水木しげるのレビュー一覧
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水木しげる『水木しげるの山』ヤマケイ文庫。
最近はヤマケイ文庫から矢口高雄、谷口ジロー、手塚治虫、白土三平など名だたる漫画家の作品が続々と刊行されるようになり、時代の変化を感じる。
ヤマケイ文庫だけに少々値段は張るものの、水木しげるの『山』をテーマにしたオリジナルアンソロジーとなっては、購入して読んでみる価値は大いにある。
深山や山里に住まう妖怪と人間が織りなす短編漫画12編の他、口絵にカラー版の日本の妖怪画24点とモノクロ版の世界の妖怪画12点を収録。
『山姫』。青年誌に掲載された短編。山中で迷い、怪異に遭遇するのはよくある話。2人の富山の薬売りが山中を3日間も迷い、辿り着いた灯の先の家に居たのは様々な妖怪と暮らす山姫であった。
『足跡の怪』。今読んでも斬新な怪異だと思う。水木しげるの漫画は自然を破壊する人間という構図が色濃い。妖怪は自然の一部として描かれる。立入禁止の山に入り込んだ2人の男に起きた悲劇。
『雨女』。独り身のじいさんが暇を持て余し、山に行くと一軒家があり、生活用品も備わっていたことから暫くそこで暮らしていると、着物を着た一人の女性が現れる。雨女が妖怪なら雨男も妖怪か。雨男と言えば、我が弟がまさに雨男だ。小学生の頃、遠足となると雨で延期になり、おやつと弁当を持参しての変則授業となった。翌週くらいに遠足となるのだが、当然ながら新しくおやつを買っていた。勿論、弟の結婚式も朝から雨だった。弟が実家に帰ると必ず雨か猛吹雪になるらしい。
『やまたのおろち』。やまびこの正体は呼子という名の妖怪ということらしい。手塚治虫の『雨ふり小僧』にも似ている短編だ。やまたのおろちの足跡を探しに山に入った青年が道に迷い、呼子という妖怪と遭遇する。
『ゲゲゲの鬼太郎 見上げ入道』。『ゲゲゲの鬼太郎』は、水木しげるの代表作。貸本屋時代には『墓場の鬼太郎』というタイトルの恐怖漫画だった。入らずの山に立ち入り悪さした少年が風に攫われ、山の中に。少年の友だちが妖怪ポストで鬼太郎を呼び出す。
『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪あしまがり』。妖怪花を守ろうとする鬼太郎。ねずみ男が例によって鬼太郎を罠に嵌める。妖怪あしまがりは古狸のような風貌。
『ゲゲゲの鬼太郎 ダイダラボッチ』。当時の佐藤栄作に似た首相が登場する。ダイダラボッチに対抗する鬼太郎は苦戦を強いられるが結末は呆気ない。ダイダラボッチはテレビアニメでも観た記憶がある。
『ゲゲゲの鬼太郎 穴ぐら入道』。妖怪を捕まえて見世物にしようとするやくざに鬼太郎が立ち向かう。何時もなら人間の味方をする鬼太郎も、やくざではなく妖怪の味方をする。
『のんのんばあ 黒姫山の主』。パワフルな婆さんが妖怪退治をするという話。『ゲゲゲの鬼太郎』とはまた一味違う。
『河童の三平 木神さま』。校長先生の息子が山で行方不明になり、三平の元に息子の捜索依頼が舞い込む。
『ガン太郎不思議談 庭に住む妖怪』。古い貸本屋漫画。鉄砲の名手ガン太郎が妖怪白山坊を退治する。昔は貸本屋というのがあった。漫画本を1冊10円くらいで貸し出していたように思う。自分の家の近くにも一軒だけ貸本屋があった。
『ねずみ町三番地』。こちらも貸本屋漫画。山に迷い込んだ青年が飢餓状態になり化けねずみたちに助けを求める。
定価1,540円
★★★★ -
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前回の「日本人とはなにか」レビューで私は「死後の世界の魂は、日本人の多くは我々の生活圏内の直ぐ近くにいると思っている」という意味のことを書いたが、図らずも、本書を読むとその仮説を応援してくれているみたいに感じた。
本書は、3つの雑誌に書き継いだ氏の妖怪図鑑のようなものである。学術書ではないので、出典や証言の但し書きがない。人物或いは図が、具体的に何処を示していて、何処から事実に即していて、何処からが氏の創作なのかが判然としない。けれども、紐解けばわかるが、単なる氏の想像の産物として描いているわけではない。ことは推察できる。
前半160頁に渡り氏のカラー図画があり、後半150頁はその解説となっている。解説を読むと、必ずその場所に行っていることが推察される。後半は韓国、台湾、中国、マレーシア、インド、イタリア、ロシア、アメリカ、ニューギニア等々と世界の「目には見えないが、そういうものがいる」ものを漫画として写しとっている。
解説子の言うには、水木しげる氏は、好奇心旺盛で、海外に行って多数の写真を撮りまくった。その「視点」が常人のものではないのだという。首塚大明神のように実在の景色に昔の人々を配して絵を描く場合もあるけれども、「山みこ(日本土佐)」や「はれものの精(マレーシア)」のように、普通の森や何処にもありそうな古い井戸が描かれている。普通の森や井戸なのに、氏の描き込みにより、図画はどんどん暗く特別な空間になってゆく。実際にそれを見たか、或いは地域に行ってその空気を吸って「感じ」なければ描けない絵の数々である。
氏は「妖怪人類学」を呼称していた。決して学術的ではないのに、説得力がある。蓋し、あとを引き継ぎ学を大成する者、一人も居ないと考える。 -
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8月、特に前半は散々だった。だから癒やしを求めに旅に出た。そこでせっかくだからと寄った境港にある水木しげる記念館で水木しげる先生の半生に出会い、そして彼の言葉にずいぶん励まされた。そんなとき、この本を購入した。
水木先生の半生についてが大半を占めているこの本だが、冒頭に示されている幸福七カ条には、このようにある。
第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない。
第二条 しないではいられないことをし続けなさい。
第三条 他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追求すべし。
第四条 好きの力を信じる。
第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
第六条 なまけ者になりまさい。
第七条 目に見えない世界を信じる。
よし、ではこの七カ条を早速実践しよう!と思って本当にその通りにすると、正直言って人生失敗しそう。というのも、水木先生自身、この七カ条通りに生きているとは思えないのだ。子どもの頃は絵の才能を開花させ好きなことに没頭していたようだが、想像を絶する悲惨な戦争体験と、戦後金欠で苦労した話、40歳まで全然お金もなくひたすら紙芝居や漫画を描く日々。やっと鬼太郎でまとまったお金を手にすることになり、その後は妖怪をめぐる旅に出たり、若い頃にできなかった「好き」の追求をしていたようだが、「なめけ者」といって想像するような半生にはとても思えない。
この本は、自分はそう生きることができなかった、でも本当はこう生きた方が幸せだったのはないか、という振り返りの本とでも言おうか。でも、だからといってこの本に価値がないというわけではない。というのも、この七カ条の言わんとする価値観は、実践できるかどうかを問わず、やはり大切なことだからだ。 -
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ちくま文庫オリジナルの水木しげるアンソロジーの第2弾。選者は俳優の佐野史郎。
前巻のヤマザキマリとはまた違った貸本時代の短編を中心とした如何にも佐野史郎が好きそうなラインナップ。選者によってここまでテイストの違うアンソロジーが出来るというのが水木しげるという漫画家の凄さとうか捉えどころの無さだなと思う。
水木しげるはヤマザキマリが選んだような割とストレートな社会批判をやったりする一方で、ナンセンスや下ネタ、ねずみ男的なエゴや享楽性の肯定だったり、或るいは全てを突き放したような無常感や諦念、虚無を感じさせるものだったり本当に捉えどころがないが、同時にどれを読んでも「水木しげる」という描かれる内容を超えた普遍的な個性がある。
何だかよく判らない、底の知れない怖さ、何を描いてもその背景に立ち上がってくる「水木しげる」という存在自体が水木しげるの面白さ、魅力なのかなぁなどと思う。 -
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水木しげる、佐野史郎・編『水木しげる厳選集 虚』ちくま文庫。
『水木しげる厳選集 異』に次いで2ヶ月連続の刊行。俳優の佐野史郎がセレクトした19編の短編を収録。
ちょっと怖い怪異譚から、人間の愚かさを皮肉るユーモラスな短編など幅広い短編がセレクトされている。
『約束』。絵が『ガロ』っぽい青年向けマンガ。昔、友人と交わした約束。
『魔石』。W・W・ジェイコブスの名作『猿の手』をベースにしたホラー。猿の手が奇妙な石に変わっている。ストーリーは『猿の手』とほぼ同じ。
『はかない夢』。欲を張り過ぎれば良いことは無いということか。ある日の、カン太が家に迷い込んで来たねずみ男のような風体のカミサマに自分の身代わりを作って欲しいと頼む。
『空想石』。度々ねずみ男が登場する。水木しげるのマンガ世界では、ねずみ男はダークサイドの象徴なのだろうか。ねずみ男が落とした空想石を拾った農家の倅の茂作がその石を卵だと思い、温めるとカセイジンが産まれる。
『空のサイフ』。またまたねずみ男の登場。ねずみ男の持っていた空のサイフがそれを手にした人びとに次々と不幸をもたらす。
『鳥かご』。何とも奇妙な話。東京郊外の武蔵野で下宿を始めた家に子供が大きな鳥かごを持って、やって来た。
『河童膏』。人間の残酷な所業。打ち身切り傷に効く軟膏の『河童膏』の材料の河童の皿を取る男の話。
『剣豪とぼたもち』。食い物の恨みは怖い、と言うよりも腹が減っては何とやら。とある茶屋で剣豪が雲助たちとぼたもちを巡り、喧嘩する。その剣豪の正体は。
『錬金術』。4度のねずみ男の登場。ねずみ男ではなく、丹角先生という怪しげな男のようだ。この丹角先生の助言で錬金術に没頭する一家の話。
『宇宙虫』。凡太が自分の爪の間に見付けた謎の卵から奇妙な虫が産まれる。母親に注意され、凡太がその虫を河原に捨てるとその虫は短期間で驚くべき進化を遂げる。
『机』。なかなか面白い。水木しげるの家に下宿する男と水木の古い机にまつわる不思議な話。
『古道具屋の怪』。面白い。古道具屋の主人が妻に怒られ、2階の掃除を始めると『ある怪物の日記』というタイトルの奇妙な古書を見付ける。そこに書かれていたのは。
『不思議な手帖』。ねずみ男ならぬ、ねずみ女が登場したと思ったら、何とねずみ男の妹という設定。山田という冴えない男が手にする手帖の不思議な秘密。
『群衆の中に』。大人向けのマンガだろうか。世の中の本当の恐ろしさ。最近マンガが面白くなくなったと言われる漫画家の花森が抱える悩みとは。
『不思議町三番地』。あの世とこの世、どちらが夢で、どちらがうつつなのか。製薬会社で不老不死の薬を研究する山田がある晩、タクシーで家に帰るとタクシーが道に迷い、奇妙な場所に辿り着く。
『深夜のバス』。飲み過ぎて終電を逃した山田っぽい男がやって来たバスに乗ると。
『目ひとつの神 新・雨月物語』。上田秋成の『秋雨物語』より。都を夢見る男が年老いた母親を置いて出奔する。母親がひとつ目地蔵に息子の帰りを祈ると。
『丸い輪の世界』。肺炎で亡くなった妹と会える丸い輪の中の世界。水木しげるが戦争体験者だからこそだろうか、生と死、この世とあの世を意識した短編が多い。
『笠地蔵』。ゲゲゲの鬼太郎より。貧しい老夫婦の家に住みついた、ざしきわらしが真面目で正直に慎ましく生きる老夫婦の窮状を見かね、鬼太郎やぬりかべに相談する。鬼太郎が活躍すると冬でも虫たちが鳴き声で鬼太郎を讃えるのであった。
本体価格900円
★★★★
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