キムチョヨプのレビュー一覧
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だいすきなSF作家キム・チョヨプさんのお仕事エッセイ。独特の抒情性とやわらかな筆致から、文系で感性派の方かと勝手に思っていたら、バリバリの理系(化学科卒)でとてつもない勉強家だった!
とにかく「ここまで手の内をさらしていいの!?」というほど、ことこまかに創作の過程を明かしてくれている。アイデアの泉などないから、とにかく自分の外にある材料を集め、世界を拡張する、と。
影響を受けた本についても、作法書や現行韓国SFまで挙げていて、すごくまじめで正直な方だなぁとますます好きになった。最初はオンラインギルドやボードゲームサークルの仲間と書き始めた、というサブカル文脈もすごくいい。 -
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とても新鮮な読後感だった。ここには、まだ知らなかった価値観と日常が描かれている。
全部で十四の短編が収録されているが、それらは大きく二つのカテゴリに分けられていた。
『互いに触れないよう気を付けながら』と銘打ったものが八つ。『ほかの生き方もあることを』と冠されたものが六つである。
最初のカテゴリにはさまざまな存在同士のコミュニケーションが描かれていた。人とロボットの時もあるし、隣の次元の人間同士の場合もある。
表題の「惑星語書店」はすべての言語が翻訳できるモジュールが当たり前に使われている宇宙の話。そこでは人々は別の星の言葉を何の苦労もなく読めるし、話せるし、理解できる。ただ一軒、翻訳モジュールに対応していない書店があって、そこは観光客に「読めないことで感じる異国情緒」を提供していることで成り立っていた。宇宙のあちこちから、それを感じるために観光客がたくさん来る。
後半のカテゴリはそれぞれ別の主人公の話だが、同じ世界線のものが多い。遠い未来、地球外植物による侵略(「大侵攻」と呼ばれる)が進行しつつある世界の話だ。その過酷な環境で自分たちが生きる道を模索する姿が描かれる。少しぞっとするが、不思議に静かな空気に包まれた話が多かった。彼らにとっては、これも日常だからだろう。
一番好きな話は「サボテンを抱く」という接触症候群の女性の話だが、人々の未来に対する願いがその姿を決定づける疑似人格の話「願いコレクター」も捨てがたい。
ほとんどの物語で当たり前のように女性が主人公だった。星新一や藤子不二雄のSFマンガで当然のように男性が主人公のものばかり読んできた身にすると、窮屈な服を脱ぎ捨てたような気分。こんな本がもっと読めますように。 -
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本屋に並ぶ背表紙にこのタイトルを見つけたとき、すぐにキム・チョヨプさんの作品だとわかった。棚から抜取りレジに向かう。タイトルの勝利だ。
今回の作品は差別的に分断された集団同士でも、個人の単位で向き合えば、わかりあえる、愛することができると言えば大きく括りすぎだろうか。
建付けはSFだが、描かれているのは人の心だ。星間ロケットが飛ぼうが、脳の外に記憶装置を持とうが、他の惑星で亜種に進化していようが、寿命ある生物である限り、切なさはなくならない。社会を形成する動物である限り他者を想う心はなくならないと信じたい。本作品を読めばそれが良くわかる。対立する集団同士でも、身近で会話をすれば信じあえているではないか。 -
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韓国人著者のSFを読むと独特な気分になる。その世界の中に入り込むような没入感がありつつも、描かれる世界とは距離を少し置くような感じ。世界観には引き込まれるが、その中の当事者になる事はない。幽霊みたいにプカプカしている。この感じが好きだ。
これまで読んできたものは短編が多く、世界を移ろうさすらいの幽霊感があったが、こちらは長編。ひとつの世界に長く留まる地縛霊の気分になった。
読んでいてヒントや手がかりは散りばめられているのに、この本が提示する謎が解けない。幽霊でも分からないことがあるんだな。
ありそうでなさそうでありそうな世界の傍観者、として楽しむことが出来た -
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視点の切り取り方の目新しさや、特に女性同士が築く関係性の描き方の豊かさが特徴的なように感じている作者の新刊。こちらもこれまでの作品同様の温かさと新鮮さが感じられた短編集でした。すべてSF作品ではあるんですが、血の通ったSFというか、必ず人の感情が影響して物語が成り立っているので、目新しい設定でもすんなりと入り込めるように思います。
他のだれもが読めない本を並べる書店にやがて読める人が訪れる奇蹟を描いた表題作で運命的な邂逅に心を躍らされる一方、「サボテンを抱く」では物理的な感覚と内からの感情に乱される哀れさをただ切なく受け止める。
この本のお話では「外から来た居住者たち」が一番好きです。不可思議なひととき限りの出会いは少しだけ、けれど確実にひとりの意識を変えることになった。ありえないけどありえるかもしれない「もしかして」が日々に彩りを増したと考えるとなんだかふわりと楽しい気分になれました。あなたの隣に宇宙人って古くからずっとあるけど、料理の仕方でいろんなふうに味わえて、好きなテーマです。
そんな、多様な面白さが詰まった短編集です。長編「派遣者たち」のプロトタイプの作品もあるので、そちらを読んでからのほうがすっと馴染んで読めるかもしれません。 -
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とても興味深く読んだ。本書では、障害者が身体とテクノロジーを結び付けることを「サイボーグ(ないし障害者サイボーグ)」と呼ぶ。
作者の一人キム・ウォニョンさんは弁護士にして俳優であり、骨形成不全症のため車椅子生活をしている。もう一人の作者キム・チョヨプさんはSF作家であり、後天的な聴覚障害者である。世代も障害も異なる二人の当事者が、客観的に、また時に主観的に、正常性の規範を押し付けられる障害者の在り方を綴る。それは韓国の障害者事情でありながら、普遍的なテーマである。
本書からはいくつかの刺激的な論考がすくいとれる。
どこまでが人間の身体なのか。一握りの富裕者しか使えないテクノロジーに意味はあるのか。障害者のためのテクノロジーには「恩情」がつきまとうのではないか。障害は「克服」しなければならないのか。その状態で「在る」私は否定されるものなのか。手話は補聴器に劣るのか。杖や義足で歩くことが車椅子よりも社会的に好まれるのはなぜか。それは非障害者中心主義的な考え方ではないのか。
これらの論考は簡単に答えが出るものではない。しかし、著者の二人は、「不完全さ」に向き合い自分だけの物語を紡ぐことに意味を見いだす。これは、今の日本にも必要な視点だと思う。 -
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『私たちが光の速さで進めないなら』が良かったので期待してこちらも購入。文庫化たすかる。
たとえ同じ人間という種族であっても違う個体であれば本当に理解し合えない部分というものは存在する。様々な理由からどうしたって一緒にはいられないけれど、あなたはかけがえのない存在で互いの芯の部分に触れ合えたような気がした瞬間や一緒に居れた時間をギュッと抱きしめて、あなたの幸福を祈りつつ私は自分の人生を生きていくよ、といったような寂しさを描くのが本当に上手だなと思う。
好きだったお話は『ブレスシャドー』と『古の協約』。
『ブレスシャドー』は全然馴染めなかった故郷と、そんな中でも仲良くしてくれた数少ない友人を思い出した。悲しくつらい環境の中で温もりを感じされてくれるただ唯一の存在。ジョアンの言葉に私はとても共感した。「ここに愛着を抱かせるものが、ここへの憎しみを紛らわせてくれるわけじゃない。それは同時に存在するものなの。あらゆるものがそうであるように」
『古の協約』はノアからイジョンへのメッセージの形式で書かれている。違う星で生まれた者同士がこれほどまでに気が合って交流している様子が本当に尊くて、二人が一緒に居た宝物のような時間を見せてもらった気持ちになる。彼らはやっぱり一緒にはいられないけれど、このメッセージを読み終えた時、私が想像していたノアの住む惑星ベラータの景色がさらに彩度を増し輝いた。惑星の生命サイクルの一部つまり惑星の一部としてノアはきっとずっとそこにいるし、かつて二人が交流した美しい時間があったことを知っているので。 -
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『サボテンを抱く』
皮膚が過敏になり、物質と接触するだけで激しい痛みを伴う障害を患った元建築家のパヒラと、お手伝いロボットの話。
『#cyborg_positive』
機械の眼を持つインフルエンサーリジーが、企業のプロモーションを受けるか迷う話。
『メロン売りとバイオリン弾き』
万引き常習犯の子供ふたりが出会ったメロン売りとバイオリン弾きの話。
『デイジーとおかしな機械』
同じ空間にいるふたりと音声を文字として表示する機械の話。
『惑星語書店』
脳内インプラントの言語変換機能を妨害することで、読む能力がなければ読めないようになっている本を売る書店の店員と、努力して惑星語を習得しようとしている教授の話。
『願いコレクター』
願いを形にする人格オブジェクトの話。
『切ないラブソングはそれぐらいに』
なぜ周期的にバラードが流行るのか調査するタイムトラベラーの話。
『とらえられない風景』
ウェディングフォトグラファーのリッキーが写真撮影できない場所でなんとかして風景をとらえようとする話。
『沼地の少年』
高度な集合知性を持つバクテリアが繁殖する沼と、そのバクテリアに吸収されながらも自我を保っている元人間のオーウェンと、死にかけの少年の話。
『シモンをあとにしながら』
研究者のソウンと、寄生生物に顔を覆われ仮面のような様相になったシモンの人の話。
『みんなのココ』
トラックに轢かれて3年後に目覚めたユナと、当たり前のように存在する地球外生命体ココを愛玩する人間たちの話。
『汚染区域』
研究者のラトナと、キノコに皮膚を覆われた人々が住む村の話。
『外から来た居住者たち』
寂れたサービスエリアで人を待つ味覚音痴のダヒョンが見つけた、超味覚をもつ店主が経営するレストランの話。
『最果ての向こうに』
研究者ヨヌが研究者ラトナに宛てたメッセージ。
14編のSF短編集。
感覚の共有と感覚の相違、あたりまえがそうじゃない。常識を軽く揺さぶってくるような微妙な距離感のSF。作り込まれた長編作品より、これぐらいの短編の方が想像の余地があって面白い。 -
Posted by ブクログ
読んだ。薄かったのでサクッと。全体的には「切ない」という言葉なのだが、「切ない」と言い切ってしまうまで「切ない」わけでもない。ふと胸に宿る寂寞のカケラに気が付かされるような。そのカケラに向き合って過ごすにはあまりに小さすぎるような。でもその存在に気がついたなら明日からの私達は同じではいられない。ケン・リュウの時のようなひりつく苦味と切なさでもなくて、地に足をつけた優しさを感じる。
また、この著者は自らの世界観を広げて小説書くタイプだ。他の本も繋がっている。「派遣者たち」は読みたいし、他も手を広げたい。
直接内容の感想ではない所だと、翻訳が日本人では無いということが新鮮。勿論相互の言語に堪能なのであればどこの誰がやっても構わないのだが大抵の場合訳者の欄にはどの言語であっても日本人の名前が載っている場合が多いので。