平井正穂のレビュー一覧
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(01)
筆者は,感染と蔓延とその結果としてもたらされる市民の死を克明に(*02)綴っていく.デフォーは幼児にこの1665年のロンドンでのペストの流行と惨事を経験しているが,彼が本書を上梓したのは1722年頃とされ,半世紀以上前の出来事を叔父の遺した記録を通じて生々しく再現しており,その文筆家としての手腕には驚くべきものがある.
(02)
政治的な情況としては,ロンドン市の救恤策も示されるものの,感染者が確認された家屋に,感染の有無にかかわらず家族や同居する使用人などの接触者をまるごと閉鎖する対策が凄まじい.筆者はこの施策を批判しているが,監視人のもとで閉鎖状態が管理されるものの,その家屋を -
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17世紀、350年前のペスト・パンデミックのドキュメンタリー風の小説。しかもあの『ロビンソン・クルーソーの冒険』を書いたディフォーという作家の作品ですよ。ディフォーが生まれたのがその頃、新親や親戚の話を聞いたり、調べたりして、書いたはそれから50年後(初版発行は18世紀初め)と。それにしても古い、なにしろペスト菌の発見も1894年まで待たなければならない(北里柴三郎さん!)時代、果たして現代に通じるものがあるのか?と思って読みましたが、、、。
時は1664年9月初め、場所はロンドン。ペストという悪疫はそれまでに時々発生しては恐れられていたのだが、オランダでまた流行りだしたという噂を耳にした -
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リアリティーはカミュよりある
同名の小説ではカミュの方が有名で新しいのであるが,カミュの作は,フィクションの印象と彼一流の哲学的思考の反映が強い.これに対し本作は17世紀ロンドンを舞台にしているがカミュに比べて極めて現実感が大きい.デフォーの体験記ではないらしいが,まるでルポのような迫力ある描写が印象的でいかにもと感じられる.この時代らしい挿絵も訴える力がある.ここに描かれている家屋閉鎖は,現代なら都市封鎖に対応するものであり,人々の感情は現代も17世紀もあまり大差ない事が分かる.話者がキリスト教に頼って災難を乗り越えようとする姿も印象的である.昨今のコロナ禍に対する世の反応を反省するには絶好の書ではないか.
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若きシェイクスピアが描いた不朽の名作。
ヴェローナ市を舞台にモンタギュー家とキャピュレット家という啀み合う両家に生まれたロミオとジュリーエット。
二人は運命に翻弄され、悲劇的な結末を迎える。
非情な運命とは言え、純情な二人が最終的に一つとなり死んでいく流れは、悲劇ではあるが美しさをも感じた。
ロミオとジュリーエットの恋愛は一週間弱と短いものだが、舞踏会での接吻、その夜のバルコニー・シーン、翌日のキャピュレット家庭園での別れという二人の詩的な掛け合いの場面はリズミカルで、ほろ甘く、汚れを知らぬ美しさに満ちたものである。
シェイクスピア作品は初めてであるが、読み始めたらすぐに惹き込まれた。 -
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ネタバレガリバーが最初に到達した「小人国」は誰でも知っているだろうし、その後迷い込んだ「巨人国」までなら知っている人もいるかもしれない。
しかしその後「日本」や「ラピュタ」、そして「馬人国」まで行っている事を知っている人は少なかろう。
そして岩波文庫版では巻末にドッと注釈が載っているのだが、これほどまで風刺に満ちていると知っている人はほとんどいないのではないか。
その風刺は「小人国」あたりではまだ当時英国に実在したウォルポール内閣を皮肉る程度(この事により書かれた年代が実際の世界史と符合する)なのだが、「巨人国」ではとにかく女性の体臭や風貌を批判するような論調になる。
要約すると「どんな美人も巨 -
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理想郷的な意味合いで使われる「ユートピア」の語源となったのが1516年(!)に出版された同著。本書で示されるその世界観は、奴隷制や相互監視を基本とする社会というのもあり、決して今の時代からは理想的なものと言えるわけではない。
ただ、そういったポイントはもはや5世紀以上も過去に書かれたこの本に対する指摘としては十分ではないかも。何よりも、文芸復興と宗教改革の時代の狭間で、司法官と宗教者としての葛藤に苦しみながら、遂には王に死罪にされた著者、トマス・モアがこの時代に何を思い、限界を感じつつも懸命に理想を託そうとしたその意思に、自分は何よりも興味がある。誰もが希望を持てずに打ちひしがれて、理想を描け