【感想・ネタバレ】虐殺器官のレビュー

あらすじ

9・11を経て、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは? ゼロ年代最高のフィクションが電子書籍版で登場。

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2009年に満34歳でこの世を去った伊藤計劃先生。普段SFを読まないため、縁遠かったのですが、シンプルかつ恐ろしい表紙とタイトルに惹かれ…。
何をするにも本人認証が必要となり、いつ、どこで、何をしたかが全て記録・管理されるようになった近未来。それにより全世界が平和になるのでは決してなく、「ジェノサイドが頻発する後進諸国」と、「テロを一掃した先進諸国」に二分されている。
いずれ、そんな世界になっても不思議でないと思ってしまう自分がいます。 ひょっとすると、いま私たちがお茶を飲みながらぼんやりと享受している「平和」も、「誰かに仕向けられた何か」によって作られた錯覚なのかもしれません。それが良いのか悪いのか、読み終わってからも考えてしまいます。
『ハーモニー』『屍者の帝国』に続き、劇場アニメ化も決定しました。(書店員・ラーダニーバ)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

読みながら、ノベライズ版の『PSYCHO-PASS』との共通点を感じた。『虐殺器官』風に書くと、語る内容は違うが文法は同じ様な印象。テクノロジーによる人間の制御を主題にしたSF的な世界観、静かでどこかグロテスクな文体、人文学的な引用を織り交ぜながら展開する物語。どちらにも、文学的マッドサイエンティストのような犯人が登場し、事件の裏でフィクサーとして暗躍する。
また、犯人と主人公の関係性にも通じるものがある。『虐殺器官』では「言語」を、『PSYCHO-PASS』では「犯罪係数」を軸に、正義と悪の曖昧な世界を描いている。物語の最終舞台が社会を支えるインフラ(人工筋肉製造工場/食料供給プラント)である点も印象的で、単なるサスペンスではなく、社会批評的なテーマが感じられた。

一方で、両作品の違いは黒幕の目的にある。『虐殺器官』のジョン・ポールは世界(愛する人々)を「守る」ために行動し、『PSYCHO-PASS』の槙島聖護は世界(社会システム)を「壊す」ことで人間を解放しようとする。槙島のカリスマ感も惹かれるが、ジョン・ポールのどこか人間味のある感じもいいなと思った。
結論、どちらも面白い。

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2025年10月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

虐殺器官

久々の★5つを付けました。もっと前にちゃんと読んでおけばよかった・・・
既読の「ハーモニー」に至る前の世界。
暗殺を主務とする米国の特殊部隊の隊員が主人公。薬物とカウンセリングにより良心を封印し、紛争地域の紛争の首謀者を暗殺するミッションを淡々とこなしていく主人公。暗殺リストに常に存在するがいつも取り逃がしてしまうアメリカ人。そのアメリカ人が入る国では必ずジェノサイド(大量殺戮)が起こる。
人は何故殺し合うのか?殺し合うことは進化の上でどういった意味があるのか?そんな哲学的な問いを内包しながら追跡の物語は進んでいきます。そして、どうやって一人の人間が殺戮を誘発することができるのか?という謎も・・・
ポスト9.11の息が詰まるような管理社会を、最新の科学的知見に基づいたガジェットを駆使しながら、最新の脳科学やネットワーク理論の知見をちりばめて描いています。改めて本当に惜しい才能を亡くしたことを感じます。
SF好きの方には特にお奨めします。

竹蔵

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2025年08月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

☆僕が最初にタイトルを見た時、10年前になると思うが、タイトル・作者名・装丁の無骨なカッコ良さに大変惹かれたことをよく覚えている。当時はコテコテの、メカがたくさん登場するSF、おそらくロボットかサイボーグかが「虐殺」を起こす物語なのだろうなと想像していた。多分「器官」を「機関」と無意識的に読み違えてたのだと思う。10年経ちそのイメージは誤りであったことが分かる。本書の核である、「虐殺」と「器官」の意味するところがつながった時である。そしてその時初めてこの小説にのめり込むことができた。

☆「ことば」が人間の思考や行動に影響を与えるというアイデアから、オーウェルの1984年が想起される。ただ「虐殺文法」に関しては、フワッとした概念の記述があるのみで、もう少しそこに言語学的なリアリティと、深い創作を見たかった。1984年のニュースピークは、そう言う点で巻末に辞書やらがあったので感心したのを覚えている(学問的なリアルさがあるかは知らないけど)。

☆なお、この作品は実際かなりのSFモノである。ただ僕がよく思い描いていたスターウォーズ的な無骨なメカメカしさはなく、「人工筋肉」やその他有機的な先進テクノロジーで造られた世界観があり、ちょっとグロくて、肉肉しい感触がある。

☆話の納め方はすごい好み!久々に読後感に満足する小説に会えた。

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2025年06月09日

ネタバレ 購入済み

現実とリンクする恐ろしいSF

導入部は、一見すると泥臭い戦闘モノ。けれど読み進めるにつれて、現代社会への疑問が散りばめられてくる。なんでも情報化し監視する社会、遠い国で日常的に起こる戦争、それに知らんぷりを決め込む先進国。たくさんの死体の上に成り立つ偽物のユートピア。この作品はただのSFではなく、現代社会の闇を書いたモノだ。間違いなく、何度も読みたい作品の一つ。

#アツい

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2022年05月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『虐殺器官』の“genocidal organ”は、人間の内側にある「虐殺を引き起こす臓器」──すなわち認知や集団心理そのものを指しているように感じた。

ジョン・ポールは「虐殺の文法」を操り、後進国での内戦や武装蜂起を恣意的に発生させていく。だが、プロパガンダや情報統制、戦意高揚のための国民精神統一など、現実世界にも同じ構造は存在していて、それらによって民意が扇動され、国家的犯罪へと進んでいった例は枚挙に暇がない。

民族浄化や歴史修正主義も、他者への憎悪と、同胞への強すぎる一体感の裏返しとして起こる。そして現代では、憎悪や対立でさえ「マーケット」になり、平和そのものはビジネスになりにくいという逆説がある。
その結果、平和と紛争のあいだに、どこか見えない「バランサー」がいるかのような感覚を抱いてしまう。

ジョン・ポールは、その世界のバランスを取る存在のメタファーであり、世界を俯瞰する知性そのものの象徴として描かれているように思う。

一方クラヴィス・シェパードは、感情調整を施された兵士として、麻痺していく神経と感情のままに戦場を見続けてきた。家族や恋人を失う経験を経て、彼自身もまた世界をメタに捉えるようになっていく。

ジョン・ポールとの邂逅を通じて、クラヴィスは次第に彼に共感し、その知性や世界との対峙の仕方を、どこかで自らの理想像として見るようになる。
だからこそ最後に、クラヴィスは「次のジョン・ポールになる」道を選ぶ。世界を破壊するのでも試すのでもなく、平和と紛争のあいだを振り子のように揺れ続ける社会を見守り、そのバランスを監視する役割を、自分自身の使命として引き受けたのだ。

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2025年12月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

罪の意識が極端に低い主人公クラヴィスが虐殺を引き起こすポールと言葉を交わし、はじめて自由意志で選んだ行動。それは決して世界を守るためなどという単純な利他精神ではなく、結局は戦場を利用した母への贖罪という究極の利己主義的選択であると思う。
人類にとって言語は生まれながらに備わっている正得的能力なのか、環境で習得する後天的な能力なのか。種の存続のために人間が得た虐殺能力は時を超えて今も眠っているのか
結末も含めて、なかなかに危うい作品を読んでしまった。こんな物凄い作家が既に亡くなっているとは…

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2025年10月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

少し難しかったけど、面白く読めた。
虐殺器官、人々を虐殺に向かわせる言語というのは一体なんなのかはよく分からなかった。 
核で地域が一掃されたあとの、世界が あ、使ってもいいんだ みたいになる感じが実際にそうかもしれない…という嫌な説得感がありぞくっとした。

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2025年07月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

どこかで見た映画のようなシーンが多く楽しく読み始めたが、中盤ぐらいからハリウッド臭さが増してきて少し飽きてきた。それでも第五部のクライマックスの展開は読みごたえがあった。でもエピローグがダメだった。わずかに取り留めていたリアリティの糸がプツンと切れた。これじゃ魔法じゃないか。もう少し穏便で未来に不安を残すような終わり方のほうが良かったのではないか。

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2024年09月25日

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