あらすじ
野心家のキングは窮地に追いこまれた。彼の息子の誘拐を企てた犯人が、誤って運転手の幼い息子を連れ去ったのだ。身代金の要求は五十万ドル。もし支払えば、キングの一生の夢である会社乗っ取りの賭けがうてなくなる。拒絶すれば、罪のない生命が……! 誘拐事件に真向うから取り組んだ力作
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Posted by ブクログ
アメリカの作家エド・マクベインの長篇ミステリ作品『キングの身代金 87分署シリーズ(原題:King's Ransom)』を読みました。
『死が二人を 87分署シリーズ』に続き、エド・マクベインの作品です。
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グレンジャー製靴会社の重役キングは、事業の不振を利用して会社の乗っ取りを画策していた。
必死に金を都合し、長年の夢が実現しかけたその時、降って湧いたような幼児誘拐事件が起こった!
しかも、誘拐されたのはキングの息子ではなく、犯人は誤って彼の運転手の息子を連れ去ったのだ。
身代金の要求は五十万ドル。
キングは逡巡した。
長年の夢か、貴重な子供の生命か……誘拐問題に真っ向から取り組んだシリーズ代表作…黒澤明監督の映画「天国と地獄」の原作。
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1959年(昭和34年)に刊行された、87分署シリーズの第10作です。
アメリカの大都市アイソラで、大会社重役ダグラス・キングの運転手チャールズ・レナーズの息子ジェフが誘拐された……犯人はキングの息子ボビーと間違えたのだ、、、
身代金を払えばキングは破産……しかし人道的には……。
一方、アイソラ市警87分署のスティーヴ・キャレラ刑事らは犯人との交渉のためキング邸に赴くが、主人が非協力的で捜査は難航……まもなく身代金の受け渡し時刻が迫る、、、
警察小説の金字塔にして映画『天国と地獄』の原作……誘拐問題に真っ向から取り組んだシリーズ代表作。
黒澤明監督作品の『天国と地獄』は大好きな映画! その原作ですからねー 面白くないはずがありません……誰を誘拐しても脅迫は成り立つという発想が素晴らしいですよね、、、
アイデアというか……着眼点が凄いと思いますね! 身代金の受け渡しの部分は、映画と原作では全く異なるのですが、お国柄も違うし、映画の方は後からさらにアイデアを追加した感じでしょうね(映画の方は身代金の受け渡し方法も斬新ですね)。
身代金を要求されたキングも、決して単なる成金の嫌な奴ではなく……工場の下働きから叩き上げ、会社の重役にまで昇りつめた男であり、自社の製品に誇りを持ち、安いけれど質は悪い商品を叩き売る、儲け主義の現状を憂える理想主義者で、アメリカン・ドリームの体現者という設定も感情移入できて良かったですね、、、
事件解決後……犯人一味の首領であるサイ・バーナードや誘拐されたジェフの警察に対する態度・発言も好感ですねー 結末含め、愉しめる作品でした。
87分署シリーズ……次々と読みたくなる魅力でいっぱいですね。
ある意味未解決であるが
87分署シリーズ10作目で初の誘拐事件を扱った作品。子どもを誘拐し、身代金を要求するものの、その子どもは人違いであった。自分の息子ではないのに、身代金を要求されると言う葛藤と戦うキング。人間の格差、立場の弱さを人物描写で明確に表現している。黒澤明監督で映画化された作品も見てみたい。
Posted by ブクログ
87分署第10作。黒澤明が天国と地獄として映画化したことでも有名。誘拐犯は製靴会社の重役ダグラス・キングの息子だと思って誘拐したはずが、一緒にいた運転手の子どもを間違って連れて行ってしまった。犯人側はかまわずキングに身代金を要求するが、彼はこれを拒否する。子どもの命と会社の行く末の間で苦悩するキングの心の揺れと決断を描く。
Posted by ブクログ
87分署シリーズ♪昔の『天国と地獄』の原作だそうな(。・ω・。)見たことないんですけどね。
展開は面白いけどラストがすっきりしないのは変わらずだねー。キングが針の筵状態だったけどキングの気持ちわかるけどなー(苦笑)世知辛いなー(笑)
Posted by ブクログ
「翳りゆく夏」に登場した作品ということで読んでみた。
ある製靴会社の重役であるダグラス・キングの息子を誘拐して身代金をせしめようとしたケチな悪党二人組。ずさんな計画のなせる技か,間違えてキング家の運転手の息子を誘拐してしまう。しかし間違いに気づいて諦めるどころか,あくまでもキングに身代金の支払いを求める犯人。キングは会社経営の主導権争いの渦中にあり必要な株式を手に入れるために全財産をかけており,運転手の息子のために支払える余分な資金がなく,支払いを拒絶する意向を示している。しかし幼い子供を見殺しにしたとあってはキング氏の個人的な評判も会社の評判も地に落ちる。果たして事件はどのような結末を迎えるのか。
犯人が頭の良くないやくざ者だったり,人違いを誘拐したりという雑さのせいで今ひとつ犯罪捜査モノとしての緊迫感に欠けるし,時代背景もあって警察の捜査手法も原始的であって,今どきの小説を読み慣れている者にとっては物足りないとしか言いようがない。更にもう一つの筋であった会社の経営権争いについてが全くの尻切れトンボで終わっているのも詰まらない。誰を誘拐しても身代金請求はできるという思い付き以外に特筆すべき点があるのだろうか。
Posted by ブクログ
黒澤明作品の原作にもなった87分署シリーズの代表作。ある靴屋の役員が巻き込まれた誘拐事件をスティーヴ・キャレラたちが挑む。実に見事なのは誘拐された人物がキングの息子ではない点。後に黒澤明も語っていたようだが(解説参照)「誰をさらおうとも脅迫は成り立つ」というギミックを見つけ出しただけでも素晴らしい功績ではないか。後はキングの人物描写が中々良い。仕事真人間の男がラストに魅せるシーンがカッコイイ。渋めな警察小説。
Posted by ブクログ
久々の海外警察もの。人気シリーズの第10弾で、黒澤監督が製作した「天国と地獄」の原作となったもの。会社の乗っ取りを図る役員のお付きの運転手の息子が、役員の息子と間違われて誘拐され、身代金50万ドルが請求されるが、役員は支払いを拒否する。乗っ取り工作を阻む他の役員との戦い、支払いを拒否することを非難する妻などとの間に起こる数々の修羅場、、、。時代としては電話も珍しい時期で、007やMIのような巧みなトリックはない。その分、ストーリーだけで読み込ませるのはさすが。
Posted by ブクログ
息子を返してほしければ、50万ドル用意しろ。若い男二人組が犯罪を実行に移す。大手靴製造会社重役キングの自宅から少年を連れ去り、脅迫電話を入れた。事は順調に運んだ。ただひとつ、最低最悪のミスは別として。誘拐したはずのキングの長男ボビーは、まだ家族のもとにいた。間抜けにもキング邸に同居する運転手レナーズの息子ジェフを誘拐したのだった。ボビーとジェフは、同い年で背格好も似通っていた。誘拐犯エディとサイは隠れ家に戻り、計画の続行を決めるが、エディの妻キャシーは二人の非道ぶりに逆上した。一方、キングは葛藤していた。カネならあった。この事件が起きる前から、キングに造反する幹部らの先手を取り、会社の株を密かに買い占めていた。まもなく実権を握る。そのための軍資金だった。単なる使用人の子の命を救うために、己の人生を棒に振っていいのか。夫の無慈悲な言動を妻ディエンは激しく非難した。繰り返される修羅場。身代金受け渡しの時は、すぐそこまで迫っていた。
1959年発表の87分署シリーズ第10弾。警察小説の書き手として腕の見せ所となる誘拐事件を初めて扱い、本作に賭けるマクベインの気合いが伝わってくる。今回は、馴染みの刑事らは脇役に回り、誘拐犯と被害者家族の緊迫感溢れる交渉をメインに描いている。特にエゴイズムの塊であるキングの造形が深く、追い詰められていく男の焦燥がリアルだ。極限状態で様々な選択を強いられる者たちを冷徹に突き離すことなく、事件解決の鍵に〝ヒューマニズム〟を堂々と用いる流れも巧い。重いテーマでありながら、苦いペーソスと軽妙なユーモアを織り交ぜていく筆力は流石だ。そして、読み手を静かな感動へと導く見事な〝締め〟には、マクベインの人情味/優しさが溢れている。