篠森ゆりこのレビュー一覧

  • ガチョウの本

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    ファビエンヌとアニエスという一心同体で共依存のような少女の関係性、13歳という年頃の少女たち特有の危うさと脆さが薄っすらと不穏な空気をはらんでいて嫌な予感を感じつつも惹き込まれた。
    序盤ではファビエンヌの方が才能があり成熟しているようにも感じるけれど、読み進めるうちにアニエスの方が大人を翻弄させる魅力や狡猾さを無自覚に備えているように思え少しゾクっとする。
    少女たちが始めたゲームは時に残酷で他人の人生を壊すけれど、何人もの大人たちが少女の才能を搾取することで自分の人生を豊かにしようとしていることの方が余程グロテスクだった。

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    2025年08月30日
  • ガチョウの本

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    ネタバレ

    社会に対して反抗的で、大人に不信感のあるこども心理を繊細に描いている。おそらくいずれ自分もその一員に加わることがわかっていて、それゆえ自由を謳歌し、反骨的に振る舞うも、満たされない。そんな2人だからこそのひねくれた絆が描かれている。

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    2025年05月11日
  • 水曜生まれの子

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    ネタバレ

    ちょっとウィリアム・トレヴァーを思い出したりもしたのだが、トレヴァーとは友人だったのね。

    悲しいだけじゃなく、途中クスクス笑ってしまうところもあって、それが一層リアルだなあと思った。どれもよいが、最初の1篇と最後の1篇が特によかった。

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    2025年04月26日
  • 独りでいるより優しくて

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    愛を遠ざけて生きると決めたとき、人に残されるものは何なのか。
    結婚、子供、仕事、財産といったステータスは、結局は他人との距離を測るための物差しに過ぎない。自らを飾るものを剥がしていったとき、手離せずに残る本質は、孤独だけなのかもしれない。

    誰にも傷つけられないために、あるいは自らを罰っするかの如くに 、人は孤独を選び取り、身につけてゆく。

    心の奥を突き刺すような数々の警句と、ひんやりとした無情さを湛えた筆致によって、イーユン・リーは僕を荒涼とした地平へと導いてゆく。
    だが、人の本当の姿が孤独であるならば、『Kinder than solitude(独りでいるより優しくて)』というタイトルが

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    2025年04月18日
  • 理由のない場所

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    ネタバレ

    16歳で自殺した息子と、母親との対話。つまり母親の心の声。
    母親と対等、或いは負かしてしまう程の息子の言葉。完璧を求めて生きづらくなってしまったのか。丁寧に言葉を紡ぎ、せめて心の中では息子を繋ぎ止めようとしているかのよう。
    本書を読むと、安易に完璧と言う言葉は使えなくなる。

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    2025年03月13日
  • ガチョウの本

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    フランスの田舎町に住む13歳の少女アニエスとファビエンヌ。ストーリーを作るというゲームを2人きりで楽しんでいた。やがて、アニエスのほうが字がきれいということでストーリーを文字に起こし、町の郵便局長でやもめ暮らしのムッシュ・ドゥヴォーに見せると、ドゥヴォーは興味を示し本として出版することに力を貸すことになる。二人で作ったストーリーだが、ファビエンヌの提案でアニエスの名前で世に出ることになる。
    アニエスは、天才少女とマスコミに取り上げられパリへ呼ばれる。やがて、将来のためにとイギリスのフィニィシングスクールで教養とマナーを教えられる事になり、家族やファビエンヌと離れ一人ロンドンへ。

    フランソワー

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    2024年11月12日
  • さすらう者たち

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    文化大革命後の中国で、紅衛兵だった29歳の女性が処刑されるところから物語は始まる。

    市井に生きる人たちの感情や生活が、仔細に淡々と描かれていて、時代を知る、時代の犠牲者になった人たちを知る、っていうペシミスティックな目線に立っているんじゃないところが、この小説の特長だと思う。
    自分が知らない時代の、土地の話になると、歴史ものだと思ってその中に出てくる人たちを遠くに感じがちなんだけど、それが本望でないっていう著者の思いがこもった筆致でした。
    ああ、みんな、自分とおんなじ人間だって思う。

    こういう小説を読んで、出てくる人たちを自分の身近に感じて初めて、歴史に起こった事実とかを本当にきちんと学べ

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    2024年07月26日
  • 理由のない場所

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     限りなくノンフィクションに近いフィクション。訳が素晴らしい。ただ、訳者あとがきに「胸をえぐるような小説」「読む者の涙をさそう」とあるが、そんな陳腐な表現はふさわしくないと思う。
     相手が目の前にいないからこそ交わせる言葉、あちこちに引用されている詩の手触り、対話を通じて明らかになる自分の心の輪郭。できれば「どんよりしていて寒い(p.65)」日に、静かな場所で、自分の人生と重ね合わせながら読みたい作品です。

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    2024年06月30日
  • さすらう者たち

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    ネタバレ

    ほぼ覚えていなかったから再読

    舞台は文革時の中国。反革命分子として処刑される女性がおり、彼女が暮らした街の住人達が、処刑を中心にぐるぐると回っていく感じ。

    でも文革も中国も超えて、普遍的な人間の愚かしさや、人生のままならなさの話。

    失うものがある人は、綺麗事ばかりでは生きていけない。綺麗事を言って胸を張れるのは、周りに守られているか、無知だからだ。

    何も持たない人だけが、こころ安らかに生きていける。でも、好きで物乞いをしているわけではないし、彼らも苦痛を経験している。

    登場人物がみな人間臭くて、みっともなくて、非常に面白かった。

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    2023年08月20日
  • 黄金の少年、エメラルドの少女

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    テーマもいいし文章も素敵だ〜。訳者もいいんだろな。
    タイトルから連想されるようなリリカルな話ではなかった。

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    2023年01月04日
  • 黄金の少年、エメラルドの少女

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    イーユン・リーさんの本は2冊目。

    1冊目に読んださすらう者たちの登場人物たちと同様に、この短編集の主人公たちもみな、強い信念を持ちながら孤独な生活を送っている。

    みな孤独なのに、物語のテーマは全て異なり、今度はこんな話か!と飽きなかった。

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    2022年12月30日
  • さすらう者たち

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    誰かが加害者の一面しか持たないことはないし、被害者の一面しか持たないこともない、ということが徹底されていると感じた。

    それまでの価値観が揺らぎ始めたとき、その価値観を維持するか捨てるかで、生活がガラッと変わるかもしれない恐ろしさを垣間見た。
    フランス革命とかロシア革命とか、歴史では淡々と習うけれど、この作品の登場人物のように、どちら側につくべきか、恐れたり迷ったりした人がいたのかな。

    幸せな物語でも温かい物語でもないけれど、食べ物の描写だけは温かさを感じられて、どんな状況にあっても、ひとは食事によって多かれ少なかれ希望や幸せを感じられるのかなと思う。

    最近河出文庫が好き。
    河出文庫の取り

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    2022年09月28日
  • さすらう者たち

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    文化大革命後の中国で、1人の女性が政治犯として処刑されたことから、否応なく激動の時代の流れに飲まれてしまった市民一人ひとりの生き方を描いた作品。

    いずれも苦しい境遇や、ハンディ、苦悩を背負った人々がフォーカスされるけれど、妙に悲痛な描写に感じないのが不思議だ。

    「さすらう者たち」というタイトルが素晴らしく、時代の流れの中における人間の矮小さを感じさせつつ、時代を紐解く鍵は、決して教科書に載らない人々の生活の中にあることを伝えてくれる。そういった意味で、訳者後書きのコメントも素晴らしい。

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    2021年02月02日
  • 独りでいるより優しくて

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    長患いの親類女性の死を看取った男性から話は始まる。語りの穏やかさから、もっと静かな展開が掘り下げられるのかと思いきや、長患いは服毒事件に端を発しており、エキセントリックな冷たい孤児に振り回された幼馴染みはどちらも普通の幸せや家庭とは縁遠くなり… 時代も地理も視点も目まぐるしく変わり、散々なのに、やっぱり静謐が漂う。不思議なワールドだ。

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    2021年01月20日
  • 独りでいるより優しくて

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    三人の高校生の姉御的な女性が毒のために21年間寝たきりのまま亡くなる.誰が毒を飲ませたのか?という謎が三人の人生に影を落とし,互いに会うことなくいびつな暮らしを送ることになる.愛すること愛されることを恐れ,他人と関係をうまく結べないそんな人生を送ることを描きながら,誰にもがささやかな救いが訪れているような気がした.最後まで誰が犯人か考えながら,他にどんな人生があったのだろうかとも思いながら読んだ.とても面白かった.

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    2020年11月12日
  • さすらう者たち

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    文革直後の中国のお話。
    登場人物が多くて、それぞれがそれぞれの立場で必死に生きようとするお話。完全な悪人も完全な善人もそこにはいない。

    八十と妮妮がすき。世間知らずというわけではなく、むしろ世界の嫌な面をよく知っているはずなのに、二人の間に漂う純朴な空気がたまらなくやるせない。

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    2019年08月13日
  • 黄金の少年、エメラルドの少女

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    中編くらいのものも含め、全9編が収められた短編集。Yリー作品は初めてだけど、概ね淡々とした語り口で綴られていく。不貞を中心とした家庭内の不協和音が、別段恨みがましくもない調子で語られていて、同判断するかは基本的に読者に委ねられている。どの物語も真相らしい真相は明かされないし、そのあたりも淡々とした印象の原因かも。突出した逸品がない分、可もなく不可もなしと思えてしまったけど、読み心地は悪くなかったです。

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    2018年04月13日
  • 独りでいるより優しくて

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    読後丸一日経ったというのに、まだ悲しみの余韻。物語はシャオアイという少女が毒を盛られた、一体誰に?というミステリ仕立だけど、犯人探しが主題じゃない。
    ミステリと思って読むともどかしくて途中で嫌になると思う。
    作風で言うと村上春樹と江國香織を足した感じ。両者好きな方は飽きずに読めるかも。
    しかし、文体は美しいんだけど、好きな系統なんだけど、読みにくいのは、訳者ばかりのせいでもないような。原書読んでないからなんとも言えないんだけど、この作者が中国人だけど、英語で書いた小説だからっていうのも少なからず影響してるのではと予想。英語を母語とする人とは違う言語体系、が産む違和感というのか。それがある種の魅

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    2017年06月26日
  • 独りでいるより優しくて

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    やはり翻訳本は読みにくい!
    正直文章をかみ砕くのに時間がかかり
    あまり状況が浮かんでこなくて
    しんどかった。

    でもそれを差し引いても
    奥深い人間の性みたいなものが
    ひしひしと伝わってきた。

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    2016年02月20日
  • 独りでいるより優しくて

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    中国人が英語やフランス語で小説を書くと、傑作が生まれる確率が高いのは何故だろう。これは如玉と少艾の争いに、黙然と泊陽が巻き込まれたに過ぎないのではないか?如玉が怖かった。黙然は幸せになれた人だったろうに。

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    2015年08月05日