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独裁者の大統領,将軍,公安のトップ,利権をむさぼる政商――.権力の中枢にいる人物から社会の最底辺で苦しむ人びとまで,多彩な登場人物を通して,軍事独裁政権下ペルーの陰鬱な政治的・社会的歴史を再現する.ノーベル賞作家が実験的手法を縦横無尽に駆使して物語性豊かに描く,現代ラテンアメリカ文学の傑作.(全二冊完結)
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Posted by ブクログ
圧倒的な筆力で書かれた20世紀文学の集大成。下巻では、ペルー社会の腐敗がえぐり出されていく。独裁政権が張り巡らせる権謀術数のもと、勝者と敗者とに分かれていく。そのなかで弱い立場の人間ほど、悲惨な結末をたどっていくし、強い立場の者には、敗れても、それなりの地位が残されている。最後、敗れたあとも、サンテ...続きを読むィアーゴ/サバリータが採った態度は"一寸の虫にも五分の魂"を示すものであり、そこに微かに人間の気高さに対する期待が残される。
「誰かに打ち明けなければならないことがあるんだカルリートス、自分が中から焼かれているんで」とサンティアーゴは言った。「それで気分がよくなるなら、オッケーだぜ」とカルリートスは言った。「でも、よく考えろよ。時々オレも、危機に陥って打ち明け話に走ることがある、それが後になって重くのしかかってきて、自分の...続きを読む弱点を知っちまった人間を恨むことになる。明日になったらオレのことを恨んでいるなんて、ならないようにしてくれよサバリータ」(p.55) 同じ事件、人物に対しても語られる視点で受ける印象が異なるのが面白かったなー。特にオルテンシア、ムーサに関しては、アマーリアからは優しい奥様だったのが、親友だと思っていたケタからだといかれた女なわけで、その視点の書き分けがうまかった。アンコンのマンションをソイラ夫人が頑なに拒む理由も読者にはわかるわけで。
下巻の最初の場面は1958年。オドリア政権が1948〜1956年なのでその2年後。上巻最後の場面のカヨ・ベルムーデス失脚から数年経っている。 今の大統領はマヌエル・プラード。新聞社に勤めているサンティアーゴの元に「昔の酒場で大人気だった歌姫(ムーサ)が刺殺された」という知らせに取材に行く。世間からは...続きを読む彼女が「カヨ・ベルムーデスの愛人だったオルテンシア」だったことも忘れかけられている。ベルムーデスの失脚後、贅沢暮らしと高慢な態度が身についてしまって手を差し伸べる人も少なく、娼婦めいたことで暮らしていたらしい。サンティアーゴは、オルテンシアと同性愛と言われているケタに取材に行く。 そこで、サンティアーゴもびっくり、読者もびっくりの情報が! オルテンシアを殺させたのは、<金の玉>と渾名されるサンティアーゴの父のフェルミン・サバラで、実行犯は「あいつのおかま相手の黒人運転手。」というのだ。 つまり、フェルミン・サバラとアンブローシオは同性愛関係で、そのことをオルテンシアが恐喝していたので殺させたと言うのだ、ええ、そういう話に行くのか! (最初に読んだときに「金の玉」って腐敗資産家の意味かと思って「他に翻訳なかったのか!?」と思ったんだけど、もしかして同性愛下半身も揶揄してる??) サンティアーゴがショックを受けたのは、「父が同性愛者だってことを自分たち家族以外に国中が知っていたんだ!」 実家から距離をおいているサンティアーゴだが、さすがに父に連絡を取り「…なんか噂でさ、アンブローシオが犯人で、ちょっと父さんの名前も出てたから気になって…」とか伝える。 フェルミン・サバラは表面的には平気な顔をして「それより家に帰ってこい。援助させてくれ。お前のことが心配だ」と強調する。 とりあえず数日後にサンティアーゴが食事と一応の一家和解のために実家を訪ねたら、アンブローシオは退職していなくなっていた。 気が重くなるサンティアーゴ。父がアンブローシオを逃がしたんだろう、するとやはり刺殺に関係があるんだろうなあ。 小説の書き方として、サンティアーゴが「新聞社の先輩で今はアル中入院中のカルトーリスに話しかけている」文章が差し込まれていたんですが、どうやらこの「父の黒い噂」を聞いた時に偶然であって悩みを聞いてくれたのがこのカルトーリスだった。そこで信頼できる相手として、アル中になっても見舞いに行ってるんですね。 【クーデター失敗?】 場面は、サンティアーゴが大学で逮捕され、保釈されてから数年後に戻ったっぽい。 カヨ・ベルムーデスをオドリア政権に紹介したエスピーナ将軍がクーデターを起こして失敗した??政治の混乱、それによりベルムーデスが内務大臣に昇格したこと(今までは閣僚クラス)、フェルミン・サバラが利ざやを得ていた特権が剥奪され資金難になったことが語られる。(サンティアーゴがオルテンシア殺害を確認しに行ったときには「資金は大幅になくしたが、援助はできる」って感じだった) 【カヨ・ベルムーデス失脚を詳しく】 前巻終盤に書かれた「カヨ・ベルムーデス失脚」の市立劇場での暴動の様子が書かれる。 オドリア政権に対立する連立グループが、市立劇場で集会を行うことになった。ベルムーデスはそれを政府支持集会に乗っ取るための人員動員を指図していた。そして先導者として、アンブローシアの元同僚たち秘密警察たちと、アンブローシオの父であるトリフルシオも差し向けられていた。 しかし動員人数が集まっていない。連絡がうまく行かなかったのか、わざと無視されたのか?(時系列混じってるこの小説は一度読んだだけでは分からない…) そして秘密警察やトリフルシオたちの扇動は大失敗して袋叩きに合いトリフルシオは死ぬ。 …この事件の記述は、生き残って帰ってきたアンブローシオの同僚が彼に酷い経験を話して聞かせる形式です。しかしトリフルシオの名前は知らなかったので「あの黒人が叩き殺されるのを見た」くらいの報告になっている。果たしてアンブローシオは、その殺された黒人が自分の父だって分かったのだろうか? 暴動は街中に広がり、オドリア政権幹部と軍隊はカヨ・ベルムーデスを首にして外国に追い出すことで手を打つことにする。 それで、オリテンシアが置いていかれて、フェルミン・サバラを恐喝して、殺された事件につながっていくんですね。 【そのころアマーリアは】 オルテンシアは贅沢暮らしを続けたがどんどん転落していく。アマーリアは唯一の女中として側にいた。このころフェルミン・サバラを恐喝していて、お金を運んでいたのがアンブローシオだった。アマーリアは妊娠して、オルテンシアとその同性愛相手のケタから助けてもらいながら暮らしている。そして出産してオルテンシアに連絡しようとしたら彼女が殺されたことを知る。さらに自分が「オルテンシア刺殺当日に姿を消した女中」として容疑者第一号になっているという。 現在の私達なら「入院記録、出産記録もあるんだから、警察に出頭して説明する」という選択肢もあるけど、この当時のペルーで、女中階級のアマーリアの説明が聞いてもらえる可能性はものすごっく低い。問答無用で犯人にされたり酷い目に合ったりする可能性のほうが高い、と怯えるアマーリア。 そこへアンブローシオが姿を表して「三人で田舎で暮らそう」と連れ出したのだった。しかしそれはアマーリアにとってまったく心が弾まない決断だった。 【時系列整理!】 市立劇場からの暴動でカヨ・ベルムーデス失脚。 ⇒困窮したオルテンシアがフェルミン・サバラを恐喝する。 ⇒アマーリアが妊娠する。 ⇒アンブローシオがオルテンシアを刺殺する。 ⇒出産から戻ったアマーリアが、自分が容疑者だと知る。 ⇒サンティアーゴが父に「刺殺事件で、アンブローシオと父さんの名前が」と告げる。 ⇒アンブローシオがサバラ家を退職。 ⇒アンブローシオと、アマーリアは、赤ちゃんのアマーリア・オルテンシアを連れて田舎に隠れ住むことにする。 ⇒実家を訪れたサンティアーゴは、アンブローシオがいなくなっているので「やっぱり父さんが口止めのために追い出したんだ」と考える。 【悪役(?)たちにも…】 フェルミン・サバラやカヨ・ベルムーデスは金と権力の悪の象徴のような存在で、作者は彼らを全く褒めてないはずなんですけど「彼らにも彼らのモラルがあるよね?」って混乱するんです。。 フェルミン・サバラは政治も他の人の暮らしもどうでも良くて、自分たちの資産のために政治家に献金して地位を築いた象徴人物なんだけど、サンティアーゴたち家族に対しては純粋に父親としての愛情を表明し続けている。 カヨ・ベルムーデスは妻と愛人にはあの仕打ちなのに、性的なことにわりと公平なのかというところが見られる。 他の人が「フェルミン・サバラを落とすには彼の性癖(同性愛)を使えばいい」と言うがカヨは「それはダメ」という。その手段を使うのは彼にとってフェアではないのかな? また、ある実業家が身柄拘束されて、その美人妻が決死で夫の釈放と海外逃亡の交渉に来た時に、身体を要求したかのように受け取れる事を言うんだけど、実際にはその実業家が愛人と散財してることを妻に知らせた上で、二人の海外逃亡を見逃したのでした。夫の釈放のために身体を張ろうとする妻に、夫の本性を見せてやったのは、ある意味親切な気もする。 さらにカヨが二人のダンサー(そのうち一人はケタ)を呼びつけて裸でダンスを要求したときには「やっぱりこういう野郎だったか」と思ったんだが、カヨはオルテンシアの同性愛相手を探しに来ていたらしい。女性同士の行為を見るのが好きなのかな(-_-;) なんか性的なことには不思議な感覚を持ってるなーー。 (なお、彼のモデルとなったペルー内務大臣アレハンドロ・エスパルザ・サニャルトゥは女性への参政権を付与したらしい) 【アンブローシオとフェルミン・サバラの同性愛関係】 アンブローシオは暴力仕事もするのだが、立場が強い相手が強く出てこられると弱腰になってしまう性質がある。 アンブローシオがカヨ・ベルムーデスの運転手をしていた時、フェルミン・サバラが彼を見て気がついたらしい。この黒人は自分の相手なるし、抵抗もしない。 それをカヨ・ベルムーデスが察知して、運転手として譲った形だったらしい。 ということは、「同性愛関係」とはいっても恋人とかではなくて、立場が上のフェルミンが、心身大変なときに「本当の自分でいさせてくれ!」と、行為の相手をさせたのですね。アンブローシオにとっては望まない性行為だっただろうけれど、それはそれとして「旦那さんは紳士なんです」と慕って庇っていて、殺人までしてしまう。なんかアンブローシオも複雑だ。 そして小説内では、アンブローシオがフェルミン・サバラに例えばカヨ・ベルムーデスのことを「こんなことがあったんですよ、旦那さん」という感じで説明する描写がある(それによって読者も知る)。この会話の実際の状況は、フェルミン・サバラの別宅で、同性愛行為の前にリラックスするための会話だったのか…!…もしこの小説を読み返すことがあったらアンブローシオの「旦那さん」って語りかけの場面では「行為直前か…」って考えてしまいそう…(-_-;) 【オルテンシア刺殺のこと】 アンブローシオがオルテンシアを殺したことは間違いなさそう。しかしフェルミン・サバラの命令かどうかは不明。アンブローシオは「旦那さんのためにやった。自分だけで決めた」ようなことを言っている。 【アンブローシオとアマーリア】 フェルミン・サバラはまとまったお金を渡してアンブローシオを田舎にいかせた。アンブローシオ、アマーリア、赤ちゃんのアマーリア・オルテンシアの新生活が始まる。 女中とはいえリマ出身のアマーリアは、虫だらけの汚い家に馴染めなかったが一年もするとすっかり馴染んできた。しかしアンブローシオは相変わらず強い相手から強く出られると弱気になってしまってやっぱり仕事はうまく行かない。 アマーリアはまた妊娠して妊娠後期に病院に担ぎ込まれるが、母子ともに亡くなった。 アンブローシオはこっそりリマに帰る。身分証明書がないのでその日暮らしの仕事だ。 【サンティアーゴの結婚】 サンティアーゴはたまに実家に顔を出して夕食を食べていく習慣になっていた。兄のチスパスも、妹テテも大人になっていく。皆は自分を歓迎する。だが自分は外見は白人でも中身はチョロ(白人とインディオの混血)になったかのように、この家とは馴染まない思いを深めるばかりだった。 ある時サンティアーゴは取材に行ったときに交通事故に合って入院した。そこでインディオ系の看護師アナと知り合う。退院してから交際へ繋がるが、サンティアーゴはその関係を秘密にしていた。 アナは妊娠し、サンティアーゴは堕胎を進める。関係はこれで終わるかと思われた。しかし彼女から堕胎の知らせを聞いた時、彼女の元に駆けつけてプロポーズした。だがこれも極秘結婚。 やがてサンティアーゴは実家にアナを連れて行かざるを得なくなるが、母親のソイラ夫人が「女中階級の女なんかが(上流階級である)うちの息子をたぶらかすとは!」と騒ぎぶち壊しに。 兄のチスパス、妹のテテと婚約者ポパイはその後もサンティアーゴとの付き合いを望むがうまくはいかない。 サンティアーゴはポパイとテテの結婚パーティに呼ばれるが、玄関のところで引き返す。自分はこの世界の住人ではない。 【みんなのその後】 フェルミン・サバラは発作で死んだ。(オルテンシアからの「告発」手紙でショックを受けた?) カヨ・ベルムーデスは亡命先で暮らし、たまにこっそりとペルーに戻ってもいる。 サンティアーゴとアナは、ソイラ夫人とも穏やかな関係を築けるようになり、実家とは適度な距離を保ってやれるようになった。 アンブローシオはリマで日銭を稼いで生きていくのだろう。<ここで、あそこで、そしてその後は、そうですね、その後はもう死ぬのではないだろうか、ちがいますかね坊っちゃん?(P523)> === ペルーが政治的にも社会的にも大きく動いている時代に、政治はわからないが自分の利益のためには動く政治家や実業家たちが国を動かしている。そんな世の中に、上級社会から逃げ出した(けれども未だに自分探し中)のサンティアーゴ、使用人階級のアンブローシオとアマーリアは、時には助けられ、時には生活や心情に苦しむ。 まさにペルーの都会も田舎も、上層部も使用人や労働者も、政権争いにその日暮らしに、民族も生活も小説の形式もごったまぜでペルーまるごと隅から隅まで書いている(のだと思う)。このごった煮感はペルーなのだろうし、それをごった煮の形式で小説にしているんだから凄いよなあ。
いつも沖縄に出張にいくときにラテンアメリカの文庫を携えるようにしているが、最初、上巻だけ持って行った。 面喰らいながら書いたメモが、以下。 @ 複数の会話が入り乱れる。時間の混乱。しかし似たトピックを話していたり、連想的に響きあったりすることもある。 地の文においては、彼がいうのだった、と人称の妙...続きを読む。 地の文は会話文で中断されなければ原則的に改行なし。 おまえは何々だったなサンティアーゴ。と、作者の声なのか、サンティアーゴの自問自答なのか、も地の文に紛れ込む。 地の文においても、たとえば208ページ、もちろん構わないのよ、いいことだと思っているのだった。と、直接話法?と間接話法?が入り混じる。 自分(そして国)はダメになってしまった、遡ればいつからだったか?あのときだったのだろうか、と話しながら度々考えている。 全体小説を書きたいと思った時、こういう文体と形式を選ばざるを得なかった。ボヴァリー夫人なんかは単純で純朴だ。 ところで、アンブローシオが坊ちゃんに話しかけるだけでなく、旦那さんにも話しかけているが、誰?=たぶんフェルミン>108p。 ※もっと分析を頑張るならば、地の文でこういう話、そこに混入するのは誰と誰の会話でどういう内容か、まで。 また、各人物ごとにエクセルなどで時系列のマトリックスを作るのもおもしろいかも。 @ 上巻を読み終えてから下巻の訳者解説を読んで、面喰うのも無理はないと納得した次第。 読み終え、各章ごとのあらすじをまとめ、登場人物の表(B5にたっぷり!)を作り、もっと分析したいと思いつつも果たせないので、いったんここで感想を書くことにする。 ざっくり言えば、過去を悔いている(自分は、そして国は、いつから駄目になってしまったのだろう、という問いへの執着ぶりが独特)青年が、かつての実家の使用人と再会し、ラ・カテドラルという酒場で飲みながら対話する、という大枠。 四方山話噂話過去話などなどが入り乱れ入り混じり読者は渦に巻き込まれていくが、中心にあるのは「(息子にとっての)父を巡る謎」。 視点人物であるサンティアーゴの父は、政治にどっぷりの商人だが、ある種のセクシャリティを隠しており、ある殺人事件を機に息子が探り合ってしまう。(「間抜けのふりをするのはやめてくれ」「二人で率直に、ムーサについて、父さんについて、話をしようじゃないか。彼に命令されたのか?父さんだったのか?」という序盤の台詞が、後半に効いてくる) 次の視点人物であるアンブローシオの父は、ムショ帰り。青春期の息子がいる家に帰り、息子の性格を曲げてしまう。 さらに政治的重要人物であるカヨも、禿鷲と綽名される金貸しの父を持つがゆえ、独特なセクシャリティを持つ。 というように、父ー息子ー政治や権力ー性、というテーマがあり、そこにアンブローシオの妻となる使用人のアマーリアや、差別意識の強いサンティアーゴの母や、カヨが囲う愛人のオルテンシア(=ムーサ)やが緊密に絡んでくる。もちろん性がかかわれば男女両面ひっつくのは当然なのだが。 政治劇と個人劇がつながるのが性、というのは、下衆だが、吉本隆明や埴谷雄高を連想したりもした。 ネットで感想を漁っていると、火サスをタランティーノやゴッドファーザーPART2っぽく書きました、という例えがあって、膝を打つ。 「緑の家」と較べるとスケールの小ささは否めないが、むしろ日本の学生運動を連想したり、家庭の権力性を考えたり、と、自身に引き付けて考えるきっかけになるのは、こちらかなと思ったりもした。
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