この本の素晴らしさを伝えるのはどうしたらいいのだろう。
文章から匂い立つ景色とそこでの人々の暮らし。
タンザニア、ブラジル、モロッコ、メキシコ、ウガンダ・・・。
端正な文章と魅力的なエピソードの数々、そして美しい挿絵。
読むだけですっかり異国の地に降り立ったような錯覚に陥った。
それぞれの短編で舞
...続きを読む台となる都市や村は一見して何の繋がりもない。ANAの機内紙に連載されたものでもあるし、舞台設定ありきの短編だと思っていた。
ところが読み進めるうちに一人の日本人が旅したり実際に住んでいた場所だと言う事に気づく。
読売文学賞を受賞した作者のインタビューを読むと、経験したありのままを書いたとある。なるほど。この圧倒的なまでのリアリティの理由はそう言うことだったのか。
それにしてもここまで異国の地で現地の人々にすっと溶け込んでしまうとは驚くほかない。
日本人旅行者などほとんどいないような場所である。そんな所で、あっと言う間に親密になってしまうのはやはり旦ださん自身が持つ魅力がなせる技なのか。
私が今まで旅してきた場所は、いわゆる観光地ばかり。そこで暮らす人達と話す機会もなく上っ面だけを眺めるだけだった。
正直に羨ましいと思った。
言葉がしゃべれたとしてもこうはいかないと思う。
仕方がないからこの本を読んで擬似体験できただけでも良しとしよう。
どのエピソードも甲乙つけがたいほどすばらしいけれど、心に残ったのは「キューバからの二通の手紙」と「マリオのインジェラ屋」。
いっとき心を通わせても、あっけないほどに縁が切れてしまう切なさ。それも旅の醍醐味だろうけど。
残念な事が一点。
本書を読む時と場所を完全に間違えた。
出来れば白浜の椰子の木の下で海を眺めながら読みたかった。
そんな気分にさせてくれた本だった。