布施英利の一覧
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ユーザーレビュー
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『養老先生がその中の一ページを開く。内臓を取り去った解剖体が描かれている。「布施くん、ここにハエが止まっているだろう」養老先生は、その解剖体の男の、足にかけられた布の部分を指す。たしかに、左足の付け根あたりにハエが一匹、描かれている。「どうして、ここにハエがいると思う。考えてみなさい」それが養老先生
...続きを読むのアドバイス法だ。あとは、自分が答えを出すしかない』―『序章 ― 一九八五年』
養老孟司の著作は少なからず読んできたので、本書で布施英利が整理分析する養老哲学について違和感はない。平易な言葉で、かつ、論理的に、養老孟司が数多くの著作で記してきた少し急いたような論理展開について解きほぐす作業は、著者と分析の対象者の学問上の師弟関係もあってか、言外の意図を違(たが)うことなく汲み取り、導き出された答えは正鵠を射ているように思う。それでも何か脳の中で軋むような雑音がするのが聞こえる。
本書の中でも触れられているように、養老孟司の思想の根底には仏教的な思想が流れているように思う。しかもそれは自身の信仰に基づくものではなく、その思想の成り立ちそのものが「脳と身体」の関係性、ひいては「自意識と社会」の関係性を的確に捉えていると結論した結果の指向だ。都市化とは「脳化」であると看破し、脳が嫌う自然=身体(思い通りにならないもの)との折り合いが悪くなることの救済として、洋の東西を問わず信仰が存在するのは必然とも説く養老は、古い中欧の教会に見られる伽藍の構造や採光の様式や焚香の習慣と仏教の定型との共通性を指摘しつつも、敢えてその二つを分け、一神教に与しない。その仏教的な視点によく似た二元論な思考についても本書では丁寧に語られる。
そこで、ふと、妙なことを思いつく。本書が養老孟司の哲学を知るための良書であることは確かなのだが、これはどこかで養老孟司の考えについての「福音書」的な定式化となっていないか、と。
ものすごく単純に言えば、ブッダの目指したものは自我からの解脱であり「悟り」の境地に至るということ。根本においては、脳の言うことだけを信じるのを止め、環境からの身体的入力情報(=感覚)に敏感になれ、ということとも捉えられる。一方、一神教が求めるのは唯一絶対神への信仰であり、それは取りも直さず、脳の言うこと=言葉を全面的に信じるということに違いない。信じ易くするために秘跡などの証拠を示し、本書の言葉に従うなら「強制了解」の様式を取って三段論法的に信じさせるのが福音書だ。
だが、養老孟司の哲学はそのような「判り易さ」を必要とするものなのか、という雑念が湧いてくる。もちろん本書が解きほぐしたような知の巨人の思考の要素分解とその理解は重要と認識しつつも、般若心経が語る世界観である「色」と「空」の同義性のような感覚を持ちながら師の語る言葉を受け止めた方がいいのではないか、とも思うのだ。絡み合ったものは絡み合ったままに受け止めるべきなのではないか、と。
イエスの弟子であったマタイらが記した福音書は、イエスの言行録という意味合いよりも、その言葉自体がギリシア語のユーアンゲリオン(=エヴァンゲリオン)、すなわち「良い知らせ」を意味するように、布教のための書である。これに対して、仏教においてもブッダの法話などを弟子たちが集め仏典が編集されたと考えられているようだが、仏典はその境地に至る準備として世界を理解するための基礎、知恵を集めたものとの意味合いが強い。守るべき律も、その行い自体の意味を問うことが重要なのではなく、蒙を啓く―今まで見えていなかったもの、すなわち自意識が邪魔(無視)をして見え(聞こえ、感じ)ていなかったものを知覚する―ための型を示したものに過ぎない。ならば養老孟司の書も心を無にして読むことが肝要ではないだろうか、などと考えて見たりする。もちろん、著者が目指したものは養老教を広めるための福音の言葉ではなく、養老孟司の言葉の仏典的整理であるとは思うけれども。
「解ったようで判らない、分からないようで解った気になる」
自分の頭で考えるとはその繰り返しに他ならないと思う。
Posted by ブクログ
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「美術の見方を,身につけたい。いったい,何を学んだら,美術はわかるのか。大学を卒業した私は,美術史の研究には進まず,他の分野から美術の核心に迫る道を歩み始めた。美術史とは別の方法で,「美術の理論」をかたちにしたい。そう考えながら。ともあれ,あれから30年。いま,こんな本がある。」(おわりに より)
...続きを読む
美術について構図から見てみようといった感じの本。ところどころ著者のこだわりがみられる,特に仏像と美術解剖学についての掘り下げが深い(この辺は養老孟司に師事した影響が強いのだろう)。
Posted by ブクログ
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白を貴重にした美しい裸婦。
愛らしい子猫。
幻想的な風景画。
若き日にパリで最も名声を博した日本人画家 藤田嗣治。
おカッパ頭。
丸メガネ。
ちょび髭スタイル。
芸術の都パリで時代の寵児となった彼は、太平洋戦争を前に帰国。
従軍画家として戦場に立ち、戦争画を描き続けた。
終戦後は日本
...続きを読むを去り、ニューヨークを経由してパリに戻り、フランス国籍を取得。
カトリックの洗礼を受け、美しい宗教画も多く残した。
そして、二度と日本に戻ることなくその生涯を閉じた。
パリの革命児なのか。
悪の戦争画家なのか。
丹念な取材と、美術の基礎知識、そして歴史的背景を丁寧に噛み砕いていく。
「藤田嗣治は、日本の近代における最大スケールの画家です。文学でいうと、夏目漱石の存在感に匹敵する画家とも言えましょうか。彼は、あの時代を生きた日本人と芸術との関わりを、作品と人生を通して体現し尽くした画家です」(「はじめに」より)
描きたいものを描く。
今を生きることに全力。
事実の奥にある真実に迫っていく力作。
#藤田嗣治
Posted by ブクログ
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勉強しなきゃと思っていた色彩学の基礎。
しかし、色相環だの補色だのなんだのと、耳にしたことがある言葉が出てきた途端、なぜか興味を失ってしまった。
そんな色彩学の基礎を洗い出すように説明してくれていて、ゲーテや利休に触れたり、著者の体験談などが過不足なく混じっていて最後まで興味をもって読み切ることが
...続きを読む出来た。
特に、色彩学の観点から見た絵画の解説は面白い。
今まで説明されてきたことが、絵画解説によってある意味実践というような形で理解できる。
色を学ぶ第一歩の時に、この本に出会えてよかったと思う。
Posted by ブクログ
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同じ著者による『色彩がわかれば絵画がわかる』が面白かったのでこちらも読んでみました。さすがの安定感、高いクォリティで、両方読むと絵画の「色と形」がわかるようになっています。
本書の素晴らしい点は、著者の美術に対する姿勢。あとがきにそのあたりがよくあらわれています。
(引用注: 著者の美大生時代の
...続きを読む考えとして)何百年も昔の絵であっても、いつでも「今」それがすばらしい。それは歴史とは無関係だ。(中略)
そこで私はこう考えた。歴史の中に美術はあったが、しかし美術の中に歴史はない。(中略)
ならば、美術史という方法論では、美術の本質はとらえられない。(中略)
美術史とは別の方法で、「美術の理論」を形にしたい。(p.279-280)
私は何によらず、寄り道した人の視点が大好きなのです。エリートコースまっしぐらの純粋培養ではなく、留学とか挫折とか病気や事故などを経験し、外から中を、邪道から正道を見る視点が大好きなのです。
大学を卒業した私は、美術史の研究には進まず、他の分野から美術の核心に迫る道を歩み始めた。(p.280)
その結果、本書はとてもユニークかつ「誰も言ってないけど確かにその通り!」という観点から「色と形」を論じています。
例えば透視図法。透視図法という技法を論じるのではなく、まず「垂直線」から話しを始めます。題材は、フェルメールの『牛乳を注ぐ女』。牛乳が地球の重力にしたがってまっすぐに落ちていることに触れてから、地球の重力は万物に及ぶ普遍的な力であり、故に垂直線はとても大事、という。「えっ、そこからはじめるの?」
そう、そこから語り始める。
その調子で水平線と対角線を論じるから、次の章で「奥行き」の表現手法としての透視図法がはじめはじわじわと、そして最後に爆発する感じで「あぁ、わかった」と感じられるのです。
そんな感じの、一般的とは言えないけれど腑に落ちるような、よく考えられた角度からの解説が続きます。目次をみると、本書の「構図」それ自体も美しい、と気がつきます。
目次
Step1 ー平面ー
第1章 「点と線」がつくる構図
第2章 「形」が作つく構図
Step2 ー奥行きー
第3章 「空間」がつくる構図
第4章 「次元」がつくる構図
Step3 ー光ー
第5章 「光」がつくる構図
第6章 「色」がつくる構図
Step4 ー人体ー
第7章 人体を描く
第8章 美術解剖学
最後にもう一つ。
著者が理論的に絵画を見る視点を提供しているからといって、理論一辺倒でないことも強調しておきます。印刷物やパソコンのディスプレイでみてもわからない、「物としての美術品」の大切さを訴えます。
超一流の名画の、精巧な複製よりも、二流の現物のほうが、はるかに素晴らしい。美術とは、そういう「モノ」であることを忘れてはいけません。絵は、モノなのです。物質なのです。(p.157)
絵の画面に思い切り近づくと、筆の跡や、絵具の盛り上がりが見えます。絵というのは、線や面がつくる構図、色と色の並び、そういうもので構成されていると思ってしまいますが、本物の絵をまじまじとみると、そうではなくて、絵というのは、筆で描いた、絵具の痕跡なのだということが分かります。(p.157)
Posted by ブクログ
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