水村美苗のレビュー一覧

  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    誰一人として満たされ尽くすことなく、時代に翻弄される。救いようのない話ではある。

    とはいえその救いようのなさとそれゆえの感動を、冗長さを感じさせずにここまで喚起出来るのは、さすがの名作ゆえんか。

    小田急線に乗るのが、ちょっと楽しみになるかも。

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    2013年06月02日
  • 本格小説(上)(新潮文庫)

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    ネタバレ

    先生始め、藤野ゼミのみなさんが大好きな本作、やっと自分も読み始めました。

    作者水村氏の200ページ超にわたる自分語り「本格小説の始まる前の長い長い話」。
    本当に長いが、その語りが本編でここまで膨らむことになるとは。



    「これから先に自分の人生のすべてがあると信じていられた年齢であった。日本の人にかこまれ、日本語で話していられるというだけでハイスクールの建物の中に閉じこめられているときとは別人になったような生き生きとした心地がしたが、皆の中に溶けこみたいとは思わなかった。私からすれば彼らはもう人生の道筋のついた大人であり、しかも「本社」「チョンガー」「出張」などという言葉の世界に充足してい

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    2013年05月22日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    果たして東太郎は実在するのか、架空の人物なのか。

    著者が最初に断っているように、これは私小説ではない。本筋に入るまでの長い話は私小説の形式を取っているようだが、これはあくまで後半の本格小説への導入部と考えるべきである。
    著者はおそらく、どこまでもフィクションのリアリティを表現することにこだわった。導入部の私小説に架空の人物を紛れこませることで、煙が形を持って実体化するように、その人物があたかも実在したかのように読者に錯覚させる。
    そして後半の本格小説に突入する。仮に、これが東太郎の目線で語られる話だったら、リアリズムは逆に薄れてしまったであろう。旅行者、女中と話し手を介することによって、彼の

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    2013年01月20日
  • 本格小説(上)(新潮文庫)

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    文量も多くて始めの部分は読みが進まないが、いつの間にか引き込まれてしまう。「本格」なのに読みやすい。
    本の世界感に浸りたい人にはおすすめ。純文学というか、人の人生を描いた作品が好きになったきっかけの本。

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    2012年08月22日
  • 本格小説(上)(新潮文庫)

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    ネタバレ

    久しぶりに日本の小説を読んで、なんて読みやすいんだろうと驚いた。ちょっと古めかしい言葉使いなのが凄く綺麗で、秋風が立ち、とかバタ臭い、とか忘れかけていた響きに酔いしれて、すいすい読めた。
    冒頭の160ページもある「本格小説の始まる前の長い長い話」というのがどこまで本当なのか、実話仕立てで思わせぶりな本当に長い長いフリだが、なんて面白い設定なのか、すっかりその罠にハマってしまった。
    そのあとからようやく始まる本格小説は、思わせぶりにフッた東太郎の出番がなかなかなく、早く先が読みたい一心で余計に長く感じて遅々として読み進まず。
    それと、読めない字があった。「嫂」。話の流れから考えると当然なの

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    2012年05月27日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    下巻も前半は典雅な展開が続くが、よう子と太郎の恋愛が隠せなくなってきてから、話も激しく動くようになる。また、語り部である女中のフミ子が、次第に存在感を増し、それが「信頼できない語り手」となる様は、本家の嵐が丘と比べても見劣りしないレベルだ。

    総じて見ればよくできた小説だが、改めて「嵐が丘」という150年以上前に書かれた小説の凄みを感じさせるものでもあった。

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    2012年04月22日
  • 本格小説(上)(新潮文庫)

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    現在のところ、一番大好きな小説。
    嵐が丘をベースにした物語性や、
    水村さんのなめらかな文体、
    静かな語り口の裏にある激情が、心をゆさぶる。

    これを今から読めるあなたは幸せだな、と、ぼくは思います。

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    2011年11月05日
  • 本格小説(上)(新潮文庫)

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    おもしろくて一気に読んでしまった。嵐が丘がベースになっているけれど、それだけではありません。終わった後また読み直したくなりました。恋愛小説、ニューヨークでの日本人の生活、軽井沢、戦前戦後のお金持ちの優雅な暮らしなどに興味がある人は読んでみてください。上下間ともウィリアム・モリスのパターンが表紙でそれもいい。

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    2011年10月28日
  • 本格小説(上)(新潮文庫)

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    ネタバレ

    * 2008年01月04日 04:32記載:

    友人に薦められて読んだ本。

    ちゃんとした長編小説を読んだのはおそらく
    初めてじゃないかって感じで、自分の読書スピード
    が相当遅いことに辟易しながらも後半は一気に
    最後まで読みました。

    これからは読書家と言われるようにがんばりたいです。

    ちなみに著者はかの著名な経済学の権威、岩井克人
    の妻でもあります。




    何人かの登場人物が背負う運命はあまりに悲しく
    不幸であり、読み終わってから一途な愛情を
    美徳とすることに対して抵抗を覚えるような
    苦々しさが胸に残りました。


    ある女性が言います。
    「愛されないっていうのはとても不幸なことだと思う」

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    2011年05月07日
  • 続 明暗

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    「漱石未完のあの傑作の続きを書く」という時点で非常に面白いテーマであったし、現代に於ける創作の一つの根幹をついていると思う。それを抜きにしても非常に楽しめた。
    あとがきを読むだけでも漱石文学批評として明晰で興味深かった。それは、自らを漱石として創作するという態度によって獲得される批評であり、その上で自身の作家としての本質も浮き彫りになっているように思う。もっと早くに読んでおけばよかったと思った。

    「『続明暗』を読むうちに、それが漱石であろうとなかろうとどうでもよくなってしまう — そこまで読者をもって行くこと、それがこの小説を書くうえにおいての至上命令であった。」
    「『続明暗』では漱石のふつ

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    2011年05月03日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    下巻に入るともう一気読み。そして読み終わるのがもったいなくて、いつまでもいつまでも読んでいたいと思うような。単なる恋愛ものではなく、もうこれは戦後日本のすべてというものがつまっているような感じがした。それとさまざまな人たちのさまざまな人生。人生とは、と考えさせられるような。ものすごく読みごたえがあって。まさに本格小説。すごく客観的に人やものごとをながめられる女中フミさんの語りで、人ひとりひとりの人生全体をながめられるような感じ。フミさんの、人生なんてそんなもの、っていう感じ方に共感するような。人生は、はかない。「本格小説が始まる前の長い長い話」からずっと、著者が、将来がひらけているかどうか、未

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    2011年09月18日
  • 本格小説(上)(新潮文庫)

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    「嵐が丘」の翻案ですが、翻案という言葉から想像する安易さや安っぽさとは無縁。
    「嵐が丘」の方は読んでいる自分と小説内の世界がつながっている感じはあまりなく、むしろその異世界めいたところが魅力でもあるとおもいますが、本作は私小説のような導入部分のせいもあって、あたかも物語世界と読者側の実世界が地続きであるかのような手触りがあります。
    そのような小説のほうが、日本文学にはなじむということなのかもしれません。

    著者の新作が待ち遠しい…。

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    2010年07月08日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    数年前の夏、仕事で軽井沢に住んでた時に、運命的に出会った一冊。
    この本をあの環境で読めたことは、いま考えても本当に幸せなできごとでした。

    大げさだ昼メロだ、という人もいるかもしれないけれど、わたしは何度読んでも感情を揺さぶられてしかたない。
    物語のとてつもない力を感じさせる、まさに自分好みの作品です。

    土屋富美子の人生って何だったんだろう?生きる意味なんてものを、危うく考えてしまいそうになる。
    ラスト近くで太郎が言う、日本人は「浅薄と言うよりむしろ希薄」という言葉には、束芋の作品(特に団地をモチーフにしたもの)を連想しました。

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    2010年06月20日
  • 本格小説(上)(新潮文庫)

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    上下巻と分厚いので辟易したけれど、ぐんぐん引き込まれて両方合わせて僅か3日で読んでしまったよ。色々な人が書評を書いているので、わざわざ自分が書くまでも至らないかもしれない。

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    2010年01月28日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    よう子ちゃん、雅之さんの情愛の深さ、太郎ちゃんの子供のままの激しく深い愛情に何度も読む手を止めて感慨に浸りました。
    語り手が変わるごとに登場人物の思いの深さがさらに加わり、ページを戻ります。
    最後のフミ子さんの事実に腑に落ちます。
    「日本人が希薄になった」は作者の感でもあるのでしょう。
    作者のあとがきで現代に戻ってきますが、しばらく余韻が抜けませんでした。

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    2010年01月16日
  • 本格小説(上)(新潮文庫)

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    最初はなかなか読み進まなかったけれど、語り手が作者から祐介に変わった辺りからどんどん惹き込まれました。
    戦後間もない、上級階級の美しい三姉妹。軽井沢の情景。
    ウィリアム・モリスの装丁が似合う美しい文章で綴られて、たまらなく引き込まれます。

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    2010年01月16日
  • 続 明暗

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    おのぶと吉川夫人の場面では、本当に自分が侮辱されたかのように、胸がカッとなった。
    清子の津田への怒り、おのぶの津田への失望、
    自分の中にある津田が、えぐられるような思いで読んだ。

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    2011年01月25日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    水村さんの仕事を一つずつ丁寧に検証していきたいと思わせてくれた一冊です。彼女を称して、「寡作な小説家」と言う人がありますが、これは現代において最高の敬称だと思います。彼女の作品を眺めると、単に物語るだけでなく、小説の可能性を常に模索し続けている姿勢が伺えます。そこに学問的な姿勢を感じてしまうのは私だけでしょうか。

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    2009年10月07日
  • 続 明暗

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    非常に読み応えのある作品だった。
    主人公津田はいつまでも自分の人生を正面からぶつかろうとしない態度、
    素直な感情の発露よりそれと同時に現れる下らない理性による体面ばかりを気にする態度によりどうしようもない人間となってしまう。
    津田の妻であるお延も初めはそんな主人を無理やり信じながら(心のどこかで疑っていたが)生きてきたが、津田の元恋人の存在に気づき、
    半狂乱におちいる。しかしながら、最後には生きていく決意を見出す。
    漱石は女性を描くことに関してはあまり評判は良くなかったが、水村氏はとても肌理細かく女性の揺れる心を表現したと思う。
    漱石の『明暗』のあとを引き継ぐ名作であった。

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    2009年10月07日
  • 本格小説(下)(新潮文庫)

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    やっぱり不思議。
    登場人物のすべてが、どこかで私の記憶や祖母や両親の記憶とつながるような気がする。
    懐かしい思い出が蘇るようで、せつなくてたまらない気持ちになる。

    嵐が丘の翻案小説でテーマ自体はきわめて一般的なはず。
    なのに、自分自身のルーツを強く意識させられる。
    祖母と母と私との紐帯を思い起こさせる。
    ワイルドスワンを読んでもこんな風には感じなかった。

    日本自体が希薄になったとはいえ、私もやはり日本人だということだろうか。
    堪えきれない何かをぐっと噛み締めるような横顔や、
    黄色い灯の下でのささやかな微笑みを見ながら、私も育ってきた。

    作者はきっと、異国の地で母国の香りを何度も何度も繰り

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    2009年10月04日