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独裁者批判,ブルジョアジー批判,父と子の確執,同性愛――.居酒屋ラ・カテドラルにおける二人の人物の会話をとおして,独裁政権下ペルーの腐敗しきった社会の現実を描く初期の代表作.「これまでに書いたすべての作品の中から一冊だけ,火事場から救い出せるのだとしたら,私はこの作品を救い出すだろう」(バルガス=リョサ).(全二冊)
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Posted by ブクログ
長く、複雑で、シーンの数も登場人物の数も多いので、かんたんに理解できる小説ではない。しかし、退屈ではない。おそらくこれがバルガス=リョサがノーベル賞を授かった主な業績なのだろう。そう思うほどに前衛的なやりかたで、社会と政治の腐敗を描いている。話のおもしろさを理解するためには、サンティアーゴ/サバリー...続きを読むタを主人公とみなし、父親のドン・フェルミンとの関係がどういうものか、そして彼自身がどういう人生を歩んでいくのかを常に見失わないことが必要だ。そうすれば、すべて人間関係を把握しなくても、本書のテーマが見えてくる。
語りの手の語る過去や心情と、まったくそれとは別の場面の状況などが入り混じった文章になっており、読み進めるのにはじめは戸惑った。しかし、全く別の場面が交錯する箇所で、どちらの場所での発言ととれるセリフなどが出てきて、こういう表現はドラマや映画的でおもしろいなと思った。 始終ドタバタだが、最後の兄弟...続きを読むの束の間のやりとりにほっこり。下巻も早く読まなければ。
面白いとは聞いていたが、ここまで面白いとは…ぐんぐん引き込まれて、今年ベストかもしれない。ハンガンの少年が来るといい勝負。バルガス=リョサ追悼ウィークはこの上下だけになりそうだけれど(分厚い!GW終わった!笑)、バルガス=リョサ大先生素晴らしい体験を有難うという感じです。 「これまでに書いたすべて...続きを読むの作品の中から一冊だけ,火事場から救い出せるのだとしたら,私はこの作品を救い出すだろう」 そう著者が言うだけある作品… まず視点が自由間接話法を縦横無尽に使って入り乱れる。映像的ともいうべき交差で、最初は登場人物もわからないから、何が何だかという感じだったが、慣れるとこれが心地よいスピードで話が進むし、思わぬところで思わぬ話が何気なく繋がっていく種明かしのような構成がとてもスリリングだった。 ペルーの政治情勢と、密接に絡み合う人種・階層含む社会経済状況、何も知らずに読み出したが、そこもある視点として知ることができて面白かった。 彼自身もペルーなのだサバリータ、彼もまた、どこかの瞬間でダメになってしまったのだ。彼は考えるーそれはどの瞬間だったのか?ホテル・クリヨンの前で、一匹の犬が彼の足を舐めにやってくるーおまえは狂犬病じゃないだろうな、さっさと失せろ。ダメになってしまったペルー、と彼は考える、ダメになってしまったカルリートス、誰も彼もがダメになった。(p.15)から始まる。 「全然迷いがなかった、信じていたんだ」とサンティアーゴは言った。「僕はその前から何かを盲目的に信じている人たちのことを、羨ましいと思っていたんだよカルリートス」…「それこそが人間にとって、一番恵まれていることなんだよアンブローシオ」とサンティアーゴは言う。「自分の言っていることを信じられるということ、自分のやっていることが好きだということ」(p.277) 「かわいそうにな」とカルリートスは言った。「これで一生、新聞記者になっちまうんだな。いいか、ちょっとこっちに寄ってくれ、誰にも聞かれないように。ひとつ重大な秘密を告白しよう。詩こそこの世で一番偉大なものだぞサバリータ」(p.450) …もう二度とあの熱意は持てないだろう、と彼は考える、何かをやり遂げたいというあの欲求、特ダネをとってみんなにちやほやしてもらうんだ、ああいう企画も二度と出さないだろう、それで昇進するんだ、なんて。何がダメになったんだろうか、と考える。彼は考えるーいつ、なぜ。(p.458)
いつも沖縄に出張にいくときにラテンアメリカの文庫を携えるようにしているが、最初、上巻だけ持って行った。 面喰らいながら書いたメモが、以下。 @ 複数の会話が入り乱れる。時間の混乱。しかし似たトピックを話していたり、連想的に響きあったりすることもある。 地の文においては、彼がいうのだった、と人称の妙...続きを読む。 地の文は会話文で中断されなければ原則的に改行なし。 おまえは何々だったなサンティアーゴ。と、作者の声なのか、サンティアーゴの自問自答なのか、も地の文に紛れ込む。 地の文においても、たとえば208ページ、もちろん構わないのよ、いいことだと思っているのだった。と、直接話法?と間接話法?が入り混じる。 自分(そして国)はダメになってしまった、遡ればいつからだったか?あのときだったのだろうか、と話しながら度々考えている。 全体小説を書きたいと思った時、こういう文体と形式を選ばざるを得なかった。ボヴァリー夫人なんかは単純で純朴だ。 ところで、アンブローシオが坊ちゃんに話しかけるだけでなく、旦那さんにも話しかけているが、誰?=たぶんフェルミン>108p。 ※もっと分析を頑張るならば、地の文でこういう話、そこに混入するのは誰と誰の会話でどういう内容か、まで。 また、各人物ごとにエクセルなどで時系列のマトリックスを作るのもおもしろいかも。 @ 上巻を読み終えてから下巻の訳者解説を読んで、面喰うのも無理はないと納得した次第。 読み終え、各章ごとのあらすじをまとめ、登場人物の表(B5にたっぷり!)を作り、もっと分析したいと思いつつも果たせないので、いったんここで感想を書くことにする。 ざっくり言えば、過去を悔いている(自分は、そして国は、いつから駄目になってしまったのだろう、という問いへの執着ぶりが独特)青年が、かつての実家の使用人と再会し、ラ・カテドラルという酒場で飲みながら対話する、という大枠。 四方山話噂話過去話などなどが入り乱れ入り混じり読者は渦に巻き込まれていくが、中心にあるのは「(息子にとっての)父を巡る謎」。 視点人物であるサンティアーゴの父は、政治にどっぷりの商人だが、ある種のセクシャリティを隠しており、ある殺人事件を機に息子が探り合ってしまう。(「間抜けのふりをするのはやめてくれ」「二人で率直に、ムーサについて、父さんについて、話をしようじゃないか。彼に命令されたのか?父さんだったのか?」という序盤の台詞が、後半に効いてくる) 次の視点人物であるアンブローシオの父は、ムショ帰り。青春期の息子がいる家に帰り、息子の性格を曲げてしまう。 さらに政治的重要人物であるカヨも、禿鷲と綽名される金貸しの父を持つがゆえ、独特なセクシャリティを持つ。 というように、父ー息子ー政治や権力ー性、というテーマがあり、そこにアンブローシオの妻となる使用人のアマーリアや、差別意識の強いサンティアーゴの母や、カヨが囲う愛人のオルテンシア(=ムーサ)やが緊密に絡んでくる。もちろん性がかかわれば男女両面ひっつくのは当然なのだが。 政治劇と個人劇がつながるのが性、というのは、下衆だが、吉本隆明や埴谷雄高を連想したりもした。 ネットで感想を漁っていると、火サスをタランティーノやゴッドファーザーPART2っぽく書きました、という例えがあって、膝を打つ。 「緑の家」と較べるとスケールの小ささは否めないが、むしろ日本の学生運動を連想したり、家庭の権力性を考えたり、と、自身に引き付けて考えるきっかけになるのは、こちらかなと思ったりもした。
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