神谷美恵子のレビュー一覧
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「生きがいについて」を読む前にこちらを読むことにした。彼女の文章は本当に真に迫るものがあり、迫力を感じる。心から湧き出てくる言葉といった感じがする。
私が感銘を受けたところは、女性というものの生き方についてだ。自分の中の男性的な部分と女性的な部分との間の葛藤が描かれていて、それは現代女性の多くが共感する点だと思う。以下の文ではその強い意志が感じ取れる。
p.58「漸く落ち着いて勉強できるようになった。同時に、自分の中に、自分のものを生み出したい衝動がうちにみなぎる。今まで勉強したこと、これから晩供すること、それら全てを、自分の生命に依て燃焼せしめよう、女であって同時に「怪物」に生まれついた以 -
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神谷美恵子氏は『自省録』の翻訳者として知っていたが、著作に触れるのはこれが初めてだ。
本書は、著者の豊かな臨床経験に基づく洞察と、自身の体験からにじみ出た思索をもとに綴られている。
その主張は、「生きがいを求める心に誠実でありつつ、それすらも失ったときは、人間を超えた大きな存在(宇宙の摂理や神のようなもの)に身を委ね、ただ『在る』ことを肯定する」ことだと私は受け止めた。
別の表現を借りれば、「どんな状況下でも人間が絶望しきらずに済むための精神的なロードマップ」と言えるのではないだろうか。
人間そのものや生きがいについての医学的・哲学的洞察は、私にとって非常に示唆に富むものであった。 -
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もしかすると読むのは今ではなかったかもしれない。
そう思せるほど、人生の大事な局面でまた読んでみたいと思った一冊でした。
正直言って章立ては荒々しく、大事なことがまとまりなく散りばめられているような印象で、決して読みやすいとは言えません。
ただ、それがスゴくいいのです。
著者の情熱的かつ詩的な文体から、これを書かずにいられなかった衝動が伝わってきて、生命の躍動をダイレクトに感じられます。
おそらく今の時代に書かれていたらもっと綺麗にまとまった本になっていたことでしょう。一時代前だからこそ生まれた名著だと思います。
読むのは今ではなかったかもしれないと言いつつも、今読んで良かったのは -
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言葉には物理的な座標軸を示す力があって、「上から目線」「横から失礼します」みたいに、相手との関係性を示すものがある。それだけではない。「夢」という言葉は自分から随分と“遠い“が「目標」はそれより“近い“感じもする。
言葉にはこうした物理的な距離の他にも、言葉の強度、質感などがあり、更には、事象を示す精密さにも大小ある。曖昧か、明瞭か。
例えば「幸せ」という言葉が生まれたのは、そうした状況を感じた人がいたという当たり前の事と、ある人はそれに欠乏していたという“裏表“を示すのかも知れない。
「生きがい」という言葉は日本語だけにあるらしい。著者もいう通り、この言葉の存在自体が日本人の心の生活の -
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前半に出てくる四つの問いが重い。
自分の生存は何かのため、または誰かのために必要であるか。
自分固有の生きている目標はあるか、あるとすればそれに忠実に生きているか。
以上あるいはその他から、自分は生きている資格があるか。
一般に人生というものは生きるに値するものであるか。
これを読んで、叔母のことを考えた。
叔母は独身のまま、親や兄妹の面倒を見て、順に看取り、独りになった。
気丈で聡明だったが、それが災いしたのか、人付き合いが上手ではなく、親しい友人はいない。
これまで病気ひとつしたことが無かったが、昨年から急に腰痛になったあたりから急激に衰え、一人で生活できなくなり、老人ホームに入居せざ -
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神谷美恵子さんの「生きがいについて」の補足として、書かれた本。連ちゃんのエピソードを微笑ましく思いながらも、連ちゃんの入所に至るまでの生い立ちに驚いた。100年前の話ではなく、昭和、恐らく戦後のことだろうと思われる。野良犬のように生きてきた連ちゃんの優しさのエピソードには、なんとも言えぬ気持ちになった。
「うつわの歌」に、生きることへの感謝、そして謙虚さを感じ、自分には欠落していると自覚し、やはりなんとも言えない気持ちになる。
神谷美恵子さんの文章はとても読みやすい。時に優しく、時に力強く語られる言葉に励まされ、見守られているように気持ちになる。 -
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以前、神谷美恵子のことを知り本を買った。
今回それをを気分転換のつもりで読んだ。
取り返しのつかない悲しみや絶望からの脱出には「生きがい」を見つけて、それをを支えに命を保つことだという。精神科医になりハンセン病の療養者に交わり病理や心理学の分析をへて、人間の生きがいの効用を確信する。彼らへの共感の思いをエッセイに綴る。
神谷は恵まれた境遇に育ち英文学を学ぶなかでハンセン病という業病の存在に遭遇する。患者は不治の伝染病として強制隔離され、故郷の家族や友人から遮断され存在も抹消される。そんな人達に寄り添うために精神医学を学び、瀬戸内海の長島愛生園に勤める。見聞きした煩悶と呻きに触発されて生きる意 -
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ネタバレマルクス・アウレリウス帝が従軍中などに独り自分のために書き綴った「自省録」。短い文章や警句のようなものがひたすら並んでいるが、内容は生死や他人の行い、苦痛・怒りや悲しみなどの感情への執着を捨てること、理性=自然にしたがって生きることなどストア派らしい似通ったところが多く、そんなに読みづらくはなかった。というか、今まで読んできたストア派のセネカやエピクテトスより読みやすく感じたし、一番良かった。訳も良いが、訳者神谷美恵子の書くとおり、彼自身が思想を実践するためにもがき苦しんでいる姿があるからこそ、生きた思想の躍動感が生まれているからなのだろう。神谷氏はストア派の思想が現代において倫理学以外は力を