『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を先に読んでおいて良かった
こちら同様にソビエト学校体験を時代的背景としながら、スターリン時代の闇にまでせまっていこうとさらに深く掘り下げた内容になる
物語は1960年頃、ソビエト学校在学中に舞踊教師オリガ・モリソヴナの影響を受け、ダンサーを志した過去を持つ主人
...続きを読む公が、30年後に元同級生らと、少女時代に垣間見たオリガの謎を解き明かしていくという展開である
ある意味、ミステリーとしてもグイグイ引き込まれる
その過程でロシア革命からスターリンの粛清、死後の批判という激動の時代が描き出されている
タイトルからは想像もつかない深い内容であった
ノンフィクションという形式では書ききれなかったこと、『嘘つき…』で描こうとしたことをさらに深めようとしたとき、フィクションという表現を選択するしかなかったと米原氏は巻末で語っている
とは言うものの、多くの参考文献の羅列(コミンテルン、スターリン、フルチショフ、ベリヤ、ラーゲリ…)を見れば、限りなくノンフィクションに近い内容だと納得
さすが米原さんハンパじゃない
日本人から程遠い世界で、国や運命に翻弄されながらも、命を賭けた人生をただただ必死で生き抜いた女性たちの力強く美しい物語だ
ラーゲリ(強制収容所)での劣悪な環境下での悲惨な生活、人とみなされない家畜並みの扱い、貧相な食生活と過酷な労働…
何よりも彼女らの心がボロボロと崩れ行く様は、心をわしづかみにされるほど痛くて苦しい
何度もこみ上げてるものがあるが、それ以上に彼女らの生きる力にこちらが救われるほどだ
それを表したのが大好きな以下の場面…
〜オリガは独房に入れられ、尋問される毎日
とても普通の精神状態ではいられない
ここでは逮捕された直後にまず、刃物と刃物になり得るもの全てが奪われる
あれだけ人を殺しまくっていた当局は、それを囚人が自力ですることを極端に嫌がった
生死さえも自分たちの支配下に置こうとした
そんな中、オリガは意地でも自殺を遂げて見せようと刃物を手に入れるべく必死になった
ある時靴ひもを引っ掛けるための掛け金が靴に残っているのを発見
毎日毎日床石に当てて少しずつ研いでいく
こうして自分で刃物を手にした瞬間、とてつもない解放感を味わった
自由を獲得したと思った
生死は自分自身で決める
自殺なんかするものか
絶対生き抜いてやる〜
乱暴な容疑で、簡単に収容所送りとなる
理不尽な罪で、処刑される
スターリン時代の粛清の犠牲者達の話である
もちろん話のスケールは大きく、内容的にかなり重厚であるのだが、一人一人の各登場人物の人生も等身大で書かれており、小説としてもとても読みやすい
誰もが多かれ少なかれ挫折もあり、隠して生きていかなければいけないもの抱え、才能がありながらも時代に翻弄されてしまう…
しかし全てを受け入れ頑張って生きている
時代背景とは違い登場人物達は、ユーモアを大切にした個性あふれる面々、またカラッと明るく救われること!
また、何が素敵かって皆がそれぞれ足りないところを補い合って、思いやりを持って支え合って生きている
日常で感じ得ない心が洗われるような感覚に
ロシア情勢、プラハの春、ユダヤ人問題…
日本では積極的な情報収集をしないとわからないこの時代の出来事
この本を通して新たに知ることができて良かった
巻末の池澤夏樹氏との対談もかなり興味深い
共産主義ながら自由?
そう、米原さん曰く、プラハの学校は日本の学校より自由だったとのこと
〜日本はみんなが同じが当然で、それから外れると劣等感を持ったり、不幸だと考える
だから違うのが許せない〜
池澤氏は「実は日本は社会主義の極みの国だとよく言われる」とおっしゃる
なにをもって自由というのか考えさせられる
また、今日本でコロナ差別という言葉が生まれてしまっている
人と違うことを厳しく排する
そういう国民性の悪いところが表面化している
他にも、ロシアでは芸術に対する才能に対するひがみや嫉妬がない
皆がその才能を手放しで喜ぶ
また応援して支え合う
西側の国は、芸術は商品になり、人が足を引っ張り合う
競争社会の悪い部分である
読んで良かった!
知って良かった!
心に響いた!
(圧巻過ぎる小説を前に拙い言葉しか出てこないのです…)
男性の社会派ルポライターにはない、日常を懸命に生きる女性たちの姿に多くの人が共感するのではないか
この時代を知らない若者達にも読んで欲しいなぁと老婆心ながらに…(笑)