香納諒一のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
香納諒一の作品を讀んだのは、これが初めてである。
第52囘日本推理協會賞受賞作品だと裏表紙に書いてあつたので、面白くない譯はあるまいと考へて購入した。
面白かつた。
主人公が愛した女は5年前に突然、主人公の前から姿を消した。
そして偶然、再會したその日の夜に何者かに殺されてしまふ。
女は何故殺されたのか?
その理由を探るうちに、殺された女は自分の知つてゐた名前ではないことが判明する。
自分の愛した女の正體は?正體を隱したことと殺されたこととの關係は?
主人公は次第におほきな陰謀の存在に氣づき始める。
主人公は辯護士なのだが、スーパーマンではない。
ハードボイルドなのだが、ことさら意志の勁い人間でもない。
等身大の生身の人間臭さが感じられて、質の高い作品に仕上がつてゐる。
難くせをつけるとすれば、主人公が、その女を愛するにいたつた背景や、その女への愛の強さをもう少し書込んで欲しかつたといふ點だらう。
生命を賭けてまで謎を解かうとする、主人公のモティヴェーションが傳はつてこない。
ちなみに主人公の酒の好みは私と一致してゐる。
作中で何度もアイラモルト、特にラガブーリンが出てきて、私は嬉しかつた。
2004年1月3日讀了
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Posted by ブクログ
鬼束啓一郎……探偵。元新宿警察署の刑事
綿貫/藤木……新宿警察署の刑事
牛沼康男………窃盗の常習犯。麗香の再婚相手
助川麗香………牛沼の元妻。絵里奈の母。占い師
田中絵里奈……牛沼の娘
田中修平………慈慧寺の住職。修一の父
故人)田中修一………麗香の最初の夫。交通事故で死亡。
田中誠司………神奈川県会議員。修一の息子。
漆原智古の弟
故人)田中拓郎………誠司の弟。病死。
漆原智古………麗香の息子。絵里奈の兄
故人)漆原良蔵………政治家。麗香の再々婚相手。
吉崎愛菜………智古の彼女
山名信子………東洋技研に務める絵里奈の同僚
貝原 博………ボクシングジムのオーナー
里村弘江………医師
武藤 明………信用調査会社の調査員
友寄……………都内暴力団の幹部
三井容子………水商売の女
「いいや。詳しいことは何も聞いてねえみたいだな。ただ、娘がらみだそうだ」 「娘……」
「娘の名は?」 「あ、それはわかってます。田中エリナ」絵里奈
──奈良鉄夫だ。秋葉原の電気屋、裏でチャカ売ってる。
「信子の母の里子と申します」
亡くなる数日前から、岬美貴という女に頻繁にかけている。
「漆原智古。こいつが、あの女からうちの社についてあることないこと話を聞き、いい加減な書き込みを繰り返してたんだ」
「田中絵里奈を入社させてやったのは、私だ。信子から、そう頼まれたんだ」
私には困った時に頼れる知り合いがいた。 幸田幸男、パソコン修理屋
「それで、岬さん本人は?」 「それなんですけれど、川口君から、聞いてませんか? 彼女、もう五日も戻ってこないんですよ」
岬美貴は、田中絵里奈だった
「この写真も、ワンダーランド企画の辻という男からのメールに添付されていたのか?」
「三百万は、何の金だ?」 辻は、苦しげにまばたきした。 「それは、名越さんに言われて」
「社長の名は?」 「漆原智古」
田中というのは、お袋さんの苗字か?」 「厳密にいえば、違う。母親の最初の亭主の苗字。うちの母親が何回結婚してるか、知ってる? 四回よ。田中がひとりめで、牛沼はふたりめ。
「吉崎愛菜。愛しいに菜っ葉の菜よ。芸名は吉田マナミだったけど、本名も充分、芸名みたいでしょ」
母親に当たるべきよ。キャサリン助川っていう名前で、占いをしてるの。
「キャサリン助川の本名は、わかりますか?」 「麗香よ。華麗の麗に、香って字。派手な名前。助川麗香。元々、ここのブースでは、彼女の亭主が占いをやってたの。助川玄斉とかなんとか名乗ってるおじいちゃんだけれど、本も数冊出して、結構、儲かってたわ。キャサリンは、初め、この玄斉さんの弟子だったのね。
「それならば、そう答えればよかったはずだ。だが、あなたは写真の少女を、絵里奈さんだと噓をついた。絵里奈さん本人も、そう答えました。それは、なぜです?」
「御住職の田中修平さんを訪ねてきたのですが」
男と女が、もつれ合って死んでいた。
上にのしかかって死んでいるのは漆原智古で、下敷きになっているのが愛菜だった。
牛沼は、漆原が他人に知られては困る何らかの秘密を盗み聞きしたんです。そして、その結果として、漆原に殺害されて多摩川に遺棄された」
大田区の羽田には、麗香、智古、誠司、拓郎、絵里奈の全員が、一時期住民票を置いていた。
「今、誠司さんには、漆原智古を殺害した容疑がかかっています」
「田中さん、率直に訊きます。漆原智古を殺害したのは、絵里奈さんなんですか?」
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無聊(ぶりょう)を託(かこ)つ探偵・鬼束は、刑事だった時に逮捕した男が、水死したことを知る。携帯への着信から、亡くなる前にその男が、行方不明となっている娘の捜索を頼もうとしていたことを知った鬼束は、男の遺品にあった彼女の写真を手に入れ、娘の行方を追い始めるが……。見えてきたのは、娘を取り巻く家族の歪んだ愛情、捜索過程で得た家族写真……。手がかりを掴むたびに増す違和感の果てに、鬼束が目にした衝撃の真実とは? 傑作長編ミステリー。『絵里奈の消滅』を改題。 -
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ネタバレ久々に真っ当なハードボイルド小説を読んだ気がした。
香納諒一デビュー作の本書はハードボイルド小説を書く事に真摯に向き合っている姿勢が感じられ、作者の作家になることに対する並々ならぬ決意という物を感じた。
第1作目にして、作者は結構複雑なプロットを用意している。
暴力団の影がちらつく余命幾許も無い老人の頼みとその老人が記録上、シベリア抑留者の死亡者リストに上がっていること、老人が何故麻薬と金を持ち逃げしたのか、逃亡する老人を複数の暴力団のみならず、ロシア人もなぜ追いかけるのか、などなどなかなか読ませる。物語の進め方も一つ一つ手掛かりが解るたびに更に謎と新たな関係者が登場し、事件の裾野がどんどん広がっていく構成になっており、飽きさせない。第2次大戦の混沌を巡る深い因縁が事件の裏側に横たわっているという真相も作者のこの作品に賭ける意欲がひしひしと伝わってくる。
そしてこの作者の魅力として、しっかりとした描写力と人物像の造形深さが挙げられる。主人公碇田の一人称描写で語られる本書において視線のブレがなく、また時折挟まれる自然描写の雅さなど、物語を形成する風景についても筆を緩める事がない。
一つ一つの言葉を慎重に選んでいるのが実によく判る。
そして魅力ある登場人物の数々。
付き添いの看護婦の弥生、悪友ともいうべき安本兄弟の兄、兵庫県警の綿貫刑事、敵役の恩田庄一など、それぞれに癖があり、物語に膨らみを与えている。特に碇田の敵役である安本兄弟の兄と恩田のキャラクターが際立っている。
河合組側の人間、安本と敵対する森田組側の人間、恩田。しかし、その2人は吉野老人を中心に動いており、それぞれが違った形で主人公碇田をサポートする(いや正確には、サポートを余儀なくされるのだが)。
この辺の敵味方が入り乱れる構成がそれぞれのキャラクターを惹き立てる事に成功している。
さて、結局のところ、本作は『血の収穫』を思わせる構成となっている。主人公が『血の収穫』が二大勢力の潰し合いを仕掛ける側、本作が知らずに巻き込まれる側というそれぞれ立場は違うものの、最終的に行き着くところは「河合組」と「森田組」の麻薬取引先を巡っての抗争だ。
『血の収穫』といえば、ハードボイルドの始祖ダシール・ハメットの代表作である。このことからも作者が、自分はハードボイルド作家としてこれからやっていくのだと宣言している風にも取れる。
俺はこういう小説が書きたいのだ!と声高に叫ぶ声が聞こえてくるかのようだ。
傑作とはまで行かないまでも佳作であることは確か。語弊があるように聞こえるだろうが、正に典型的なハードボイルド小説、プライヴェート・アイ小説である。
しかし、これがデビュー作であるのならば上出来の部類だろう。
この時、作者香納諒一30歳か。また一人応援したくなる作家が出来てしまった。