春日武彦のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
自殺論とは何とも不吉なタイトルだが、それこそ不謹慎かもしれないけれども、珠玉のエッセイを読んでいる気分になった。
著者の、親しみやすく軽妙でありながらも精神科医としての専門知に根付く信頼のおける考察に満ちた文章は、相変わらずこちらを惹きつけて止まない。
実際に著者が臨床場面で出会った事例を挟みながら記していてくれるため、私自身も身近なケースを思い浮かべながら読んだ。
あああ、著者の言っているこれは、あの人のあんな状況をいい得ているなあ、などと得心しつつ、不謹慎かもしれないことを承知で言えば、人って面白いなあ、としみじみ感じ入った次第。面白い、と言っては語弊があるならば興味深いと言ったらいいか。よくも悪くもよくわからないものだなあ、と言ったらいいか。
以前著者の本で、著者が、医者として偉そうに患者を診てやるのではなくて、人として相手に真っ直ぐ向き合おうとしているのを読んで以来、すっかり著者のファンになったのであるが、本書の最後でも似たようなことに言及していた。数年前の記述であるから、もう現在は現役引退されているのかなとも思い、若干寂しい気持ちもある。
まあでもだから最近は、対談があったり新しく本が出たりがちょこちょこあるのかもしれない。
なかなかに独特だけれども、人間味のある人好きのするDr.である。
蛇足
ヒッチコックの映画「鳥」は原作あったのね!何度も観たけど全然知らなかった。
デュ・モーリアなんだって。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ新米研修医が気づいた真実、引きこもり患者を救う精神科医、無差別殺人犯への緊急手術、友人の脳腫瘍に向き合う脳外科医、深夜の出産に奔走する医療チームなど、医師作家9名がそれぞれの知識と経験をもとに描く医療小説アンソロジー。
医療小説としてのドラマ性だけでなく、診療の段取り、医師同士の距離感、病院という組織の空気、患者や家族とのすれ違いが自然に描かれている。医療者が読むと「わかる」と思う場面が多い。
使命感、判断力、患者を助けたい気持ち。
一方で、自己正当化、権威性、論文や業績への欲、組織内の空気の悪さ。
医師という職業を美化しすぎず、かといって冷笑しすぎてもいないところが読みやすい。
精神科、外科、脳外科、産婦人科、内科的な視点など、作品ごとに医療の切り口が違う。1冊で“医療小説の総合病院”のように読める。
特に「闇の論文」と「空中テント」がよかった
「闇の論文」は、医療者なら笑えないリアリティがある。論文、名誉、組織、倫理の境界がじわじわ不穏になる感じが印象的。
「空中テント」は、認知症の家族の介護問題を忠実に再現していると思った。診断がくだったときに「当事者としての自覚をもつように」と言われてもピンときていなかった主人公が、その本当の意味に気づくまでの家庭がリアルだった。
「魚類譚」は少しホラーっぽい不穏な感じ
「研修医ヒナノの洞察」「救いたくない命」「春に綻ぶ」「峠を越えてきた命」ドラマになりそうな感じで好き。 -
Posted by ブクログ
定年後勤めだした仕事が少なからず医療に関係しているので、一つ現役医師の小説家が書いた小説を読んでみようと思い、手始めに新潮文庫にある『夜明けのカルテ』という9人の医師小説家の短編を集めたアンソロジーを読んでみた。収録されていたのは下記の作品である。
牛島志季『研修医ヒナノの洞察』
朝比奈秋『魚類譚』
春日武彦『パイナップルのある光景』
中山裕次郎『救いたくない命』
佐竹アキノリ『春に綻ぶ』
久坂部羊『闇の論文』
遠野九重『言葉が消えるまえに』
南杏子『空中テント』
藤ノ木優『峠を超えてきた命』
それぞれ主人公が外科医だったり産婦人科だったり研究職だったり患者を抱える家族だったり。自分に身近な問題が扱われていたり、医療関係者だからこそ書き込める医療用語が出ていたりすると、読む側としても気が引き締まる。研究職を経験したことのある自分にとっては『闇の論文』に興味を持ったが、一番印象に残ったのは救いたくないのに医者と言う立場ですく若くてはならない『救いたくない命』だった。これを機に、医療小説をまとめて読んでみようと思っている。 -
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様々な角度から恐怖にアプローチしたエッセイ。
思索の材料になるのは著者自身の臨床経験、回想、本、映画など。
恐怖の定義として、危機感、不条理感、精神的視野狭窄を挙げている。
基本的に鈍感な自分にとって恐怖とはまず、足を踏み外して転落する、回転体に巻き込まれる等の身体的苦痛か、大勢の前で恥をかくような精神的苦痛かの、痛みの予感ともいうべきものであるように思う。もう一つは意思の疎通が不可能だったり、所以なく起きる現象など、対処しようもない謎に直面して己の無力を意識する場合に生じる。春日先生のいう危機感と不条理感にそれぞれ対応しているだろうか。
恐怖症はとくにない。高所や閉所は人並みに嫌いだし、集合体や昆虫は気持ち悪いとは思うが、恐怖症というよりは不愉快といった方が近いように思う。春日先生は甲殻類恐怖症だという。自分はエビやカニのデザインをかっこいいと思うので理解できない。カニビルは気持ち悪いとは思うが。
他の著書同様、風変わりな小説や映画を紹介するガイドブックとしても読める。古井由吉「人形」、島尾敏雄「捜妻記」、シャーリィ・ジャクスン「ルイザよ、帰ってきておくれ」、映画「人間魚雷回天」「ブリッジ」「牧師といのちの崖」に興味を持った。また、世界没落体験、フィロバット、真・黒色無双などの知識をトリビアとして知ることができた。
締めの文章が、死について述べていながら生を肯定するようで、いい読後感を得られた。 -
Posted by ブクログ
本書のタイトルに心惹かれた方は多いのではないだろうか。恐怖は現実として避けたいと思う反面、「怖いもの見たさ」、むしろ「楽しい」という理由で遊園地のお化け屋敷や絶叫マシンなどの列に並ぶということも珍しくないだろう。
結論から言えば、本書はそういった類いのことに科学的な答えを与えてくれるものではない。恐怖症など、当人でなければ分からないと思われるう恐怖感情のプロセスをうまく言語化し、読者に伝えてくれる。恐怖の言い表しにくい両面性に、著者の感性を忌憚なく切り込んでくれる部分が心地よい。
本書について言えば、読者の視点や内心に寄り添ってくれる立ち位置であると思える。
海外国内問わず、作品の引用も豊富であり、多様な言い知れない恐怖を味わえる点も踏まえ、おすすめしたい一冊だ。 -
Posted by ブクログ
何とも凄い本ではある。
どうしても忌避してしまう「死」に正面から向き合っている。
死のオムニバス、アラカルト、、いろんな話題。
何か全体を通してメッセージがある、というものではない。
副題の「人はなぜ(死に)好奇心を抱くのか」を、いろんな角度から探ってる。
答えはないのだと思う。いろんな本から引用している、鉄腕アトムも。
火の鳥じゃない。
まあ気軽に?死について考える新書になっている。
私にとっての最初の死は小2の時の地方に住む祖父だったが
あまりピンと来なかった。
ピンと来たのはその翌年の、ペットのセキセイインコの死。大泣きした。
なんといっても30歳で父に急死されたのはショックだった。
結婚し独立していたつもりだったが、生まれたときから存在していた父親が
いなくなる喪失感というのは、なんともいえないものだった。
悲しいのは当然だが、庇護がなくなる不安のようなものがあった。
しかもバブルピークの相続で苦労し、、、人生が大きく変わった。目覚めた。
なんてことを思い出しながら読んだ一冊
第1章 死ぬ瞬間
第2章 「永遠」は気味が悪い
第3章 見知らぬ世界
第4章 取り返しがつかない
第5章 死体の件
第6章 死と悪趣味 -
Posted by ブクログ
面白かった。ただ、恐怖の正体がたちどころにわかるような本ではない。精神科医である作者がさまざまな恐怖を語るのに小説、詩、俳句、映画など様々なメディアの作品を使って紹介していく内容。たいそう博識な人でエッセイと捉えてもとても面白いし、読んだりしたい作品もたくさん出てきた。恐怖症についてはへーって感じで、読んだ。恐怖とは危機感、不条理感、精神的視野狭窄の三つが組み合わされる時に湧き起こる感情、って定義はまあ納得できる。自分にとっての恐怖とは何かと考えると、制御不能である状況、と言うのが当てはまる気がするし、これは危機感と不条理感の組み合わせとも解釈できるかもな。読み物としてなかなか面白かったし、面白い作家だなと思う。
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Posted by ブクログ
医師でありながら小説家でもある9人の短編小説が詰まった作品でした。あんなに忙しそうなのに、いつ小説書いてるんだろうって不思議に思う凄い方々。
医師であるからこそのリアルな感じが伝わってきて、とても面白かったです。
特に空中テントは、認知症の家族を介護したことある人なら誰しも共感出来る部分がたくさんあると思いました。施設の入所は、家族を見捨てることではなく、プロがみてくれる安全な場所にいれるという考えが広がったらいいな。
私も主人公のお母さんにとても同情しました。介護する人は、自由が奪われて当然なのか、当事者じゃない人達から見捨ててるなんて文句言われる筋合いはほんとにない。文句を言うなら1週間でいいから、在宅での介護を経験してみたらいいと思う。どれだけ大変かはやったことのある人にしか分からない。
あとは救いたくない命も面白かったです。医療従事者であれば、色んな患者がくる。犯人であろうと、被害者であろうと、どんな人であろうと病院に来たら、全力で治療をしなければならない。そこに差別はあってはならないけれど、医療者も人間だから色んな考えが浮かぶよなと改めて考えさせられました。たくさんの人の命を奪った人を救うことは、正しいのか。でも真相解明のためには、犯人に生きててもらって動機を聞き、罪を償ってもらうのがいいような気もする。難しい問題だと思いました。
こんなにたくさんの医師が書いた作品をたくさん読めて楽しかったです。