水村美苗のレビュー一覧
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寡作ながら日本近代文学の系統を唯一現代において引き継いでいると言っても過言ではない作家、水村美苗による言語論。
言語を巡る歴史を紐解きながら<普遍語>・<現地語>・<国語>という3つのカテゴリの関係性を明示した後、インターネットの台頭などの社会変化により、英語が<普遍語>として一極化する現代において、日本語という世界でも稀有な文法性質を持ち、世界に名高い近代文学の系譜を持つ言語が消失しようとすることへの警鐘を鳴らす。決してここで述べられているのは、回顧主義的な議論ではないし、英語の世紀においてはむしろ自国語を適切に操れるようになること、そしてそのために国語教育を強化すべきという議論の流れは納 -
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成城に屋敷を構え、夏は軽井沢で過ごす上流階級の家庭に生まれた女たちと、身分の違いすぎる男太郎の、半世紀に渡る運命の物語。
「太郎ちゃんなんかと結婚したら、ミ・ラ・イ・エ・イ・ゴ・ウなんの夢もない。恥ずかしくて死んでしまう。」と言い放ちながら、死ぬまで太郎を愛し続けたよう子。
生涯他の女性を愛する事なく、アメリカに渡り、億万長者になった太郎。
でも、ふたりが結ばれる事はなく、あまりにあっけない別れが悔しい。
周りの雑音が多すぎて、ドラマチックな盛り上がりに欠けるのだけど、人生なんてそんなものかもしれない。
太郎を子供の頃から支えてきた、女中の冨美子の目線で語られるが、最後に驚きの事実が。 -
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かなり長い話でしたが、話の世界にどっぷりと浸ることができました。
女中の視点で語られる三枝家と重光家、太郎とよう子の関係も面白かったし、舞台になっている軽井沢や小田急沿線も馴染のある場所だけに情景がすんなりと思い浮かんで、ぐいぐいと引き込まれました。
よう子視点での話も読んでみたかったけど、ここは想像するしかないといったところが残念。
冨美子視点からだと、よう子が何故そこまで雅之と太郎といった2人の極上の男性に溺愛されるのか、そこまで魅力が伝わらないのだが、そこは冨美子のよう子に対する嫉妬心みたいなものが含まれていて魅力が伝わる描写になっていないのかな、と思った。 -
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ネタバレ異彩を放つ本歌取り―― 2005.10.19記
漱石の「明暗」を読んでもいないくせに水村美苗の「続 明暗」を読んでみた。いわば本歌取りを鑑賞して未知の本歌を偲ぶという、本末転倒と謗りを受けても仕方のないような野暮なのだろうが、それなりにおもしろく楽しめた。
本書冒頭は、漱石の死によって未完のまま閉じられた「明暗」末尾の百八十八回の原文そのままに置かれ、津田と延子の夫婦と津田のかつての恋人清子との三角関係を書き継いでいく、という意表をついた手法が採られている。
換骨奪胎という言葉があるが、過去の作品世界を引用、原典を擬し異化し、そこに自己流の世界を構築するという手法は、古くは「本歌取り」な -
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ネタバレ水村版「嵐が丘」の下巻。
本編のストーリーに関して言えば、正直なところ私は白けた目で見てしまっていてどうにも入り込めなかった。
見た目も性根も大して美しくない(失礼な言いぐさだけど本当にそういう設定なので仕方ない)女性に対して、とてつもなくレベルの高い男2人(しかも、片やどこまでも優しい生粋のお坊ちゃま、かたや己の実力だけで成り上がったワイルドな青年…だなんて、今どき少女マンガにも登場しなさそうな完璧度合)が共に心を寄せて、しかもその3人の不思議な不倫関係は一層の仲の良さで保たれる…とか…一部の女性の理想かもしれないけれど、私には現実感が無くてイマイチ乗り切れなかった。
ただ、最後の最後に -
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小説家として何を書くべきか迷っていた「私」の前に突然現れた一人の青年。彼は、共通の知人である東太郎について語りたくてわざわざ「私」を訪ねてきたのだった。
幼少時から何度か会った東のその後を聞いた「私」は、東をモデルとして昭和日本を舞台とした「本格小説」を書こうと思い立つ…。
作者自らが認める通り、昭和日本でブロンテの「嵐が丘」を再現しようとしたこの小説。
小説本編に入る前に、何故この小説を書くことになったかを語る「本格小説の始まる前の長い長い話」という章があるのだが、これが誇張ではなく本当に長い。文庫本200ページ分もある。
しかも厄介なことに、作者が身の上を語っているこのパートがまた面白い -
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エミリー・ブロンテの「嵐が丘」を題材にしたという小説。まあ、それは知っていても知らなくてもいいのだけど、上巻は本編が始まる前の「本格小説の始まる前の長い長い話」が200ページ以上も続く。作者自身が語った形で、本小説の主人公である東太郎と作者との出会いや本編では語られない米国に渡った後の東太郎の暮らしぶりについて書かれている。本編を読むために必要な部分がないとは言わないが、いかんせん長すぎる。さらに、「本格小説とは…」といった本作品についての説明あるいは言い訳と思しき部分まである。
このパートが30ページくらいで済んでいれば、本編に素直に入れるし、その方がかえって面白く読めただろう。画竜点睛を -
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89点。自分が小説をあまり読まないのは物語に対する興味がないからだ。さらに物語に対する読解力も理解力もない。しかしこの『本格小説』は物語で東太郎という男の半生を描いた小説だ。なのに面白かった。
とか言って下巻も読まずに上巻の感想を書くのも如何なものかとは思うが、実は上巻の半分くらいは著者自身による「本格小説の始まる前の長い長い話」という前書きなのだ。この未だ小説が始まってない前書きこそが非常に重要で、特に文庫版ではP225〜P232の部分は熟読されたい。
まとめちゃうと私的な体験(事実)を盛り込んだ小説が私小説である一方、本格小説とは「作り話を指すもの」である。さらに著者は日本語で書かれた私小 -
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おもしろかった。漱石のことをよくわかっているというわけじゃないから当然かもしれないけど、「明暗」を読んだあとすぐに読んで、まったく違和感なかった。ときどきこれは「続」のほうだ、漱石じゃない、と思い出さないといけないくらい。で、「明暗」よりは後半に動きがあって展開が早くて読みやすかった。ええーそれでどうなるのー、という感じ。淡々としているのに、清子が津田をふったわけを話すところとか、いよいよ謎が明らかに、という気がして、なぜか読んでいてすごく盛り上がった。 でも、なんとなく、またこの先を読みたいような気がした。決着がまだ着かない感じというか。この先、みんなが日常に戻ってからのことを読みたい。 そ