布施英利のレビュー一覧
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『養老先生がその中の一ページを開く。内臓を取り去った解剖体が描かれている。「布施くん、ここにハエが止まっているだろう」養老先生は、その解剖体の男の、足にかけられた布の部分を指す。たしかに、左足の付け根あたりにハエが一匹、描かれている。「どうして、ここにハエがいると思う。考えてみなさい」それが養老先生のアドバイス法だ。あとは、自分が答えを出すしかない』―『序章 ― 一九八五年』
養老孟司の著作は少なからず読んできたので、本書で布施英利が整理分析する養老哲学について違和感はない。平易な言葉で、かつ、論理的に、養老孟司が数多くの著作で記してきた少し急いたような論理展開について解きほぐす作業は、著者 -
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白を貴重にした美しい裸婦。
愛らしい子猫。
幻想的な風景画。
若き日にパリで最も名声を博した日本人画家 藤田嗣治。
おカッパ頭。
丸メガネ。
ちょび髭スタイル。
芸術の都パリで時代の寵児となった彼は、太平洋戦争を前に帰国。
従軍画家として戦場に立ち、戦争画を描き続けた。
終戦後は日本を去り、ニューヨークを経由してパリに戻り、フランス国籍を取得。
カトリックの洗礼を受け、美しい宗教画も多く残した。
そして、二度と日本に戻ることなくその生涯を閉じた。
パリの革命児なのか。
悪の戦争画家なのか。
丹念な取材と、美術の基礎知識、そして歴史的背景を丁寧に噛み砕いていく。
「藤田 -
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同じ著者による『色彩がわかれば絵画がわかる』が面白かったのでこちらも読んでみました。さすがの安定感、高いクォリティで、両方読むと絵画の「色と形」がわかるようになっています。
本書の素晴らしい点は、著者の美術に対する姿勢。あとがきにそのあたりがよくあらわれています。
(引用注: 著者の美大生時代の考えとして)何百年も昔の絵であっても、いつでも「今」それがすばらしい。それは歴史とは無関係だ。(中略)
そこで私はこう考えた。歴史の中に美術はあったが、しかし美術の中に歴史はない。(中略)
ならば、美術史という方法論では、美術の本質はとらえられない。(中略)
美術史とは別の方法で、「美術の理論」を形 -
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絵を見るときだけではなく、生きているときの色の見え方が変わる。著者はとても丁寧に「色とは何か」を「言葉を尽くして」説明しているから。
著者曰く「 色は、言葉で見るものだ」(p.178)。
私たちは目で見ているのではなく脳で色を見ている。網膜に届いた光はそのままでは単なる刺激でしかない。それを意味のある形や色や輝きや質感のある何かに統合しているのは脳の働き。
色を誰かと共有するには、描いて再現するか言葉で再現するかしかない。言葉で受け取った色を感じることができるのも言葉の力。
ふむ。
とはいえ、本人の名誉のために付け加えると、著者は脳内「だけ」で何かわかったつもりになることは厳しく戒めている。体 -
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デュシャンからはじまるという現代アート。その代表的な作家をあげて、わかりやすく説明されている。知っている作家もあれば、知らない作家あって面白かった。しかし、素人としてはどんな作品かを知らないものが多く、口絵も少ないため説明が頭に入ってこなかったりした。もちろんネット検索すれば出てくるが、最後の方はバテ気味で読み終えた。
以下の点は、まだ消化できずにいる。
・デュシャン以降、絵画は死んだ。しかし、その後に来たものはやはり絵画だった(ダミアン・ハースト『桜』、ゲルハルト・リヒターのくだり)。
・サブタイトルの「デュシャンから最果タヒまで」。そして、最果タヒからデュシャンに繋がる、と本書は締められて -
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これはすごい本でした。私たちの体の中には5億年の脊椎動物の歴史が詰まっている。動物を裏返すと植物になり、動物の体内には植物的な世界があるという。
私たちは12という数字をよく使っているが、脳幹の領域には12対の神経が出入している他にも胸椎は12、頸椎7と腰椎5は合計で12、など12という数字は体の中に潜んでいる。そもそも生命は一本の管から発展しているので、人間も一本の管が発達したものだ。
ダーウィンの進化論だけではこれだけ多様で複雑な生命態様を説明することができないと考える人も多いが、私たちはもともと一本の管であり、これから魚やトカゲや猿になり人間となったということも、魚の鰓が退化して首 -
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美術に詳しくなくとも、著者とともに旅行&鑑賞をしている気分で楽しく読むことができた。
ただ作品を見るだけでは、なんとなく好きか嫌いか、すごいかそうでないか、しかわからない。しかし、その背景、作者の生い立ちや、絵画に込められた想いやストーリー、技法を知ると、美術は科学的でもあり哲学的でもあることがわかる。すると、鑑賞の価値は全く違ったものになる。
自身もそうだが、美術の良さがイマイチわからない人たちには、前提となる知識不足が原因だ。闇雲に作品をつくらせる、美術史を暗記させるだけの日本の学校教育を変え、アートを楽しむための素養を身につけさせる必要があると感じた。
ダ・ヴィンチの作品を楽しむための視 -
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あの独特な髪型の、布施先生の色彩学についての本。
色の三原色とか、三属性(明度、色度、彩度)とかは、どこかで見知っていたことだ。
でも、ここにはそれ以上のことがある。
心理学者カッツによる、色の現れ方の九分類。
表面色、面色、空間色なんていう概念が出てくる。
布施さんの説明は、本書だけにとどまらずとても明晰なのだが、その布施さんの説明でさえ、頭がでんぐり返りそうになる概念なのだ。
表面色は、物の表面についている、私たちが目にしている色。
空間色は、透き通っているけれど色がついているもの―例えば色水のようなもの。
これら二つは質感を伴うものだが、これに対して面色は物の質感のない、「空間そのも