う〜ん…。
2023年10月読了。
自分も日蓮宗に属する者なのですが、「法華経」の素晴らしさは(かろうじて)理解するものの、「日蓮」と云うあらゆる意味で“パワフル”であり、また他宗への攻撃も激しかった「アクの強さ」に正直付いて行けない気持ちが有りました。
かと言って、そこから分派した某宗教法人は、法華経を唱題しこそすれ、強引な勧誘,布施の徴収,どころか政治団体への票集めまで行い、代表者一人を祀り上げた「○○教」の如き存在には正直辟易しており、また本家(即ち日○○宗)にも近寄り難い雰囲気があり、何故この宗派は心穏やかに「信仰させて」くれないのかしらと、重ね重ね思ってきました。
本書で畫かれた日蓮上人が、そのまま実在の人物像と重なるのかどうかは分かりませんが、“強気な姿勢”の一端を垣間見た様な気持ちになりました。
又、他宗排撃の言葉は「間違った教えを弘めては、かえって禍を招くから」と云う理由からだったという理屈は、何とか飲み込むことも出来ました。
但し、この小説内で語られている経文等全てが「大乗仏教」の経典であり、それがブッダ本人の言葉では無い事は、多くの文献や歴史学からも指摘されている事実です。
その意味において、大乗仏教の経典の範囲内だけで“法論を戦わせる”事に何の意味が有るのか、かえって疑問を感じてしまった事も、偽らざる所感です。
勿論、「原始仏教」とて釈迦入滅から相当年数を経た後に作られたものですから、信じられるものは多くないのですが、そればかり気にしていては“仏教徒”として失格だとも思いました。
今作は、ひたすら法華経の布教に苦心する日蓮像ばかりが描かれ、些か「掘りの浅い物語」でしたので、著者自身の信仰などに影響されていたのかなとも推測しました。
著者には、法華経の教義も含めて、もっとスケールの大きな物語を書いて欲しかったです。法華経の智慧の醍醐味の素晴らしさ等、他宗と争うばかりではない視点も欲しかったです。そういう意味で辛い評価に成りました。やはり著者には「中世ヨーローッパ」を舞台にした物語の方がしっくり来るのでしょうか?これからの活躍を期待しています。