【感想・ネタバレ】母の遺産 新聞小説(下)のレビュー

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Posted by ブクログ

2012年に単行本で出た際に、読んでいるんです。
2017年現在からみると、たったの5年前。
最近、電子書籍で再度購入。

「母の遺産」水村美苗さん。中公文庫、上下巻。

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50代の女性がいて、結婚していて子供はいない。
父はもう亡く、老いた母がいる。
この母が、色々面倒ばかりかけ、たいへんにしんどい。

コレという判りやすい被害がある訳ではないけれど、とにかく気持ちに負担をかけてくる。手間暇をかけさせる。

ただでさえ自分も体調が悪いのに。重ねて、介護の手間が厚塗りされる。地獄のような疲弊感。誰とも分け合えない苦労。誰も褒めてくれない重労働。

そして、夫が不貞をしていたことが分かる。若い女と。匂い。証拠。確証。
それも、浮気と言うより、本気。離婚を切り出されそう。

そんな、日常の着物を一枚めくると、すれ違う誰もが抱えていそうなスリルとサスペンスと、げんなり感。

母との、愛憎。


そして、ようやくの、母の死。ほっとする。

やっと、死んでくれた。

そして後半は。
夫とどう向き合うか、今後の人生をどうするか、という流れになっていくのですが...。

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5年前に読んだ時も、今回も同じく面白かったんです。

水村美苗さんは、とにかく文章に持っている品格と言うものが。触れなば斬れん妖刀村正...と言う感じ、水際立った背筋の伸び方。
さしずめ、大正時代からの老舗の喫茶店で、物静かでシュッとしたワイシャツ姿のマスターが入れてくれるアイスコーヒーのような。それを、うだるような灼熱の午後のひととき、適度な冷房の中で味わい、上等な氷がカランと音を立てるようなココチ良さ。
「日本語が滅びるとき」「續明暗」なども、僕は本当に大好きです。

なんですが...
30代で読んだ時は、「面白いなあ」だったことが。
40代の今回の再読では「痛い...怖い...苦しい」。
正直、特に老いた母が死ぬまでは。

(唐突に1986年の日本映画「人間の約束」を思い出しました。あれも凄い映画でしたね。三国連太郎と佐藤浩市の共演。)

#

そんなわけで、下巻に入って、母が死んでくれたあとは、正直大変に読み易くなりました(笑)。
夫と向き合う、人生の再出発を考える主人公、というのは、つまり、なんというか、どこかしら、

「ひとごと」

として楽しめている自分を感じましたね...恥ずかしいことですが。

比べて前半は...。

親の老い... 介護...
人の、人生の、終わり方...

みたいなことを、コレデモカと、首根っこを押さえつけられて、目をひん剥かされて直視させられるような。

自分の親がどうこう、ということもですが、「自分のときは」みたいなことを、よぎっては身の毛もよだつ...。

「ひとごとや、あらへんなあ」

だったんでしょう。5年前に比べて(笑)。


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村上春樹さんが、「ある年齢になってから、昔読んだ本の再読が増えてくる」ということをどこかに書いていたような。

そんなことに、心中、同意してしまう。
再読もまた、愉しからずや。

でも、水村さんの新作、出ないなあ...まだまだ何か書いてほしいなあ...小説ぢゃなくてもいいから...。

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2017年07月15日

Posted by ブクログ

下巻です。
上巻では母の介護が焦点だったのに、下巻では主人公の夫の若い女との浮気話に軸を移した感じで主題が読めず、はじめは少々戸惑いました。
だってね、箱根のホテルに逗留してから雰囲気ががらっと変わるんですもん。急に夫問題(苦笑)。

・・・ではありましたが、通読したらとてもよかったです。
ここまで雰囲気を変えるなら思い切って一部・二部、と分けてくれた方がはじめから受け入れやすいかな、とも思ったけど・・・これでいいのかな?

内容的には、主人公の、母や夫、もっと言えば過去からの「自立」の物語です。
自立、といっても若者ではなくて50代中年女性というところがミソ。
その歳になっても親のせいにするなど結果的に依存してたり、経済的に夫に依存してたり・・・などは意外と普通にありそうだから、そんな人が決心し、前進し、最後に自分を苦しめてきた人々を赦すという心境の変化には感動しました。
中高年の女の幸せは最終的には経済力だ、とあけすけに語られているところも含め、現実感がありましたしね。

また、主人公の、母親への感情もうまく表現されていると思いました。
主人公が母親に振り回され、心身ともに消耗していく苦労は理解できましたけど、この母親、そんなにひどい人だとは思えなかったんですよねー
病床の父を見捨てたくだりは最低な人間だったけれど、それ以外は自己実現と上昇志向を強く持っていただけの異端児じゃないかなと。
彼女の娘だったからこその苦労も人一倍だったけれど、そんな母親だからこそ、留学させてもらったり、華やかな文化に触れさせてもらったり、恩恵もあったでしょう。
娘もそれを理解したうえで母の死を望んでしまう様はね・・・なんともリアルでした。

他にも、今の老人終末医療のありかたや、三文小説かと思っていた「金色夜叉」の魅力と当時の世相など(「ボヴァリー夫人」に至っては読んだこともないという・・・)
色々勉強になりました。ホント面白かった!

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2017年07月10日

Posted by ブクログ

読売新聞にて2010年1月16日から2011年4月2日まで毎週土曜日に連載(全63回)。当日の新聞を保存してあったので、読み通した。
自分が母の介護に追われているので、このタイミングで読んでみた。主人公の心理描写が素晴らしく、満足できる着地で読後感は期待以上であった。

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2022年04月26日

Posted by ブクログ

母と娘って、ありますよね。。

独特の何かが。

きっと "父と息子"にも
あるのだろうけど。

私自身は 父親との方が
性格も似ているし
話も合って 仲が良いのですが

不思議なことに

『母の死』を 想像した時の方が
途轍もない 喪失感に襲われます。

母と娘って もちろん
一括りには出来ませんが

お互いに 値踏みしている感じが
ありますよね。
それでいて 目に見えないところで
囚われているというか。。

帯の惹句にもなった

『ママ、いったい
いつになったら死んでくれるの?』は

いろんな想いが入り混ざった一言。

女性が 様々な経験を通して
少しずつ成長して強くなって

たとえ 
全方位ハッピーエンドでは
なかったとしても

ほの明るい希望の光が感じられる結末

という展開は とても好みでした。

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2021年01月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ここまで自分の気持ちを出せたら、気持ちいいだろうと思う。
母親に対しての感じ方、とても共感てきる。
最後は、いい姉妹に恵まれたな、と思う。
いいラストでした。

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2020年01月22日

Posted by ブクログ

中年のおっさんが主人公の小説ってけっこうあると思ってて、
ハードボイルド小説といえばかなりの確率でおっさんだし、
まぁおっさんの定義にもよるけど、40代、50代でも特に
おかしくない感じで。
じゃあおばさんは、っていうと、まぁおばさんの定義は
おっさんの定義に対して極めて難しい問題をはらんでいるので
ぶっちゃけ分からんのだけども、確かにおばさん主人公の
小説ってあんまないのかな。
じゃあって感じで今回なんだけども、
小説の中にも出てきているように、まさにおばさんの
シンデレラストーリー、ただしややしみったれたバージョン。
でもしみったれた分だけ現実感があって、
でもそこそこあり得ないだろって感じがある、そのバランス。
これだけ苦労したんだから、これくらい贅沢しても良いよね?
という、小町に投稿したらよく釣れますかてな案件。
と文句を言いつつも、でもこういうストーリーに
憧れるのも分かる、分かるぞ、おっさんなりに。

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2019年10月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 わがままな母から解放され、つましく生きるには十分な遺産を得て、浮気している夫を捨てる。50代での再出発。これだけ聞けば「最高やんか!!」と思う。
 しかし、この決断に至るまでが長い。後半は失速してしまった。箱根の芦ノ湖畔の仄暗いホテルで、過去を正視し、老後資金の計算をし、葛藤する。最後は明るい終わりで本当によかった。

 世の中には、暴力とか、犯罪とか、絶対してはいけないことをするような「本物の毒親」もいるだろうけど、ほとんどの場合良い面と悪い面を持つ親ばかりなんだろう。私も自分の親って毒親なんじゃないの?と思って色々調べていた時、自分の親は毒親ではない、だけど、この苦しみは自分にしかわからない、という結論にたどり着いた。
 主人公の美津紀も、母を恨みつつもその恵まれた半生に感謝している。母を母たらしめた生まれ育った環境、複雑な家庭環境、父親、全てを深く掘り下げることで、母に死んで欲しいと思った自分を許したかったのかも。

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2017年12月15日

Posted by ブクログ

毒親の話かなーと思って読んでみました。上下巻と、けっこうボリュームがありますが、読み応えのある文章で、心情の描写がとても丁寧で読むのは楽しかったです。
特に大きな出来事もなく(あるなら母の死。それも、そう簡単に死んでくれない(笑))、色々となにかありそうでないんだけれど、そういうところがかえってリアルで、そんな淡々とした日常を、最後まで読ませるというのは、著者の技量だなぁと思います。初めて読みましたが、他にも作品があるのでしょうか?調べて読んでみようと思います。

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2017年02月19日

Posted by ブクログ

上巻で老母を看取った美津紀は、介護疲れや、夫の火遊びなどの日常の煩わしさを一時忘れるために、箱根芦ノ湖畔のホテルに向かう。

そこにも、個性的な老女が…
そして、普段は連泊客がめったに居ないというホテルに、何故か何組もの連泊客。
元は旧男爵邸であったというクラシックホテルが、なんだかミステリの舞台の様相を呈してくる。

そこに、離婚に絡むお金の計算やら、母の遺産やら…
50代での再出発は可能なのか?
これからの生きる意味は何なのか?
…と悩む主人公でしたが。
うらやましいほどの結末であった。

結局はブルジョワジーな方のお話だったのね。

しかし、断捨離が話題の今日この頃だが、精神的な意味も含めて、人生の垢をそぎ落として行くというのは、なかなかに大変なものだなあと思う。

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2015年07月04日

Posted by ブクログ

愛憎入り混じる実母の死を迎えた上巻を経て、下巻では箱根のホテルを舞台に、夫の不貞を知り自身の身の振り方を決めるプロセスが描かれる。

ここでは極めて魅力的な人物が登場し、そのうち1人は前半からの伏線を経て登場する。魅力的な人物との出会いを通じて、自身の半生を振り返り、新しい生を取り戻そうとする主人公の姿は極めて美しい。

日本の近代文学が終焉したと言われる中で、もはや孤高の存在としてJ-文学への呪詛を吐きながら独自の文学世界を構築する著者の文学的営為に今後も注目したい。

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2015年05月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

母を見送った後に1人箱根のホテルで過ごす美津紀の揺れる心情、連れ添った夫の裏切りを知りどうするのか、、興味深かった。夫の言い分が最後まで分からずだったけど美津紀の第二の人生はきっとまだまだ長いはずだから正しい選択だったと思う。最後の奈津紀の優しさもホッとした。遺産を巡って姉妹が思いあえたのは羨ましい

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2021年09月12日

Posted by ブクログ

途中まで暗い、寂しい結末が予想されました。
しかし最終番に向けての展開は前向きで、明るく、何故かほっとしました。

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2017年03月05日

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