井上一夫のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
アメリカの作家エド・マクベインの長篇ミステリ作品『サディーが死んだとき 87分署シリーズ(原題:Sadie When She Died)』を読みました。
『ショットガン 87分署シリーズ』に続き、エド・マクベインの作品です。
-----story-------------
雪を予感させる雲が覆う下で、街はクリスマスの飾りつけにざわめいていた。
87分署に、殺人事件のしらせがとびこんだのもそんな時だった。
刑事専門の弁護士ジェラルド・フレッチャーが、自宅の寝室で妻サラーの刺殺死体を発見したと報告してきたのだ。
捜査は開始された。
犯行は稚拙で、物盗りによる計画的な犯行とみることができた。
次の朝には早くも決定的な容疑者が浮かび、その男ラルフ・コーウィンは抵抗することもなく逮捕され、麻薬の金欲しさに押し入り、サラーに声をたてられたために夢中で刺したと自供した。
素人の、ジャンキーによる単純な強盗殺人事件として、検察官の手にうつされようとしていた……。
キャレラはそのあっけない解決をどうしても受け入れられなかった。
ジェラルド・フレッチャーが、腹を残忍にえぐられた妻の死体をそばにして、「わたしはだれかがこの女を殺してくれたのを喜んでいるよ」とキャレラに言った、挑発的な響きが耳に残って離れなかった。
彼は妻を異常なまでに憎んでいた! 容疑を受ける危険を承知の上で、なぜそんな告白をあえてしたのか。
キャレラはその小さな疑惑の裏に隠された犯罪を執拗に追い詰める。
-----------------------
1972年(昭和47年)に刊行された、87分署シリーズの第26作です……小口と天・地が黄色に染めてある、懐かしく、心ときめく装丁のハヤカワポケミス(ハヤカワ・ミステリ、HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOK)版で読みました。
スティーヴ・キャレラ刑事は自分の耳を疑った……「本当に嬉しいよ」弁護士ジェラルド・フレッチャーは妻サラーの刺殺死体を見てこう言ったのだ、、、
犯人はあっさりと捕まり、その男ラルフ・コーウィンは麻薬を買う金欲しさに襲ったと自供した……しかしキャレラ刑事はフレッチャーの言葉が忘れられなかった! 異様なほど挑戦的なフレッチャーの態度の裏には!?
物盗り目的で窓から侵入したコーウィンがジェラルド・フレッチャーの妻サラーを刺した……という線が有力な中で、キャレラ刑事はジェラルド・フレッチャーに疑惑を抱く、、、
そんなキャレラ刑事に、なぜかジェラルド・フレッチャーは自ら接触を試みてくる……2人の駆け引きが愉しめる心理ミステリでしたね。
マイヤー・マイヤー刑事とバート・クリング刑事の治療用ブレスレットを巡るやりとりや、クリング刑事の上手くいかない色恋沙汰等々の事件とは無関係なサブストーリーも愉しめるのですが……本作は、少しキレが悪い印象でしたね、、、
とはいえ、ずっと読んでいるとキャレラ刑事を中心とした刑事たちや、その家族に感情移入しちゃいますね……87分署シリーズ、次々と読みたくなっちゃいます。 -
Posted by ブクログ
ネタバレニューヨークモデルの架空の都市を舞台にした刑事シリーズ、87分署の一作目。
おもしろかった。
本格モノが好きなミステリファンにはちょっと物足りない(解決が唐突過ぎて…)けど、警察組織と刑事と都市を主人公にした小説としてはかなり楽しめた。この都市の茹だる様な暑さ、嫌気がさす様な熱波、市民が暑さに参ってる描写がほんとにすごくて、面白かった。読んでる間中都市のもわっとした不快な暑さを感じ続けてた。
ミッシングリンクものといえばそうなんだけど、やっぱり解決が唐突すぎるなぁ、とは思ってしまった。刑事ものだから納得感はあるんだけど。
読みながら、やたら刑事の妻だの母だの彼女だの、個人的な人間関係の描写が細やかだなと思ったけど、大きく見たらこれも伏線みたいなもんだったんだねー。 -
Posted by ブクログ
「翳りゆく夏」に登場した作品ということで読んでみた。
ある製靴会社の重役であるダグラス・キングの息子を誘拐して身代金をせしめようとしたケチな悪党二人組。ずさんな計画のなせる技か,間違えてキング家の運転手の息子を誘拐してしまう。しかし間違いに気づいて諦めるどころか,あくまでもキングに身代金の支払いを求める犯人。キングは会社経営の主導権争いの渦中にあり必要な株式を手に入れるために全財産をかけており,運転手の息子のために支払える余分な資金がなく,支払いを拒絶する意向を示している。しかし幼い子供を見殺しにしたとあってはキング氏の個人的な評判も会社の評判も地に落ちる。果たして事件はどのような結末を迎えるのか。
犯人が頭の良くないやくざ者だったり,人違いを誘拐したりという雑さのせいで今ひとつ犯罪捜査モノとしての緊迫感に欠けるし,時代背景もあって警察の捜査手法も原始的であって,今どきの小説を読み慣れている者にとっては物足りないとしか言いようがない。更にもう一つの筋であった会社の経営権争いについてが全くの尻切れトンボで終わっているのも詰まらない。誰を誘拐しても身代金請求はできるという思い付き以外に特筆すべき点があるのだろうか。 -
Posted by ブクログ
息子を返してほしければ、50万ドル用意しろ。若い男二人組が犯罪を実行に移す。大手靴製造会社重役キングの自宅から少年を連れ去り、脅迫電話を入れた。事は順調に運んだ。ただひとつ、最低最悪のミスは別として。誘拐したはずのキングの長男ボビーは、まだ家族のもとにいた。間抜けにもキング邸に同居する運転手レナーズの息子ジェフを誘拐したのだった。ボビーとジェフは、同い年で背格好も似通っていた。誘拐犯エディとサイは隠れ家に戻り、計画の続行を決めるが、エディの妻キャシーは二人の非道ぶりに逆上した。一方、キングは葛藤していた。カネならあった。この事件が起きる前から、キングに造反する幹部らの先手を取り、会社の株を密かに買い占めていた。まもなく実権を握る。そのための軍資金だった。単なる使用人の子の命を救うために、己の人生を棒に振っていいのか。夫の無慈悲な言動を妻ディエンは激しく非難した。繰り返される修羅場。身代金受け渡しの時は、すぐそこまで迫っていた。
1959年発表の87分署シリーズ第10弾。警察小説の書き手として腕の見せ所となる誘拐事件を初めて扱い、本作に賭けるマクベインの気合いが伝わってくる。今回は、馴染みの刑事らは脇役に回り、誘拐犯と被害者家族の緊迫感溢れる交渉をメインに描いている。特にエゴイズムの塊であるキングの造形が深く、追い詰められていく男の焦燥がリアルだ。極限状態で様々な選択を強いられる者たちを冷徹に突き離すことなく、事件解決の鍵に〝ヒューマニズム〟を堂々と用いる流れも巧い。重いテーマでありながら、苦いペーソスと軽妙なユーモアを織り交ぜていく筆力は流石だ。そして、読み手を静かな感動へと導く見事な〝締め〟には、マクベインの人情味/優しさが溢れている。