平川祐弘のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
怪談話以外の随筆は私には少し難しかった。けれど八雲が、題材のことを面白がって書いているように感ぜられた。
『力(りき)ばか』という話に出てくる力は、精神年齢が2歳ほどの16歳。名前にばかと付けるのはどうかと思うが、この時代は差別があまりなかったのか、力は世間から優しくされていたと書かれていたのが印象に残った。
昆虫の研究の『蚊』は、真面目に書いているのだろうがなんだか笑えた。蚊に苛まれる八雲を朝ドラのヘブン先生のイメージで想像すると可笑しい。『蚊』についてヘブン先生役のトミーさんが話しているのをInstagramのショート動画で見た。八雲の墓に参ったトミーさんが、墓前で蚊に刺された話をしていた。
解説には八雲の人柄がわかるエピソードが、妻の節子の書いた『思ひ出の記』より一部引用されており、そちらも気になった。 -
Posted by ブクログ
日本人研究者の英語の主張が活字となり世界で認められてこそ意味がある。「日本人は日本語で」というのは島国根性で了見が狭い。羽田は日本の空港だから管制官は日本語でやれと主張する人はいない。p.30
宗教はどこの国でも戦争中は国に仕える。米大統領はGod bless youと米兵を祝福して戦地に送り出す。p.81
自国を批判することは大切である。しかし自国を悪く言う方が恰好がいいという知的ファッションだけの人間もいる。世間には親が嫌いな子供がいる。親に楯突くことで子は育つ。反抗期の子に親孝行を説いても無駄だろう。だが気づいてみると、孝行しようと思うときに親は亡い。p.104
日米開戦をせざるを得ない事態に日本を追い込んだのはルーズヴェルトの辣腕(優れた能力)であり、そんな挑発にのったことが軍国日本の愚かしさだった。p.120
丸山真男は1960年安保で一部の学生が国会で荒れたとき、民主主義の勝利のように讃えた。しかし同じ学生が1968年に東大法学部を襲うと、今度は「暴徒」だと憤慨した。p.127
「良心的」な新聞人には、吉田清治の銅像と慰安婦像を朝日新聞社屋の正面に並べ、それを社員に拝ませて、日本の右傾化を防いでもらいたい。p.245
アーリントン国立墓地。ヴァージニア州。独立戦争・南北戦争・世界大戦・朝鮮戦争・ベトナム戦争・湾岸戦争などで戦死した軍人・政府要人が埋葬され、名前が刻まれている。奴隷制廃止のために戦った兵士も、奴隷制維持のために戦った兵士も、ともに埋葬されている。p.249 -
Posted by ブクログ
ネタバレ上巻・中巻に続き、本巻が最後。8-10日にわたる30話を収録しています。
話の内容は相変わらずトンデモ話やエロ話なのですが、一番強烈だったのは第9日第10話。ピエトロ親父の妻を神父さんが魔法で雌馬に変えるお話。生々しくて粗筋を書くのも躊躇する笑。興味がある方は是非読んでみてください。
他方、第10日は「愛やその他のことについて、立派なことをした人の話」というテーマが掲げられます。ここではこれまでと趣向がやや異なり、理性・忠節・貞節・騎士道といった美徳・人徳が発揮されたエピソードが描かれます。
ですから、とりわけこの下巻を読み終えて感じたのは、人間の振れ幅の大きさ。邪悪にもなれれば気高く振舞えることこそ人間の特徴なのだなあとひとりごちた次第です。
かつてドイツの哲学者のマックス・シェーラーはこのような人間の可塑性を世界開放性Welt-offenheit (ドイツ語怪しいです) と表現しましたが、本デカメロンはそのような人間の特性をありありと表していると感じました。
・・・
中世文学の金字塔たるデカメロンは後世への影響も大きく、『エプタメロン』(7日物語。ヴァロア朝フランソワ1世の姉が記す)や『カンタベリー物語』(英国版デカメロン)が模して著わされました。こうした作品も機会を見つけて読んでみたいと思います。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ3巻からなる大作の中巻は4日目から7日目の計4日間・40話を収録しています。
当『デカメロン』ですが、実は毎日テーマが決められ、話が展開していきます。例えば4日目は「その恋が不幸な結末を迎えた人の話」、7日目は「女たちが夫に対してやらかした悪さの数々」など。でも、艶話・面白話もこうも続くと、多少の変化が日々ついているとはいえやはり少し飽きを感じてしまいます。
そんなことをたらたら考えながら読んでいましたが、訳者平川氏の渾身の解説に大きな学びがありました。それはダンテとの対照性です。
端的に言えば、ボッカチヨは寛容である、という主張。
ボッカチヨはダンテを尊敬し、作品も相当読み込んだらしく、作中でしばしば『神曲』の構成や言い回しを借用している箇所があります(懇切丁寧に注が付いています)。ところがそのスタンスたるや対照的というのが平川氏の意見。曰く、ダンテは旧来の教会を批判しつつも結局キリスト教至上主義的で、他宗教(ユダヤとイスラムです)を異教徒として排他的・攻撃的に扱う一方、ボッカチヨは本作でユダヤ教徒・イスラム教徒を悪者扱いすることもありません(寧ろ国内のヴェネツィア人への揶揄が多い)。またダンテが信賞必罰・因果応報的な世界観を展開している一方(煉獄の様子の描写ですからねえ)、ボッカチヨの作風はより人間の本性・欲求を描いており、当然これに対して同情的なスタンスであることが見て取れます。
ルネサンスは人間中心、などと言いますが、宗教的ストイシズムがどうにも自然ではないことを筆者ボッカチオが表現しようとしていたとすれば、やはり本作こそがルネサンス文学の代表にふさわしいと思った次第です。
そう考えれば、本作も単なるエロ話集成ではなく、寧ろ人間の欲求を認めたうえでどう倫理や規範をファインチューンするかという実践的な議論の発射台にもなりうる、と考えることもできるのかもしれません。
・・・
それにしても、本作の註を読んでいて、つくづく翻訳というのは難しそうだなあと感じました。地名をイタリア語読みするか、日本での通称を使うか、などの呼称の統一から始まり、なるべく文章を字義通り訳す努力を続けつつ必要な個所については意訳を大胆に導入するなど。意味が不明瞭な個所はドイツ語訳・英語訳・フランス語訳を適宜参照し、意味の把握に努める(註にその顛末も明記)。加えて、ダンテはじめ過去の作品の言い回しやオマージュについてもきちんと註を打って、読者により深い理解を促す。
これは大仕事です。
私は仕事では英語を使っていまして、機会があったら翻訳で小遣い稼ぎでもできないかなーと普段から淡くよこしまな思いを抱いていたのです。でも、自分の普段使いの外国語運用・翻訳は、文学作品の翻訳とは大きく乖離する、というか真逆であることを思い知りました。
私はメールにせよ、会話にせよ、『要は何か』という点にフォーカスし読み・書き・しゃべります(ある意味業務上のコニュニケーションはぶっきらぼうでbluntかもしれません)。やりとりは、大意・本意を読み取ることが第一で、その内容の要点を上司に報告するとなると、顛末のほんの一部の中心しか(あえて)話さないのです。
この調子で翻訳をしたら、意訳だらけの要点だけの味わいもへったくれもないレポートができること間違いありません。
翻訳者の日々の仕事に感謝をしたくなった今日この頃です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ世界史でボッカチョを習うまでは、デカメロンと聞けば私には「少年隊」しか思い浮かびませんでした(ほとんどのかたの頭に?が浮かぶことでしょう)。
ボッカチョは世界史ではルネサンス期の文学者として登場しますね。そして、本デカメロンは、ペストで人口の2/3が死に絶えたフィレンツェで男女10人が10日間にわたりとっておきの話を披露するというものです。
全体に渡り艶話が多いのが特徴。とりわけ出家した修道士が性欲むき出しであれやこれやといそしむ話や、連れ合いが居る身なのに「真実の愛」とか何とかでもう手八丁口八丁で合体しちゃう話とか。700年弱前に完成した作品ですが、今読んでも大分ストレートだなあ、とたじろぐ描写です・・・。
もちろんそれだけではなく、冒険談やとんち系の話もあります。私の上巻(1日目から3日目までの30話)マイベストはとんち系の話です。1日目第3話、ユダヤ人商人メルキゼデックが王様から、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教のどれが一番優れているかと問われ首尾よく返答し難を逃れる話(素直に素晴らしいオチです!)。そういう幅広いバラエティは読んでいて飽きが来ません。
ちなみに表紙の作者はボッティチェリ。『春(プリマヴェーラ)』や『ビーナスの誕生』が有名ですが、本作『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語』は本『デカメロン』第4日に語られるお話。上中下巻を横に並べると一枚の絵になります。素敵。ちなみにプラド美術館収蔵だそうです。死ぬ前に一度行ってみたい美術館。ラス・メニーナスもあるし。
・・・
人間の多様性がよくわかる作品です。
日本文学でも類似の系統といえば、源氏物語、好色一代男、あるいは伊勢物語などが好みの方は楽しく読めるとおもいます。 -
Posted by ブクログ
一日一歌読み進めたが、その一時一時は非常に贅沢な時間だった。
序盤は舞台設定の目新しさに惹かれるものの、半ばこれが不朽の名著たる所以ってなんだ?と悶々とし、終盤になってようやく朧げにその輪郭が見えてきた。
とは言え、原語(トスカーナ語)の詩的な情緒だったり、ウェルギリウスやホラティウス等の詩を味わうことなしに僕の中で名著だと断言はできない。んー歯痒い。
そんな中でも、確実に言えるのはダンテの想像力と描写力、教養の深さは並大抵ではないこと。恐らくそれが名著たらしめている大きな要因だと個人的に思う。
ダンテは実際に見たことのない地獄の世界を行ったかのようにありありと描写する。絶妙な比喩もその一助になっている気もする。そこに人文学、物理学、歴史学などあらゆる学問の教養がスパイスのような役割を果たす。
注釈も詳しく、文庫で手軽に買えることに感謝!
さて、煉獄編へ〜
-
Posted by ブクログ
出口さんがおすすめされていたので急遽購読。ペストが蔓延する中世のフィレンツェから、10人の淑女紳士が別荘地へと避難し、1人1日1話のお話を10日間行うというもの。まさにステイホーム状態。お話というのは、聖職者の恋愛、浮気や不倫、詐欺、敵を貶める策略、不義不忠といった下世話な内容ばかり。今で言うところの週刊誌ネタ。人生に役だつ箴言やありがたいお言葉があるかと思いきや、そんなものは全くなく、面白おかしく楽しく語っていて、ペスト禍にあるとは思えない。これは、そう言うものだとこちらも面白おかしく楽しむのが良い。今より宗教が大きな力を持っていた中世においても、みんなやることはやっているのだ。
この作品は良くダンテの神曲と対比されることが多いらしい。解説によると、ダンテはキリスト教の熱心な信徒であり、神曲の中では「神の栄光」「罪深き人間」「来世利益」などが真剣に語られている。一方、ボッカチオはダンテを尊敬しながらも、つい欲望に負けてやらかしてしまう人間らしさを肯定している。デカメロン出てくる人々は完璧な人ではなく、身近に存在するかのような(ダメ)人間ばかり。
面白いのは、100のお話しのいくつかと、デカメロン以降に書かれた作品のなかに似ているストーリがあること。日本でも井原西鶴の作品に良く似たものがあると言う(神父→お坊さん、騎士→サムライの違いはあるが)。井原西鶴がデカメロンを読んだわけはないので、洋の東西、時代を問わず、人間のすることも、人がくすりと笑ってしまう題材も、共通なんだなあと実感。 -
Posted by ブクログ
西洋古典として名高い『神曲』。
格式高いイメージでしたが、全部で100歌に分かれていて、それぞれのボリュームは大きくないので、割と読みやすかったです。
地獄篇は、詩人ウェルギリウスをお供にダンテが地獄を巡ります。キリスト教社会の死生観や当時のイタリア国内の状況が垣間見ることができます。地獄で刑を受けている人物にダンテの知り合いが多数おり、中には師匠までが責め苦を受けています。特に、ダンテの政敵が出てくるあたり、ダンテの怨念というか私情が感じられて面白いです。
また、世界史上で見知った偉人が出でくる辺りも、当時の価値観が見えて面白いです。サラディンが出てきて驚いた。とはいえ、皆地獄行きとして書かれていますが。
また、ケロベロスやベルゼブブ等、西洋の地獄や魔界の生き物達も一通り出てきます。
非常に深く解読できる名古典ですが、軽い気持ちで一歌ずつ読んでいっても十分楽しめる作品です。 -
Posted by ブクログ
挿し絵豊富だし注釈も親切で宗教・歴史的教養の無い私にも優しい・・・
平川先生訳の神曲、訳文も読みやすいし文章の固さがちょうど良くて(これは人によって好みありそう)理屈的に「?」てなるところは注釈で他の文献からも引いて来つつ解説されてるから痒いところに手が届きますありがてぇ~賢い人の教養お裾分けありがてぇ~
イスカンダルも地獄の下層で人の血を流し産を掠めた暴君として赤々と煮えたぎる血の川で煮られていますからね…所変わればですね
宗教、自殺者に厳しいよね。。。
最後の審判の日に己の亡骸を探しに行くも自分で捨てたものを再び身につけることは許されず地獄の森で自らの魂の茨の木にその肉体が吊るされる。。。