あらすじ
2020年、翻訳者のケヴィンは軽井沢の小さな山荘から、人けのない隣家を見やっていた。親しい隣人だった元外交官夫妻は、前年から姿を消したままだった。能を舞い、嫋やかに着物を着こなす夫人・貴子。ケヴィンはその数奇な半生を、日本語で書き残そうと決意する。失われた「日本」への切ない思慕が溢れる新作長篇。下巻。
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大使とその妻の下巻、貴子が日系ブラジル人だと分かり、その数奇な運命が描かれていました。
主人公と貴子のミステリアスな軽井沢の別荘での出会いで、お話は始まったが、彼女の持って生まれた人格からなす様々な展開が始まる。
日系ブラジル人社会の過酷な歴史、また、裕福な日本人夫人との出会いから始まる新たな展開、筆者の腕の見せ所ではあるが、筆者の夫である岩井克人氏の生まれが島根県であるから、設定が島根県になったのだろう(笑)。
コロナ惨禍下の時代背景、主人公の生い立ち、そして様々な人生経験の積み重ねからなる葛藤など、筆者のキャリアが書かせる内容がよく理解でいました。
幼少期に明治からの日本の文豪の書籍だけをアメリカに持って行っての彼女の人生が生み出した小説でした。
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美しい自然や伝統、人間社会や価値観、心の中の思い出さえも、時とともに変わりゆく。後悔してもしなくても、季節はめぐり月は満ち欠け、人は老いて死ぬ。大切な誰かを喪った経験のある人なら誰もが、心に響く歌や文章に出会えるはず。
別世界の話のようで、先の戦争を生き延びた親世代やコロナ禍を経験した私達自身の話でもあり。
耳を澄ませは“音”が聞こえ、情景が浮かぶようで‥本当に本当に素晴らしかった。
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下巻は、貴子の、そして「おばそま」の半生が入れ子のように、薄紙を剥がすように明かされ、ブラジル移民の痛切な生き様を知る。私たちは日本に何をしてしまったのだろう。今も容赦なくその美と本質を壊し続けて。最後の数ページで声を上げて泣いた。失われたものの尊さと、かすかな希望に向かって。
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新たな未来が拓けることを夢見て渡った ブラジルの地で、いろいろな苦悩と戦いながら成功した人、夢やぶれた人。
経験した人でないとわからない想像を絶するものであると下巻では目が離せなくなりました。
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久しぶりに美しい日本語、美しい日本の文章を読んだ気がする。日本から遠く遠く離れた地で、日本を恋焦がれながら生きた人々。天の原ふりさけみれば。月の描写があまりに切ない。彼女の人生だけでなく、描かれないままの数知れない人々の人生に思いを馳せずにはいられない。知らずにきた歴史と自らが進行形で経験している歴史が交錯して、あまりに雅であまりにリアルで、いにしえといまが組み紐のように織りなすあはれなる世界観に惹き込まれ続けた作品だった。
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軽井沢に暮らすアメリカ人、隣の別荘にやって来たのは、日本人で南米で大使を務めた夫とその妻貴子。日本文化を愛する不思議な貴子の過去を巡る。
良かった。古き良き日本について色々考える。ストーリー展開を味わうような話ではないかと思っていたら意外な展開もあり、それも良し。
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上巻では記述している、日本に精通したアメリカ人ケヴィンのこと、出会った軽井沢の隣人夫婦の不思議な雰囲気を知った。
こちらの下巻では大使の妻、貴子の生い立ち、この親、その育ての親、教育者(?)の来歴が詳しく夫からの説明という形で記述してある。そして現在、コロナ禍の中で行方不明かと思われた夫婦のその後が明かされる。
深い、悲しい世界の歴史の中で翻弄された人々や、外国に住む日本人の立場や立ち位置、ハイソサエティーの暮らしの窮屈さなどこれまで知らなかった様々な、人たちの(人種問題、多様性も含め)生き方、生きづらさも改めて納得する。
幅広く奥深い内容で上下巻たっぷり学びを得た気がして人に勧めたい本となりました。
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ああ、読み終わってしまった・・・
12年ぶりの水村美苗小説、じっくり味わう積りが
やっぱり最後は、一気読みになる。仕方ないね。
周一・貴子、「大使とその妻」が軽井沢を去った後、
隣人ケヴィンの手記として小説は進む。
下巻では、貴子の父の生い立ちから始まり、少女時代、
周一との運命的な出会いが描かれる。
そして、軽井沢の最後の夏・「祝祭の夏」も。
時代はコロナ禍の直前。
ネタバレになるので、私が知らなかった重い歴史は
ここでは触れない。
でも、この歴史が、小説の柱でもある。
それが貴子を作っているのだから。
正直、結末は見えていた。
わかっていたのに、ついにそのことが小説に出てきたときは号泣。
結末だけを言うなら想像通りだ。
けれど、その描き方、ディテールと言えば良いのだろうか。
そこが素晴らしい。
水村美苗ならではの美しさであり、「たしなみ」ではないだろうか。
わたしはケヴィンや貴子と同世代。
(ただし、小説の時代はコロナ禍なので、今の私より数年分若い)
この年齢になったからこそ本作を味わえたような気もしている。
大好きな「本格小説」も軽井沢を舞台にした小説だったけれど、
ここまで情景の美しさが描かれていたかしら?
最後になるが、「枕草子」「源氏物語」「百人一首」「方丈記」など、
古典作品が随所に引用されている。
それがまた軽井沢を、そしてその片隅に生きる人々の心の機微を示し
たまらなく美しい。
12年、水村小説を待った甲斐がある。
(途中で、もうお書きにならないのだろうと、あきらめていたけれど!)
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水村美苗さんの書籍を初めて読みました。ストーリー展開は終始ゆるやかで驚くような展開はありませんが、選ばれた言葉一つ一つがとても美して読んでいるだけで、教養が身につくようなそんな読書体験でした。源氏物語や百人一首など、日本人なのに学校でほんのさわりを習っただけで、何も知らない。ブラジル移民の話も初めて聞いた内容で学校、親からも習ったこともない。能動的に知ることをしていかないと一生知らないまま。本を通じて、また知りたいことが増えました。面白かった!だけじゃない読書体験ができて良かった。
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後半は大使夫人貴子の生い立ちがほとんどで、彼らがブラジルに戻ってから連絡が途絶えてケヴィンが心配する様子が描かれる。ラストは落ち着くところに落ち着くような光の見える展開でホッとしました。
軽井沢の蓬生の宿の描写が素晴らしいので、どちらかというと前巻の方が好きです。
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うつくしくて静謐な筆致の中に不穏さが見え隠れして、夫妻とケヴィンは一体どうなっていくの…?とドキドキの上巻に続く下巻。「夫人」と出会ってからの貴子の半生が語られていく。
面白かった。ブラジルの日本人移民のことなんて考えたこともなかった。
でも、読み終わって気付いたんだけど、私、貴子があんまり好きじゃないのかも。なんでだろう、結局は周りの人を振り回して平気な(またはそれに気づいてない)人みたいな気がしてしまって。
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ケビンは、夫婦のことを書いて残しておきたいと思った。特に貴子のことは。本人から聞いたことより夫の篠田氏から聞いたことが多かった。貴子のことは篠田氏も六条の御息所から詳しく聞いていたのだ。貴子の両親がサンパウロについてそこで貴子は生まれた。しかし母親が死んでしまいどうしようも無くなった父親は旧知の山根書店のおじいさん(安二郎)とおばあさん(八重)に預けていった。この山根書店で貴子は大きくなった。二人は貴子を一人前の日本人として育てたいと習い事にもお金を使った。それで店の奥で謡を舞っていたのを六条の御息所に見られたのである。それが縁で御息所の北條瑠璃子との繋がりができた。
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北條夫人のキャラクターなど魅力的だし、ブラジル移民の様子など舞台設定もユニーク。時間をかけて盛り上げてきたストーリーだが、終盤、失速したように感じた。日本、というものへのこだわりから離れた、ような。。私の読みが浅いのかもしれないけど。
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軽井沢の避暑地で過ごす米国人の男性とその隣に新しく家を増改築して転居してきた元大使夫妻。能を舞い日本の伝統文化を生活の中に取り入れる妻に惹かれながら、その奥にある戦前から続く物語が明かされていく。ブラジル移民の実情はよく知らず、本書の中で取り上げられている事実は厳しく辛いなと思った。戦前、戦後に多くの人が本当の事情を知らないまま大きな負荷を背負わされた。そして時間がたつにつれてその事実すら消えてなくなりそうである。本書のように、小説の中でそれらの出来事に触れ、読み継がれていくことが大事だと思う。長編だったけど、いろんな場面を思い浮かべながら読み進めることができた。