何か、テレビドラマや映画のような映像が鮮明に頭に浮かぶかのような雰囲気が在る作品だと思う。
率直に、タイトルにある“地面師”なる用語を知らなかった。これは不動産取引に関する詐欺犯罪、その種の犯罪に携わる者を言う用語であるという。
本作の最初の方は、その“地面師”という者達が蠢き、多額の資金を騙し盗る
...続きを読むという行為が為される場面の描写から始まる。
“地面師”の手口?土地を売ろうとする者、その依頼で諸手続を進めるような関係者を装う。「なりすまし」である。土地を買おうとする人達と接触し、売買契約成立という体裁にして直ぐに支払わせて、その資金を手に逃げてしまう。後日になって、土地を購入した側は「金は間違いなく払ったが、所有権が移転出来ない?!」ということになってしまう。
本作の最初の方の「事件」に関連し、“地面師”のグループの中心的視点人物となる辻本拓海が登場する。作中では寧ろ、単に拓海という名で叙述される場合が殆どなのだが。
“地面師”のグループの面々が「ほとぼりが冷めるまで身を隠す」という場面でこの拓海の回想が綴られる。拓海は事件に巻き込まれ、仕事を失い、家族も喪う羽目になり、とりあえず生きようと半ば投槍なバイト生活という中、“ウチダ”という仮名を名乗っていた「ハリソン山中」という通り名で知られる男と出逢う。拓海はこのハリソン山中の仕事を請け負うようになり、“地面師”のグループのメンバーとなり、数年が経っていたのだった。
他方、警視庁で詐欺や横領のような事件を担当する捜査2課には退職の日も近付いている老刑事の辰が在った。渋谷署管内で発生した事件の捜査を応援することになったが、事件は“地面師”の事案だ。辰刑事が想い起していたのは、追い詰めきれなかった被疑者のハリソン山中という通り名の男だった。
やがて拓海や他のグループの面々が東京に戻り、彼らは「次の事案」を手掛ける。<高輪ゲートウェー駅>の建設が予定されている場所に近い、近所の寺の尼僧が権利者である土地、概ね100億円という土地に彼らは狙いを定めたのだった。
概ね100億円を騙し盗る“地面師”のグループの面々の暗躍、グループに騙される会社の幹部、両者のやり取りの狭間の本来の権利者である尼僧の側という展開、他方で静かに執念深く“地面師”のグループを追って行こうとする辰刑事と、なかなかに読ませる展開で夢中になった。
実は然程古くない時期、最近登場のこの文庫本の単行本が登場した少し前に、少し名が通った不動産開発等の会社が所謂“地面師”のグループに数十億円を騙し盗られてしまったという事件が発生したそうだ。そういう実際の事件に着想を得た小説ではあるかもしれない。が、“大博打”というような大胆極まりない犯罪を仕掛けて巨額の資金を盗ってしまおうとするグループの暗躍振り、そのグループに在る深い陰影を負う中心的視点人物の醸し出す雰囲気、その人物と繋がる黒幕を負う老刑事が見せる執念とやや大胆な動き等、「読まされる箇所が酷く多い」という作品だった。
テレビドラマの制作に携わる方が巻末の解説を綴っている。映画会社にせよ、テレビ局にせよ、不動産関係の様々な仕事に深く大きな利害関係が在る関係上、不動産を巡る大胆不敵な詐欺が作中に出て来て物語の軸のようになっているという映像作品は簡単には実現しないかもしれないというようなことに言及している。が、この『地面師たち』はテレビドラマや映画のような映像が鮮明に頭に浮かぶかのような雰囲気が在った。
何れにしても、なかなかに愉しい一冊だ!御奨め!!