そろそろ引退を考え始めたポアロが、自分の名前である
エルキュールに因んだギリシャ神話の英雄「ヘラクレス」が
成し遂げた「12の冒険」にかけて、
その一つ一つの偉業に絡む「12の事件」の依頼を引き受け、
ものの見事に解決する短編集。
彼の引き受けた12の事件は、
ペット誘拐とか政治家のスキャンダルの
...続きを読む揉み消しとか
普段の長編ではポアロが興味を示さず手を出さなそうなものから、
クリスティー女史のある意味得意分野である「毒殺」も数編あるし、
現代の世の中でもニュースで話題になるような
宗教がらみの犯罪もあったりと、実にバラエティ豊かで、
最初の事件「ネメアのライオン」から
最後の事件「ケルベロスの捕獲」まで
途中で飽きる事なく楽く読める。
でも、やっぱり私はポアロ作品は長編の方が好き。
短編になると、元来のポアロ作品の持つ良さが
「凝縮する」というよりは「薄まっている」感じ。
犯人が殺害に至るまでの動機、事件が起きるまでの
経緯(そこに張り巡らされた伏線)、
ポアロがいよいよ事件解決に乗り出し、
容疑者や関係者達と対話し、
分析して真相に辿り着くまでの過程が、
緻密、かつ丁寧に描かれる事で、
真犯人を中心として登場人物達の隠された
心の様(さま)や魅力を浮き彫りにするのが
「ポアロ・シリーズ」の魅力だと思うので、
その表現のボリュームと内容の濃さは
短編だと収めきれない感がある。
ただ、さくっと読めて軽く楽しめる作品ではあるので、
移動中の電車やバスの中での読書とか、
「一人カフェでお茶」とか、
誰かを待っている時の時間つぶしなどにおススメ。