香納諒一のレビュー一覧

  • 鉄のほころび~刑事花房京子~

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     シリーズが重なるにつれ、新作がどのように書き継がれてゆくかという点に興味があるし、マンネリ化を避ける策は、その後どう取られてゆくのかという辺りにも好奇心の虫が騒いだりする。

     さて『刑事 花房京子』のシリーズも4作目。そもそも女性主人公のシリーズというのが、まず香納諒一作品として珍しい。本シリーズは倒叙形式だから、男性作家であってもこのヒロインを創出しやすかったのかなとも思える。主人公である花房京子の心理に踏み込むことなく、そもそもヒロインにあまり語らせず、ただただ犯罪の真実を追求することに才能を発揮させてゆく手法である。だからこそ犯罪者側から見ても、また読者から見ても、この女性刑事・花房

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    2024年10月17日
  • 新宿花園裏交番 旅立ち

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     本書のタイトル、気になりませんか? ぼくは気になる。坂下巡査が旅立ってシリーズは終わるのであろうか? さてどこに旅立つのだろうか? そのことばかりが脳裏を掠める中の読書時間であった。これまでの本シリーズで登場してきた多くの個性的キャラたちが、新宿という坩堝でまたしても対立し、闘い、血を流し、涙を流す物語である。いつもながらの都会の闇。そのままに。

     ここでも多くの異なる組織に属する人間たちが、激突を繰り返す。暴力と逃走。交番内でのパワーバランスも微妙にぶれてきている。というより交番内の警官たちが結束しているようでいてそもそも不安定であるように見える。否、交番に限らず、主人公坂下巡査の人生に

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    2024年10月01日
  • 新宿花園裏交番 街の灯り

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      長く読書をしているにも関わらず日本の出版事情にさほど詳しくない。海外小説読みのぼくには、国内小説の出版の仕方に関して、いろいろな不思議があるのだが、その一つは、同じ作者でも、作品により、文庫・ソフトカバー・ハードカバーという本の種類の差があることだ。もちろん出版社の判断の差もあるのだろうが、作品やシリーズにそれぞれの重みを作者が付加しているとは思えないので、誰がそれを判断するのかである。香納諒一という作家だけを見ても、本シリーズは最初の二作はハードカバーだったのだが、三作目からは文庫に変わった。日本版コロンボという風味のある花房京子シリーズは、最初から通してソフトカバーである。物語に昭和の

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    2024年10月02日
  • 川崎警察 真夏闇

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     1970年代、昭和の川崎を舞台にした『川崎警察』シリーズ第二弾が登場。何と言っても読みどころは、巷に溢れる凡百の警察小説シリーズと異なり、昭和という時代とその世相を背景に起こる事件を、その当時の方法で捜査してゆくという点に尽きる本シリーズなのだが、70年代を関東で過ごしたぼくにとっては、当時の空気感のようなものが懐かしい。70年代を主に十代で過ごしたぼくよりもさらに少しだけ若い作者の手によって、こうした時代を蘇らせる作品が書かれるとは珍しい。今あの時代を振り返るのはさぞかし大変な作業だったろうと想像される。しかし、この時代、とりわけ沖縄返還の前年という独特に揺れる国内の空気を見事に再現してい

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    2024年05月03日
  • 川崎警察 真夏闇

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    上手い!
    話の運びの上手さから事件が次々と展開を替えていくのを、読者は車谷刑事と共に事件にのめり込んで行かされる。この展開がスムーズであるため無理なく楽しめた。
    返還前の沖縄からの麻薬密輸から、政財界のフィクサーの殺害、密輸に関わって死亡した母親の思い、沖縄の貧しさの中で助け合いながら育った子供たちの思い、自らを犠牲にしても相手を助けようとする思い。
    これらを読み進めるうちに小説への感情移入が加速してゆく。
    物語終章を迎える間際にぐっと涙腺が緩んでしまう熱い展開もあり、車谷の語る母親の最後と相俟って、心を熱くする警察小説となっていた。
    前作の「川崎警察下流域」も良かったが、
    車谷デカ長の清濁合

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    2024年04月24日
  • 絶対聖域 刑事花房京子

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     本作には二つの際立った特徴がある。『刑事コロンボ』を代表格とする、いわば犯罪者の側から語ってしまう倒叙ものであること。これは花房京子シリーズに課せられたシリーズとしての約束ごと。シリーズ読者であればそこにこそ期待するわくわく感が最初から期待させられる。

     もう一つの特徴は、本作に限っては全編刑務所を舞台にしていること。それも刑務所の祭典として一般公開されるばかりか女性歌手までがステージに上がって美声を披露してくれるという特別な日を事件にあてがっていることである。

     事件そのものは、早い段階で読者の目に曝される。殺意がどこにあるのか? コアとなる部分は既にオープンになってはいるものの、なぜ

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    2023年07月22日
  • 名もなき少女に墓碑銘を

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     たまたま手に取った作品だった。
     正直あっという間に読んでしまった。
     疑問符をつけたがる向きはいるかもしれない。割り切れなさを嫌う人もいるかもしれない。
     けれど、そのリアリティの乏しさにこそ、魅力がある。

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    2023年04月19日
  • 逆転のアリバイ 刑事花房京子

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     『刑事コロンボ』ファン必読の花房京子シリーズ、2018年6月以来の第二作が登場。倒叙ミステリーの代表とも言われるコロンボですが、これを日本に置き換えての作風で綴るのが、まさかの香納諒一とは驚くけれど、かといってハードボイルドや警察小説の名手が、突然本格に目覚めたということでもなく、コロンボの風味にチャレンジしながらも、香納諒一のオリジナル作風はきちんと残されていて香納ファンをやっぱり裏切らないのが素敵だ。

     この作者は若手の頃から地理をよく調べて書く作家だと思っていた。小説の舞台となる土地について、現代の都会であれローカルな田舎街であれ、しっかりその土地の陽と陰、風の匂いなどが感じられてと

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    2022年04月20日
  • 幻の女

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    ここまで愛した女は一体本当は誰なんだ?設定が面白く、死後すべてをなげうって探す男の純情さと、むなしさ。

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    2020年11月21日
  • さすらいのキャンパー探偵 降らなきゃ晴れ

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    知らなかった、こんな上手い書き手がいた。って当たり前だ、自分の乏しい読書生活じゃ出会ってない作家は山ほどいる。
    しかしこの探偵さんは魅力的だ。

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    2020年04月14日
  • さすらいのキャンパー探偵 降らなきゃ晴れ

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     辰巳翔一のその後を描いた中編シリーズの開幕である。

     この探偵には、既に三つの顔がある。写真週刊誌カメラマン。私立探偵。そして廃墟カメラマンだ。香納諒一が小説家として踏み出して間もない頃、この探偵は初めて生み出された。既に中年という領域に足を踏み入れていたぼくの眼には、若い作家の作品とは思えないくらい、大人びた作品としての仕上がり具合に驚かされている。絶賛したくなったのが『春になれば君は』(文庫化に当たって『無限遠』と改題)である。

     その頃は写真週刊誌カメラマンの立場を追われてやむなく探偵家業に追いやられるという傷ついた役柄であった辰巳翔一。彼はその後『虚国』(文庫化に当たって『蒼ざめ

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    2019年09月09日
  • 蒼ざめた眠り

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    被写体である廃墟とは? 廃墟の持つ影の深さ、交わされたいくつもの追憶の気配、止まったままの時間、背景に水平線。海と太陽と夜明け前のブルー。ページを開いたところから、一行一行を思わず噛み締めるようにして読んでいる自分に気づく。時には何度も読み返したり……。これじゃいつになっても終わらないな、と心の中で苦笑する。

     「未だに写真の話になると、球を真っ直ぐに打ち返すような、そんな生真面目な反応しかできない」ほど、自分の天職としての写真にこだわる廃墟専門カメラマン。そう言えば香納諒一という人も、小説づくりとなると「球を真っ直ぐに打ち返すような」作家だから、本作の主人公ともシンプルに通じ合ってい

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    2019年04月18日
  • 絵里奈の消滅

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     『絵里奈の消滅』再読。昨秋、本書を読み終えて、この主人公にとても好感を抱いた。刑事を辞めて、新宿で「金で頼まれたことを請け負う」ことで生計を立てている孤独な一匹狼・鬼束啓一郎。ノンストップの探偵小説として楽しく読み終わってのだが、その段階でこの作品が『熱愛』の続編であることを知った。半年も経った今頃になって、改めて書棚から捜し当てた『熱愛』を開く。未読であることに今更ながら気づいた。鬼塚啓一郎がどんな人間であるのか、彼の身に何が起こったのかを、『熱愛』では、改めて深く知ることになった。その勢いで、もう一度、本書『絵里奈の消滅』を読み直す。前回と同様、やはりストーリー展開が面白く、一気に読めた

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    2019年03月13日
  • 無縁旅人

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    実はあんまり期待せず読み始めたんだけど 面白かった。地味だけどね。
    内容はツライ話なんだけど ベテラン刑事2人の人柄と 辻原と舞子の不器用なんだけど 必死な人との関わり方。子供っぽいけど 他人への愛がある。そこに救いというか 読後感の悪くない感じがあるような。
    それにしても岩崎母子には うんざり。
    それと貧困ビジネスに手を染めるひとたち。
    どちらも自分のことしか考えてない。

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    2017年07月09日
  • 刑事群像

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     最終頁を閉じると同時に思わずうーんと唸ってしまった。唸りにも二通りある。不満のうーんと、満足のうーんである。今回は後者の唸りで、うーんの後にすごいな、と付け加えた。繊細に積み上げた造形物のように、まるでマクロなスケールを持った定規で計算され描かれた設計図のように、思われるが、おそらくそうではあるまい。

     現在に起こった事件そのものが二年前の未解決事件と関連付けられてゆき、二年前の事件に関わった刑事たちと、現在の刑事たちが存在する。物語の奥行が、時間的にも距離的にも持つことになった二重構造のために、さらに合わせ鏡のように響き合い、時間の差が生じ、過去の死者と現在の死者が物言わぬ言葉を証拠や死

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    2015年03月09日
  • 幻の女

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    「義務教育と、受験戦争と、弁護士になるための徹夜の勉強で、十代から二十代の前半を過ごし、人間はみな平等だと、煮ても焼いても食えないような戯言を押しつけられ、それを押しつけられている方が楽だとどこかで思いさえしながら生きてきた。
    頭のなかでだけ、様々なことを理解して、理解しきれないことにはなるべく関わらないようにして、理解できる範囲で正義と正義じゃないものとを分けたがっている。」

    700ページあったけど、飽きずに楽しめるハードボイルド。弁護士である主人公が徹底的に謎を追及する姿がたまらない。底無しの謎と腐敗した人間のドラマが面白い作品。

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    2014年01月17日
  • 血の冠

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    うん、最近の香納作品。

    今までの香納作品はどちらかというとアウトローのストーリー。
    影のある男と傷を負った女の、不器用な物語。

    ところがここ数年の香納作品は贄の夜会などに代表されるように、
    警察内部の組織の話や登場人物の過去や心の動きが綾をなし、
    層が厚くなっておもむきが増した気がする。

    この流れがどうなってゆくのかはまだわからないけれど、
    あたしは最近のこの流れがかなり好き。

    この作品もそう。
    ちょっと悲しくて残酷で、切ない。

    作品に陰惨さが加わった分、その陰惨さにつけなければならない理由付けは、
    今までよりもずっと重たく、暗くなる。
    暗さが理由の深さによるのだとしたら、それは作品

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    2011年05月17日
  • ただ去るが如く

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    久しぶりの香納諒一は、長かったけどぐいぐい引き込まれて一気に読み切った。
    うーん、感動。いい話だった!

    香納作品に出てくる男性はいつも、女性に一途で紳士で、
    不器用でとほうもなくカッコイイ!

    今回の主人公、優作も同じ。
    自分が引き起こした事件で解散に追い込んでしまった組の組長の娘を
    いつしか想い、気にしながらも決して伝える事なく身を引き不器用に金を送る。

    最後の解説の香山氏が、あまりに見事に本作品を分析しているので
    ここでへたくそな分析は差し控えるが、この作品は代表作の「幻の女」同様、
    もしかしたらそれ以上に名作だと思う。

    香山先生に、心からのエールを。

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    2011年04月16日
  • 幻の女

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    「五年前に愛を交わしながらも突然姿を消した女、瞭子と偶然の再会を果たした弁護士の栖本誠次は、翌朝、彼女の死を知った。事務所の留守電には、相談したいことがあるとの短い伝言が残されていた。手がかりを求めて彼女の故郷を訪ねると、そこには別の人間の少女時代が…。」
    すごく興味のある内容だったので読んでみた。
    すごくおもしろくて読んでいてわくわくして読めた。

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    2009年12月18日
  • 冬の砦

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    ネタバレ

    2009/3/19 ジュンク堂三宮駅前店にて購入。
    2023/3/16〜3/24

    14年ものの積読本。
    とある事情で警察をクビになった桜木は、友人の村主に救われて学校の用務員となった。ある朝、校内で全裸の女子高生の死体を発見する。生徒は、学校を運営する村主一族の佳奈だった。元警官の経歴を買われて調査に乗り出した桜木であったが、土地に絡む学園のスキャンダルや生徒たちが経験した過去の凄惨な事件など、複雑な事情が次々と明らかになる。果たして、何故少女は全裸で放置されなければならなかったのか。
    色々なストーリーが絡み合って重厚な作品世界を作り出している。名作。

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    2023年03月25日