水村美苗のレビュー一覧

  • 無駄にしたくなかった話

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    『大使とその妻』の登場人物を彷彿とさせるような、華やかでリッチで実在の人々との交流が垣間見えるような私生活。ひとつ間違えばただの自慢と嫌味になりそうなエピソードも、著者の手に掛かると懐かしささえ感じて不思議だったけど‥。『日本語が滅びるとき』は読書会の課題本だったこともあり何度も読み込んだし、『母の遺産』は新聞連載時リアルタイムで夢中になって読んだせいかもしれない。プライベートな日記やエッセイ、評論や未発表の講演録など盛りだくさんなのもファンにとっては贅沢で嬉しい。

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    2025年11月29日
  • 大使とその妻 下

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    大使とその妻の下巻、貴子が日系ブラジル人だと分かり、その数奇な運命が描かれていました。
    主人公と貴子のミステリアスな軽井沢の別荘での出会いで、お話は始まったが、彼女の持って生まれた人格からなす様々な展開が始まる。
    日系ブラジル人社会の過酷な歴史、また、裕福な日本人夫人との出会いから始まる新たな展開、筆者の腕の見せ所ではあるが、筆者の夫である岩井克人氏の生まれが島根県であるから、設定が島根県になったのだろう(笑)。
    コロナ惨禍下の時代背景、主人公の生い立ち、そして様々な人生経験の積み重ねからなる葛藤など、筆者のキャリアが書かせる内容がよく理解でいました。

    幼少期に明治からの日本の文豪の書籍だけ

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    2025年11月28日
  • 大使とその妻 上

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     第1部を昨日読み終えましたが、今朝、冒頭の「消えてしまった夫婦」を読み返し、最初、なんのことか解らなかったのですが、すぐに理解出来ました(笑)。
     アメリカ人の独身男性(日本を深く理解している)が、軽井沢の別荘で体験したことを綴った小説です。
     日本の南米大使の妻(ミステリアス)との出会い、大使夫婦とのやりとり、そして、ミステリアスな妻の素性がだんだんと解ってくるプロセスが丁寧に描かれていて、どんどんこの本に入り込んで行ってしまう、筆者の書きぶりがすばらしいと思った。
     筆者が人生の中で経験したことで表現される内容、そして、深く日本文学を理解していることから発せられる表現も美しいものとなって

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    2025年11月15日
  • 大使とその妻 上

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    ネタバレ

    主人公のケヴィンは軽井沢に住む1965年生まれのアメリカ人で、たいして仕事もしていないが金はある隠遁者であり、彼が書いた小説という設定で物語は進む。語られるのは表題通り、隣家に越してきた夫婦との交流とルーツである。

    水村美苗は古典を下敷きに小説を書く。そもそもデビュー作がで夏目漱石の「明暗」の続きを勝手に書くような作家なのだし、そのあとの作品も同様である。本人の自己規定どおり、「近代文学の終わりに来た者」なのだから、そうなってしまうのもしかたない。

    では、本作はなにを下敷きにしているのか?本人のインタビューからは谷崎潤一郎の「春琴抄」の名が挙げられていた。でも、下敷きにしたようなものではな

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    2025年11月12日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    ▼大変にオモシロかった。読み終わりたくないくらいオモシロかった。これくらいオモシロイ、上出来の小説に、残りの人生であと何作お目にかかれるだろうか?というくらいにオモシロかったです。(いや、これまでが不勉強なので、時間を割いて本と向き合えば、まだまだあと何十冊も巡り合えると思いますけれど。まあでも、最後はひとそれぞれの好みですが)

    ▼何かの文章で、

    「つまりは水村美苗さんが大まか日本の昭和平成を舞台に”嵐が丘”をやってみたい作品である」

    とは知っていました。
    そして嵐が丘は既読でした(オモシロかった)。
    ところが上巻では、イマイチ物語が始まり切らなかったストレスがあって、もやもやして下巻に

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    2025年08月11日
  • 大使とその妻 下

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    美しい自然や伝統、人間社会や価値観、心の中の思い出さえも、時とともに変わりゆく。後悔してもしなくても、季節はめぐり月は満ち欠け、人は老いて死ぬ。大切な誰かを喪った経験のある人なら誰もが、心に響く歌や文章に出会えるはず。
    別世界の話のようで、先の戦争を生き延びた親世代やコロナ禍を経験した私達自身の話でもあり。
    耳を澄ませは“音”が聞こえ、情景が浮かぶようで‥本当に本当に素晴らしかった。

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    2025年05月20日
  • 大使とその妻 上

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    軽井沢の小説を久しぶりに読む。土地の歴史とイメージが手品のタネのような。今となっては伝統的日本語を書く手立ては冷凍保存の解凍となるのか。語り手の設定もなかなか。

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    2025年05月06日
  • 大使とその妻 上

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    亡くなった兄キリアンへの想いと家族への疎外感からアメリカを離れ日本に暮らすケヴィン.彼の軽井沢の隠れ家のような山荘の隣に越してきた元大使の夫妻との交流をつうじて日本文化が立ち現れてくる.妻貴子の謎めい佇まいが想像と違っていて,その生い立ちも含めて下巻が楽しみである.

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    2025年03月19日
  • 大使とその妻 下

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    下巻は、貴子の、そして「おばそま」の半生が入れ子のように、薄紙を剥がすように明かされ、ブラジル移民の痛切な生き様を知る。私たちは日本に何をしてしまったのだろう。今も容赦なくその美と本質を壊し続けて。最後の数ページで声を上げて泣いた。失われたものの尊さと、かすかな希望に向かって。

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    2025年02月24日
  • 大使とその妻 上

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    2025年の最高作にもう逢ってしまったよ。
    水村美苗さまの久々の最新作は、鎌倉が舞台。失われゆく日本の美を嘆きながらひっそりと別荘地はずれの庵に暮らすアメリカ人の隣へ、夢見た日本を体現したかのような女性とその夫が越してくる。彼女の正体は…ああ、もうなんと美しい文章か。読んでるだけで血が洗われる。

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    2025年02月24日
  • 大使とその妻 下

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    新たな未来が拓けることを夢見て渡った ブラジルの地で、いろいろな苦悩と戦いながら成功した人、夢やぶれた人。
    経験した人でないとわからない想像を絶するものであると下巻では目が離せなくなりました。

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    2024年12月14日
  • 大使とその妻 下

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    久しぶりに美しい日本語、美しい日本の文章を読んだ気がする。日本から遠く遠く離れた地で、日本を恋焦がれながら生きた人々。天の原ふりさけみれば。月の描写があまりに切ない。彼女の人生だけでなく、描かれないままの数知れない人々の人生に思いを馳せずにはいられない。知らずにきた歴史と自らが進行形で経験している歴史が交錯して、あまりに雅であまりにリアルで、いにしえといまが組み紐のように織りなすあはれなる世界観に惹き込まれ続けた作品だった。

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    2024年12月02日
  • 大使とその妻 下

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    軽井沢に暮らすアメリカ人、隣の別荘にやって来たのは、日本人で南米で大使を務めた夫とその妻貴子。日本文化を愛する不思議な貴子の過去を巡る。

    良かった。古き良き日本について色々考える。ストーリー展開を味わうような話ではないかと思っていたら意外な展開もあり、それも良し。

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    2024年11月10日
  • 大使とその妻 下

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    ネタバレ

    上巻では記述している、日本に精通したアメリカ人ケヴィンのこと、出会った軽井沢の隣人夫婦の不思議な雰囲気を知った。
    こちらの下巻では大使の妻、貴子の生い立ち、この親、その育ての親、教育者(?)の来歴が詳しく夫からの説明という形で記述してある。そして現在、コロナ禍の中で行方不明かと思われた夫婦のその後が明かされる。

    深い、悲しい世界の歴史の中で翻弄された人々や、外国に住む日本人の立場や立ち位置、ハイソサエティーの暮らしの窮屈さなどこれまで知らなかった様々な、人たちの(人種問題、多様性も含め)生き方、生きづらさも改めて納得する。

    幅広く奥深い内容で上下巻たっぷり学びを得た気がして人に勧めたい本と

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    2024年11月02日
  • 大使とその妻 上

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    たとえば、嵐が丘のような、
    たとえば、源氏物語のような、
    そういう例え、そぐわないかもしれないけれど、深淵で高貴で雅で、しかも海外も感じられ軽井沢の風も感じられるような。
    「下」にまた感想を書き綴ります。

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    2024年10月29日
  • 大使とその妻 下

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    ああ、読み終わってしまった・・・
    12年ぶりの水村美苗小説、じっくり味わう積りが
    やっぱり最後は、一気読みになる。仕方ないね。

    周一・貴子、「大使とその妻」が軽井沢を去った後、
    隣人ケヴィンの手記として小説は進む。
    下巻では、貴子の父の生い立ちから始まり、少女時代、
    周一との運命的な出会いが描かれる。
    そして、軽井沢の最後の夏・「祝祭の夏」も。
    時代はコロナ禍の直前。

    ネタバレになるので、私が知らなかった重い歴史は
    ここでは触れない。
    でも、この歴史が、小説の柱でもある。
    それが貴子を作っているのだから。

    正直、結末は見えていた。
    わかっていたのに、ついにそのことが小説に出てきたときは号

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    2024年10月14日
  • 増補 日本語が亡びるとき ──英語の世紀の中で

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    久しぶりに痺れる本に出会った。
    著者の水村美苗は学者であり作家である。名門イェール大学・大学院でフランス文学を専攻し、アメリカの大学で日本近代文学を教えながら日本語で小説を書いた。本書の発刊は2008年。5年をかけて書き上げたことからも著者の情熱が伝わってくる。
    書き出しは著者の体験が小説のように綴られる。もうすでにこの文体が心地よい。しかし、そこからは緻密な調査と考察が積み重ねられ、一つの結論に向かっていく。それは「日本語は亡びうる」という結論である。
    島国日本では連綿と日本語が使われてきた。それは時代に応じて変化はすれど、なくなるとは想像していない。しかし、日本語はなくなる可能性がある。

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    2023年09月24日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    心震える恋愛小説か怪談話を読みたいと、10年の積ん読を経て人を食ったようなタイトルの恋愛大河小説を読んで心震わす。後にNYの大富豪になった満洲引き揚げ者の貧しい少年東太郎と裕福な隣家の娘よう子の幼い恋心から始まる幸福と悲劇、そして一族の栄枯盛衰が昭和の軽井沢を舞台に何十年にも渡り繰り広げられる。一人ひとりの行動の積み重ねが人の心に影響を与え、その結果がまた人それぞれに違う意味を持つ。それぞれが自分の居場所を探す話であり誰が幸せで誰が不幸せだったのかさえつかみきれぬまま恋愛の大河に呑み込まれる。今の日本はある人には良くなりある人には悪くなった。40年前の軽井沢ってこうだったよね、などと思いながら

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    2020年11月22日
  • 続 明暗

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    ネタバレ

    「一体何処から遣り直しがきかなくなってしまったのだろう」

    単行本が出版されてすぐに読んだ記憶があるので、1990年以来の再読となる。
    黒船的な登場は衝撃だった。
    明暗の続きをそのまま読みたいという願いが叶ってしまった。

    文庫の裏にもあるが、この作品自体がすでに古典。
    奇跡の一冊。

    個人的に集中して漱石全小説を再読した後に読むと、感無量としか言いようがない。

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    2020年06月27日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    軽井沢に別荘を持つ昭和のお金持ちたちの独特の世界観にどっぷりはまった。

    アメリカに渡り大成功して大富豪になった不幸な生い立ちの男と、優雅な金持ちの家族の対比によって、豊かさとは?幸福とは?と考えさせられた。

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    2020年05月25日