あらすじ
登山家、筧井宏はネパールの山中で得体の知れない男、デヴィッド・マクスウェルと出会い、彼の予言めいた言葉に導かれるように、ヒマラヤ国際登山隊に加わることになる。他のメンバーは、日本人女性の加藤由紀と、イギリス人男性のジョージ・フェアリングとデニス・ワーウィック。しかしこの登山隊内には最初から不可解な軋轢が見え隠れしていた。クライマーたちが過酷な状況で遭遇した幻想と狂気を描く迫力の山岳小説。
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Posted by ブクログ
谷 甲州の山岳小説!
ヒマラヤを舞台に繰り広げられる山の描写はさすがです。
ジャンクション・ピークで起こる不思議な出来事がこの物語の重要な部分。
Posted by ブクログ
大好きな山岳ストーリーを楽しく読めました。簡単な山でいいから登りたいな。谷甲州らしさである「精神乗り移りの術」が含まれていてミステリアスでありました。
Posted by ブクログ
単なる山岳小説と思って読むと、面食らうような内容だった。
発端の導入部は単にマックスという男の特徴を印象付けるためのエピソードだと思っていたが、作者は初めから「これは単なる山岳小説ではありませんよ」と警告を促していた事がわかる。
主人公たちの行動を左右するのは実にスピリチュアルな現象である。
主人公である日本人2人、筧井宏と加藤由紀は、イギリス人の2人、ジョージとデニスの「口寄せ」をし、登攀で訪れる悲劇を回避しようとするのだ。この小説はまさにこの非現実的な設定にノレるかノレないかに懸かっているといえる。
私はどうだったかと云えば、微妙だとしかいえない。
それはこういう現象を絵空事として簡単に否定できないからだ。
私の想像の範疇を超えた話だからでもある。
他の作家の山岳小説を読んだことがないので比較にならないが、谷氏の書く山岳小説は長編・短編含めてどこか宗教色が濃いものがあるのが特徴だと思う。
今回扱っているのはシャーマニズムだが、これまでにも輪廻転生や因習、呪いなどがテーマになっている。
それはこの作者が自ら世界の山々を登る登山家であることが大いに起因しているだろう。特にヒマラヤを題材にすることの多いこの作者が、ネパールやチベットの宗教色濃い習慣、考え方、しきたりに少なからぬ影響を受けているのは間違いない。
そして前にも述べたが、彼自身、極限状態のときに神の配剤としか考えられない事象を経験したのではないだろうか?
だからこういう作品を何の迷いもなく書けるのだと思う。
迫力の登山シーン(特に唾棄すべき男にあえて唾を吐かなかったのが、貴重な水分を無駄にしたくないという描写には非常にリアリティを感じた)と超自然的現象である「口寄せ」、そして予知視、もしくは幻視。現実と非現実が渾然となったこの作品。一見アンバランスに思えるが、地球上で最も宇宙に近く、酸素の薄い場所においては何があっても不思議ではないという作者からのメッセージなのかもしれない。