井上一夫のレビュー一覧
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言わずと知れた87分署シリーズの、記念すべき第一作。「この小説に現れる都会は架空のものである。ただし警察活動は実際の捜査方法に基づいている」という有名な扉書きも、マクベイン節などと言われる独特の美文調も、いや、そもそも警察小説というジャンル自体が全てはここから始まったのだ。捜査するマシンでしかなかったミステリーの刑事たちは、マクベインの登場で初めて血の通った人間になったのである。とにかく読み始めると、いつの間にか刑事たちのキャラクターに引き込まれ、気が付けばキャレラたちと一緒になって喜んだり、悲しんだりしている自分に気付く事になるのだ。
87分署シリーズには刑事ものの全ての要素が詰まっている。「太陽に吠えろ」も「相棒」も、この作品が無ければ生まれなかったのだ。 -
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87分署シリーズ、記念すべき1作品目。
1956年の作品なので、今の時代に読むと捜査方法や動機、表現等が古い部分もあるし、斬新に思わないだろう。
それは今の時代に読んだから当たり前なのである。
そんな部分を差し引いても、この作品は非常に面白い。
その最大の魅力は個性的なキャラクター達。
87分署の刑事全員が泥臭くて感情的で、それでいて魅力的だ。
この作品には天才的頭脳を持つ、クールなキャラクターは出てこない。
同じ口径の銃を所持している前科者のアリバイを調べる為、暑さにうんざりしながらも、ひたすら足を使って嗅ぎまわったり、科学捜査で発見される犯人の詳細な特徴に、なんでこんなにわかるんだろうとビックリしたりと、主人公のキャレラ刑事を始めとして全員が本当に普通の人なのだ。
ヒラリー・ウォーのフェローズ署長シリーズも警察の丹念な捜査活動をメインにした作品だが、フェローズ署長よりもキャレラ刑事達の方により親近感を抱くのは、私生活や感情がより大きく表現されているからかもしれない。
あと、署長じゃなくて一介の刑事って部分もありそう。
捜査の合間に合間に出てくる、各刑事の生活。
捜査パートと生活パート、この2つの入れ替わりがメリハリとなっていいリズムを作っているように思う。
あっと言う間に読んでしまった。
警察小説と言うジャンルの始祖に相応しい1冊だと思う。 -
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2009年の読み初めは、ボンドの原作!しかも大好きなボンドガールソリテアの登場するこの作品。
007の小説、初めて読みました。
映画とは違って、ボンドは意外と人間くさく、ストーリーは意外とハードボイルド。
そして、文章が美しい。さすがシェークスピアのお国、イギリス。
「まばらな木立ちの間で立ち止まると、ボンドは涼しい朝の空気を味わった。木立ちの間をすかして東の方を見ると、星影は色あせてゆき、地平線が夜明けの輝きを見せはじめている。こおろぎの鳴き声はほとんどやんでしまって、島のどこかで物真似鳥が夜明けの歌を歌いはじめた。」(ぱらっとめくってP273)
「ハイビスカスのまわりを飛びまわっていたエメラルドの首飾りのような二羽のハチドリが、最後のひとまわりをすまし、物真似鳥が夜の芳香をただよわすジャスミンの茂みの上で、夜鶯よりも甘い声で夕べの歌を歌いはじめた」(P289)
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アメリカの作家エド・マクベインの長篇ミステリ作品『ノクターン 87分署シリーズ(原題:Nocturne)』を読みました。
『ロマンス 87分署シリーズ』に続き、エド・マクベインの作品です。
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安アパートの一室で、老女が胸を撃たれ横たわっていた。
捜査に出向いたキャレラは、老女が元有名ピアニストで、今は酒と猫を友とする孤独な日々を送っていたことを知る。
わずかな金を狙った強盗の犯行か、あるいは……? やがて、老女が孫娘に大金を遺していたことが判明し、その金をめぐって熾烈な争奪戦が展開する。
厳寒のアイソラに流れる哀しくも皮肉に満ちた死の旋律。
87分署の面々は、闇に沈む真実を暴けるのか?
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1997年(平成9年)に刊行された、87分署シリーズの第48作です。
アパートの部屋で発見された老女の死体……だが、その老女はかつて絶大な名声と人気を誇ったピアニストだったのだ、、、
孫娘のために遺していた大金をめぐり、熾烈な争奪戦が繰りひろげられるが……アイソラの闇に沈む哀しくも皮肉に満ちた真実をキャレラは暴けるのか?
哀愁と混沌が交錯する、87分署シリーズらしい長篇でしたね……老女スヴェトラーナ・ディアロヴィッチの殺害事件を軸に、複数の事件が同時進行する87分署シリーズらしいモジュラー型の構成が魅力でしたね、、、
アイソラの安アパートで胸を撃たれて死んだスヴェトラーナは、かつて名声を誇ったピアニストであり、孫娘プリシラ・ステットソンに莫大な遺産を残していた……その遺産をめぐって周囲の人間がざわつき、欲望と思惑が入り乱れる展開は、街の暗がりをそのまま写し取ったような生々しさがありましたね。
一方で、売春婦ヨランド・マリー・マルクス、彼女と同居していたポン引きジャマル・ストーン、そして麻薬の売人リチャード・クーパの殺害事件が並行して描かれ、物語は常に複数の方向へと動き続けます……この街の雑音のような多層構造はシリーズの醍醐味ですが、本作では特に事件同士の距離感が近く、ページをめくるたびに別の捜査へ切り替わるリズムが心地良かったですね。
老女ディアロヴィッチの事件は、真相が明かされると一転して哀愁が漂い、彼女の過去と孤独が静かに浮かび上がります……遺産争いの喧騒とは対照的に、犯行の背景には人間の寂しさが滲んでいました、、、
対して、売春婦らの殺害事件は勧善懲悪的な決着で、こちらはスッと肩の力が抜けるような収束を迎え、街の闇を描きながらも、どこかけじめのある終わり方は、本シリーズのバランス感覚を改めて感じさせてくれる結末でしたね。
長年培われた87分署のレギュラー刑事たちの人間味あふれる掛け合いや、日常的な警察の捜査風景がリアルに描写されていることも健在……在庫は残り僅かとなりましたが、機会をみつけて87分署シリーズを順次読んでいこうと思います。 -
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アメリカの作家エド・マクベインの長篇ミステリ作品『悪戯(いたずら) 87分署シリーズ(原題:Mischief)』を読みました。
エド・マクベインの作品は、4月に読んだ『キス 87分署シリーズ』以来ですね。
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アイソラで近ごろ流行の悪戯は、無邪気とは言い難い。
街頭の壁に絵を描くストリート・アーティストを狙った連続殺人。
現代版姥捨山ともいうべき、痴呆老人の置き去り。家庭内三角関係の果ての人質立てこもり…… 続発する事件に頭を悩ませる87分署の刑事キャレラに、天才犯罪者デフ・マンからの大掛かりな犯罪計画をほのめかす挑戦状が舞い込んだ。
累積する事件を解決しつつ、87分署の面々はデフ・マンを阻止できるのか!
掌編小説「解説」 横山秀夫
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1993年(平成5年)に刊行された、87分署シリーズの第45作です。
87分署を翻弄してきた天才犯罪者、デフ・マンからの挑戦状が舞い込み、キャレラら刑事たちは騒然とする点…山積する事件の捜査に追われながらも、デフ・マンの計画を阻止すべく奔走する刑事たちを描く。
落書屋に対する連続殺人や痴呆老人が続けて捨てられる事件、人質を取った立てこもり事件等の複数の事件が錯綜する中でアイソラという街の空気を立体的に描き出す展開……さらに、87分署の宿命のライバルであるデフ・マンが再登場することにより、87分署の日常と混沌を感じながら読み進めました、、、
ただ、扱う事件が多いだけに中盤はどの捜査の話に戻ったのか一瞬迷う場面もあり、集中力がふっと途切れる瞬間があったのも事実ですね……この“混線”こそがシリーズの味なんでしょうけどね。
そんな中で、落書屋を狙った連続殺人の真相は意外性があり、終盤の収束は巧いな と感じました……そして気になるのはデフ・マンの行方、、、
本作では完全に決着がつかず、彼の存在が次作以降へと静かに引き継がれていく感じ……シリーズを読み続ける愉しみを改めて思い出させてくれる余韻でしたね。
複数事件が錯綜する面白さと、読み手を揺さぶる混乱が同居した、87分署シリーズらしい一冊でした……機会をみつけて、書棚の在庫の87分署シリーズを順次読んでいこうと思います。 -
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アメリカの作家エド・マクベインの長篇ミステリ作品『キス 87分署シリーズ(原題:Kiss)』を読みました。
エド・マクベインの作品は、2月に読んだ『晩課 87分署シリーズ』以来ですね。
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あまりにも突然のことで、わけがわからなかった。
いきなり男に腕をつかまれ、地下鉄のホームから線路に突き落とされたのだ。
電車がきた。
必死でホームにはいあがろうとするが、なかなかうまくいかない。
ああ神様。
このときはどうにか命拾いしたものの、二週間後に同じ男が運転する車に轢かれかけたとき、エマは自分の命が狙われているのをはっきりと悟った。
犯人の顔には見覚えがあった。
その昔、夫を会社に送迎していた運転手だ。
だが、警察が捜査を開始するまもなく、男は他殺体となって発見された。
愛する妻を襲撃者の魔手から守ろうとした夫の仕業なのか。
それとも、夫が妻のボディガードとして雇った私立探偵が事件に関係しているのか。
そもそも、殺された男はなぜ元の雇主の妻をつけ狙っていたのか。
猛烈な寒波に襲われたアイソラの街で愛と裏切りが交錯する。
◎アメリカン・ミステリ賞最優秀警察捜査小説賞受賞。
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1992年(平成4年)に刊行された、87分署シリーズの第44作です。
地下鉄のホームから突き落とされて危うく死にかけたエマ・ボウルズは、数日後、今度は車に追い回されて轢き殺されそうになった……心配する夫マーティンは彼女に探偵アンドリュー・ダロウをつける、、、
だがほどなく、エマを狙っていたマーティンの元運転手ロジャー・ターナー・ティリーが他殺体で発見された……犯人は夫か探偵か? そもそもどうしてエマは狙われたか? 美しい人妻をめぐる殺人事件を鮮烈な筆致で描く。
スティーヴ・キャレラ刑事の父親アンソニー・キャレラが殺害された事件の容疑者ソニー・コールの裁判と、命を狙われた女性エマ・ボウルズの事件が交互に進む構成が特徴の長篇……ふたつの物語が並走することで奥行きは生まれるものの、全体としてはやや長く、読み進めるうちに少し冗長さも感じましたね、、、
裁判パートは静かな緊張が続き、父親を殺されたキャレラ刑事にとって、裁判は事件であると同時に私事でもあるんですが、感情を過剰に描かず、むしろ淡々とした筆致でキャレラ刑事の内側にある痛みを浮かび上がらせ、キャレラ刑事の個人的な痛みがじわりと滲む展開……一方で、エマ・ボウルズの事件はテンポがよく、終盤に明かされる真相が意外性を帯びていて、こちらの方が物語を引っ張ってくれる印象が強かったですね。
長篇ゆえの重さはありますが、エマのパートに潜む“ひねり”が読後に小さな満足感を残し、構成の妙と意外性を静かに愉しめる作品でした……機会をみつけて、書棚の在庫の87分署シリーズを順次読んでいこうと思います。 -
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87分署シリーズ、初めて読んだ。
夫を捕まえたキャラレ刑事に復讐しに、警察署に押し入る女クリスティーン。ニトログリセリンを持っており、部屋にいる刑事を脅す。キャラレは別の事件の捜査に出ていて不在。キャラレ刑事がかえってくるまでの部屋での様子と、キャラレ刑事の事件の捜査が交互にえがかれている。
部屋にいる刑事はなんとか外にこの事件を伝えようとするがなかなかうまくいかず、ニトロが本物なのかどうかよくわからないまま時間だけが過ぎていく。
昔の話なので、なんとなく古い感じはするが、部屋での緊迫する様子が面白かった。
余談だが、プエルトリコが、プエルト・リコ(Puerto Rico)ということを初めて知った。