筒井清忠のレビュー一覧
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大正デモクラシー、という言葉があるが、大正時代は、近代化を駆け足で進めてきた明治時代から、個の時代、「大衆化」されてきた時代で、現在の日本社会の原型を形作った時代として捉えることもできる。
大正デモクラシーの時代が、なぜ、軍国主義に向かわなければならなかったのか。
相反することにように思えるが、実は、「大衆化」の文脈で根は同じところにあるのだ。
大正時代は公から個の時代へ移るのだが、そこに「大衆」が生れる一方、同調圧力も生まれる。
そしてマスコミによって煽られることになる。
何となく見過ごされてしまう大正時代を文化面を含めて認識することが歴史を学ぶ上でも大変重要なことだと気付かされた。
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新旧様々な学問的成果も交えて色々な知識を一般向けに判り易く伝えるということが「新書」というようなモノの本旨であるように勝手に思っているのだが、本書は正しくそういう類の良書で、広く薦めたい。
「明治」、「大正」、「昭和」、「平成」というように時代を区切る理解が在る。
そういう中で「大正」は「明治」や「昭和」に比して期間が短く、幕藩体制を止めて新たな体制を創って行った「明治」や、大きな戦争とその後の歩みの「昭和」という巨大な存在感の陰になってしまっているという一面が在ることを否めない。
しかし「幕藩体制を止めて新たな体制を創って行った」後に「如何なった?」というような事、「大きな戦争に突き進んで行 -
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満州事変が日中戦争、そして太平洋戦争を引き起こしたとは言えないが大きな要因の一つになっている。ではなぜ満州事変は起こったのか。
15年5月9日袁世凱は対華21カ条要求を受けいれた、この日は後に国恥記念日になっている。また五四運動という大規模な反日運動を引き起こした。日本国内でも吉野作造が「最小限度の要求」と読んだように議会や世論はこの要求を当然のものと見なしていた。ドイツから奪った山東省の権益や満州の権益のみならず調印時には中国に対する内政干渉とも言える第5条も戦勝国日本にとっては無理な要求とは映らなかったと言うことだ。
辛亥革命後の中国は南に孫文の革命派、北に安徽派、直隷派、奉天派などの -
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筒井先生の本はよく読ませていただいているのだけれども,本書はその中でも面白い。戦前期のポピュリズム台頭の様子が,日比谷焼き討ち事件,大正期の大衆運動,朴烈怪写真事件,田中義一寺内閣時代,統帥権干犯問題,満洲事変,五・一五事件裁判,国際連盟脱退,帝人事件,天皇機関説事件,近衛内閣時代といくつかのトピックスを通じて活写している。
旧平価による金解禁もある意味ポピュリズムの賜物。政治家と新聞が結託して昭和恐慌をもたらした。
現代のわれわれにとってもモリカケ問題は言うに及ばず,あらゆるところでポピュリズムが蔓延っている。
最後にマスコミが民主主義の健全な発展に不可欠という指摘はその通りだと思うが -
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陸軍士官学校事件は、皇道派と統制派の派閥抗争のさなか、辻政信大尉がスパイを送り込み、クーデター計画を捏造したとされる事件で、二・二六事件の原点と呼ばれている事件であるが、これまであまりに謎が多く、実像が明らかにされてこなかった。本書は当事者の日記・記録・回想、捜査に当たった憲兵隊や軍法会議の記録のほか陸軍士官学校候補生らへの取り調べ調書記録なども駆使し、その全貌を明らかにした貴重な研究である。
著者は「諸個人の集合的行為の複合物としての歴史は最初の諸個人の意図を大きく越えほとんどそれと正反対のコースに進むことが多いが、この事件はその典型的ケースだった」(230頁)と述べる。そして、この感慨は -
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複雑な国際関係の中で昭和初期の外交がなぜ敗北し「満洲事変」という軍部の暴発に至ったのかを日露戦後の大衆社会の誕生から整理して筋道を立てて説明している。本書は簡潔で的を射ていると思うが、それでも辛亥革命以後の中国情勢を理解するのは本当に難しい。理由の一つは当時の中国側資料にアクセスすることの困難さがあると思うが、これは現在の共産党政権が倒れでもしない限り、かなり難しいだろう。著者は慎重に当時の外地でのメディア資料なども用いて実証的に迫ろうとしている。日貨排斥運動などについて当時の国際世論から言っても中国側がかなり酷いことをしていたのがよくわかる(それが事変の正当化にはつながらないことは著者も言う
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本書は、「昭和戦前の日本の政治・社会の基底には極めて強い大衆社会化の圧力があり、それは多くの事件に見られたのであった」(「はじめに」より)が、これまで十分にそれらが検討されてきたとはいいがたいことから、正確な実証的成果に基づいた大衆世論からみた昭和史を、14章のテーマに沿って見ていこうとするものである。
全体として、新聞・マスコミ報道によって大衆世論が作り上げられていき、それが大きな同調圧力となって軍部の台頭を招き、政策決定にも影響を与えていったことが解き明かされる。
各章で取り上げられている事件や出来事はそれなりに知ってはいたが、それぞれかなり詳細、具体的な事実を基にしながら、大筋の -
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筒井清忠氏は昭和史を塗り替える注目すべき論考をいくつも世に問うてきた。丸山眞男の日本ファシズム論への批判を皮切りに、二・二六事件が純真無垢な青年による無謀な暴発ではなく、緻密なプランを持ち成功の可能性も大いにあったクーデターであるとする新解釈(『 二・二六事件とその時代―昭和期日本の構造 (ちくま学芸文庫) 』)や、「軍部大臣現役武官制」が軍の政治介入の温床になったという神話の解体(『 昭和十年代の陸軍と政治―軍部大臣現役武官制の虚像と実像 』)など、いずれも手堅い実証に裏付けられたプロの歴史家の仕事だ。本書は対米戦争で破局に至るプロセスの起点として満州事変を捉えてその原因を探るものだが、氏の
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思想家や作家など色々な分野から戦前日本の文化に貢献した人の短い伝記集です。
各伝記は短いながら、きちんとした学術的資料に基づいて執筆されており、かなり良心的です。ただし、一人の人物につき15ページ程度で紹介されているため、詳しい内容は十分に書かれているとはいい切れず、詳しく学びたい場合は「さらに詳しく知るための参考文献」という書籍が各人物ごとに紹介されているため、そちらも合わせて読む必要があります。
本書の特徴として、マンガ家の田河水泡や作家の江戸川乱歩など通常文化史では無視されがちなサブカル分野からも人物が紹介されている点にあります。こうした人物(特に田河水泡)は、十分な伝記を探すことは -
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昭和の戦後も後半。高度成長からバブル時代へと進み、この辺りは自分も同時代の記憶があるところ。
あらためて、あの時の事件は、そういうことがあったのかと思うところも多い。
とくに国際関係の話し、とくに中国や韓国、東南アジアとの関係、歴史認識問題などはあらためて頭の整理が進んだ。
また、安全保障問題、全共闘運動など、そんな熱い時代があったな〜という感覚があると同時に、今、またそんな問題がリアリティのあるものとして浮上している。それは私たちはどれだけのリアリティをもって考えることができているだろうかと思った。
一方、ここに書いてある内容は、自分の理解を大きく変えるようなものでもなく、これはわた -
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ちくま新書の昭和史講義の戦前編のシリーズを一通読み、戦後に進む。
あれ?これって、同じ国なのかな?というほど、違う雰囲気にあらためて驚いた。
戦前の日本を読んでいて、あ〜、これ今でも「あるある」と思うのだけど、この戦後編を読んでみると、戦前はある意味、違う国というほど、違う。
やっぱ、国民性なるものに政治や社会が影響をうけるとともに、そのときの国際情勢などによって、変わるときは、大きく変わる。あとになると、昔はなんでそんなふうに思っていたかすら思い出せないくらいに。
やはり、この変わり身の速さには、「社会的構築」という言葉がふさわしいとしか言えないな〜>
イメージとしては、戦前の日本 -
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ちくま新書の昭和史講義のシリーズは、しっかりとした実証研究を踏まえた内容になっていて、これまでなんとなく分かったようなわからないような昭和史がやっと納得できる説明にであったような感じがしている。
その昭和史講義の編集を担当している筒井清忠さんの時事問題を扱った新書。
なんだか三題噺みたいなタイトルであるが、戦前のさまざまな問題、政治社会構造が、現代においても繰り返されていることを説得力ある形で説明してある。
いろいろな雑誌などに掲載されたものを集めたもので、ややバラバラ感はなくもないが、かえってリアリティがある。
それにしても、日本のポピュリズム的な体質は、まずいな〜と改めて思う。 -
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タイトルから、「満州事変」が起きた数年前、たとえば張作霖爆殺事件あたりからの著述なのかなと思って読むと、著述は明治時代あたりから、中国との関係や国内政治、社会情勢などを踏まえながら、「満州事変」にいたる流れを整理したもの。
これを読むと、「満州事変」が起きたのは、むしろ必然の感じがしてしまうが、あくまでも「満州事変」が起きたという事実があったことをベースにそれにつながる歴史の流れを整理したということ。
つまり、さまざまな歴史の流れはあるわけで、満州事変のようなものが起きなかった、仮に起きたとしてもあそこまで拡大せずに終わった歴史の可能性は多いにあるわけだ。
それでも、やはりこのラインをお -
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戦前の「昭和史講義」シリーズで最後に読んだ。
3巻の「リーダーを通して見る戦争への道」では、政治家が取り扱われているわけだが、なんだかなにをしたいのかわからない人が多い。なんでそうなるかというと、軍部をガバナンスできない、あるいは軍部を動かすために本心とは違うことを言ってみたりするからだ。
という状態で、戦前日本を動かしているのは、やっぱ政治家というより、軍部ということなのかなと思って、こちらを読んでみた。
たしかに軍人のほうが、なにを考えていたのか、なぜそういう判断、行動をしたのかはわかりやすい。(一部、とても政治的に動いている人もいて、政治家同様、本心がわからない人もいるが。。。)