谷甲州のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
単なる山岳小説と思って読むと、面食らうような内容だった。
発端の導入部は単にマックスという男の特徴を印象付けるためのエピソードだと思っていたが、作者は初めから「これは単なる山岳小説ではありませんよ」と警告を促していた事がわかる。
主人公たちの行動を左右するのは実にスピリチュアルな現象である。
主人公である日本人2人、筧井宏と加藤由紀は、イギリス人の2人、ジョージとデニスの「口寄せ」をし、登攀で訪れる悲劇を回避しようとするのだ。この小説はまさにこの非現実的な設定にノレるかノレないかに懸かっているといえる。
私はどうだったかと云えば、微妙だとしかいえない。
それはこういう現象を絵空事として簡 -
Posted by ブクログ
(上巻の感想からの続き)
この物語において一番意表を突かれたのは主人公エリコ、その人だ。男から性転換した娼婦という設定ならば、通常は美人でありながら腕っぷしも立つ、そう田中芳樹氏のシリーズキャラクター、薬師寺涼子のようなイメージを抱いていたが、谷氏はあえて逆を行った。
北沢慧人という男でありながら女性として生きる道を選んだエリコは、虐げられていたひ弱な過去と、どこか自分が普通とは違う違和感に対して正直に向き合った結果であり、女性となり、類い稀なる美貌と絶妙なプロポーションを持ちながらも、逆に元男ということで美女に対して引け目を感じるようになっているのだった。
なるほど、そういえばそうなのかも -
Posted by ブクログ
いやあ、いいね、この世界観。大友克洋氏の『アキラ』に通ずるものがある。
谷氏のSF小説は初めて読んだが、実に躍動感があり、物語世界の構築がしっかりしている。山岳冒険小説よりもこちらの方が好みだ。
映像化するなら押尾学氏、マンガ化するなら、士郎政宗氏か先に挙げた大友克洋氏あたりだろう。
何よりも登場人物が非常に魅力的だ。
男から性転換したエリコを筆頭に、類い稀なる怪力を誇るエリコの幼馴染みでルームメイトの女、胡蝶蘭(カチョーラス)。20世紀から生きているという噂のある情報屋、源爺。姑との軋轢であえて老婆に変る手術を受けた30歳の“老婆”、咲夜姫。長髪で中性的な容貌を持ちながらも、強引な捜査で危 -
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登山家でもある作者が、登山の時にどうしても感じてしまう神々の存在について著したかったと思われるのが本書。
人の生死を左右する極限状態の中、昨日まで、いやつい10分前まで冗談を云い合っていた仲間がクレパスに落ち、ザイルが切れて落下し、物云わぬ屍と化す。
かと思えば、絶対助からないだろうと思われる強烈な雪崩の中に巻き込まれながらも、九死に一生を得て生還するようなこの世界、明らかに神の配剤なるものを感じずにいられないのだろう。ミグマというラマの修行僧を通してまずは曼荼羅に記されたこの世の真理を説き、生死の境で相見える山に住まう神々の存在を知った者たちを通して登山と神との関わりを幻想文学の形で描く。
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Posted by ブクログ
ネタバレ「山男には惚れるなよ」という唄があるが、それを地で行く主人公滝沢育夫。定職に就かず、故郷の帰省に費やす交通費を惜しんでまで登山にのめり込む男。挙句の果てに6年待たせた恋人、君子にも愛想を尽かされ、その夜寝る場所にも困るような男だ。
もはや身体も心も快適な日本よりも過酷なネパールやインド、チベットに馴染むようになっている。登山家(クライマー)として一流の登山技術と抜群の高所順応能力を持ちながら、7回の遠征において一度も登頂者(サミッター)になれず、遠征のたびに仲間が死んでいく事から山仲間の間では「死神」という仇名を付けられる。
この人物造形は本書の扉裏に付けられた著者近影にそのままイメージが重な -
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ネタバレ日本列島が沈没してから25年。
各地に移植した日本人は普通にやっていても「ゆっくり・適当・のんびり」の他国人よりもできてしまい、アイデアもあることからかつてのユダヤ人のように現地人とトラブルに。
他国に拠点を置く日本政府は、ある程度安定してきたかつての日本の領土が沈む海上にフロート式の人工島を計画。
しかし、竹島には韓国に代わって中国が暗躍していた。
韓国と中国は昔から国際法を無視するので、ある意味案の定ってことみたい。
昔から中国と朝鮮は変わらないのね。
旧ソ連であるロシアも同じ。
しかし、日本には各地に原発があったわけで、日本が沈没した1970年代にはどれも稼働していただろうし、汚染 -
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Posted by ブクログ
ネタバレ劈頭から、懐かしのタイタン航空隊を即思い出させてくれるザナドゥ高地。
その後も、ヴァルキリーだったりサラマンダー、サルベージ業者、仮想人格などと
旧作の読者に向けた航空宇宙軍史世界巡りが続く
続編を待ち望んでいた読者たちへ、作者からの祝儀のようなものだろうか
しかしどこか不自然な気もする
偽物の世界を見せられているような胸騒ぎがする
叙述トリックを仕掛けられているような気がする
罠に嵌められ、実は死地に置かれてしまっていることに気がついた登場人物たちの焦りに似たもの不気味さを感じる
特に後半、慌ただしく旧作キャラの縁者だと明かしながらも
だからといって何が起こるでもなく気がつくと死んでいる