最相葉月のレビュー一覧
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最相葉月(1963年~)氏は、関西学院大学法学部卒、広告会社、出版社、PR誌編集事務所勤務を経て、フリーのノンフィクションライター。本作品で小学館ノンフィクション大賞(1998年)、『星新一 一〇〇一話をつくった人』で講談社ノンフィクション賞(2007年)、大佛次郎賞、日本SF大賞等を受賞。
本書は、1998年に出版、2002年に小学館文庫で文庫化され(現在絶版)、2006年に新潮文庫で再版された。
内容は、ライターになってから「絶対音感」という言葉に初めて出会った著者が、その言葉に強く惹かれて、その「絶対音感」に関して、音楽家や科学者等200人にインタビューを行い、それについてまとめたもので -
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原著は1998年刊行。
それからほぼ四半世紀経つ。
たしかに、脳科学も、知覚系の心理学、AIも(まだ「人工知能」という呼び方しかしなかったころだ)、執筆時とは状況が大きく変わっているに違いない。
また、終盤に出てくる五嶋龍少年は、今や世界で活躍するバイオリンのソリストとなったことを思うと、時の経過を感じさせられる。
でも、この本は、今読んでも十分面白い。
多面的に、丁寧に、この問題を調査してあるからだ。
私はたぶん20年近く前に一度読んでいるはずなのに、前読んだ時よりもっと面白く読めた。
本書は、「絶対音感」と呼ばれている能力が、実際にはいろいろな側面やレベルに分かれるものであることをまず -
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ネタバレ取材を深める前に筆者はカウンセリングを胡散臭く思っており、なぜ胡散臭く感じるのかについて書かれた部分は確かに……と苦笑いしながら読んだ。しかし筆者は取材を進めながらどんどん箱庭療法などの世界にのめり込んでいき、自分もまた病んでいたことに気づく。取材の仕方も、ただ話を聞くだけではなく、療法を実際に受けたり、自分がカウンセラー役になったり、時間と労力をかけて沢山勉強しておりすごいなと思った。
ロジャーズの心理学や箱庭などが日本にどのようにして入ってきてどう広まったのか、歴史が紐解かれていく様はとても興味深かった。
回復には悲しみが伴うということ。
言葉=因果律にとらわれたものであるが、因果関係の -
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心理療法を著者が実際に受けながら、河合隼雄や中井久夫等、京大系心理セラピスト、箱庭療法やカール・ロジャース等、さまざまな日本の心理セラピーについて調べた本。
ヴァレリーの紹介でも知られる中井久夫の直々のセラピーを受けた体験記など、興味深い。
河合にしても、中井にしても、あるメソッドが有効であるというよりは、感性や学識豊かなセラピスト本人の技量に左右されるのかなとも思う。
効く効かないも良くはっきりしないものを療法と言って良いのか?ある先生の流儀奥義が平準化、普及化できないものを、学問と言って良いのか?
疑問は尽きないが、著者の静かで理知的な筆致に好感が持て、精神という不思議な世界に誠実に -
購入済み
なかなか面白い
幼児を子育て中で、気になったので読みました。
六歳までに身に付けないとつかない特殊能力、
音楽をやるなら絶対あった方が有利なのでは、
と漠然といい印象しか持っていませんでしたが、
日本で絶対音感が今の位置付けに至るまでの歴史や、
絶対音感を持つ当事者達の声などいろいろな視点から、絶対音感を視ることが出来面白かったです。 -
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本書は、若き日のパステルナークと、彼の音楽の師であったスクリャービンとの対話を記すことからはじまります。パステルナークに音楽の道を断念させたものは「絶対音感」でした。その神秘的な能力を与えられなかった者は、そのことに苦しみ、与えられた者は人びとの好奇の視線を向けられて苦しむことになります。こうした事実が、絶対音感について語る者の口を重くしてきました。著者は本書を執筆するにあたって百人の音楽家たちに質問状を送ったものの、回収率は5割で、なかには白紙無記名で送り返してきたものや、あなたはなにもわかっていないという手紙が添えられたものもあったといいます。絶対音感を取り巻くこうした厚い雲を晴らすことが
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ノンフィクションの地道さ、堅実さ、らせん状に深まっていく真相。
こういう仕事をちゃんと待って、評価していくことが本当に大事だと思う。
当時、きっとすごく読まれたであろうけど、
最後まで読み切れなかった人もいるんじゃないだろうか。
ひとつの疑問やイメージから、丁寧に文献に当たり、当事者の声を聞いていく。
たどっていく道筋の中に、ぼんやりと「当たり前」と思っていたことに出くわしたり、
そのたびに、最初と同じようで違う場所から同じものを見る視点が加わったり。
絶対と相対、能力と修練、技術と表現力、環境や人間の成長の時期、
物理的な楽器というものを通じて生まれる誤差、
音を文字として読める力と、文字で -
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この本が出るまでまったく聞いたことがなかった「絶対音感」って言葉だけど、そのスジでは超がつくほど有名だったんだね(゚д゚)!
なんと 戦前から(゚д゚)!
霊能力やESPっぽくて「自分にもあったら面白いかも」なんて思ってたけど、本書を読み進めていくうち そんな大したもんでもないことに気がついた( ´ ▽ ` )ノ
色で言えば、赤を赤 白を白と見分けるくらいなもんで、大枠さえズレてなきゃ 素人にはぜんぜん必要ない能力じゃん( ´ ▽ ` )ノ
味で言えば、ワインのテイスティングとか( ´ ▽ ` )ノ
絶対音感ブームの火付け役でありながら 内容はむしろその熱を冷ますもの、という -
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「作家星新一の出来るまで」という前半部は
父星一が単体で非常に興味深い人物であることもあって
星新一の評伝どうこうより
星製薬にまつわる記録物語として面白い
後半「SF作家星新一を通してみるその作品」
とでもいうべき内容は
評伝として作者の背景に強く力が入っているだけに
クラーク・アシモフ・ハインラインに対する
星新一・小松左京・筒井康隆というあたりの
「時代」に対するSF評論
(以前に感想書いた福島正実『未踏の時代』と重なるところ大)
であって
評伝評論事跡と作者の思いが
入り混じったものになってしまっているが
しかし多くの遺品資料から広く研究され書かれていて
また関係者の証言資料としても
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下巻はSFの旗手としての星新一から、ショートショートの名手星新一となり、やがてショートショートを1001作品書くという呪縛にとりつかれたある一人の男性の姿が現れてくる。
読んでみて、私が産まれた頃にはもうSFは普通に娯楽の一環としてアリだったのだが、SFが市民権を得るまでにはここまでの苦労があったのかと驚いた。
推理小説、かつては探偵小説と呼ばれたジャンルもSFより前にその課程を経ている。
SFの旗手としてもてはやされ、ショートショートと言えば星新一と言われ、子供から大人まで誰にでも読まれる作家となる。場の中心におり、いつも面白いことを言う。けれども彼の心は誰にも開かれておらず、そ -
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ショートショートの神様と呼ばれる星新一。いま大人である人のなかで、彼のショートショートを1つも読んでいない人は居ないのでは無かろうか。
星製薬の社長であったことは知っており、展覧会で直筆の下書きを見たことがある。作品の軽やかさに比べると、ずいぶんと神経質だと感じた記憶がある。
文庫で上下巻となった上巻は、星新一ではなく、本名の星親一であった時代のお話。父親の星一の若きころから親一が産まれ、育つ。その背景には第一次世界大戦と第二次世界大戦の影響が色濃い。
こういう時代を生き抜いた父を持ち、その星製薬を継ぐこととなった星親一はいかにして作家の星新一となったのか。下巻が楽しみである。 -
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私も15歳のときに読んだ「絶対音感」でノンフィクションの世界に華々しくデビューした著者の現時点での最新作となる本作は、<心の病>をテーマに、精神医学や心理学などがどのように発展してきて、どう人々の心を癒すのかについて書かれたルポルタージュである。
本書では、著者自らが両親の介護と死去に際して、自身も心の病を抱えていることを自覚しながら、自らも箱庭療法や絵画療法などを受けることで、深く治療の実態に迫っていく様子は強い説得力がある。5年間にも及ぶ取材と自らの治療を踏まえて書かれた本作は、そうした生々しい実態がわかりやすく描かれているともに、かつての治療では患者が喋りたくなければ10分間でも沈黙を