キムチョヨプのレビュー一覧

  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

    SFは普段ほとんど読まないから新鮮だった。どの短編にも宇宙や科学にまつわる非現実的な(かつリアルな)できごとが描かれているけど、そのなかには手のひらで触れそうな愛情だったり、私もよく知っている寂しさだったりが含まれていた。私の住む場所とはかけ離れた、想像もつかない世界の話なのに、そこにある感情は想像がつく、その感覚が心地よかった。

    【読んだ目的・理由】読書会で紹介されて気になったから
    【入手経路】買った
    【詳細評価】☆4.2
    【一番好きな表現】何より、時折ルイがヒジンに向かって口を横に広げながら顔をゆがめるとき、それはヒジンの真似をして微笑んでいるということなのか知りたかった。それがわかれば

    0
    2025年12月12日
  • 惑星語書店

    Posted by ブクログ

    とても新鮮な読後感だった。ここには、まだ知らなかった価値観と日常が描かれている。

    全部で十四の短編が収録されているが、それらは大きく二つのカテゴリに分けられていた。
    『互いに触れないよう気を付けながら』と銘打ったものが八つ。『ほかの生き方もあることを』と冠されたものが六つである。
    最初のカテゴリにはさまざまな存在同士のコミュニケーションが描かれていた。人とロボットの時もあるし、隣の次元の人間同士の場合もある。
    表題の「惑星語書店」はすべての言語が翻訳できるモジュールが当たり前に使われている宇宙の話。そこでは人々は別の星の言葉を何の苦労もなく読めるし、話せるし、理解できる。ただ一軒、翻訳モジュ

    0
    2025年12月10日
  • この世界からは出ていくけれど

    Posted by ブクログ

     本屋に並ぶ背表紙にこのタイトルを見つけたとき、すぐにキム・チョヨプさんの作品だとわかった。棚から抜取りレジに向かう。タイトルの勝利だ。

     今回の作品は差別的に分断された集団同士でも、個人の単位で向き合えば、わかりあえる、愛することができると言えば大きく括りすぎだろうか。

     建付けはSFだが、描かれているのは人の心だ。星間ロケットが飛ぼうが、脳の外に記憶装置を持とうが、他の惑星で亜種に進化していようが、寿命ある生物である限り、切なさはなくならない。社会を形成する動物である限り他者を想う心はなくならないと信じたい。本作品を読めばそれが良くわかる。対立する集団同士でも、身近で会話をすれば信じあ

    0
    2025年12月07日
  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

     キム・チョヨプさん初読です。93年生まれ、韓国SF界新進気鋭の作家は、バリバリのリケジョでした。でも、全く堅苦しさのない、むしろ優しさが感じられる筆致でした。在学中の文学賞受賞作を含む著者のデビュー作で、 7篇の短編集です。

     どこか遠い場所や未知な存在への憧れがあるという著者は、豊富な理系知識とそのアイディアを駆使し未来世界を描きます。巧みなのは、明るいはずの未来世界で、こぼれ落ち孤独な人に目を向けた構成で、希望を示している点だろうと思います。

     私たちが今暮らす社会の差別や抑圧・孤独が、未来でも見られるのは悲しいですが、著者は人間の本質に迫り、私たち個々の価値を認識して人との距離を大

    0
    2025年12月07日
  • 地球の果ての温室で

    Posted by ブクログ

    韓国人著者のSFを読むと独特な気分になる。その世界の中に入り込むような没入感がありつつも、描かれる世界とは距離を少し置くような感じ。世界観には引き込まれるが、その中の当事者になる事はない。幽霊みたいにプカプカしている。この感じが好きだ。

    これまで読んできたものは短編が多く、世界を移ろうさすらいの幽霊感があったが、こちらは長編。ひとつの世界に長く留まる地縛霊の気分になった。

    読んでいてヒントや手がかりは散りばめられているのに、この本が提示する謎が解けない。幽霊でも分からないことがあるんだな。

    ありそうでなさそうでありそうな世界の傍観者、として楽しむことが出来た

    0
    2025年11月30日
  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

    SFとしての要素もかなり楽しめますし、人としての「感情」とか「存在意義」、「愛とは何か」「家族とは何か」など大切なことを教えてくれているような優しくて切なくなる短編集でした。

    0
    2025年11月04日
  • この世界からは出ていくけれど

    Posted by ブクログ

    個人の世界とまた別の個人の世界とが重なる瞬間、すれ違う瞬間を感じた。
    わたしたちが人と関わるときに感じるズレや一致を思い出す。どの短編も心に響くものがある。自分はとくに「マリのダンス」「認知空間」が好き。

    0
    2025年11月02日
  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

    どの話も個人の選択を大切なものとして扱っているようだった。選択した結果をとても優しく丁寧に描写している。人の本心を直接的に言葉にするのではなく、ひとつの風景として心に残る形で描いている。
    世の中の目で見ると彼らがした選択は悪いものに見える。でも実際は良い悪いという単純な話ではなくて。
    それは人間味のある選択で、どこか共感できてしまう。

    0
    2025年10月29日
  • サイボーグになる テクノロジーと障害,わたしたちの不完全さについて

    Posted by ブクログ

    障害を持つ著者2人が、医療テクノロジーと社会のあり方を問う。完全な治療は素晴らしいことだが、達成するにはまだ時間もかかる。それに最新医療は高額であり誰もが受診できるおのではない。
    それよりも障害者が障害者のままで、快適に生きるためのテクノロジーはどうあればよいのか。そも障害者を非障害者に合わせるのではなく、障害者を基本とする社会を目指せないのか、などが提言されている。

    0
    2025年10月29日
  • 惑星語書店

    Posted by ブクログ

    視点の切り取り方の目新しさや、特に女性同士が築く関係性の描き方の豊かさが特徴的なように感じている作者の新刊。こちらもこれまでの作品同様の温かさと新鮮さが感じられた短編集でした。すべてSF作品ではあるんですが、血の通ったSFというか、必ず人の感情が影響して物語が成り立っているので、目新しい設定でもすんなりと入り込めるように思います。
    他のだれもが読めない本を並べる書店にやがて読める人が訪れる奇蹟を描いた表題作で運命的な邂逅に心を躍らされる一方、「サボテンを抱く」では物理的な感覚と内からの感情に乱される哀れさをただ切なく受け止める。

    この本のお話では「外から来た居住者たち」が一番好きです。不可思

    0
    2025年10月17日
  • サイボーグになる テクノロジーと障害,わたしたちの不完全さについて

    Posted by ブクログ

    とても興味深く読んだ。本書では、障害者が身体とテクノロジーを結び付けることを「サイボーグ(ないし障害者サイボーグ)」と呼ぶ。

    作者の一人キム・ウォニョンさんは弁護士にして俳優であり、骨形成不全症のため車椅子生活をしている。もう一人の作者キム・チョヨプさんはSF作家であり、後天的な聴覚障害者である。世代も障害も異なる二人の当事者が、客観的に、また時に主観的に、正常性の規範を押し付けられる障害者の在り方を綴る。それは韓国の障害者事情でありながら、普遍的なテーマである。

    本書からはいくつかの刺激的な論考がすくいとれる。
    どこまでが人間の身体なのか。一握りの富裕者しか使えないテクノロジーに意味はあ

    0
    2025年10月17日
  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

    どんなに時代が進んでも、科学が発達した世界でも、人間の心の柔らかい部分は変わらずにあればいいなと思う。SFでこんなに優しい物語……

    「感情の物性」がおもしろかった。物性はいかにして人の心を捉えるのか。

    0
    2025年10月15日
  • この世界からは出ていくけれど

    Posted by ブクログ

    “わたしたちが光の速さで進めないなら”に続き、またも印象的なタイトルと表紙に惹かれて購入。
    初っ端から最後のライオニに涙腺を緩ませられました。他の短編もやっぱりどこか切ないものばかりでしたが、それだけではなくじんわりあたたかい優しさも持ち合わせた作品ばかりで、読んで良かったです。

    0
    2025年10月08日
  • この世界からは出ていくけれど

    Posted by ブクログ

    『私たちが光の速さで進めないなら』が良かったので期待してこちらも購入。文庫化たすかる。

    たとえ同じ人間という種族であっても違う個体であれば本当に理解し合えない部分というものは存在する。様々な理由からどうしたって一緒にはいられないけれど、あなたはかけがえのない存在で互いの芯の部分に触れ合えたような気がした瞬間や一緒に居れた時間をギュッと抱きしめて、あなたの幸福を祈りつつ私は自分の人生を生きていくよ、といったような寂しさを描くのが本当に上手だなと思う。
    好きだったお話は『ブレスシャドー』と『古の協約』。

    『ブレスシャドー』は全然馴染めなかった故郷と、そんな中でも仲良くしてくれた数少ない友人を思

    0
    2025年09月25日
  • この世界からは出ていくけれど

    Posted by ブクログ

    色んな意味での旅立ちや別れがそれぞれの短編で起きるので、どうしてもものさみしい気持ちになる。
    同じ場所で、あなたと変わらずこのままで、が叶わない世界。
    だけどそれは決して絶望的な別れではなく、互いのことを想いあった上でのままならない別れであったりもするから、読み終わったあとに残る感情は決してネガティブなものではない。

    不思議。
    別れの中でも死別が最も大きなものと私は捉えてしまうけれど、今なら「またね」と言える気がする。もう会えない、交わらない時間のことだけを想って絶望する私ではなくなったような感じがする。

    地球が舞台の短編の方が少ないくらい、あくまでもしっかりSFなんだけど、舞台がどこかな

    0
    2025年09月22日
  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

    韓国の作家さんのSF短編集。

    SFならではの高度な技術進歩が、人間の不完全さをかえって愛すべきものにしているような矛盾を感じた。

    人間って本当によく分からんところがいいよねっとなる一つ一つが優しく素敵な話。

    0
    2025年09月20日
  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

    1つひとつの短編に余韻があって、しばらくひたっていたくなる。

    SFだから、未知で私たちの知らない世界のはずなのに、どこか懐かしい郷愁のような感覚がずっとあって、そこにひきつけられたのかもしれない。

    読んでいて優しさと哀しみという絵の具をパレットで混ぜ合わせて、新しい名もない感情を胸に抱いた気持ちになった。
    色があるとしたら、きっと、すごく澄んだ人を育んでくれるような色だ。

    「スペクタル」「わたしたちが光の速さで進めないなら」が好き。

    0
    2025年09月18日
  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

    「巡礼者たちはなぜ帰らない」の感想。
     なぜ巡礼者たちは帰ってこないのか?その疑問を追うSFストーリー。物語の構成とSF設定、心理描写が面白い。
     序盤から中盤にかけて謎と情報が点のように散らばり、終盤でその点が繋がっていき線になる。語り手の視点を追うような構成。これにミステリーで謎を解いていくような面白さがある。話の中で、資料を見るという形で視点が切り替わる多重構造も面白い。
     SF設定と心理描写については、「科学技術」と「人の思い、葛藤」が関係付けて描かれておりリアリティがある。若者の見えない未来への不安、好奇心、希望がリアルに描かれている。


    追記:
    短編「わたしたちが光の速さで進めな

    0
    2025年09月07日
  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

    最近あまりSFを読んでなかったが、
    とある動画で紹介されてるのをみて
    タイトルに惹かれて購入してみた。

    調べてみると、同世代の韓国女性の作家さん。

    まずとても読みやすい文体と短編で長過ぎず、短過ぎずな点が、久々にSFに触れるということもあるが素晴しかった。

    取り扱ってるテーマは感情などの普遍的なもので、
    舞台装置としてSF世界に置かれることで、
    その普遍性や特性をさらに炙りだし、
    読者にも考えさせたり、感じさせたりする構造になっていると思った。

    SF世界のようにAIなどのテクノロジーが外界を目まぐるしく変化させていく半ばSF的な今世において、人間性を考えるきっかけにもなったかな。

    0
    2025年08月30日
  • わたしたちが光の速さで進めないなら

    Posted by ブクログ

    人に対する寂しさや愛おしさを丁寧に丸めて宇宙に放ったような作品だった。

    どんなに科学が進歩しようが、人が人の心を理解するのには時間がかかるし、理解できないまま終わることだってある。それでも、最後まで理解できなかったけどあなたといた時間は忘れないと思うよと、そんなふうに最期に人と別れられたら孤独じゃなくなるのかな。

    どの作品も好きだけど表題の『わたしたちが光の速さで進めないなら』『館内喪失』が特に好き。

    0
    2025年08月25日