仲正昌樹のレビュー一覧
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ハイデガーの『存在と時間』の入門的解説書です。
著者は「はじめに―ハイデガーは何故重要なのか?」で、「日本でも多々出版されてきたハイデガー入門書・解説書にしばしば見られるような、哲学史的な過度の拘りは避けるつもりである」と述べて、ハイデガーの「存在史」の構想から『存在と時間』を位置づけるような議論にあまり踏み込まないと断っています。
新書形式の入門書としては、木田元の『ハイデガーの思想』(岩波新書)が、実存哲学としてハイデガーの思想を捉える見方を否定して、正当なハイデガー解釈を打ち出しており、細川亮一の『ハイデガー入門』(ちくま新書)も同じ路線で、よりマニアックな議論を展開しています。一方 -
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「現代思想」世代です。稀有の才能というべきか、見事にまとめられています。哲学・思想によって、「世界」を全体的に見渡すことのできるような絶対値に最終的に到達することは不可能である」としながらも、副題にあるように、ポストモダンとは何だったのか」と問い(もはや私には無いが...)、現代思想の何を、後世のために遺産として書きとめておくべきかを考える。哲学科を目指し、政治学科へ進み、行政学を専攻した私、懐かしさが先にたち...思い出しては目頭が熱くなる。丸山眞男、吉本隆明、サルトル、バルト、廣松渉、フーコー、デリダ、レヴィ・ストロース、メルロ=ポンティ、アルチュセール、山口昌男、デリダ、蓮實重彦、栗本慎
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アメリカの民主党と共和党は思想的にどう違うのか?
保守、革新、右派、左派、民主主義、自由主義…政治関係のニュースに限らず、日常会話にも出てくるこれらの言葉を、私は今まで適当に使ってきた。しかしISILや集団的自衛権など、日本は安全だからと悠長なことを言ってられない状況になり、自分の考えをちゃんと整理したくなった。
日本の民主主義は、欧米のように自分たちで試行錯誤して作り上げたものではなく、所詮は英国の真似か米国の押しつけで、思想的中身がない、と誰かの講演で聞いたことがある。そこでまずは、アメリカのリベラリズムについて、初歩的なところから勉強したいと思ったのがこの本を手にした理由である。
内 -
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ニュー・アカデミズムの流行とともに始まった日本の「ポストモダン思想」とはいったい何だったのかという問いをめぐって、戦後思想の流れや消費社会の成立過程をたどっていき、ポストモダン思想がどのような社会的状況の中で生まれたのかを明らかにしています。
現実から乖離したところで展開されるマルクス主義にシンパシーを抱く学生たちの活動は、やがて際限なく分化するセクトどうしがたがいに行動のラディカルさを競い合うような不毛な構図を生み出していました。こうした日本のマルクス主義思想から脱却する道を示した思想家が、吉本隆明です。彼は、丸山真男らが論じている西欧近代的な意味での「国家」は「擬制」にすぎないということ -
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自己決定をおこなう「自由な主体」という発想の限界を指摘するとともに、そのことが明らかとなったポストモダン状況の中での態度決定はどのようなものであるべきかを論じています。
前半は、アレントの「公共性」にまつわる考えが紹介されています。アレントは、「人間」の多元性を認め、そうした多様な立場の人びとが公的領域でたがいに意見を交換し合うことで、合意に至るプロセスを重視しました。ただし、こうしたアレントの「公共性」は、ハーバーマスの想定する普遍的な「討議的理性」と区別されるべきだと著者は言います。アレントの考える「公共性」は、古代ギリシアのアゴラにおける市民たちが自由におこなった討議に由来しており、歴 -
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ヒューム、バーク、トクヴィル、バジョット、シュミット、ハイエクの六人の思想をとりあげ、解説している本です。
著者はこれらの保守思想家を、「制度論的保守主義」と呼んでいます。現代日本の「真正保守」が、日本の伝統と結びついた精神的価値を高く掲げる道徳志向的な性格をもっています。これに対して制度論的保守主義では、理性やその他の精神的価値に基づく設計主義を批判し、慣習的に形成される制度によって社会に安定がもたらされることの効用を正しく見積もることが重要とされます。
著者は、ヨーロッパにおいてはそのつど原点となる契約や慣習法の基本原則を参照しながらあたらしい制度が構築されていったことに触れ、そのこと -
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映画『ハンナ・アーレント』を観て、川崎修の『ハンナ・アレント』とともに読んでみた。
いずれも彼女の主著の『全体主義の起源』や『人間の条件』で議論された事柄を中心に拾っているが、違うところもありそうだ。でも、うまく言えない。著者は、「「もどかしさ」こそがアーレントの魅力である」という。解説本でそう言ってしまうのは無責任も甚だしいと思うのだが、全体としてやはりそういうことなのだろう。あえて政治思想のステレオタイプを避け、思考停止を避けることこそが、全体主義に取り込まれない姿勢であるというかのようである。
著者はアーレントのことを「戦略的なKY」といい、そこに共感したという。アイヒマン裁判の論争 -
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仲正昌樹さんの『精神論ぬきの保守主義』新潮選書をちょうど読み終えた。保守とは字義の通り「古くからあるもの」を“守る”思想的系譜のことだが単純にあの頃は良かったと同義ではない。本書は近代西洋思想におけるの伝統を振り返りながら、現下の誤解的認識を一新する好著。まさに「精神論ぬき」です
仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』新潮選書は6人の思想家を取り上げる。ヒューム(慣習から生まれる正義)、バーク(相続と偏見による安定)、トクヴィル(民主主義の抑制装置)、バジョット(無駄な制度の効用)、シュミット(「法」と「独裁」)、ハイエク(自生的秩序の思想)。
6人の思想家の保守を横断すると、保守主義とは「取り -
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仲正先生の本。
アーレントの解説本。アーレントの著作を順に紹介し、仲正先生が噛み砕いてアーレントの思想を紹介してくれるんですが、さすが仲正先生。わかりやすすぎる。
アーレントってこんな分かりやすくて良かったっけ、って拍子抜けするぐらい。
複雑なものを複雑なまま受け止める姿勢というか、
議論し続ける姿勢というか、
そういうところがアーレント的であることの主なところというイメージがあったんだけど、
その本質のところを改めて知れたのは良かった。
単に議論し続ける姿勢、というとちょっとずれてしまう。
アーレントが捉える「政治」というものが、現在の利益代表による利益調整の場である政治とは違うもので -
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ハンナ・アーレントについての、伝記的な入門書。彼女の一生を時系列で追いながら、彼女の思想(思考)について、紹介しています。。
映画『ハンナ・アーレント』が昨年、日本でも公開されて注目度も高まっている折、彼女に興味を持たれる方も多いと思うけど、いままで彼女のことをまったく知らなかったという人であればこの本から入るのがお薦めです。非常にわかりやすく概略が示されています。
僕は、学生時代に(若干ではあるが)アーレントに触れたことがあったのですが、忘れていることの方が多かったので、再確認の意味で、この本は重宝しました。
この本を通して、著者が訴えたかったことは次の一文に集約されるのではないかと思いま -
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ネタバレ『全体主義の起源』の構成に即して、全体主義発生の過程をもう一度簡単にまとめておくと、反ユダヤ主義によって全体主義のための物語的な素材が準備され、国民国家の生成と帝国主義によって大衆社会が醸成され、その国民国家の経済的・社会的存立基盤が大きく変動し、大衆が動揺し始めた時、そうした大衆の不安を物語的に利用する世界観政党・運動体が出てきたわけである。p54
私の理解では、アーレントが古代のポリスに西欧的な「人間性」の原型を求めたのは、別に、そこに立ち返ったら、素晴らしい「人間性」を回復できると素朴に信じているからではない。彼女の関心はむしろ、「ヒューマニズム」に基づいて万人に普遍的な人権を付与し、 -
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現代思想ブームとかニューアカブームというのがあったんだよね、昔。オレ自身はびみょーに乗り遅れたというか、間に合わなかったというか、ぶっちゃけ当時はむつかしくてよくわかんね、だったんだが。まぁでも、社会に関する本を読んでいけば否が応でも栗本慎一郎だの浅田彰だのの痕跡に巡り会う。ここらへんわかりやすく誰か解説してくんねーか……と思っていたのだが、「この本ばっちり!」というかんじ。
戦後、マルクス主義が大衆社会の本格的な到来によって説得力を失い、消費資本主義にふさわしい思想を求めた結果、ポストモダン思想が台頭するというストーリーを、その「終焉」までかなりわかりやすくおさらいしてくれている。あっ -
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ネタバレ「政治」における「分かりやすさ」の危険性を指摘したハンナ・アーレント。彼女の政治哲学思想には、曖昧でよく分かりにくいというイメージがつきまとう。それもそのはず、「政治というものは、二項対立構造などを用いて分かりやすくすればよいという単純なものではない」という論旨と、それにあいまって巧みな哲学的・比喩的な文章を駆使する彼女の著作は、難解に見えるだろう。
本書は、「そうしたアーレントの政治哲学を論旨明快に解説…」というような新書ではない。逆に、「よくわからない、ということがよくわかる」ように書かれている。そこがいい。
・「活動」=「(物理的な暴力によるのではなく)言語や身振りによって他の人(の精