谷甲州のレビュー一覧

  • 遙かなり神々の座

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    ネタバレ

    「山男には惚れるなよ」という唄があるが、それを地で行く主人公滝沢育夫。定職に就かず、故郷の帰省に費やす交通費を惜しんでまで登山にのめり込む男。挙句の果てに6年待たせた恋人、君子にも愛想を尽かされ、その夜寝る場所にも困るような男だ。
    もはや身体も心も快適な日本よりも過酷なネパールやインド、チベットに馴染むようになっている。登山家(クライマー)として一流の登山技術と抜群の高所順応能力を持ちながら、7回の遠征において一度も登頂者(サミッター)になれず、遠征のたびに仲間が死んでいく事から山仲間の間では「死神」という仇名を付けられる。
    この人物造形は本書の扉裏に付けられた著者近影にそのままイメージが重なった。著者の谷氏自身、クライマーであるのだが、滝沢=著者という短絡的な想像はやめておいた方がいいだろう。恐らく著者の数ある登山仲間をそれぞれ寄せ集めて作られた人物に違いない。

    この滝沢という男が物語で一介のクライマーから殺しを厭わない兵士へと変貌を遂げていく。元々クライマーとしての能力が高く、辺境で生き延びる術を知っている彼。そして今までの登山で他人の死に直面してきた経験から、瞬き一つせずに殺しを行えるという設定は納得がいく。無論、それがそのまま殺しの才能に結びつくわけでないのは作者も承知の上で、その辺の説明にはぬかりは無い。

    そして、この滝沢を巡る2人の女性、君子と摩耶。この2人を物語に導入したことに作者の技量を感じる。
    外国への登山遠征を重ねる滝沢に愛想を尽かしながらも、ほっといては置けない母性本能を感じる君子と、ネパールでも現地に溶け込んで暮らしていける女の強さを備えた摩耶。男からの独立を望みながらも依存してしまう女と、男に自分に似た匂いを感じ、パートナーとして対等に扱う女。
    冒頭に現れるこの2人の女性が物語の終盤に意外な形で滝沢と再会するのだが、それぞれの結末の付け方も憎らしい。

    そして忘れてならないのはニマという男。当初滝沢のチームにコックとして同行していた初老の男はしかし、サバイバル経験豊富なゲリラの一員であり、滝沢に兵士としての訓練と生き延びる術を教授するこの男。物語の終盤で意外な正体が明かされるのだが、これはむしろ蛇足だと思った。ニマがある事実を知ったところで何も起きないことは解っていたからだ。
    上に述べた女性の扱い方、そしてこのニマの扱い方から察するに、この作者は人間の間で起こる愛だの情だのといった感情が織成す化学反応に対して、非常にストイックなのだと思う。
    そこにハッピーエンドだの、哀しい結末だのを持ち込むわけでなく、二人が出会い、そしてまたすれ違うといった具合に敢えて結論を避けているかのようだ。
    それはやはり登山の中で人の生死を左右する局面にこの作者自体が何度も直面しているからだと思う。昨日までふざけあって笑いあっていた仲間が、翌日はクレパスに墜ちて還らぬ人となったり、凍死して動かぬ肉塊となっていたりといった諸行無常観があるのではないか。
    だからこの作者自身、決して他人に対してのめり込むことが無く、人間関係に対して結論を求めぬ距離感を保っているのだろうと思う。

    しかし、1人だけしびれるくらいカッコイイ男が居た。それは名も無い君子の結婚相手である。彼の置手紙にはグッと来ました。ベスト・サブキャラクター賞をあげたい。

    唯一この作品で結論を求めているのは、登頂者(サミッター)になれるのか否かという事ではないだろうか。人との触れ合いにではなく、登山その物に結論を求めているのはやはりこの作者が登山家でもあるからだろう。

    今回不幸だったのは、私がこれを海外生活を送っている当時に読んでしまった事。
    作中に描かれる日本では考えられない異国での珍騒動-笑顔とたどたどしい日本語で近寄る現地人、空港を降りた途端に群がるタクシーの運転手たち、相場以上の運賃を求めるタクシー、etc-は、全く驚きがない。むしろここでは当たり前の事でしかなく、そこに面白みを感じる事が無かった。
    ネパールの街中の描写、登山仲間達の現地での過ごし方など、興味を感じる部分もあったが、ふと自分の暮らしている境遇を見て、あまり変わらないなぁと苦笑した次第だ。

    さて物語は、ネパールのゲリラの中国軍への隠密攻撃から、林が中国軍と仕組んだネパールゲリラの掃討作戦、中国軍の越境攻撃―ネパールゲリラに中国の不法越境をさせることで中国側のネパール行軍の大義名分を得るのが林の狙いだった―へと畳み掛けるように動く。
    実はこの作戦が中国とネパールとが仕組んだゲリラ掃討作戦だったという事実。それから更に反転して、ネパール側が仕組んだ中国進攻を名目としたソ連、アメリカからの援助資金獲得作戦と二転三転事実が裏返る。
    ちょっとくどいぐらいだ。
    冒険小説だから、もっとどんでん返しは少なくていいし、最後にでっかい物を1つ、用意してくれれば満足だったのだが。

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    2024年12月07日
  • 日本沈没 第二部(上)

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    日本沈没から25年後、国土を失った日本人は世界各地に入植したが、現地住民とのトラブルも絶えず発生していた…そんな中、中田首相は旧日本海上に人工島の建造を計画する…。感想としては、前作から33年後の本作、前作の方が手に汗握る展開なのにくらべ、今作は内容としては重い内容だけれど落ち着いているのような…そんな印象を持ちました!下巻もこれから読んでみます。

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    2022年08月15日
  • ヤマケイ文庫 白き嶺の男

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    強烈な個性を持つ登山家の、登山家としての成長を追って書かれた短編集。

    私は登山経験はなく、今後も本格的登山をすることはない。たまに山岳小説を読んで思うのは、こんなに苦しい思いをして、登山家は何を得ているのだろうか?ということ。
    きっとそこには、登山小説には書かれない、文字に書き起こすことはできない、何か素晴らしいものがあるんだろう。そうでなければ、人がこんなに辛いことをする意味がわからない。

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    2019年10月28日
  • 日本沈没 第二部(上)

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    ネタバレ

    日本列島が沈没してから25年。
    各地に移植した日本人は普通にやっていても「ゆっくり・適当・のんびり」の他国人よりもできてしまい、アイデアもあることからかつてのユダヤ人のように現地人とトラブルに。

    他国に拠点を置く日本政府は、ある程度安定してきたかつての日本の領土が沈む海上にフロート式の人工島を計画。
    しかし、竹島には韓国に代わって中国が暗躍していた。
    韓国と中国は昔から国際法を無視するので、ある意味案の定ってことみたい。

    昔から中国と朝鮮は変わらないのね。
    旧ソ連であるロシアも同じ。

    しかし、日本には各地に原発があったわけで、日本が沈没した1970年代にはどれも稼働していただろうし、汚染はどうなっているんだろう?
    その点はよくわからない。

    とりあえず昔の登場人物たちも出てくるようだから、下巻に進んでみよう。

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    2019年08月25日
  • 覇者の戦塵1945 硫黄島航空戦線

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    硫黄島での黒衣の未亡人狩と大陸での和平工作が中心の話でした
    異形の零戦。とあるが微妙~
    クライマックス近し!とある割には盛り上がりもなく印象に残り難い感じでした

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    2019年03月19日
  • 工作艦間宮の戦争 新・航空宇宙軍史

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    外惑星連合と航空宇宙軍という2つの陣営が戦争をしている設定なのだが、偵察とか、諜報とか、人手不足で大型艦を二人で運用とか、めちゃくちゃ地味な部分をクローズアップしている不思議な小説。スペースオペラを期待すると肩透かしを食うが、ビジネス目線で見ると面白い。

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    2018年12月07日
  • ヤマケイ文庫 単独行者 新・加藤文太郎伝上

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    序で加藤遭難を書き起こしてくれて良かった。単独行者・加藤文太郎を最初は小説『孤高の人』で、次に自伝『単独行』で人となりを知り、最後に本書で締めくくろうと思った。他人と一緒に行動するより単独を好む彼を私は理解できる。そして、里歩きから無雪期の登山に移行し、夏山では満足できずに冬山へと突き進む様がよくトレースできた。「一月の思い出」の中において、加藤が後に遭難する一行の幻影を見た記述は何を基にしたものだろう? 単なる文章の高揚のためだとするならばいただけない……

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    2018年01月08日
  • 遙かなり神々の座

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    説明なしの専門用語に困惑しながらも、迫真の山岳シーンに引き込まれる。余計な描写がないのが逆にいいのかも。

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    2026年02月23日
  • コロンビア・ゼロ──新・航空宇宙軍史

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    ネタバレ

    劈頭から、懐かしのタイタン航空隊を即思い出させてくれるザナドゥ高地。
    その後も、ヴァルキリーだったりサラマンダー、サルベージ業者、仮想人格などと
    旧作の読者に向けた航空宇宙軍史世界巡りが続く
    続編を待ち望んでいた読者たちへ、作者からの祝儀のようなものだろうか
    しかしどこか不自然な気もする
    偽物の世界を見せられているような胸騒ぎがする
    叙述トリックを仕掛けられているような気がする
    罠に嵌められ、実は死地に置かれてしまっていることに気がついた登場人物たちの焦りに似たもの不気味さを感じる

    特に後半、慌ただしく旧作キャラの縁者だと明かしながらも
    だからといって何が起こるでもなく気がつくと死んでいる
    ギルガメッシュ要塞
    ほんとうに彼らは死んだのか?
    それとも手品師のように肝心なところを隠して読むものを欺いているのか?

    表向きこの本は、旧作読者向けのサービス濃厚な連作短編で
    旧作読者へのメッセージを無視して読めば全体として一つの
    ストーリーを書いているようで、
    実は全く別の伏線としてこれ自体が存在しているんじゃないのか?

    ネットで書評を読んでいて思い出したけど、この本には
    星の墓標のような無慈悲さが全然ない
    その辺りが、航空宇宙軍史らしからぬ感じを与えているのかもしれない

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    2017年06月05日
  • ヴァレリア・ファイル 下

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    凄腕ハッカーの面目躍如というより,計画性があるのかないのかわからないようなプロの仕事人ジョーズのハチャメチャぶりが際立つ.個性の強すぎる面々が勝手に暴走しつつもうまく落ち着くところに着地する職人芸の谷さん.面白かったです.

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    2017年02月08日
  • ヴァレリア・ファイル 上

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    連作中篇2,5編
    天才ハッカーと記憶を取り戻そうと軍事施設から逃げているサイボーグヴァレリアがチームとして躍動する.コンピュータの情報戦と武器やハイテク暗殺兵器との戦いなどエンターテイメント溢れる物語.3話目の途中で次巻へ.

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    2017年01月27日
  • ヴァレリア・ファイル 上

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    20年くらい前に書かれたとは思えないコンピュータのシステムが緻密に書かれている.ストーリーはハッカーの少年と美女のアンドロイドが大企業に挑むというものだがライトノベルの域を超えていて読み応えがある.

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    2017年01月18日
  • コロンビア・ゼロ──新・航空宇宙軍史

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    短編集7編
    第二次外惑星動乱開戦前の不穏な予兆.いろいろな兵器の開発をいろんな角度から小編にして「コロンビアゼロ」に繋げる.サラマンダーのシュルツ大佐を語った「サラゴッサ・マーケット」と攻撃側迎撃側を前後編で描いた「ギルガメッシュ要塞」と「ガニメデ守備隊」が面白かった.

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    2017年01月06日
  • 航空宇宙軍史・完全版一 カリスト―開戦前夜―/タナトス戦闘団

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    SFの二本立て。一本目はSFとはいえ政治色の強いクーデター。二本目はスパイもの。
    あまりタイトルからは想像し難い。
    面白いしキャラクターも良いんだけど分厚過ぎる。

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    2016年10月23日
  • コロンビア・ゼロ──新・航空宇宙軍史

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    実際の戦争では、このように戦闘員は、パーツでしかなく、部分的な戦争場面ばかりで、全体像なんて分からない。でも、日々それに忙殺されるうちに時間が、経つのが、現実だろう。それぞれの短編が、繋がっていく。開戦で、話が終わった。

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    2015年09月27日
  • コロンビア・ゼロ──新・航空宇宙軍史

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    短編連作集

     毎度ながらのキレの良さ。淡々とした語り口がとても好きだ。淡々過ぎてオチが不明確な時もあるけど、それはそれとして宇宙空間の擬似体験が良い。

     人が主役ではないんだろう。あまり登場人物には感情移入できない。できるほどの情報がないから。でも、大きな宇宙の歴史って感じが良い。第二次宇宙戦争のプロローグを記した本書の続き読みたいな。

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    2015年09月14日
  • ヤマケイ文庫 単独行者 新・加藤文太郎伝上

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    谷甲州が満をじして書き上げた加藤文太郎を題材にした山岳小説。
    新田次郎の『孤高の人』は余りにも有名だけどそれとは違う切り口で書かれている。

    山岳描写は谷らしく臨場感に溢れる。

    登山をする立場からすると、夜間の行動は今一つ賛同出来ない。本書で書かれてるように自分でも経験をした上で、判断してみようかなと。

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    2014年10月16日
  • ヤマケイ文庫 単独行者 新・加藤文太郎伝下

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    谷甲州が満をじして書き上げた加藤文太郎を題材にした山岳小説。
    新田次郎の『孤高の人』は余りにも有名だけどそれとは違う切り口で書かれている。

    山岳描写は谷らしく臨場感に溢れる。

    登山をする立場からすると、夜間の行動は今一つ賛同出来ない。本書で書かれてるように自分でも経験をした上で、判断してみようかなと。

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    2014年09月20日
  • 日本沈没 第二部(上)

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    日本沈没を読んで、第二部が後にリリースされていることを知った。
    第二部は日本沈没から30年後の未来。世界各地では日本人の入植を
    巡って様々な問題が発生していた。
    祖国が無くなるとこういう運命をたどることになることがよく分かる一冊。

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    2012年10月07日
  • 日本沈没 第二部(下)

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    下巻に入って物語は、ぐいぐい展開していきます。最後は、少々出来すぎのエンディングですがここは、小松左京「日本沈没」へのオマージュということで。

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    2011年10月27日