えある。
平和のための虐殺の輸出、善意と技術で設計された暴力の道徳的責任は誰にあるのか?重いテーマ。Audibleで耳読。
ラノベ?ラノベでした。
絶賛されていたようなので読んでみましたが、非常に回りくどい自分語りで物語は進行、まるでラノベのようじゃないかと思ったら、扱っている題材がゲームノベライズなど、どうやらラノベ作家さんのようでした。
ひさびさ騙された1冊。