水村美苗のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
読みたかった物語がここにはある。久々に恋愛で胸がぐっと来る。冒頭作者は偶然聞いた「小説のような話」が天からの啓示のように日本語で書かれた「近代小説」を書きはじめたとある。そしてそれに続く「本格小説の始まる前の長い話」で物語の主人公となる男東太郎との出会いと12歳で渡米して以来半生を送ったニューヨークで聞く彼の話が作家の私小説的な物語の中で書かれている。そして後の物語への伏線となっている。カルフォルニアの大学で働く彼女の元に一人の若い男加藤祐介が尋ねてくる。「東太郎」の話がしたいと。そして彼から聞いた「本当の話」こそ真の小説のような話であり、日本近代文学の元となった嵐が丘のような作り話という「本
-
Posted by ブクログ
2009年~2024年に、文芸誌などに掲載されたエッセイや書評や講演、日記など短いものがまとめられている。
最初に読んで思ったのは、いやーやっぱり、昭和的?な言葉でいうと「ハイソサエティ」で「インテリ」であこがれる、っていうこと。
あと、たとえば、成金といわれるタイプの人を評する揶揄とか、おしゃれじゃない人に対する観察とか、「(自分が)若い女じゃなくなるとツマンナイ」というところとか、シニカルな率直なもの言いがよい、と。いい人に見られようとしない感じが素敵。
冒頭の「無駄にしたくなかった話」という旅行記がおもしろかった。ヨーロッパの超お金持ちたちとフランスに滞在したときの話だけど、一緒に滞在 -
Posted by ブクログ
▼水村美苗さんは数冊読んでいて、文章がとにかく上手いので信頼しています。長らく積読になっていたもの。
▼「嵐が丘」の日本版という売り文句。読み始めるとすぐに、「あ、この男性がヒースクリフかしらん」というのが出てくるのですが、なかなかキャサリンが出てこない。1970年代のニューヨークの日本人界隈の話をしているうちにどんどん進んでしまう。仕舞いには、「おお、上巻全体が前置きなのか・・・?」。
▼というわけでいろいろと魅力的なパーツは転がっているのだけど、全体の構図と力感は散漫なので、この上巻だけで言うとそれほど極上でもありませんでした。が、どうやら下巻がかなり疾風怒濤な予感。成程、つまりは嵐が -
Posted by ブクログ
ケビンは、夫婦のことを書いて残しておきたいと思った。特に貴子のことは。本人から聞いたことより夫の篠田氏から聞いたことが多かった。貴子のことは篠田氏も六条の御息所から詳しく聞いていたのだ。貴子の両親がサンパウロについてそこで貴子は生まれた。しかし母親が死んでしまいどうしようも無くなった父親は旧知の山根書店のおじいさん(安二郎)とおばあさん(八重)に預けていった。この山根書店で貴子は大きくなった。二人は貴子を一人前の日本人として育てたいと習い事にもお金を使った。それで店の奥で謡を舞っていたのを六条の御息所に見られたのである。それが縁で御息所の北條瑠璃子との繋がりができた。
-
Posted by ブクログ
帰国子女ベストセラー作家が書いた愛国主義的な片手間エッセイだと本書のことを想像していた。
実際、執拗に長い前半部分の「若い頃体験記」は軽薄な印象で、本書を途中で投げ出す寸前にまで動揺した。
しかし中盤ぐらいからの言語学や、果ては文明論まで持ち出した考察は興味深い。
内容は、英語の言語大流行によってもたらされる文化禍への警告である。英語ネイティブの無邪気、無自覚、無神経を非難する。
後半からはその考察をベースに日本近代文学論のようにもなっていき、漱石の『三四郎』を日本での先見性という一般的評価だけでなく、当時の世界での位置や「大学→翻訳→国語→日本近代文学」という歴史的シンクロとして解説する。本 -
Posted by ブクログ
ある小説が絶筆になって、その先が知りたいほどおもしろいなら、
書き継がれるものはおもしろくなくてはならない。
とおっしゃる作者、説得力がある。
読者は何を期待するかというと、登場人物がこのさきどうなったかということと、
途絶したストーリーの先を知りたいということ。
登場人物の性格が変わってほしいのでもなく、雰囲気が違ってもほしくない。
人間のエゴイズムを追求している意図ならば、急に勧善懲悪を期待するのでもない。
さて読んでの感想は
「答えはすでに漱石の作品の中にあるのである」
ということをまざまざと見せてくれるね。
『明暗』と『続 明暗』通して読んでみて、むしろ違和感がないのが怖い