ヘニング・マンケルのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレクルト・ヴァランダーシリーズ第1作。
順を追わずにいくつか読んでいるこのシリーズだが、未読作品も読んでみたくなり手を取った。
クルトの私生活描写が生々しい。奥さんに愛想をつかされ、娘には異国の恋人ができ(それを知らされず)、乱れた食生活で太り、酔っ払い運転で部下につかまり、酔った勢いで美人女性検事の腰を抱きかけてどつかれ…、なんという駄目っぷり。
認知症気味の父親とのぎこちないやりとりや、その父親の今後を姉と相談するシーンなどは、駄目なわけではないが、高齢者福祉社会に住む中年男の悲哀感もたっぷりで、妙なところに親近感がわく。
でも仕事になると、猛烈に働くねんなぁ。決して天才肌の名探偵ではないが、綿密にしつこく念入りに事件を捜査し、決して諦めない。行き詰ろうと、迷宮入りしそうになろうと、予測が外れようと、その場では落ち込んで苦しんでも、執拗に粘っこく解決への糸口を探す。
そんなモーレツな業務をこなし、わずかなプライベート時間を家庭の諸事と酒と美人検事にちょっかいかけることで潰してしまうクルト。過労死するんちゃうかと心配になる。
と、本筋から外れた楽しみもできる本作だが、もちろん警察小説としても読み応え十分。ミステリーという意味では、謎解きが弱く、どんでん返しも荒っぽいが、犯罪捜査に取り組む警察の描きっぷりは見事である。
なるほど、これはシリーズ化するはずで、この後傑作も生まれるわけだ、と納得のシリーズ第1作だった。 -
Posted by ブクログ
<上巻とあわせて>
はじめての北欧ミステリー。
初めは聞きなれない地名や人の名前にとまどったけれど、一文が短くわかりやすく訳されているのでとても読みやすい◎
翻訳をされている柳沢さんの講演に伺った際、「北欧ミステリー作家は、社会小説家だ」とおっしゃっていたことがよくわかる内容だった。
特にジェンダー平等について。
なくならない女性への暴力、人身売買。
女性上司との関係性、女性同僚へ信頼の置き方の変化など…。
そんなことを抜きにしても、最後まで面白く読み進めることができる小説だった!
犯人が分かっているので、犯人と警察の立場から同場面を読めるのが面白い。
「答え」に迫った後半の怒涛の展開は、ページをめくるのがやめられない…。
そして上巻のプロローグと下巻のエピローグが繋がったとき、悲しい結末に思わずうるっときてしまった。
主人公ヴァランダーの感情の変化や行動が、人間味があふれていてとても好感がもてる!
他のヴァランダーシリーズも読みたくなった。 -
Posted by ブクログ
今回は悩み男のヴァランダーが無茶振りでアクションを演じます。てこずった割りに敵はあっさり片がつきますが、まぁイースタ署員の仕事ぶりが面白いし、こういうのもありにします。
シリーズ4作目だけれど、一作目から順不同に読んできたので、残念なことにどうして彼が悩んでいるのかが分からなかった(笑)シリーズというのは話も繋がっていることを改めて確認したが、こういうところは我ながら困ったことだ。
イ-スタ署のヴァランダー警部は、冒頭から正当防衛で射殺した事件で悩んでいる。休暇を勧められて転地しても効果がなく、うつ状態は深まるばかり。
そこに友人の弁護士が尋ねてくる、父親が交通事故で死んだが、腑に落ちないので調べて欲しいと言う。ヴァランダーは警官を辞めようかと思っているときであり、珍しく断ってしまった。
帰宅して読んだ新聞で、その友人が殺された記事を見る。
彼は負い目を感じ、責任感も手伝ってやっと前向きに立ち上がれそうな予感がする。
重い腰を上げて署に復帰、早速父親の事故から調べ始める。
暫く空けていた署内は、新人のアン=ブリッド=フーグルンドが配属されていた。女刑事というのが気に入らなかったが、頭も切れ、その上美しい彼女は、戦力になりそうな有望株だと思えた。
友人の秘書の庭に地雷が埋められたり、自分の車にも爆破装置を仕込まれたが幸いにも生き延びる。
一方では県庁の会計捜査官が自殺をする。ことは重なるものだ。
姿を見せない富豪の城主がいる、次々に起きる事件を繋いでるかのようで、ヴァランダーは何か常に気にかかっている。彼は5年前に郊外の城を買って住み始めた。県内あちこちの施設に高額の寄付をし、研究費を補助し、尊敬されている人物だった。
ヴァランダーは挨拶目的で彼に会いに行く。城はセキュリティーでがっちり固められていた。
非常に紳士的で隙のない男だったが、顔に笑みを張り付かせた様子はなにか無理があるような、笑顔の裏には冷酷さも見えてそれがひっかかった。いつものようにピンときたのだ。
しかし彼だとしても事件の根拠がわからない。調べてみる価値はある、と思うが…… ヴァランダーは働き詰めの同僚を思ってまた惑う、方向を誤ってはいないだろうか。
なすすべも無く、時間が過ぎた。
署長のビュルクは相変わらず事なかれ主義で、長いものには弱腰である。しかし鑑識のニーベリやオーケソン検事に励まされ、同僚も休み返上で動く。ヴァランダーは少しずつ前進する。
ハーデルベリ(城主)に関する情報を確認する捜査に一週間かかった。その間、ヴァランダーもほかの者たちも、平均して5時間も眠らなかった、あとで彼らはその一週間を振り返って、必要とあれば自分たちも高度の捜査能力を(随分無茶をして法を破ってはいるけれど)発揮することが出来ると実感したのだった。
オーケソン検事は言う「この捜査法は時が来たら、警察本庁と法務省がイースタモデルという名で一般に公開することになるだろう」 「私の云っているのは、警察本庁のお偉方の捜査会議のことだ。また政治家のまか不思議な世界のことだ。大勢が集まって御託をならべて<アリを篩にかけ、ラクダを飲み込む>ようなことばかりしているではないか。彼らは実際の仕事をしないで毎晩就寝時に明朝目が覚めたら水がワインに変わっていますようにと祈っているようなものだ」
今回は、完璧に武装した城の中に潜入して調べたいという焦りと、若くして成功した世界的な事業主の闇を暴こうとする執念が、非力なヴァランダーの支えになってパワー全開で猛進する。
事件捜査がハードなら、ソフト面では、ヴァランダーの家庭や親子のつながりなどに紙数を費やしている、彼の人柄を浮き彫りにして親しみを持たせる。事件を追いつつ、同僚や上司の人物の描写も多い。このあたりがヘニング・マンケルの読者サービスでほっとするところ。
「何かおかしい」というヴァランダーの天性の勘と経験に裏打ちされた警官の心が、物語を牽引する。いつものように。
格好のいい警官ではない、逆に悩みも多く、たまにはそれに負けて逃げようとする、そんな身近な人となりが、可愛らしい。
11月初めに起きたこの事件は社会的にも複雑な背景を持っていたが、クリスマス前にやっと目処がつき片付く。
最後、ダイハードもどきのヴァランダーの活躍にはビックリした。やれば出来るのだな!だから☆4のおまけ。 -
Posted by ブクログ
刑事ヴァランダーシリーズ番外編。
ヴァランダーがまだ新米巡査だったころからシリーズ第一作「殺人者の顔」直前までの中短編五編。
新米巡査なのに刑事の真似事をして、禁じられている単独行動の末に撃たれてるし、その後、念願の刑事になっても相変わらず単独行動を繰り返しては時に銃撃戦になったり揉み合いになったりで、ヴァランダーさんはずっとこんな感じだったんだなぁと改めて思う。
ただヴァランダーの単独行動はスタンドプレーというよりは、自分の推理が独りよがりのものなのかの確認だったり、部下や同僚たちを巻き込んではいけないと考えてのことなので、厭な感じはない。またやっちゃったか、という感じ。
モナとの関係は恋人時代から危うく、その後の離婚という結末が予想できる。それでもヴァランダーが後々まで未練を持つのはモナ。叶うことはないけど。ただ娘リンダとの関係は良好でホノボノする。
父親はヴァランダーそっくりで、感情が先走るタイプ。エジプトで起こした事件はファンキー過ぎてビックリする。度々ヴァランダーと喧嘩しているが、読者から見れば似た者親子。ただ時折仲良くもしてるので、ホッとする。
麻薬犯罪、移民の犯罪などの社会的問題もあれば、容易に他人が立ち入れない理解しがたい個人的な事件もあって、事件ものとしても面白かった。
そして最後、表題作のエピローグにシリーズ第一作『殺人者の顔』のプロローグとなるシーンが描かれている。『殺人者の顔』直前のヴァランダーはこんなに大変だったんだなぁと分かり、再び『殺人者の顔』を読み返したくなる。
訳者あとがきによると、シリーズ未訳作品はあと二作あるらしい。いつになるか分からないが楽しみに待ちたい。