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国際軍事裁判と占領統治に始まった戦後において、二つの敗戦国は「過去の清算」とどう向き合ってきたのか? 両国の似て非なる六十年をたどる、誰も書かなかった比較思想史。
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Posted by ブクログ
日独戦後思想を戦争責任や国家といった観点から比較概観している。第二次大戦後、同じ敗戦国としてその後の国家形成はしばしば比較されがちだが、もちろん類似点はあるものの思想・イデオロギーの観点から比較すると違いもたくさん見えてきて面白い。自然な結論にはなってしまうが、やはりドイツのナチズム・ホロコーストは...続きを読む戦後に徹底的な批判検証と自省がなされていることが大きな違いを生み出しているように感じた。
戦後60年、海外ではイラク戦争が起こった2005年に書かれた日本とドイツが辿った戦後思想についての本。こちらも『日本とドイツ 二つの全体主義』と同じく、思想史について手際よくまとめられている。目次は以下の通り 第一章:二つの戦争責任 第二章:「国のかたち」をめぐって 第三章:マルクス主義という「思...続きを読む想と実践」 第四章:「ポストモダン」状況 第一章と第二章では、日本とドイツで戦争責任についてどう考えられていたのかが書かている。「一億総懺悔」で自国の被害者性を強調して、他国への加害者性が最近まで思考がいかなかった日本と、周辺諸国と隣接する領土を失い、東西に分割されてしまって新たに「国家」として出発したために、改めて「ドイツ」とは何かを考えざるを得なかった戦後ドイツの思想状況が対比的に描写されている。第二章の「憲法愛国主義」の立場を取るハバーマスと、日本の「護憲平和主義」の日本のリベラル左派との対比が興味深かった。個人的な感想だが、戦後ドイツでハバーマスらが参加した歴史論争に比べると、日本で90年代に行われた「敗戦後論」論争は後にほとんど何も残さないしょぼい論争だったなあと感じざるを得ない。 第三章では、日本のマルクス主義とドイツフランクフルト学派との比較がされている。この章自体、フランクフルト学派の紹介として良くできており、ネットでフランクフルト学派=極左と短絡的に思っている人たちには是非とも読んで欲しい。マルクーゼは、当時の学生運動の近い立場だけど、アドルノは直接行動に否定的で、日本で云えば丸山真男の立場に近い。なので、日本でフランクフルト学派を敵視する右派は、マルクーゼの印象に引きずられ過ぎだろう。 第四章では、目次の通りに70年代以降のポスト構造主義以降の思想的状況について書かれている。紙面の都合か、この章はやや駆け足気味にその後のポストモダン状況について論じられている。ドイツの現代の思想界の動向について全く知らなかったので、ドイツポストモダン派 vs フランクフルト学派の話は大変勉強になった。あと、東浩紀一人勝ち史観のように感じられたが、日本のゼロ年代の思想のまとめとしては手堅いと感じた。 日本とドイツが「国民国家」として成立後に、現在までどのような思想史が形成されたかが概ね流れとして把握できるので、『二つの全体主義』、『二つの戦後思想』の二冊を続けて読む事をお勧めする。 評点:8.5点/10点。
本書は、四つの章から出来ている。「二つの戦争責任」、「国の形を巡って」、マルクス主義という「思想と実践」、「ポストモダン」の状況、の四つである。■「戦争責任」は誰にあったのか。 なぜ日本は「人道に対する罪」に問われなかったのか。 「普通の国民」も加害者なのか。 「反省仕方」のドイツとの違い。 日本の...続きを読む左翼は平和護憲主義の矛盾など、戦後の左右の言論の矛盾点が前提を共にするという二項対立にある不毛の度合いが大きい論議になっているという問題意識が基軸なって論じられている。■第一章には、戦後ドイツと戦後日本の戦争責任の相違が述べられている。これを論じるにはヤスパースの「贖罪論」を抜きにして論じるわけにはいかないのだろう。保守派の佐伯啓思、西尾幹二もこの問題について論じている。(1)「刑法上の罪」(2)政治上の罪(3)道徳上の罪(4)形而上の罪、の四つである。仲正昌樹が、再度これついて論じている。ドイツ国家の名によって犯した犯罪行為に対して責任をまぬかれるものではない、これが「政治上の罪」。たとえ命令されたとしても、その命令に従ったのは自分であり、その自分の行為はに対してはあくまでも道義的な責任があある、これが「道義上の責任」。例えば、他人の殺害を阻止するための対応をせず傍観していたとき、社会から責められないにしても、やはり罪の意識は持つだろう、これが「形而上の罪」。道徳的な罪が、内面的であるとしても、社会や他者に対するものであるのに対して、形而上のものは、高度に個人的な使命感や倫理感に関わる。■戦争責任について論じているが、国民凡てが悪いのか、A級戦犯が悪いのかという「二項対立」に陥る議論は不毛だとする。どこまでの責任を天皇あるいは政府首脳に求めるか、戦争犯罪に部分的に加担してしてしまった一般兵士にどの程度の責任があるのか、犯罪に加担しなかったが政府や軍の方針を黙ってみていた一般国民はどういった責任を負っているのかといった細かい議論がほとんど行われていない。■ドイツでの憲法愛国主義と国民国家、あるいは西欧型市民社会と中欧としての独自の道を巡る論争のような、「歴史と国民のアイディンティ」に関する明確な対立軸があって、お互いがそれに基づいて 教科書の記述を問題にしているという形にはなっておらず、同じことを良く言うか悪く言うかのと言うような啓蒙主義的な押し付けがましい議論になってしまっている、というくだり等、問題意識が共有できたような気にさせてくれる一冊であった。■今後の仲正昌樹の論述を注目していきたい。
前半部分は必読。日本とドイツ両国の第二次世界大戦の戦争責任、それに対する反省を巡る議論、戦後における「国のかたち」について、両国の地理的状況、政治状況等からその差異を論じている。民族とは何か、国民とは何かという隠れた深い論点が含まれており、紙幅の関係で踏み込みきれてはおらずそれ故難解ではあるが、読み...続きを読む応えがある。 後半には日本とドイツにおけるマルクス主義やポストモダンについての動きについて書かれているが、個人的にはあまり興味がもてず、必要なときに再読すれば良いと思い、さらっと見ておいただけで済ました。
未開人のうちに、かつての自分の野蛮さの鏡像を見てしまい、自分もまたそこに引き戻されるのではないかという不安に襲われる文明人は、彼らを放っておくことができない。 仲正昌樹『日本とドイツ 二つの戦後思想』p149 日本の戦後思想は、マルクス主義の人々(とマルクスを独自に解釈して実践する左派の人々)が、...続きを読むその時代ごとに「何を考えてどう行動した(しようとした)のか」が中心。この点が詳しく書いていないと、文字通り何が書かれているのかわからないのだが、本書はその点をドイツのそれと比較して読み進められるので読みやすい。 言われてみると過去、新聞では「マルクスっぽい理想郷」というものを共通の概念として持っている、その理想郷に向かって進むことを「前提」として書かれていたようにも見える。 それら新聞や本書から読み取れるのは、なんとなく手に入れた民主主義のもとで、なんとなく自由で、なんとなく社会主義/共産主義っぽい理想郷を目指す日本のうやむやさ。逆に、理性における理想をとことんまで突き詰めた結果、人種絶滅という結果に至った後のドイツの厳格さとの対比が読みどころ。 現在、思想における二国間の共通点は思ったよりも少ないようだ。思想に関しては日本はドイツに対して莫大な貿易赤字を出しているのだが、本書にある感じだと、せっかく輸入してもつまみ食いする程度らしい。ただしお互いに「戦前と戦中に全体を覆っていた思想は全否定する」という点だけが共通しているように読める。この全否定の状態から、だれかが一歩踏み出そうとすると何かしら激しい反応が起こる点も共通している。 この「うやむや感」と「厳格さ」という極端に異なる状態にありながら、共通点が「全否定」と「全否定への否定は許さない」というところが、やはり過去に暴走を許した原因か。 日本においては、こうした「全否定する、しない」「マルクスっぽい理想郷を目指す、目指さない」の二項対立を中心。当然ながらこの前提が、なんでそんな前提になったのかよくわからないというか、そもそも自由主義と民主主義の国で、何でマルクスっぽい理想を目指すのか意味不明というか、なんでそんな他人の理想に付き合わないといけないんだよ、どっちでもいいじゃん的な現代の日本で、左派の発言力というか説得力などの全てが失速して復活の兆しが見えない原因にも思えなくもない。 続きの『戦前思想』も手に入れてあるので、その辺りを気にしながら読んでみる。
二国の敗戦の受け止め方に生じる違いの、そもそものきっかけを知りたくて手にしてみました。左右に偏りもなく、私なりに整理できそうでよかったと思う。が、後半2章は私のほとんど未知の思想の世界についてだったため、またその補完目的の読書をしなくてはならないハメになってしまったけれど。
日本とドイツの「戦争責任」についての違い。西欧の中のひとつとしてのドイツ、アジアのひとつとしての日本
ドイツも日本も枢軸国であり、戦後は民主主義を『受け入れ』経済復興してきた。 『似たもの』ではあるが『受け入れ』の仕方は違ったようである。 単純に比べるべき事柄では無いが、そこで考える事を止めてはならず、考察を加え続ける必要がある。
やっぱり日本人って、何事も「全体像」で捉える傾向があるんじゃないのかな? そこが戦後処理でもドイツと決定的に違う点なんじゃないだろうか。 時には物事を側面ごとに切り離して考えないと、どこへも進めない!?
本作『日本とドイツ 二つの戦後思想』は、「過去の清算」を軸に、第二次世界大戦後の日本とドイツの60年間の思想的歩みを比較するもの。国際軍事裁判や占領統治から始まり、両国が戦争責任や国家のあり方、マルクス主義、ポストモダンといった思想課題にどう向き合ってきたかを、類似点と相違点を浮き彫りにしながら論を...続きを読むすすめる作品。 ・・・ いやあ、これ、面白かった。 ちょっと前の昭和の思想史って、近いようでなんだか分からなそう、取っつきづらそうじゃないですか。 ちょっと小熱い思想系の本には、確かに丸山眞夫とか吉本隆明(ばななさんのお父様)とかがよく引用されていましたが、そこまで実際手を伸ばす気にはなかなかなりませんよね。 ドイツの思想も私が知っているのは、好んで触った(読んだとか言えない)ハイデガー以前の現象学でしたが、それ以外は全然知りません。というか分かりません。ましてやフランクフルト学派とか隣国のポストモダンとか、もう同じ専攻なのかっていうくらい分からない感じでした。 で本作は、20世紀以降の現代思想(とくに敗戦以降)、とりわけ日本とドイツのそれを、かなりキレイに整理してくれていると思います。 ・・・ こうした現代の思想状況を整理するにあたり導入しているのがドイツと日本という第二次世界大戦の敗戦国の思想状況。 この視点のユニークさが本作の内容を豊かにしている点だと言い切りたいと思います。 例えばドイツ。ホロコーストで多くのユダヤ人を虐殺。 『エルサレムのアイヒマン』も引用されていますが、凡庸な、むしろ真面目な人間が盲目的な悪を行うことになるという事実。あるいはベルリンが分割され、同じ国の中に共産主義が居るという事実。 ここから、啓蒙主義や理性、さらにはドイツ的なものを疑ってかかる、それにとって代わるものを探すという機運からフランクフルト学派(ハーバーマスのコニュニケーション理論など)などが出てきたとします。 ・・・ 他方日本は敗戦国である一方で、加害者としての側面はあまり顧みられず、むしろ原爆被害国という側面と天皇制維持という国策から、屈折した自己省察しか行われていないと論じます。 またドイツと比較すれば共産主義は地理的にも遠く、比較的自由に受容され(あるいは豊かすぎるくらいに解釈され)、各派閥が枝分かれしてゆくとしています。 この政治的状況が思想界にも影響を及ぼしているとするものです。 ・・・ やがてフランスでは、ドイツ思想界があれだけ避けてきた『ドイツ的なもの』を評価する流れが生じ、さらには無意識や含意などを含めた主体、あるいはそれらが表すものを研究する流れがでてきた、と。 これが日本でも紹介されるにつれ、(筆者曰く)エッセイだか思想書だか分からないフランス系の作品が増えてきたとかどうとか。 ドイツでも、ハーバーマスのようなゴリゴリの理性の最終形で行きついたコニュニケーションを押すフランクフルト学派は勢いを弱め、ポストモダンの流れをくむ一派が近年力を持ちつつあるとか。スローターダイクの名前が挙がっていましたね。 ・・・ ということで、仲正氏の現代思想史(日独仏中心)のサマリー本でした。 状況の見取り図としては、ポンコツの私には非常に有用でした。特に世界大戦敗戦を契機とした日独のマルクス主義の受容の差異とその思想史の展開というのが非常に分かりやすかった。 さらに日独両国とフランスのポストモダンを絡めて説明することで、現代思想の展望が大まかながらよく理解できたと思います。 思想系に興味はあるけど難しそうで怖い、あるいは今まで挑戦してみたけど挫折した人にはおすすめ出来ます。また現代思想を学びたい人が入門書として読むのにふさわしい本だと思います。 こういう本があると、思想系にチャレンジしたくなるなあ、と感じました。
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