鳩見すたのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
陸地がすべて海に沈んだアフターの世界でセイラーとして生きる少女アキの物語第2巻。
いやなんか愉しいなあ。
やっぱりアキのキャラクターがいい。
アキはちょっと抜けてて都会ではダメダメである意味アホの子だと思うのだけど、「たくさん生きる」に正直に真剣に頑張って生きているのがとても素敵。
それは何度も死にかけて、そのたびにいろんなものに助けられて、託された命の重さを彼女がよくわかっているからだ。
そんなアキがオルカのいいお姉さんになろうとするところも微笑ましい。
ダメダメなアキにそれはうまくいかなかったのかもしれないけれど、彼女のその想いはオルカにちゃんと伝わったよね。
それにしても今回もサバイバルしすぎ(笑)
2回も海で取り残されてるよ。
トラブル体質なんじゃない?(笑)
でも、そんな状況でのアキの頼もしいこと。
なんかアキがほんとに野生児の少年に思えてきたよ。
まあ、タカちゃんの王子様だもんね。
そのタカちゃんは、アキたちの絶体絶命のピンチに現れるとか、まさにヒーローだよ。
しかも飛行機飛ばしてくるって、なんかずるい(笑)
今巻の個人的ハイライトは、アキが、タカとオルカとその他もろもろ全てを取り戻して、再び得たパラスアテナに向かって、「さあ行こう、パラスアテナ!」と二回叫ぶところ。
湧き立つような、勇気に溢れる、前向きな想いがとても気持ちいい。
そうして幸せなラストを迎えて、ああ、よかったなあと思ったところで、おー、すごい引きだな。
次巻が気になる。
たぶんビフォアの人たちがしたという4つの選択は、海に生きるの他には、地下に生きる・宇宙に生きると、あと何かだと思うんだけど、この引きは絶対地下世界の関係だよね。
次巻でその謎が明らかになるのかな。 -
Posted by ブクログ
ディストピア小説が好きだ。
ディストピア、すなわち荒廃しきってほぼ終末を迎えたような、架空の世界を舞台とした物語のことだ。その魅力は、極限の世界でもなお生きることを諦めない人間の逞しさや気高さにある、と思う。
この物語の主人公アキも、そうした逞しさを持つ人物の一人だ。14歳の少女でありながら暗い過去を背負い、一人ヨットを駆って"ひとつ海"を渡ることで生計を立てる"セイラー"である。
この設定は、現実世界の私たちからするといささか背伸びし過ぎているように思えるかもしれない。しかし、実際に読み進めていくと、細を穿つ設定と描写によって作り出されたディストピア世界の中では、アキは現実離れした存在などではなく、むしろ無力さに苛まれる一人の女の子として描かれていることがすぐに分かるだろう。
無力なアキに、世界は次々と試練を投げかける。本当に、冒頭から全く容赦というものが無いのだ。読者はいきなり、アキと一緒に荒れ狂う海に投げ出され、生きるという現実を突きつけられる体験を共有することになる。
だがその後すぐに、私たちはアキがこの世界で主人公足り得る理由を目にするだろう。14歳でか弱いはずのアキは、しかし私たちのほとんどが持ち得ないであろう、光り輝くような強さ――それはもしかしたら、ディストピア世界の住人だけが生きるために持ち得るものなのかもしれない――を身体の内に秘めているのだ。
物語の中で、こうしたアキの強さの片鱗をあちこちで見ることができる。それは例えば、"海の男"としての矜持であったり、"食料"を口にしながら海を見つめる瞳の力強さとして描かれ、読者の心に強い印象を残すだろう。そして、その片鱗はかけがえのないパートナーを得ることで花開いていく。
目まぐるしく展開する後半部から一転、淡々と語られる真実と穏やかなラストシーンを読み終えれば、あなたもきっとこう声を上げたくなるはずだ。
曰く、ボン・ボヤージ、と。 -
Posted by ブクログ
映画『かもめ食堂』を観ればシナモンロールを焼きたくなるように、この小説を読めばパンをかじりたくなる。
それも、個人がやってるブーランジェリー(パン屋)のパンを。
ライトノベルか深夜アニメ化と思うほどしっかり味付けされたキャラクター設定。
日本のお家芸である「普通(だと自任している)男性キャラクターが美女/美少女とつるみながら何かする」テンプレートに則りながら、ハリネズミとパンというふわふわもちもちが加わることでそのニオイ消しになっている。
殺人事件が起きるわけではない。
トンでも事件に巻き込まれるでもない。
「これは何なんだろう」をひたすら追って解き明かす。
間にパン休憩が入る。
私は近所のブーランジェリーのイートインスペースでこの本を読んだ。
その読み方だとこの本はきっと何倍も“おいしい”。