キムチョヨプのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ダストフォールという地球規模での災害が発生した後の世界。ドームに逃げ込むことができた人と、耐性を持っていた人が生き残って、世界を再建した。ダストの時期に、地球を覆っていた植物、モスバナが、今頃になって再発生したことから始まった調査だが、主人公アヨンの思い出につながる点があり詳しく調べていく中で、ダスト時代の人々の行動が明らかになっていく。
序文で作者本人が書いているのだが、この本の執筆時期がCOVID-19が最も深刻だった時期に重なっていたとのこと。小説の中のダストフォールが、現実のパンデミックと重なる部分もある。
とても面白かった。おすすめです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ『この世界からは出ていくけれど』に次いで著者を読んだのは2冊目かな。
この本がデビュー作なので、順番としては逆転してしまったけど、テーマを考えると『この世界からは出ていくけれど』から読むのもそんなに間違ってなかったのかな、とか思ったり。
『この世界からは出ていくけれど』は、他者との間にあるどうしようもない断絶を(どちらかと言えば)悲劇的に書かれていることが多かった印象。
対して『わたしたちが光の速さで進めないなら』は、この理解できない他者がそれでも「愛すべき誰か」であった、という部分に善性が感じられて非常に良い。
時が変わっても場所が変わっても、何かを愛する人間性というものは共通しているはず -
Posted by ブクログ
SFだとか、ホラーだとかにどこかずっと偏見があったように思う。読者をびっくりさせることで読ませようとする感じが、インパクトのあるサムネで再生数を稼ごうとするYouTuberのように思えていたのかもしれない。それすらも偏見なのかもしれないが。
著者のSF作家としての生き残りをかけた奮闘記のようなものだと思って読み始めた本書だが、最初の数ページでそのイメージは覆された。非人間に真摯な向き合うこと、それがSFというジャンルと合わさったときに、面白かったで終わらない、とてつもないエンタメが生まれるのかもしれない。
「SFは人間中心主義という長きにわたる天動説を覆すものなのかもしれない」これはもしかし -
Posted by ブクログ
前作『わたしたちが光の速さで進めないなら』が大変良かったのでこちらも。旅立つ者と、見送る者の7つの短編集。
広大な宇宙にある無数の星々、多様な外見、テクノロジー、死生観、多数派と少数派…それぞれの理解と無理解。家族であれ恋人であれ友人であれ、お互い譲らない(譲れない)一線があり、愛していても理解、許容できないこともある。
互いに分かり合えなくても相手を愛すること、相手を思いやることはできる。
どの話も良いのだけど個人的なお気に入りは「キャビン方程式」
文字を追いながら静かに揺さぶられるような感覚。繊細な翻訳も素晴らしい。
寂しさの中に一滴の優しさがふわりと溶け込んだような読後感の一冊。 -
Posted by ブクログ
だいすきなSF作家キム・チョヨプさんのお仕事エッセイ。独特の抒情性とやわらかな筆致から、文系で感性派の方かと勝手に思っていたら、バリバリの理系(化学科卒)でとてつもない勉強家だった!
とにかく「ここまで手の内をさらしていいの!?」というほど、ことこまかに創作の過程を明かしてくれている。アイデアの泉などないから、とにかく自分の外にある材料を集め、世界を拡張する、と。
影響を受けた本についても、作法書や現行韓国SFまで挙げていて、すごくまじめで正直な方だなぁとますます好きになった。最初はオンラインギルドやボードゲームサークルの仲間と書き始めた、というサブカル文脈もすごくいい。 -
Posted by ブクログ
遠い未来や宇宙を舞台にしながら、描かれるのは派手な出来事ではなく、誰かを待つ時間や、届かない距離の中で生きる人々の姿。
SFという枠組みを通して、人の感情や選択を静かに見つめる短編集。
SFは考えずに楽しむもの、という印象が強かったが、ここまで静かで余白の多い作品は初めてで新鮮だった。
SFというフィルターを挟んでいるはずなのに、かえって感情が生々しく立ち上がってくるのが不思議だった。
時間と距離の隔たりが身体感覚として伝わり、説明されない部分に想像が自然と入り込む。
いまだかつて見たことのない世界に思いをはせる、その時間そのものにロマンを感じる一冊。