水村美苗のレビュー一覧
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夏目漱石の本歌取りであるが、新人作家がそれにチャレンジした勇気と、その勇気に匹敵する内容の面白さに感服し喝采。
登場人物のキャラで小林がずいぶん常識人になってしまったのと、妻お延がなんでかうつ性格になってしまったのは、ちょっとしたキズにもみえるけれども、それまでほとんど登場してなかったもと彼女の清子、温泉で親しくなった安永と貞子の性格創作は見事だった。津田と妹お秀と吉川夫人の性格描写はきちんと承継していたし、ストーリー自身が夏目漱石のそれよりも昼ドラみたいで抜群に面白くなってたわ。
太宰治のグッドバイとか、山﨑豊子の約束の海とか途中で絶筆になってる小説を思い切って本歌取りするブームが到来し -
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この作者の第一作が『続・明暗』であるうえこの題名
手をつけるのにかなりの読書意欲を必要としたので買って2年も寝かせたが
意外にとても読みやすかった
題材からの連想でサマセット・モーム「平明な文体と巧妙な筋書き」みたいな感じかしらん
物語の面白さで読み始めたら止まらない内容
題名の「本格小説」は作中の作者から説明あるように「小説のような話」を指して
小説である以上は作者の知ることの中で書かれているから(広義の)「私小説」であり
では「私小説」でない「小説のような話」はどうなるか
みたいな感じらしい
なるほど
そういうわけで『嵐が丘』を戦後日本へ置き換えたような筋書きを
作中の作者を複数の話し手 -
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「日本語が亡びるとき」等の論考でも知られる著者のデビュー作。何と言っても夏目漱石の死によって未完に終わった「明暗」を、その文体を見事なまでに再現した上で、続きを創出するという大胆な作品であるが、これがデビュー作とは思えない恐ろしい完成度に満ちている。
漱石が「明暗」という作品をどのように終わらせようとしたのかという意図を知るものは誰もいないこの世界において、それでも本作で描かれた物語は、「もしかすると、明暗とはこのように描かれるべき作品であったのかもしれない」と思わせる磁力を持ち合わせている。無数にある物語の分岐のうち、最も確度が高い選択肢を選ぶという行為を数万回、数十万回と繰り返した中でた -
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下巻です。
期待を裏切らず、最後まで深みのある恋愛小説で、どっぷりと美しい世界観に浸りました。
(著者は嵐が丘のような話と言っていますが、私は谷崎の細雪、小池真理子の恋がよぎり、再読したくなりました。特に恋の主人公は同名フミコ!)
そんな中ラストの冨美子の件は、一瞬小説全体の美しさを汚された気がしましたが、そういう事情のお蔭で彼女の語りには包容する力があり愛があるわけですから、生々しさも許容しなきゃな、という気持ちに変わりました。
また、上巻で感じていた三枝家や重光家等の名家の品格を、時を経て現代の富裕層である久保家には少しも感じず(だからと言って決して下品という意味ではなく)、現 -
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2012年に単行本で出た際に、読んでいるんです。
2017年現在からみると、たったの5年前。
最近、電子書籍で再度購入。
「母の遺産」水村美苗さん。中公文庫、上下巻。
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50代の女性がいて、結婚していて子供はいない。
父はもう亡く、老いた母がいる。
この母が、色々面倒ばかりかけ、たいへんにしんどい。
コレという判りやすい被害がある訳ではないけれど、とにかく気持ちに負担をかけてくる。手間暇をかけさせる。
ただでさえ自分も体調が悪いのに。重ねて、介護の手間が厚塗りされる。地獄のような疲弊感。誰とも分け合えない苦労。誰も褒めてくれない重労働。
そして、夫が不貞をしていたことが分かる。若 -
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下巻です。
上巻では母の介護が焦点だったのに、下巻では主人公の夫の若い女との浮気話に軸を移した感じで主題が読めず、はじめは少々戸惑いました。
だってね、箱根のホテルに逗留してから雰囲気ががらっと変わるんですもん。急に夫問題(苦笑)。
・・・ではありましたが、通読したらとてもよかったです。
ここまで雰囲気を変えるなら思い切って一部・二部、と分けてくれた方がはじめから受け入れやすいかな、とも思ったけど・・・これでいいのかな?
内容的には、主人公の、母や夫、もっと言えば過去からの「自立」の物語です。
自立、といっても若者ではなくて50代中年女性というところがミソ。
その歳になっても親のせいにする -
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小説は、主観的な内的な心象風景を物語で紡ぎながら、その中に美しさとそれから生まれる哀しみがあらわされれているもの・・かなと。
どの時代でも、文化、社会の中で人が思うようには生きていけない辛さみたいなものが澱んで、人が巻き込まれ、自分からまきついていくような人がいて、そういう時代に翻弄される劇的な物語を、人は惹かれるものである。
この本の主人公が登場しているとき、嵐が丘の冷たい暗い風がいつも感じられる。この小説が「嵐が丘」を意識していることは、最初から感じられるのだが、嵐が丘を感じながらも、この小説の舞台は戦後である。貧しい家族に恵まれない辛い子供時代を過ごした主人公は、時代背景が嵐が丘とは違 -
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漱石の『明暗』は…ずいぶん以前に読もうとして、挫折してしまったような気がする。
ずいぶんと難渋して、どこが「則天去私」なのかもさっぱりわからなくて、放擲したような…。
だから、この本も、正直に言うと、読み切れるとは思えなかった。
ところが、読み始めると、ぐんぐん引きつけられた。
津田とお延の間の危機へ向けて高まっていく筋の緊張感。
やはり現代の作家が書くせいか、文章もとても読みやすい。
幸か不幸か、原作を挫折しているから、漱石のフェイクを求めようという気もないのがよかったのかも。
何よりよかったのは、清子やお延を通して語られた津田への不満だった。
何事に対しても「真面目」にならない男。
自 -
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さすが、ちくま。さすが水村美苗さん。
1990年に筑摩書房から出版された、水村美苗さんの初小説だそうです。面白い。大好き。
新潮文庫になっていたんですね。それが絶版になっていた。それをまた、ちくま文庫が出したんですね。まあ、新潮の方がメジャーですからねえ。でも、僕はちくま文庫さん、大好きです。ちくま文庫がそこそこの分量、置いてある本屋さんが好きです。
閑話休題。
水村美苗さんの本は、以前に「日本語が亡びるとき」(2008)、「母の遺産」(2012)、の二作を読んだことがあります。で、そのどっちも、大変に大変に、面白かったんですね。
感じとしては、丸谷才一さんの本が好きなヒト、夏目漱石や芥 -
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これを読み終わった知人の勧める言葉があまりに熱烈だったので、惹かれて手に取る。
まず普段翻訳ミステリばかり読んでいる目に、古風で流麗な日本語が気持ちよく、そちらにうっとりする。
そしてまた、著者の自伝らしきまえがきも面白く、これがこんなに面白いのに、本編がどのように始まるのだろうかと思っていたら。
これがもう、面白くておもしろくて、ただ、こればかりを読みふけるわけにもいかないので遅々としてページが進まない(通勤電車に持って歩くには重かった)のが何とももどかしく…。休み時間に読んだ小説の続きが気になって仕方ない授業中、のような感覚。寝ても覚めても、どこかがこの小説の世界とつながっているような感覚